二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- その頃の待機組 ( No.154 )
- 日時: 2014/11/12 20:14
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
ある日の事。
「んじゃ、死んでくる…。」
「い、いってらっしゃい…。」
死んだ目をした昴を、風花は見送る。
今日は、異世界で開かれる料理対決の開催日。
昴逹は朝から理乃に異世界への道を開いてもらい、旅立っていった。死地に。
「…昴さん達、大丈夫かな…?」
—まず間違いなく死ぬ料理が出てくるから確実に死んでくるわね。ええ、あの辛党。
風花のポケットから創世手帳が飛び出し、文字が書かれた。
(りせちゃん、キッチンに入らないといいけど…。)
—りせちゃんがキッチンに入らないと言う選択肢を取っていたら、今頃あの子二回も死にかけてないから。
(同じチームの人が止めてくれるといいけど…。)
—むしろチームの人を沈めないといいけどね。
…創造者の予感は、後に当たる事は知らない。
「よっすー。遊びに来た…って、あり? 昴いねぇの?」
(いない? いない?)
そんな会話をしている間に、MZDと影がやってきた。
「あ、MZDさん、影君、こんにちは。今日は昴さん達全員異世界に出張です。…ええ、死地に。」
「あー、今日だっけそれ…。」
—だからみんな出払っちゃってて誰もいないよ。あ、二人共しばらくいる? というかMZDはいといてくれないと救援的な意味で困る。司組がいない今、貴方しか異世界の行き来出来ないもの。マスターに頼むって手もあるけど、あっちの世界の再建とか忙しいだろうし…。はぁ…異世界でも連絡できる手段あればよかったのに…。
「一応、理乃と由梨から携帯預かってはいる。何かあったらかけてくるだろ。…なぁ、向こうの様子をモニタリングする事って…。」
—前に理乃ちゃんが聖域のテレビいじってたから出来なくもないけど…。何? 気になるの?
「やっぱちょっとはな。さーて、立ち話も何だし、入るとすっか。」
そう言ってMZDは指パッチンで勝手に神殿の鍵を開け、中に入っていった。
「…不法侵入で訴えられないかな?」
「仮に訴えられても、ボクや風花はちょっとしたお説教くらいかな。」
—アイツ、うちにも毎度毎度不法侵入するのにそっちにもするんかい。後で昴に言っとく。
風花と影も、創造者とそんな話をしながら、中に入っていった。
■
テレビをつけ、異世界の様子を探る。どうやらまだ大会は始まっていないようだ。
「そう言えば、料理対決で思い出しましたが…。」
唐突に、風花が口を開いた。
「あの、スバルさん、前まで聞かない方がいいかなと思っていた事なのですが…どうしても聞いておかなきゃいけない気がしたので、お聞きしたいのですが…。」
—…第一回料理対決の件だね。
創造者が問うと、風花は頷いた。
「皆さんから口々に、酷かったとお聞きしましたが…。」
「ボクも気になる。特に約二名が酷かったって…。」
「悠と風雅が地獄を見たって聞いたが…。」
—あぁ、あの子MZD達にも話してなかったんだ。いや思い出すのも嫌なんだろうけど…。
どうやら第一回料理対決はこの場にいる誰もが知らないようだ。これを知るのは、勝負を見守った創造者のみ。
—これは、一年と少し前。ジョーカーさん達が来る前にまで遡るよ。
「ジョーカーが来る前っつーと、パステルくんがジョーカーに声を奪われていた状態だから、『ぼにゅ。』としか喋れなかった時だな。」
—そっ。…そして、あの変態が変態裸族化する前であり…理乃ちゃん達を呼ぶ切っ掛けの一つである、亜空間事件から二ヶ月前の事。…風花ちゃんには亜空間事件の事は後で話すね。
「…直斗君に聞いたり、ニュースとかで大体の状況は把握していますが…後でまたお願いします。」
—りょーかい。…話を戻して…ペルソナ組がこの聖域付近に来て数週間後、敬老の日が絡む三連休の話だよ。今からその当時の事、風花ちゃんの手帳に同期させるね。
「はい、お願いします。」
風花の手帳に、文字が書かれ始めた。三人はその様子を眺めていた…。
- 栗拾い その一 ( No.155 )
- 日時: 2014/11/12 20:21
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
「こうなったら、料理対決しよっ!? 栗を使った料理で!」
「オムライスの悲劇を繰り返させる気かよ!」
今日は土曜日。敬老の日まで三日間、学校が休みだ。
なので、いつものように、聖域に集まる一同。
だが、今日はどこか、険悪なムードのようだ…。
■
事の起こりは、数時間前…。
「おっ、まためっけ。この辺けっこう栗落ちてんなー。」
「チビ達も拾っていいぞー。拾う時はいが栗に気を付けてねー。」
『は〜い!』
いつものように公園に遊びに来ていた保育園の園児達に便乗し、栗拾い大会と洒落混んでいた。
「しっかし、昴さんも太っ腹だよなー。ここに落ちてる栗全部拾って持って帰っていいって。」
「栗って調理する時間が長いからやなんだって。茹で栗だけでも面倒だし、ここにこんなにあっても食べきれないし、何ならいっそチビ達にあげちゃおうと思ったみたいだよ?」
「あー、わかるわかる。確かに柔らかくするだけでも一苦労だもんねー。」
鈴花が嬉しそうな顔をして、栗を丁寧にかき集める。
「けっこう長い間煮ないと柔らかくならないから、手間なんだよね。よくわかるよ。」
「ぼにゅっ。」
そんな鈴花の横で、パステルくんがうんうんと頷いている。
「…パステルくんも料理した事、あるのか? 栗。」
「ぼにゅっ!」
『さなえ殿から教わって、モンブランを作ったそうだ。』
烈の問いを、彼の肩にいた黒が答える。
「ふーん…。小さな体でよく料理ができるな、パステルくんは。やっぱり料理ができる奴っていいよな。鈴花とか憧れるよ、俺。」
「えへへ、ありがと、烈君! でも、烈君だって家庭科の成績そこそこいいよね? 調理実習も烈君と組めば普通の家庭料理が食べられるって評判だけど…。」
「…母さんの教育の賜物。」
「…ごめん、聞かなかった事にする…。」
菩薩のような微笑みに隠された鬼の形相を浮かべながらしごかれている烈を思い浮かべ、鈴花は視線を烈からそらした。
「へぇ、烈も料理ができるのか。」
「あれ? 先輩、知らなかったんですか? 烈君は凄く上手なんですよ。…この間の調理実習で作って貰った味噌汁、美味しかったです。レシピも分量も見ないであそこまでできるなんて、思わず感心してしまいました。」
「それは、今度食べてみたいな。」
話を聞いていたのか、近くで栗を拾っていた悠と直斗が合流する。
「鈴花も、凄く上手いよな。この間貰った唐揚げ、文句のつけようがなかった。」
「えへへ、ありがと、悠センパイ! お望みなら、もっと色々作ってきましょうか?」
「いいのか? ありがとう、鈴花。」
微笑ましい、悠と鈴花の会話を聞いた、さる方の一言。
「やっぱ料理できる女の子っていいよなー。鈴花ちゃんの爪の垢を煎じてうちの女子達に飲ませたいよ…。」
ガッカリ王子、陽介のこの一言。
「私だって料理できるもん!」
「あ、あたしだってあの時よりは進歩してるよ!」
「私、毎日練習してるのに…。」
その一言で、直斗以外のペルソナ女性陣の心に火がついたようだ。
「はぁ!? いやいや無理だろ。上達してねぇだろ絶対。クリスマスん時も直斗がいたからなんとかなったんだろ!?」
「うぐっ…!」
押し黙る女性陣。
「あの時は僕がいたから、と言うよりは、レシピを見ながら作った方がいいと提案したから、なんですけどね…。」
「だけど、アイツ等に作らせたままだったら、失敗作が増えたままだったんだろ? だったらレシピを見ようって言ったお前のお陰じゃん。」
「そうでしょうか…。」
「そうだよ。」
謙遜する直斗に、烈はそうはっきりと断言した。
- 栗拾い その二 ( No.156 )
- 日時: 2014/11/12 20:25
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
「むむむぅーっ! こうなったら、料理対決しよっ!? 栗を使った料理で!」
「オムライスの悲劇を繰り返させる気かよ!」
ムキになったりせが、そう宣言するも、ペルソナ男性陣についた傷が大きかったようで、断固阻止しようとする陽介。
だが、
「そうだね。今度こそ、一撃で仕留める。」
「なら、みんなでやってやろうじゃん! 鈴花ちゃんも氷海ちゃんも加わって! 勿論、雪花ちゃんと牡丹ちゃんもだよ!」
雪子も千枝も乗り気であり、更につぎドカ!メンバーまで巻き込む。
勿論、名指しされた四人はびっくりする。
「…悪いけど、りせちゃん達には負ける気はしないよ?」
「私に勝つ気でいるのですか? 面白いですね。受けて立ちますわ。」
だが、本気で来るとわかった料理の得意な鈴花と、その自信がどこから出てきているか分からない牡丹はそう宣言するも、氷海と雪花は乗り気じゃないようだ。
「わ、私はちょっと、その…料理は、その…。」
「苦手だから、遠慮したいわ…。」
自分で苦手な事は理解している為、ここは遠慮したいのが本音だ。
だが、それが許される訳がないようだ。
「氷海ちゃん、パステルくんに美味しいご飯を食べさせてあげたくないの?」
「う、そ、それは…。」
りせに痛い所を突かれ、悩む氷海。
「…雪花ちゃん、昴さんを見返してやりたいんじゃないの?」
「見返す、というより、少しは楽できるって思ってほしいというか頼ってほしいというか…。」
同じくりせに痛い所を突かれ、悩む雪花。
暫し、悩む二人。そして…。
「分かったわ。その話、乗らせて貰うわ。」
「毎日ご飯を作ってくれている昴さんの為にも、少しくらい、料理が上達したいから。」
「よーっし、決まり!」
「ぼにゅ…。」
りせが天高く拳を振り上げるものの、氷海の肩に移動したパステルくんは乗り気じゃないようだ。
「…パステルくん、私、あんまり上手く作れないかも知れないけど、精一杯、頑張ってみるわ。」
「…。」
パステルくんは不服そうな表情をしたが、頷いてくれた。
「で、審査員は誰にするんだよ。」
「勿論、ここにいるみんなと…昴さんにお願いしようかな。」
「!?」
身の危険を感じたのか、顔色を青くさせる一同。
だが、断れる雰囲気じゃないのも分かっている。
「そ、そもそも、何を作るって言うんですか!?」
「それはこれから決めて貰うの!」
直斗の問いに、そう言ってりせが取り出したのは、携帯電話。
どうやら誰かにかけるようだ。
- 栗拾い その三 ( No.157 )
- 日時: 2014/11/12 20:30
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
「…あ、もしもし、昴さん? お仕事ご苦労様!」
『どうした? りせ。何か用なのか?』
どうやら相手は昴らしい。
「帰ったら何が食べたい? 作ってあげる! あ、できれば栗を使った料理でお願い!」
『は? …あのさ、りせ。悪いんだが、烈か鏡か悠にかわってくれないか?』
「えっ!? いいですけど…。」
何かに気がついた昴は、自分が最も信頼のおける人物に代わるよう命じる。
そしてりせは悠に携帯を渡した。
「センパイ、昴さんが代わってって。」
「あ、ああ…。もしもし?」
『どうせ料理対決って流れになったんだろ?』
「…お察しの通りです…。」
開口一番にそう言われ、悠は昴の勘の良さに頭が下がる勢いだった。
『…とりあえず、何作るかは今からレシピ見て無難なものを選んどく。決めたら鏡のに折り返し連絡するから。』
「お願いします…。」
『…見つからなかったらごめんな。んで、その代わりと言っちゃ何だが、いくつか男共に頼みたい事がある。悠は、完二と烈を誘って、チビ達のおやつを作ってほしいんだ。確か中にさつまいもとか栗とかあったはずだから。そろそろ三時だし、丁度いいだろ。』
「わかりました。」
『あと、凪に代わってくれ。』
悠は言われた通り、凪に代わる。
「代わったよー、昴さん。」
『凪、メニューが決まったら連絡するから、お前は神殿に戻ってレシピを印刷してくれ。…見るかわからんけど。あぁ、悠達がチビ達のおやつを作る時、レシピがわからなさそうだったら調べてやれ。』
「うん、わかったー。」
『よし、次は鏡か陽介か、風雅で頼む。』
「はーい、じゃあ、陽介さんにかわるねー。はい、陽介さん。昴さんがかわってって。」
凪は陽介に携帯を渡す。
「もしもし。」
『陽介。お前は風雅と凪、クマと四人で手分けして買い出しと病院に向かってくれ。買い出し組はチビ達のジュースと…アレを。病院は…。』
「あぁ、何となくわかりました。風雅と鏡とで、手分けしてやっときます。(アレって、やっぱ太田○散とかの、胃薬系だよな。病院は…もしもの保険…。)」
『頼んだ。…あぁ、後で女子に買い出しに行かせるから、その間に一回帰っとけ。理由は…わかるな?』
「あぁ、わかってますよ。(保険証…だよな。)」
あらゆる手を尽くす昴に、もう頭が上がらない陽介。
改めてこの時、「神様パネェ。」と思ったそうな。
『じゃあ、俺は今から無難な物を選ぶから、一回切るな。次は、鏡のにかけるから。あぁ、何作るかわからないけど、鈴花にキッチンに転がってる大量の栗を茹でとけって言っとけ。時間かかるし。』
「頼んます…!」
そして、昴との通話が切れる。
陽介はりせに携帯を返し、悠を見た。
「烈、完二。二人とも、ちょっと手伝ってくれ。園児達のおやつを頼まれたから。」
「おう、わかった。」
「わかったッス!」
「作るものでレシピがわからなさそうだったら調べるから声かけてー?」
悠、烈、完二、凪の四人は神殿へ入っていった。
「おっし、クマ、鏡、風雅。俺らは買い出しな。」
「買い出しなら、私達が行くのにー。」
りせが少し膨れながら言うが、陽介がそれを拒否した。
「俺らが頼まれたの。ほら、チビ達のジュース、重いしな。お前らはメニューが決まったら買い出しにいって貰うってさ。あぁ、鈴花ちゃんにも仕事頼んでたよ。キッチンにある栗、茹でとけってさ。」
「あ、それもそうだね。じゃあ、茹でてくるね。氷海ちゃん達は保育園の子達の相手をしてあげてよ。お菓子ができるまで、時間かかるだろうし。」
「わかったわ。ほら、まだまだ栗は一杯あるからねー。」
鈴花の説得により、残りの女子達は園児達と栗のある場所に向かっていった。
「…買い出しの時、胃薬も頼まれたんですよね? それと、その…病院にいく事も。」
「あぁ、頼まれたよ。ありがとな、鈴花ちゃん。…アイツら…特にりせが何を言うかわからねぇからな。助かった。鏡、風雅、お前らに病院頼んでいいか? 氷海ちゃんの家族とも長い面識あるだろうしさ。」
「わかった。行こうか、鏡。」
「うんっ!」
陽介に頼まれた風雅は鏡を伴い、病院へと向かった。
「クマ、俺達は買い出しだ! チビ達のジュースと…アレを。」
「わかったクマー! それじゃ、レッツゴークマー!」
「うわっ! 引っ張るなよクマ!」
騒がしい中で、陽介はクマに引っ張られ、そのままずるずるとスーパーまで引きずられていった。
「…さてと。私もやるか! にゃぐわちゃん、手伝って!」
「にゃぐー!」
鈴花も、自分に頼まれた仕事を行う為、にゃぐわを伴い、神殿へと入っていった。
りせの提案から始まろうとしている、料理対決。
それがどうなるかは、
—…面白そうだから、もうちょっと見守っていようかな。
神でさえも、知らなかった…。
■
—あの時は確かに面白そうだと思ったけど、後にそれは間違いだと悟った。
「なら何故第二回、第三回と続いたんですか…。」
—見てる分には面白い。たぶん。…でもまさか七海ちゃんがあれ程とは…。
切っ掛けとなる場所を同期し終えた後、創造者は更に手帳に文字を書く。
「クトゥルフに設定したのはお前だろ?」
—私はただ馬鹿舌と設定しただけ。…だけのはずなのに何故こうなったし。
どうやら創造者にも予測不可能の事があったようだ。
—っと、続けるね。
そして創造者は再び手帳に当時の事を同期させる。
今度は調理風景を描くようだ。
- 調理風景 その一 ( No.158 )
- 日時: 2014/11/13 09:09
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 9RGzBqtH)
『…。』
現在、聖域のリビングでは、死刑の執行を待つかのような表情で、男子達と昴が座っていた。
女子達は現在、キッチンを占領し、ある物を作っている。
そう、昴が決めたメニュー、“栗のポタージュ”だ。本人曰く、これが一番無難に見えたらしい。勿論、女子全員にこのレシピを渡し、買い出しに行かせたが…正直、何名かは余計な物を買った気がする。
「…お前ら、保険証は?」
昴の呼び掛けに、全員が懐からある物を出す。
それは紛れもなく、健康保険証だった。
「よし。…陽介、病院側の協力は?」
「それは僕達が行ってきたよ。…氷海のお父さんも、できる限り力になるって。…昔、自分の奥さんの料理で死にかけた思い出があるから、目が死んでたけど…多分、大丈夫だと。」
「それと、氷海のお父さん、これくれた。」
鏡が何かが大量に入ったビニール袋から、ある物を取り出した。
子供向けの絵が描かれているパックに、“お○すり○めたね”と書かれている。多分、商品名だろう。
「…小児用オブラート…。」
「味、少しマシになるかも知れないから持っていけって。…不味いに苦いのコンボはきついだろうからって…。」
「あぁ、確かに…。」
目の前におかれた小児用オブラートを眺めながら、一同は運命の刻限まで待つ。
「そうだ。審査方法だけど…お前ら、これ引け。籤。向こう八人、こっちも八人いる。てな訳で、籤で出た順番で、一人ずつ、一人の料理を俺と一緒に食って貰う。犠牲者は少ない方がいいだろ?」
「えっ? すーさん、全部食べるの…?」
「そうしないと公平な判定ができないだろ?」
「昴さん…無茶をして…!」
何かを言おうとした悠だったが、あの酷そうな料理を自分一人が食べるのは嫌だった。
「ぼにゅっ!」
「にゃぐっ!」
そんな中、パステルくんとにゃぐわが手をあげた。
「パステルくん? にゃぐわ?」
『この二匹も、全て食べるそうだ。一人に任せてはおけん、と言っている。』
紅の通訳に、パステルくんとにゃぐわが頷いた。
「…わかった。ありがとな、パステルくん、にゃぐわ。」
「ぼにゅっ!」
「にゃぐっ!」
二匹は威張りながら、胸の辺りをトンと叩く。
「任せろ!」とでも言っているのだろうか。
「じゃあ、こうしよう。…紅、黒。お前達に一仕事…いや、二つくらいになるか? とにかく、頼みたい事がある。」
『うむ、我らができる事であれば。』
「簡単だ。…お前らは何も食わずに、パステルくんとにゃぐわの通訳と…もし、料理を食べた人全員に何かあった場合は、悠やクマを呼びにいく係だ。」
『成程。通訳と、救援係か。』
『簡単だ。任せてもらおう。』
二匹の鴉も、頷き返す。
「じゃあ、向こうにも伝えてくる。…お前ら、戸棚に饅頭あるから、気は進まねぇかも知れねぇが、その…食べて待ってろ。あと、籤も引いちまえ。」
昴はそう言うと、女子達のいるキッチンに向かった。
「…センパイ方、どうぞッス。」
「ああ。悠先輩、陽介先輩、先にどうぞ。」
「わ、わかった。よし、引くぞ、陽介。」
「…ああ。…里中とかの料理じゃありませんようにっと!」
「クマも引くクマー!」
悠の引いた紙には4、陽介の引いた紙には6、クマの引いた紙には7と書かれていた。
「およー? 数字が書いてあるクマ。」
「…食う順番か?」
「多分、そうだろう。…女子達が何番かわからないから、怖いな…。」
「うぅ、どうかりせの料理じゃありませんように…! ほら、お前ら。」
陽介は残りの紙が入った箱を、烈に渡した。
「鏡、先引いていいぞ?」
「えっ? うん、わかった。」
鏡の紙には3、烈の紙には2、完二の紙には1、風雅の紙には8、凪の紙には5と書かれていた。
結果、食べる順番は、
1.完二
2.烈
3.鏡
4.悠
5.凪
6.陽介
7.クマ
8.風雅
となった。
「…ある意味、ロシアンルーレットだよな…。」
「…まぁ、腹を括るしかねぇよな…。」
気が乗らないのか、男子全員、盛大な溜息をついた。
- 調理風景 その二 ( No.159 )
- 日時: 2014/11/12 20:41
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
同じ頃、昴は女子達に審査方法を説明した。
勿論、犠牲者は少ない方がいいと考えたからと言う理由は伏せて。
まぁ、勘のいい直斗辺りは恐らく悟っているだろうが、黙っておいてくれたようだ。
「せっかく作ったのに…。みんなに食べてもらいたかったなぁ…。」
「俺とパステルくんとにゃぐわが全員分食うんだ。それで我慢しろ。」
「はーい…。」
りせは渋々引き下がる。
入れ違うように、鈴花と氷海がやって来た。
「昴さん、もしかして、にゃぐわちゃん達を無理矢理巻き込んで…。」
どうやら、パステルくん達が昴に無理矢理命じられて一緒に食べるのではないか、と思ったようだ。
昴は首を横に振る。
「…いや、最初は俺一人で食うつもりだったけど、あの二匹が自分達も全部食べるって言ってきてな。」
「…パステルくん達が立候補したんですか…。」
「あはは、にゃぐわちゃん達らしいや…。」
「…友達思いに育てられてて、俺も思わず涙ぐんだよ…。」
一人で全ての料理を食すと聞き、すぐに立候補してくれた二匹に、昴は年甲斐もなく涙が出そうになっていたそうだ。
「…っと、お前ら、まずは順番を決めるから、クジを引いてくれ。んで、自分の順番が書かれたこのメモクリップやるから、それを鍋につけて…。」
そこまで言ってから、昴はノートを開いた。
「…? 何か出すの? 昴さん。」
「ん? 食品用エレベーター。…神殿の間取りを変えて、っと…。ほらよっ。」
ボンッ! という音と共に、キッチンの一角に小型のエレベーターができた。
隣にはランプのような物がついている。
「そのランプがついたら、そのエレベーターに鍋入れろ。んじゃ、俺はもう行くから。」
それだけを言い残して、昴は部屋から出ていく。
残された八人は、箱をじっと見つめていた。
「…恨みっこなしで、全員まとめて引かない? ほら、丁度みんなの手が入るくらいの大きさだし。」
「そうだね。よーっし、せーのっ!」
雪子の提案に頷いた八人は、千枝の音頭で一斉に手を箱の中に入れた。
- 調理風景 その三 ( No.160 )
- 日時: 2014/11/12 20:46
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 7WYO6DME)
その頃、男子達は最後の晩餐とでも言うかのように、饅頭を縁側にいるお爺ちゃんのように食べていた。
「あー…美味い。饅頭が美味い。茶が美味い。」
何故だか一気に老け込んだ一同の元に、昴が戻ってくる。
「…老化のバステ食らったか?【アムリタ】ならかけられるぞ?」
こうなった理由はわかるが、そう言っておかないと気がすまない昴だった。
「…あー、現実に引き戻すようで悪いが、審査方法について一個、説明し忘れた。」
「やっぱ、点数とかつけるのか?」
「ああ。但しつけるのは点数じゃなくて、五段階評価だ。ちなみに内訳はこうだ。」
昴は何かをメモした紙を、机の上に置いた。
五、
メニューに拘らず、遊び(アレンジ)を加えており、なおかつ美味しい。
四、
メニューに依りすぎな所はあるが、程よく遊びを加えており、美味しい。
三、
メニュー通りの品。遊びなどはないが、メニュー通りなので普通に美味しい。
二、
メニューに沿ったのだろうが、ミスが目立ちすぎて美味しくない。が、まだ改善の余地がある不味さ。
一、
救いのない不味さ。キッチンに立たせたら死ぬ。
「普通に食えるっていうのは三以上か。」
「ああ。不味い物は二以下に入れてくれ。で、評価と、各自コメントみたいなのを入れて貰おうと考えてる。」
「コメントと言うか、味の評価だな。了解。」
全員が納得した所で、一同は再び饅頭を手に取る。
「うわぁっ! た、卵が爆発しちゃった!」
「久慈川さん、何で卵なんか入れるんですか!? レシピには書いてありませんよ!? しかも電子レンジに殻付きのままじゃ爆発しますよ!」
「千枝、レシピには書いてないけど、小麦粉入れていいかな? とろみつけたいの。」
「…あ、あれ? とろみは片栗粉じゃなかった?」
「っ、切りにくい…! きゃあっ!」
「ちょ、ちょっと氷海ちゃん! 大丈夫!?」
「少し指を切ったみたいね。…絆創膏絆創膏…イタッ!」
「な、何で足元にいが栗があるんですの!?」
…キッチンの喧騒を、耳にしながら。
「…みんな。」
昴は饅頭を飲み込んだ後、静かな声でこう言った。
「…一緒に、逝こうぜ。」
また一つ、この場にいる一同との絆が強くなった。
…そんな気がした。
■
—こうして、料理対決第一回戦は始まったの。
「卵の爆発とかヤバくねそれ。」
—今思えば卵要素どこにあったんだろ。あの激辛マロンポタージュに。
卵はどこに消えたのだろうか。謎は深まるばかり。
「そ、それで、次はこの間みたく食べたんですね。」
—うん。大して問題ないと思っていたんだけどなー…。
そして創造者は次なる文面を同期させ始めた…。
■
一旦区切ります。感想等あればどうぞ。