二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 年末恒例巫女さんバイト その一 ( No.349 )
- 日時: 2014/12/31 21:05
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
十二月三十日、昼頃…。
「昴さん、お願い! 私に力を貸して!」
突然、葉月が神殿にやってきて、そう懇願した。
「…へ?」
あまりにも突然だったので、昴は間抜けな声を出し、持っていたパンを取り落とした。幸いにも袋に入っていたので、問題はないだろう。多分。
「どうしても昴さんの…昴さん達の力を借りたいの! お願い!」
「いや、まずはどうして俺達の力を借りたいか説明しろ。承諾はそれからだ。」
あまりにも必死に用件も言わずに頼み込むので、昴はまずそう促した。すると葉月はばつが悪そうな顔をして、萎縮してしまった。
「ご、ごめんなさい…。そうだよね、まずはそれを話さないとね…。えっと…私の実家が神社なのは…話してないよね。」
「話されていない、けど…。」
「まぁ、そうだよね…。知ってる、よね…。」
昴は、彼女の生みの親である創造者の分身たる存在。創造者の記憶を共有していてもおかしくない。故に、話される前に知っているのだ。葉月はそれを知っているので、これ以上何も言わなかった。
「んで、用件ってまさか…。」
「うん…。その…大晦日の日、巫女さんのバイトを無償でやって下さいお願いします。ほぼ徹夜で。」
「」
葉月の願いに、昴は絶句した。
それもそうだろう。一応、本来は管理者の立場とは言え、ここでは神様として通用している。その神様に巫女のバイトを、しかも無償かつオールでやれと。
「…うちの神社…経済難だって、知ってるよね?」
「知ってる…。」
昴は頭をポリポリと掻きながら、溜息をついた。
「わぁったよ。俺は引き受けるけど…鏡達には個別に頼め。やるかやらないかは本人次第なんだからな。」
「あ…ありがとう! でも、お仕事大丈夫なの?」
「この町の人が、大晦日に仕事をしている俺を見て何も言わない奴等だと思うか?」
「ごめん、思わない。」
疲れていても無理矢理働く昴に、この町の人達は何も言わずに黙っている訳がない。年末年始ぐらいゆっくり休めと言われるのがオチだ。
「まぁ、今回は異世界だし、この町の人にはバレないから大丈夫だろう。で? お前これ毎年理乃達に頼んでるんだったよな? あいつ等はオッケーしてくれたのか?」
「うん、毎年だからねーって言って笑ってオッケーしてくれた。千枝ちゃん達もいいって言ってくれたんだ! りせちゃんもその時はオフみたいだから、手伝ってくれる事になったの! 氷海ちゃんにも話したけど、大丈夫だって。つぎドカ!メンバーには氷海ちゃんから話してくれるみた」
葉月が言い終えないうちに、誰かが呼び鈴を鳴らしたようだ。
「ん? 誰だ? ゴメンな、ちょっと待っててくれ、葉月。はーい。」
話を中断させ、玄関まで行き、戸を開ける。
そこにいたのは、氷海だった。セシルも一緒だ。
「おー、氷海にセシル。どうした?」
「葉月さんがこちらにいると伺ったので…。」
「あ、氷海ちゃん達!」
客に気づいたのか、リビングにいた葉月が駆け寄ってきた。
「で…どうだった?」
「私達つぎドカ!1Pメンバー全員と、ジョーカー以外のセシル達ジョーカー一味には聞きました。全員、大丈夫だそうですよ。」
「みなさん、葉月さんのご実家に行ってみたいって言っていましたよ。巫女のバイト、鈴花が楽しみにしていました。」
「ははっ、みんな乗り気だな。葉月、この分だと鏡達も行きたいんじゃねぇかな? お前から話せって言ったけど、夕飯の時に俺から話しておくよ。」
昴のその言葉に、葉月は満面の笑みで「ありがとう!」とお礼を言った。昴は素直にお礼を言う葉月に、笑みを見せた。
が、それもつかの間、横からある気配を感じて、近くに転がってた石を手に取り、投げた。
「あでぇっ!!」と叫び声が聞こえた後、ドサドサッ! と鈍い音がし、誰かが落ちてきた。
「…お前も手伝ってくれるよなー? 影に仕事を丸投げしてそこの木の上でグースカ眠ってた馬鹿神ー。」
「急に石投げんなよ昴!!」
「影に仕事を丸投げしてサボるお前が悪い。で? 手伝ってくれんのか?」
「話が読めねぇよ!!」
どうやら本気で眠っていたのか、この音神は。
全員、頭を押さえてから溜息をつき、葉月が自分の神社を手伝ってほしい旨を告げた。
「…なぁ、葉月。神様に神主頼むって…。」
「MZD、それは気にする事じゃないよ。現に昴さんだって神様だけど巫女のバイト引き受けてくれたよ?」
「え、葉月知ってるだろ? 昴は」
MZDが何かを言おうとしたのだが、昴が察知し、すかさず彼を蹴り飛ばした。
咄嗟に牡丹のスキルを使ったのか、威力が半端なかった。お陰で木が何本か薙ぎ倒れた。その直後、上からたらいが落ちてくる音が聞こえた気がするが、気のせいにしておこう。
「え、昴さん、いきなりどうしたのですか…?」
「気にしないでいいよ。ただ、MZDがうっかり口を滑らせそうになっただけ。気にする事じゃないよ。」
「そうそう、気にしないでいいんだ。二人共、病院の手伝い、しにいくんじゃないのか?」
「あ、いけない、そうだわ。セシル、行きましょう?」
「そうですわね。では、葉月さん、昴さん、私達はこれで。」
二人は丁重にお辞儀をしてから、聖域の道を走っていった。二人がいなくなった後、MZDがよろよろと戻ってくる。
「…ばーかーがーみー?」
「う、わ、わりぃ…すっかり忘れてた…。」
「MZD、駄目だよ、忘れちゃ。私単独ならいいけど、今は氷海ちゃん達いたんだから…。」
「悪かったって…。」
「お詫びに葉月の家手伝え。わかったな?」
凄い剣幕で睨まれ、MZDは素直に「はい…。」と答えた。
- 年末恒例巫女さんバイト その二 ( No.350 )
- 日時: 2014/12/31 21:10
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
神殿、夕飯時。全員で集まって今日は鍋のようだ。
「なぁ、明日予定ある奴いるか?」
ご飯の席で、昴がその場にいる家族に聞く。だが、誰も手を挙げない。特に予定はないようだ。
「ないみたいだな。実は、葉月から手伝い頼まれたんだ。アイツの実家で、無償で巫女さん神主さんやってほしいとさ。オールで。」
「え、オール!?」
無償と言う点はどうでもいいのだろうが、オールと言う事には驚く一同。まぁ、彼女達の仕事も無償でやっている事だったので、然程驚かないのだ。無償のつもりだが、たまにお礼と言って饅頭を貰ったりするが。
ちなみに、彼女達の給与体制は、この世界の人々が幸せと感じている分の金額がMZDより支払われ、銀行に振り込まれている。所謂幸せポイント=昴達の給料と言うわけだ。
どうでもいい話はさておき、オールでやると言う事に驚いた事に戻ろう。
「つまりー、帰って来れないって事ー? それはちょっと困るー。年越しは直斗と一緒にいたーい。」
「安心しろ、凪。直斗も葉月の手伝い行くってさ。あと、烈達やセシル達も行くって。」
「え!? ほんと!? じゃあ僕も行くー!!」
本当に直斗といられれば別にいいんだな、と思った昴と雪花とジョーカーと紅だが、ここでは思うだけにしておいた。
「すーさん、すーさんは行くの?」
「行くからこの話題出してんだけど。」
「休まないで平気?」
「へーきへーき。いつもの仕事の延長線だって思えばいいし。」
昴は心配なさそうな表情でそう言うが、鏡はまだまだ不安そうだった。
『鏡、神の仕事をぶんどるくらいの仕事をしてやれ。そうすれば神は休めるだろう?』
「あ、うん、そうだね!」
「おいこら紅、入れ知恵与えんな。」
「だが、昴殿は少し休ませた方がいいだろう。ここ暫くあの馬鹿のせいで各方面から苦情が殺到してその処理に追われているのだろう?」
「…ごめんジョーカー、それ言わないでくれ…。考えるだけでも苦痛なんだよ…。」
どうやら胃が痛み出してきたのか、お腹を押さえる昴。ジョーカーはすかさず謝罪をする。
「す、すまない、昴殿…。大丈夫か…?」
「…まぁ、大丈夫なのは大丈夫だよ…。で、何か聞き損ねたけど、お前ら全員」
「行く。」
全員、真面目な顔で即答しました。流石の昴もこれにはびっくり。
((昴さん/すーさん/神/昴殿)に絶対に無理はさせられない…!!)
(…な、何かすげー熱気…。)
—愛されてるわねー。
昴には無理をさせられない、それを全員同じように思っていた事を知らない昴は冷や汗を垂らすしか出来なかった。
- 年末恒例巫女さんバイト その三 ( No.351 )
- 日時: 2014/12/31 21:16
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
そして、翌日。十二月三十一日、大晦日の早朝…。
「みんな、今日はクソ忙しい年の瀬にありがとう!」
「いいって、葉月。これもお前の人徳だ。あとクソ言うな。」
聖域にて、葉月から頼まれたつぎドカ!組や聖域組、ジョーカー一味や司組、ペルソナ組やMZD達が集まっていた。みんな、笑顔だ。急なお願いだったが、特に不満は抱いていないらしい。これも葉月の人徳だろうか。いや、聖域組は恐らく違う思惑あるだろうが。
「んじゃ、お前の世界までの道、開いてやるとすっか。一回行ってるから場所は分かるしな。」
「ああ、初対面の時ですね。あの時はMZDさんが気配もなしにいきなり私の元に現れてびっくりしましたよ…。お風呂上りで油断してました…。」
お風呂上り、と理乃が言うと、MZDは顔色を青くした。気付いたのだろう、ツッコミ組が先程から発する、どう言う事か説明しろ馬鹿神オーラを。
「あ、やー、理乃、それ、今言わないでほしかったかなー…。」
「ねぇ、MZD、本当に理乃のお風呂上りを襲ったの? 答えによっては…また蹴るわよ?」
昴は恐らく創造者から聞いているだろうが、本人の口からも聞きたかったのだろう…。
「お、襲ってはいねぇよ! 丁度来たのがアイツのお風呂上りだったんだ!」
—えーっと、今回ばかりは本当。私も影君もそこにいたし…。どっちかって言うなら理乃ちゃんに攻撃食らったの、MZD側だったから。
創世ノートが開かれ、そう弁解の文字が書かれる。だが、
—まぁ、理乃ちゃんの裸見たのは変わりないけど。
次の一言は、余計だったかもしれない。だが事実理乃の裸を見たのは確かなので、言っておかなければならない。
「…馬鹿神?」
「ハヒィッ!!」
「帰ってきたら説教部屋に直行なさい?」
「ハイ…。」
MZD、無事に年を越せるだろうが、その後が無事じゃなくなるフラグが立ったのが見えたのか、膝を付いてがっくりと項垂れてしまった。
「…そ、そろそろ行かない? お父さん達も待ってるだろうし…。」
「そ、そうだなー。」
葉月に言われ、まだショックを残したような顔をしながらよろよろと立ち上がるMZD。だが仕事はしっかりするようで、全員を見てから指をパチンと弾いた。と、同時に、その場から全員の姿が消える。
一瞬だけ閉じられていた目を開けると、静かで荘厳な鳥居の奥に長い階段が見えた。
「ここは…?」
「ここが、私の実家、水上(みなかみ)神社だよ。まだ朝だからあんまり人はいないけど、毎年夜になると、ここでカウントダウンする人が沢山いるんだ。」
「二年参りって奴か。去年は俺らもやったなー。」
一年前にあった出来事を思い出しているのか、陽介が笑みを浮かべていた。
「集まるまで大変だったよなー。悠とクマ的な意味で。」
「うん、大変だったよー。鳴上君とクマ君的な意味で。」
烈も千枝も当時を思い出したのか、じろりと睨む。…その、悠とクマを。
その等の二人は…。
「晴れ着を望んで何が悪い! 慣れない着物で歩きづらくなってこけてチラリズムして足を捻った女子をお姫様抱っこで運ぶのが男のロマンだろう!?(普段着ないものだから新鮮な女子を見させてほしいんだ!)」
「晴れ着を望んで何が悪いクマ! 特にバインバインのスーチャンやナオチャンやヒーチャンやセッチャンやリノチャンのおムネが強調された着物でそのおムネを嘗め回すように眺めさせてほしいクマ!(普段着ないもので新鮮な気持ちを味わわせてほしいクマ!)」
反論しましたが、本音と建前が逆転しています。なので…。
「口を開くな変態共。」
ツッコミメンバー総出で即行でシメました。
そして、純粋組は…。
「ねぇ、葉月、聞こえないんだけど…。」
「理乃は気にしないでいいの。」
「凪ー、聞こえないよー?」
「鏡は何も気にしないでねー。」
「セシル、聞こえない。」
「聞こえなくていいのよ。あんな下劣な会話。」
「フランシスー、聞こえないんだけどー。」
「聞かなくていい。お前が聞く価値はこれっぽっちもない。」
避難係全員によりその耳を塞がれており、その純粋は守られました。
「と、とにかく、中に入らない? 着替えとか作法とか、役割分担もしないと…。」
「そうだな。んじゃ、行くか。」
全員、長い階段を上がって本殿へと向かった。
本殿は少し年月が経ち、寂れている感じがするが、とても美しい本殿だ、と初めて来た一同は思った。
「すげぇ…何だか、すげぇ…!」
息を呑む一同。そんなみんなに、葉月は頭をポリポリと掻いた。
「普通なんだけどなぁ…。」
「そりゃ、葉月にとっては住み慣れた家だからそこまでじゃないんだろうよ。けど、始めてきた俺らにとっては感動的なんだよ。…ん?」
本殿から、誰かが走ってくる。
目を凝らしてよく見ると、どこか葉月によく似ていた。
「はーづきー!!」
「あ、お母さん!」
葉月はその姿を見つけて、駆け寄る。巫女の姿をした女性…葉月の母親が、こちらにやってきたのだ。
親子は互いの姿を確認すると、がっちりと抱きしめあった。
「久しぶりね! 随分とたくましくなったんじゃない!? あら、理乃ちゃんと由梨ちゃんと七海ちゃんも! 随分色っぽくなったわねー。」
「そ、そんな事ないよー。あと、何で私だけたくましいなの。あ、みんな、紹介するね! 多分察してると思うけど、私のお母さん! お母さん、こっちが…。」
「葉月の新しいお仲間さん達かしら? 始めまして、葉月の母、菖蒲(あやめ)と申します。」
凛とした感じの装いで、葉月の母、菖蒲はお辞儀をした。昴達も思わずお辞儀をする。
「お母さん、みんなね、この神社のお手伝いをしてくれる事になったの。」
「まぁ、嬉しいわ! 丁度これから忙しくなるからね…。私とお父さんだけじゃ、苦しかったのよ。」
「あれ? 葉月ちゃんって一人っ子なの?」
千枝が聞くと、葉月は頷いた。
「うん、一人だよ。だから、兄弟がいる由梨がうらやましいんだ…。」
「兄貴いてもめんどくせぇぞ。うっさいしめんどくさいし。女がアタシ一人、かつ末子だから凄い絡まれて、もーめんどい。」
「由梨センパイの男勝りは男兄弟のせいッスか。つか、長女で一番下なんッスね。」
「ああ。上に二人兄貴いる。…一番上の兄貴は他界しちまったけどな。」
家族の話になり、どこか寂しそうな表情を見せる由梨。横にいる理乃も、悲しそうな表情を見せた。
「! ご、ごめん!」
「す、すまねッス!」
きっと、触れられたくない事だろうと考えた千枝と完二は、すかさず謝罪をした。特に完二は父親がいないので、誰かが亡くなる事の辛さは味わっている。だから余計に辛い思いを感じ取り、謝罪をした。
「…ねー、取り合えずさー、役割分担しないといけないんじゃないのー?」
「そ、そうだな。菖蒲さん、取り合えず寒いし中入っていいか?」
「ええ。本殿じゃなくて、少し離れた場所に私達が暮らす母屋があるわ。そこに行きましょう。」
凪が助け舟を出すかのようにすかさず話を変えたので、昴がそれに乗っかるように菖蒲に話題を振ると、菖蒲はすぐに母屋へと全員を連れて行った。
「…凪、助かった…。」
母屋に向かう最中、完二が凪に礼を述べた。
「みんな辛そうだったから、話を打ち切っただけー。」
「けど、お前が話を打ち切ったから、助かったんだ。ありがとな。」
「…家族で色々遭ったのは、完二もそうでしょー? あの時、ちょっと理乃さんも直斗も辛そうだったしー。あとー、ジョーカー一味も全員辛そうだったからー、これ、早く打ち切った方がいいなーって思っただけー。」
なんでもない風に言う凪に、完二は改めて、心の中で礼を述べた。
- 年末恒例巫女さんバイト その四 ( No.352 )
- 日時: 2014/12/31 21:20
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
そして、男女別れてまずは巫女服神主服に着替える事に。
「おい直斗、巫女服ん時くらいサラシ外せよ。」
「昴さんも外したら?」
「嫌です。」
「嫌だ。」
普段からさらしで胸を潰している二人が、今回もさらしを巻いたまま作業をしそうなので、由梨と千枝がツッコミを入れた。
「いいじゃんいいじゃん! 船の一件の時はさらし取ったドレス姿見せてくれたしー!」
「和装は小さい方が楽なんですって!」
「昴さん、何恥ずかしがってんの? 別にさらしの一枚や二枚。あ、鏡とか烈がいるから恥ずかしいのかー?」
「テメェ、マジでぶん殴っていいか?」
胸ある人達がわちゃわちゃ遊んでいる間に、胸ない葉月と鈴花は…。
「…。」
「すみませーん、そこの四名様ー。一部気にしてる人がいるからそれ以上何も言わないであげてくださーい。」
冷気と植物が辺りに漂ってます。それを察知したのか、セシルが着替えながらそう言った。
これには全員、黙り込んだのは言うまでもない。
ちなみに、ジョーカー一味は擬人化の出来る三人は擬人化状態で、フランシスとローズが完二特注神主服(事前に葉月が頼み、一日足らずで完成。)を着る事になった。
「おーい、菖蒲、ちょっと大変な事になったー。」
「え、あなた、どうしたの?」
そんな中、ふすま越しに菖蒲の夫で葉月の父、宗谷(そうや)が話しかける。
「実はなー、一着分、神主服が足りないんだよー。」
「ええっ!? こ、困ったわ…。巫女服なら一着あるんだけ…あ。」
わたわたと巫女服を引っ張り出すが、何故か凄く破れた様な後が!
「こ、これ、虫食いだね…。」
「盛大に食われてるな…。」
「昨日確認した時にはちゃんと数あったし、虫食いがないかも確認したのに…。」
「葉月、人数の連絡したのか?」
「もちろん。数があるか確認しないといけなかったから事前に連絡したよ。でも、変だね…。虫食い巫女服に一着足りない神主服…。」
「事件の臭いがしますが、今は様子を見てみましょう。…今は、誰かこれを直して巫女服を着るしかないですね。」
探偵としての勘が何かを告げたのか、直斗はそう呟くも、今は目先の事だ。一着足りない以上、この虫食い巫女服を直して男子の中で誰かこれを着るしかない。
「ちょっと小さめのサイズだから、葉月ぐらいの子じゃないと入らないわね…。」
「となると…。葉月と同じくらいの身長は…烈と鏡か。」
ぱっと出てきたのが、烈か鏡。どっちも嫌がるだろうが、今はどっちかを犠牲にするしかない。
「宗谷さん、烈と鏡を呼んでくれ。赤髪と白髪褐色の奴。あと、完二も。えっと、金髪の顔がいかついの。」
「赤い髪の子と褐色の子に、顔がいかつい子だね。分かった。」
そう言って宗谷は元いた部屋に戻っていった。その間に昴は着替えを済ませ、部屋の前に立った。虫食いの巫女服を持って。
「昴さん、来たぞー。」
程なくして、烈と鏡がやってくる。それと完二も。完二は着替えているが、他二人は着替えていないようだ。
「宗谷さんから話は聞いてるか?」
「ああ、神主服が一着ないってのは聞いた。で、どうすんだよ。」
「簡単だ。鏡、烈、どっちか巫女服着ろ。」
「」
スパッと、悪びれもなく、堂々と言う昴に絶句する二人。
「完二、お前の裁縫技術を見込んでこれを直してほしいんだ。鈴花が言うには虫食いのようだ。」
「どれどれ…うおっ、すげーッスね。こんな虫食いは初めて見たッス。こんなになるまで放っておくなら、オレ達のも危ないと思うッスけど…そんな傷はどこにもねぇし…。」
「直斗も探偵の勘で何か察知したみたいだ。…けど、今はこれを直してくれ。じゃないと話が始められない。」
「ウッス! じゃあ…ミシンと白い布と赤い布を用意してほしいッス。すぐ直るッスよ。」
「了解。」
昴は創世ノートに完二の言った材料を書いた。するとすぐにそれは現実となる。
ここは異世界だが、ただ創造者との通信が出来ないだけで、物を出したりスキルコンバートといった創世ノートの能力自体は発動可能なので、それができるのだ。
「さて、完二には任せるとして…。二人で話し合え。どっちかが犠牲になる事を。」
「はいはーい! 私、鏡君が着る事を望みます!」
「私は烈に着てほしいですわ!」
「寧ろどっちも巫女服で」
※暫くお待ち下さい…。
「なぁ、昴さん。そのノートの力で神主服出せんじゃね?」
「あ、言われてみればそうだな。」
いつからいたのか、湧いて出た腐女子を昴と烈が即行で沈め、烈は昴にそう提案する。ちなみに鏡は完二に耳を塞がれて被害はないようだ。
「ねー、完二ー。牡丹達はなんて言ったのー?」
「オメーは気にしなくていい。じゃあ、昴さん。この服直さなくていいのか?」
「勿体無いし、直しちまえよ。じゃあ、っと…ほれ。お前等二人もさっさと着替えちまえ。役割分担しなきゃいけないんだからよ。」
「うん!」
「ああ。ったく、余計な手間かけさせんじゃねぇよ腐ってんのは…。」
烈はブツブツと何かを言いながら、鏡と共に男子更衣室に戻っていった。完二も手近な部屋を借り、修復作業に取り掛かるようだ。
「…直斗。」
「はい。」
後ろにいた直斗に、昴はそっと声をかける。
「この現状、どう見る?」
「とりあえずは様子見ですが…何か、悪意のようなものが見え隠れしているのは何となく感じます。もしかしたら他のも何か被害にあっているかもしれません。」
「…いざとなったら、お前の探偵としての能力が頼りだ。頼んだぞ、探偵王子。」
「…任せてください。先輩の家の為に、尽力を尽くしますよ。」
昴と直斗は、頷いた。また何かあるか分からないが、警戒をすることにしたようだ。
- 年末恒例巫女さんバイト その五 ( No.353 )
- 日時: 2014/12/31 21:25
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
完二がいないが、役割分担を決める事になった。
「お願いしたいのは、女子には甘酒を作って売ってもらいたいの。それから女子にはもう一つ、おみくじやお守り、破魔矢なども売店で売ってほしいわ。男子は…女子と同じように甘酒を売るのと料理、それから、境内の見回りついでの掃除ね。」
「甘酒なら私作れるよ!」
「私もー!」
「私も可能ですわ!」
「私も作れるよ!」
料理と聞いてゲテモノ組が黙るわけがありませんでした。
「甘酒はリリィとセシルと鈴花。料理は完二と烈とジョーカー。双方のサポートに理乃がつけ。これで決定な。苦情は一切受け付けない。」
「何でよ!」
「酒粕を使う以上、アルコールに弱いフランシスと葉月と場酔い経験のあるクマは除外。ゲテモノ組は当然の如く除外だ。年を越させずに神社でご臨終させる気か? ローズも由梨も料理対決で評価は高いが、ローズは擬人化ができない以上ちょっと可哀想だから別の仕事に回す。由梨は巫女さんのバイト経験者だから売店の方に回ってサポートを頼む。」
が、即座に昴が勝手に振り分ける。その配役にした方が死なないので、全員納得したように頷く。昴、ちゃっかり評価四以上を選びやがった。
「破魔矢とかの売店は…残りの面子で交代制でいいか?」
「昴さん、ボク達も売店手伝うよ!」
「にゃぐー!」
「確かに、俺達は売店を手伝った方がいいだろう。」
「境内の見回りだと、絶対迷子になるからね…。沢山人が来るだろうから、埋もれちゃうよ…。」
パステルくん、にゃぐわ、フランシス、ローズがそう申し出る。ちなみに今回黒と紅も着てます。
「確かに小さい貴方達はこっちの方がいいわね…。売店側もあまり人がいなくてもいいかもしれないわ。男子を少しをこっちに入れてもいいかもしれないわね。」
「じゃあ、ちっちゃい者組以外だと、接客業の経験があるクマ、陽介、雪子、風雅、氷海、雪花辺りか?」
今言ったメンバーは、クマと陽介がジュネスのバイト、雪子と風雅と氷海が実家の手伝い、雪花は氷海の実家の手伝いで選択したのだろう。
「救護係がいた方がいいなら、氷海と雪花を回しますけど…。」
「え、理乃ちゃんみたいに回復魔法持ちなの? 回してくれるなら助かりますが…。」
「あ、いえ。回復スキルはありませんが…家が病院で、私達も少し医術を学んでいるので、簡単な応急処置ならば可能です。」
氷海が説明すると、菖蒲は頷いた。
「じゃあ、二人には救護に回ってもらいましょう。」
「…大怪我した人が出たら怖いから、俺も救護に回るよ。理乃のスキル使えば出来るしな。あ、黒と紅どっちか、にゃぐわの通訳で残ってくれ。」
「じゃあ、残りは境内の見回りかな? あ、黒と紅はどうするんだ?」
『我と黒は空を飛べるから、境内の見回りでいいだろう。黒、サボって酒を飲むんじゃないぞ?』
『! そ、そんな事はせんぞ!』
急に慌てやがったこいつ。おい黒、もしかして考えていたか?
「おい黒。テメェサボってたら焼くぞ?」
「あ、それ馬鹿神にも言えるからね? サボってたらぶっ飛ばすよ?」
『そ、そんな事するもんか!』
「し、信用ねぇのかよ!」
「ない。」
互いに相棒として、そんな姿を見ているのできっぱりと言う烈と影。
「…黒、お前は売店チームだ。境内チームは二人一組になれ。特に要注意人物である悠、牡丹、MZD、七海と組んだ奴は警戒しろ。」
「はーい。」
「ひでぇなおめぇら!」
と、言う訳で、拡販の役割は…。
調理班:サポートは理乃
甘酒…リリィ、セシル、鈴花
料理…烈、完二、ジョーカー。
売店班:サポートは由梨
フランシス、ローズ、パステルくん、にゃぐわ(通訳係で黒)、雪子、クマ、陽介、風雅
救護班:サポートは昴
氷海、雪花
境内の見回り班:
MZD、影、悠、千枝、りせ、直斗、鏡、凪、牡丹、紅、葉月、七海
となったようだ。
「烈、鈴花。完二にはお前達から話しておいてくれ。」
「わかった。」
「うん、わかった! 完二も喜びそうだね。」
「得意分野でのアレだからな。あ、甘酒と料理分けたけど、大変そうだったら互いに手伝ってやれ。」
取り合えず一通りの指示を終えたら、昴は境内チームに向き直った。
- 年末恒例巫女さんバイト その六 ( No.354 )
- 日時: 2014/12/31 21:30
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
「さて、次は境内の見回りだな。影、紅、直斗、チーム分け頼む。俺達は各自持ち場につこう。後はこいつ等に任せてな。」
「何でオレに頼まないの!?」
あっさりとまともな部類に入る三人に頼む昴。結構ちゃっかりしている。昴はMZDの反論に答えずに、さっさと持ち場に行ってしまった。
「取り合えず、要注意人物である鳴上先輩、金杉先輩、牡丹さんは鏡君と組ませないようにしましょう。」
「『異議なし。』」
「酷くないか!?」
「酷くない!?」
『当たり前だ。純粋組をお前等裸族と腐った二人と組ませられるか。』
ぴしゃりと言う紅。当たり前だ。自分達がいない間に問題起こされて鏡に悪影響を及ぼされたらたまったものではない。
『…鏡は我と組んでもいいだろうか?』
「異議なし。紅なら鏡を任せられるからね。」
「同じく、異議はありません。」
誰も反対意見が出ない。確かに鏡は相棒である紅に任せるのが一番だろう。
「じゃ、ボクはこの馬鹿神と組むわ。嫌だけど、ボクが見張ってないと絶対こいつ寝る。」
「異議はありません。」
『影ならば十分任せられるだろう。』
「酷くないかお前等!」
ギャーギャー喚くMZDを影が物理で黙らせ、他のメンバーに向き直った。
「残りはどうする?」
「…金杉先輩と牡丹さんが組んでしまってはまずいですね。ですが、ベストメンバーといえる組み合わせもないかと。」
『絶対仕事にならぬな。』
「…じゃ、これ使う?」
影はタブレット端末を取り出し、あるアプリを起動した。
それは、あみだ籤のアプリだ。
「七海と牡丹を同じ欄にして…あ、悠も同じ欄にすればいいか。んでもう一人は…。」
影はちらりと凪を見る。
「…直斗にしよう。」
「え?」
慣れた手つきで操作をする影。ある意味当たり枠は、直斗になったようだ。
「これなら凪と組める可能性あるでしょ?」
「なっ、ななななな!!」
『なるほど。影、考えたな。』
顔面真っ赤にして反応する影。そして入力し終わり、あみだ籤の時間になった。
「さーって、どうなったかなーっと!」
そして、運命のあみだが伸びていく。
結果は…。
凪と直斗、葉月と七海、りせと悠、千枝と牡丹。
となったようだ。
「ーーーーーーーーっ!?」
そう、組んでしまった。よりにもよってここで出てしまった。凪と組む事になってしまった。
「直斗君、ガンバ!」
「よかったじゃん、直斗君!」
「直斗君、神社だから不埒な行為は駄目だよ?」
「し、しませんって!!」
「凪直キタコ」
この事で他の女子がからかいだし、腐ったのが騒ぎ始めたので、
「スズカ、【ブフダイン】」
「スクナヒコナ、【ガルダイン】」
ツッコミ組の二人が弱点属性(牡丹は氷、七海が風)を盛大に当てました。ちなみに、鏡は紅が避難させていました。
「と、とにかく決まってしまったのは仕方ありませんよ。仕事に取り掛かりましょう。杉山先輩、この神社の見取り図を…。」
「あ、うん。」
そして、見回りをするブロック分けが行われた…。
- 年末恒例巫女さんバイト その七 ( No.355 )
- 日時: 2014/12/31 21:35
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
さて、その頃、調理班は…。
「んー、美味しい! 凄く美味しいよリリィちゃん、烈君!」
「体が温まりますわ…。」
「私も去年作りましたが、ここまで美味しいものはできませんでした。流石は酒屋の息子と娘ですね。」
「甘酒だったら母さんやばーちゃんから何度か習ったからなー。」
甘酒を、酒屋の息子と後取り娘が作っている最中のようだ。
「おーい! 大変だー!」
そんな中、完二とジョーカーがあわただしく走ってくる。その様子はどこかおかしい。
「ん? どうしたんだ、完二。」
「実は、料理に使う材料が…!」
「どうかなさったのですか?」
「全部ぐちゃぐちゃにされてるんッスよ! オレの見たところ、多分どれももう…!」
「は!?」
調理班は見張りにリリィとセシルを残し、理乃、鈴花、烈は急いで食材が置いてある冷蔵庫まで行った。
中を開けると、完二の言った通り、悲惨な状態だった。どれも踏み荒らされており、使い物にならないだろう。
「ひでぇ…!」
「一体誰がこんな事を…!」
「それはひとまずおいておきましょう。…これでまずい事になりました。」
「流石にここまで踏み荒らされちゃあ、客に提供できねぇよ…。」
どうするかと悩む一同。このままではどうにもならない。どうしたものか…。
「…理乃先輩、こっから俺んちの商店街まで道を繋いでくれないか?」
「今から買いに行くの!?」
「それしかねぇだろ! ここまで踏み荒らされちゃ、使い物にならねぇよ! …鈴花、お前は直斗と昴さんにこの事を報告してくれ。直斗なら事件解決に向けて知恵を貸してくれるはずだ。」
「そうだよね…。わかった。私から直斗君に言っておく。」
「烈、オレも買出し手伝うぞ。お前一人じゃこっち持ってくるの大変だろ?」
「我も行こう。聖域の中にも保存されている材料があるはずだ。それをかき集めてこよう。」
完二とジョーカーの申し出に、烈はにっと笑い、「サンキューな。」と礼を述べた。
「私も、シルフ達に頼んで食材を集めてもらいます。異世界の仲間達も総出で協力しますよ。」
「ありがとな、先輩。完二、行くぞ!」
「おう!」
「では、開きます!」
理乃は風の欠片で杖を精製し、詠唱を唱えて扉を出し、開けた。すぐに虹色の道が現れ、中は混沌とした状態の空間が広がっていた。
「烈さんの家の前に道を繋いでおきました。少しの間開いたままにしますので、帰りもそこからお願いします。」
「さんきゅ!」
二人はすぐに臆する事無く、道を潜っていった。
「後は私がシルフ達に頼んで…って、風の宝珠越しに知っちゃったから誰もいない…。」
どうやらシルフ四姉妹を呼び出して頼もうとしたが、宝珠越しに材料がこうなった事を知ったのか、すぐに飛び去って行ったようだ。
「鈴花さん、取り合えず私達はできる事をやりましょう。準備とかならば、可能なはずですから。この場は現状保存しておきましょう。証拠が残っているかもしれませんから。」
「うん! 私、直斗君に知らせてから向かうね!」
そして、理乃も今自分ができる事をやる為に、キッチンに戻っていき、鈴花は頼れる仲間に調査を依頼する為に、彼女を探しに向かった。
「…? 着信…?」
■
完二、烈、ジョーカーの三人が買出しに向かった大分後、酒蔵…。
「これは…!」
「酷いね…。」
直斗と凪は、昴に連絡を貰って今この場にいた。
- 年末恒例巫女さんバイト その八 ( No.356 )
- 日時: 2014/12/31 21:41
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
事の起こりは数十分前。昴と雪花と氷海の救護班が用意をしている最中の話に遡る。
「よし、医療器具(といっても絆創膏とか簡単なものだけど。)の準備できた。」
「これを使わないといいのだけれどね…。」
「だよな。」
怪我をしないのが一番だが、流石に大勢が来るとなればそれは難しい。トラブルとかも起こるだろうし、足をとられたり、踏まれたりとするかもしれない。
「私達でも治せるような簡単な怪我だといいのだけれど…。」
「まぁ、いざとなったら俺もいるし…ん?」
「どうしたのですか? 昴さん。」
何か物音を聞いたような気がした昴は、酒蔵の方を見た。
「何か、音がしたんだ。酒蔵の方から。…雪花、氷海、お前達はここにいろ。」
「わかった。でも、一人で大丈夫?」
「大丈夫だって。」
心配そうな雪花を他所に、昴はそう答えて酒蔵まで向かう。
近付くにつれ、段々と酒の匂いが強くなる事に気がつく。そして、何かが割れるような音がする事も。
「(強盗か? …なんにせよ、ここで捕まえないとな…。)スキルコンバート、凪。」
酒蔵の戸まで来た時、昴は自身に凪のスキルをコピーする。
出口は一箇所。今は巫女服で動きづらいが、何とかなるだろう。
「…。」
そして、懐からスマートフォンを取り出してある番号を呼び出し、落ちていた武器になるような木の枝を拝借し、戸を開けた。
「!」
「何してんの? こんなとこで。」
「(お、女!? ならちょろいもんだ!)そこを退けアマ!【ファイアボール】!」
甘く見られていたのか、中にいた男がいきなり初級呪文をかました。
「あぶねっ! ちょ、引火するだろうがよ!」
昴は難なく避け、男はその隙に逃げようとするが、
「させっかよ!」
男の前に回りこみ、足払いをかけた。それにより男は無様に転ぶ。
「ぶべぇっ!」
「おい、何の用でこの酒蔵の酒を台無しにした?」
「台無しにしろって言われたんだよ!」
「誰に?」
「それは答えらんねぇよ! そりゃっ!!」
なんと、男は懐からナイフを取り出し、昴にそれで攻撃してきた。
が、彼女と男の間に何かが割って入り、ガキィンッ、と鈍い音が聞こえ、男のナイフが弾かれた。
「平気ですか? 昴さん。」
「サンキュ、理乃。お前なら来てくれるって信じてた。」
何かの正体は、理乃。どうやら先程の電話は理乃にかけていたようだ。男と戦っている音声が聞こえた時、理乃は昴に何かがあったと気がつき、気配を探ってここまできたのだ。
ちなみに、理乃達以外でも全員異世界でも通話が出来るタイプの携帯電話に買い換えている。勿論、昴も例外ではない。
「女が増えたってかまわねぇよ!」
「あら、女だからって舐めてもらっては困りますよ。」
「ん?」
じっと、理乃を見る男。その後、笑みを浮かべた。
「へーぇ、そっちのちんちくりんのチビは、あの有名な世界で一番強い風の司様かぁ! 噂以上にチビだな! チービチービどチビー!」
「…は?」
(あ、あの男死んだな。)
…ここでみなさんに言っておきます。理乃は胸がDカップと大きいのですが…身長が鈴花と同じくらいに小さいのです。大体150あるかないかなのです。
そして本人はその身長を気にしているのです。ここまで言えば分かりますね? …このおろかな男の末路が。
「…チビっていうのは、何方の事でしょうか?」
「オメェに決まってるだろ! チビ!」
「…。」
昴はそっと離れた。男に合掌しながら。
「…誰が…。」
「あ?」
「誰が豆粒どチビですかあぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!! そこまで言ってねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そして男はその後、完膚なきまでに叩きのめされた事は、言うまでもない。
「あー、直斗。ちょっと酒蔵まで来てくんない?」
『え? 今鈴花さんから連絡を受けて、食材荒らし事件の現場を見ていたのですが…。』
「そっちでもそんなのが起こってたのか。多分その犯人が今酒蔵の酒ぶっ壊してた。」
『本当ですか!? で、今は…!?』
昴はちらりとリンチ中の男と、いい笑顔でいつの間にか剣から変化させていた杖で殴っている理乃を見た。が、すぐに視線をそらす。
「…理乃の一方的なリンチに遭ってる。相手が一番言っちゃいけない単語を言ったから、お前と同じ中の人の某兄弟の兄みたいな台詞吐いてボコボコにしてる。」
『想像できました。そして音が凄まじいんですけど。こっちまで聞こえますよ。とにかく、僕もそちらに行きますね。縛り付けておいてください。それから、リリィさんもそちらに連れて行きます。恐らくその酒蔵のは、お神酒用に取っておいた酒でしょう。杉山先輩もそんな話をしていました。』
「そうだな。烈んちで何とかしてもらえればいいんだが…。とにかく、頼む。」
その会話が終わった時に丁度、理乃の方も終わったようだ。
「ふぅ、すっきりしました…。」
「わーお、いい笑顔ー。」
改めて、この子に逆らわないで置こうと決めた昴だった。
- 年末恒例巫女さんバイト その九 ( No.357 )
- 日時: 2014/12/31 21:46
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
そして、直斗と凪がリリィをつれて駆けつけ、現在に至る…。というわけだ。
「…結構完膚なきまでに叩きのめしましたね、桜坂先輩。」
「酷いね…。酒蔵の状況もそうだけど…。」
「さ、流石に申し訳なかったので後できちんと【ヒール】使って治したんですけど…。」
(中級治癒術で治す辺りまだ怒ってんな…。)
だが、一応話は出来るくらいまで回復したので大丈夫だろう。男を酒蔵に縛り付け、直斗と凪が尋問している間に、昴とリリィと理乃は酒瓶のラベルを見ていた。
「…うん、これなら、うちにある。みここさんがアルバイト先の神社で使うみたいで、大量注文したけど、使わなくなって、返品した。料金は申し訳なかったみたいで、返したけど受け取らなかった。おばあちゃんがちょっと処分に困ってたから、譲れると思う。」
「分かった。理乃、烈達は戻って来てるか?」
「…ええ。今、食材を持って帰ってきたみたいです。シルフ達も食材を集められたみたいですね。」
「理乃はそのまま調理班に回ってくれ。…リリィ、烈と一緒にその酒を貰ってきてくれ。烈には俺から連絡しておく。」
「わかった。一応、ラベルを持ってくね。」
リリィは頷くと、ラベルを持って酒蔵から出て行った。
「さてと、お前の雇い主、洗いざらいゲロッて貰うぞ。」
「はんっ、誰が言うか!」
「言わなくても分かるわ。どうせろくな商売していない向かいの神社の神主でしょう?」
「!」
背後から聞こえた人物の言葉に、男の表情が、変わる。
「心臓から大量の血液が排出されたわね。血流も早くなっている。確定ね。」
「菖蒲さん!? え、そんな事分かるんですか!?」
「あらやだ、貴方達、私が誰の親だかお忘れ?」
「あ…そうでした。葉月先輩の親ですし…そういった事を出来てもおかしくはありませんね。現に里中先輩も、その光景を見ていましたし…。」
彼女は、葉月の親である。だから水の流れを感じる事が出来る水属性であってもおかしくない。
「しかし、表情も変わりましたので十中八九、その向かいの神社の神主で間違いないでしょう。彼を警察に突き出してしまえば、主犯格の方も逃げられませんよ。…しかし、ろくな商売をしていないとは…?」
「言ったままよ。向かいはペテン師まがいの商法で参拝客を引き入れて、一生離さない。お布施も強要しているみたいで、夜逃げをした人もいるって聞いたわ。警察の人も捜査に踏み切りたいけど、大した証拠も残さないものだから手こずっているみたい。」
「うわ、ひでぇ。まぁ、こいつをサツに突き出しちまえば話は丸くなるだろうな。凪、直斗。ちょっと離れてこいつを警察署まで突き出して来い。」
「わかりました。」
「わかったー。」
直斗と凪は、男を警察に突き出しに行った。
「さてと、俺も持ち場に戻りますね。」
「ええ、ありがとうね、昴さん。それから、お仕事は今日一日だけ手伝ってくれるだけで十分よ。参拝客もカウントダウン辺りが一番のピークで、それ以降は落ち着くから、私と宗谷だけで十分よ。近所の人達も、明日には手伝いにくるしね。だから、明日には元の世界に戻るといいわ。お正月の時くらい、慣れた世界でゆっくりしている方がいいでしょ?」
「ええ、なるべくなら。」
「決まりね。あぁ、カウントダウンの時はみんなで集まるといいわ。特に、水や氷属性の人達はね。」
水や氷属性の人に何かあるのだろうか、昴は首を傾げるも、元々それをお願いするつもりでもあった。
「カウントダウンの時くらいはみんなでいたいですからね。ありがとうございます。」
「いいのよ、こっちがお手伝いを頼んでいるわけだし、当然よ。…昴さん、葉月は手のかかる娘ですが、とてもいい子です。これからもあの子と仲良くしてくださいね。」
「いえ、寧ろ娘さんには何度も助けられてますよ。…って、何だよ着信?」
菖蒲と話している最中なのに、突然懐に入れていた携帯が鳴り響く。相手は、りせだった。
「っ、何だよもう。もしも」
『どうしよう、昴さん。悠先輩がいきなり脱ぎ出して男の人のズボン引きちぎったりどっから持ってきたかわかんない寿司ネタを乳首に乗せてブリッジしたりしてるんだけど、どうしたらいい?』
『そこのお嬢さん! 俺と一緒に尻乾布摩擦をして暖めてくれませんかあぁぁぁっ!!』
『きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!』
暫く、通話口から悲鳴が聞こえる。まぁ、よからぬ事が起こっているのは間違いないだろう。
「…りせ、殺れ。俺が許可する。」
『オッケー! じゃ、また何かあったら連絡するね!』
通話が終わると、菖蒲との会話をそこそこにし、昴はすぐさま救護室に向かった。怪我人一名確定したからである。それに、もしかしたら精神的被害が大量に出ているのかもしれないしな…。
(何だか愉快な仲間達ね。葉月もあんな仲間達に囲まれているなら、大丈夫かしらね。)
菖蒲も笑みを見せ、その場を去っていった。
- 年末恒例巫女さんバイト その十 ( No.358 )
- 日時: 2014/12/31 21:52
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
その後、ピーク時を迎えた一同は…。
「いらっしゃいませー!」
「あら、可愛い子だね。ボク、お守りもらえる? 交通安全のがいいかねぇ。」
「はーい! 雪子! 交通安全のお守りだって!」
「はい。毎度ありがとうございます。ついでにこの子を題材にした本(薄いの)もセットでぷげぇっ!」
「一般市民に何を売ってんだよ天城!! すみません、交通安全のお守りですね。五百円になります。」
「は、はぁ…。(元気な子達ねー。毎年来る子達のお仲間さんかしら。)」
お守りを売る売店では変な喧騒が行われていた。…つか、何も知らないおばちゃんに薄い本を売ろうとすんなし天城屋時期女将。
また、離れた所ではクマとフランシスと由梨とにゃぐわが破魔矢を売っていた。
「忙しクマ忙しクマー!」
「本当に忙しいな、これがいつものピーク時なのか?」
「ああ、いつもこんなもん。いらっしゃ…げっ!!」
突然現れた客に、由梨はいやそうな顔を浮かべる。
背は高く細身の…少しチャラそうな男がそこにいた。だが、その黒髪から覗く目は、どこか鋭い。
「おー! やっぱいたか由梨!」
「何しに来たんだよ紅刃(こうは)兄!!」
「『兄!?』」
「ユリチャンのお兄さんクマか!?」
「にゃぐぅ!?」
由梨の発言に驚くその場にいたフランシスと黒とクマとにゃぐわ。どうやら今回の客は由梨の兄である紅刃のようだ。
「ここに来れば可愛い妹に会えるかと思ってさー。毎年毎年手伝いに来てるからー。寂しいんだぞお兄ちゃんはー。お前が桜蘭学園の寮に入ってなかなか帰ってこないしー。」
「くっつくな邪魔だ! って、何胸ん中に手を入れてセクハラしようとしてんだこのクソ兄貴ぃ!」
「ぐぼぁっ!」
どうやら妹にソフトセクハラをしようとして殴られているようだ。由梨の兄は大分個性的な…シスコンのようだ。
「にゃぐ…。」
『ん? にゃぐわ、あんな兄を見て何遠い目を浮かべているんだ。』
「にゃぐー…。」
『…鈴花の兄もこんな感じ、だと? そのせいで鈴花も苦労していると? …シスコンの兄を持つと苦労するものだな…。』
にゃぐわの遠い目に、黒が同情していた。
そして同じ頃…。
「鈴花! 焼そば五つと今川焼き五つ!」
「はーい! すぐ出来るよ!」
「セシル、甘酒六つ!」
「わかったわ!」
厨房はもう戦場になっていた。甘酒班も調理班も何もかも入り混じっており、接客専門として酒屋の手伝いをしている烈とリリィが注文口に立っている。
あの後、シルフ達の協力でかなりの食材が集まり、今では山積みになっている。だが、ここまでお客が多ければ、あっという間に食材は消えるだろう。
「ジョーカー、お神酒!」
「うむ! って、手が離せん…!」
「ジョーカー、オレがうどん見てるからそっちを手伝って…。」
「わしが持っていくぞ。」
急に下から声が聞こえて、ちょっとびっくりするジョーカーと完二。そこには、いつ来たのか、茜がいた。
「え、烈のばーさん!?」
「忙しいみたいじゃから、手伝いに来たんじゃよ。烈、お神酒は何杯じゃ!?」
「二杯! って、ばーちゃん来てたのか!?」
「忙しいそうだったのでな。お前達が酒を取りにきた時にこっそり来たんじゃよ。あっちはあの子達に任せれば問題ないじゃろう。」
「助かった! 猫の手も借りたい状態だったんだ!」
だが、茜という協力者が来て、少しだけ楽になったのは確かだ。
そんなこんなで、客足が落ち着いた頃、昴達は神社の本殿前に集まった。他の人達もいるようだ。ちなみに、茜も紅刃もいる。ちなみに全員には紹介済みだ。
「まさか茜まできてたとは…。」
「まぁ、こっちは割と落ち着いていたからの。暇だったし、来たのじゃよ。それに、烈や新しい孫達と一緒に新年を迎えたかったからの。」
「ばーちゃんってば…。」
孫思いのおばあちゃんに、全員苦笑すると共に、温かい何かが芽生える。
「こんな孫思いのお祖母ちゃんっていいなぁ…。」
「取り合えずりせ、お前はお疲れさんだな。悠を何度も叩きのめしたんだろ?」
「うん。最終的に凄い人だかりが出来て困った。」
ちなみに、今悠は鈴花と牡丹の手により縛り付けられている。
「マジで困るな、あの馬鹿には。」
「だねー。妹の貞操狙われないとも限らないしー。」
「兄貴、アタシは今兄貴から貞操を狙われてる気がして怖いんだけど。」
「気のせいだよー。おっ、最近胸でかくなったんじゃないの?」
この後、紅刃は由梨に完膚なきまでに殴られたのは言うまでもない。
「お兄ちゃんがそれって…。うちみたいで苦労してそう…。」
「鈴花、分かるだろ? 同じシスコン兄貴持ってるお前なら…。」
「明日帰ってくるんだけどさ、凄くめんどくさくなりそうで心配なんだけど…。」
「…シスコン兄貴を持つ者同士、後でなんか二人で食べに行かないか?」
「うん、行く。」
シスコン兄貴を持つ者同士、何だか通じ合ったようだ。
「あ、そうだ。昴さん、直斗君、凪君。あの厨房荒らした主犯の人間、捕まったって。お母さんが言ってた。」
「本当ですか? よかったです…。」
「うん、よかった…。いつもいつも妨害行為してくるから困ってたんだよね、お母さんもお父さんも。そうそう、神主服を盗んだのも、虫食いの巫女服にすり替えたのも、さっきの男だったみたいだよ。」
「これで一安心だねー。」
どうやら犯人が捕まり、ホッとしているようだ。これでもう怪しげなペテン師に悩まされる心配はないだろう。
「おっ、そろそろ日付変わるぞ。」
昴が携帯電話の時計を見ると、確かに後一分で日付が変わる。今年も後一分で終わりだ。
「…今年も色々あったな…。」
「うん。時間が繰り返す事になって、りー姉達が来て、氷海がテレビの中に入れられて、すーさんとりせのお誕生会して、船の事件があって…ねぇ、今年料理対決多くなかった?」
「あー…うん、多かった気がする。けどまぁ、氷海達の料理の腕が上達したならいい。ゲテ組は相変わらずだけどな。」
ふぅ、と溜息をつく昴。あまりにも料理対決で死に掛けた記憶が多すぎて、憂鬱なのか。
「…でもまぁ、今年ももう終わりだ。来年はいい年である事を願おうぜ。」
「そう、だね。…いい年であるといいなぁ…。」
鏡はずっと、心の中で願っていた。
(来年こそは何事もなく過ごせますように。来年こそは、すーさんが苦労しませんように…。)
と。
「後十秒だぞ!」
「九!」
「八!」
「七! こちゃん可愛い。」
「六! ってマジ侍。」
「五! ごにじゅうご。」
「ろ…四!」
「三!」
「二! あ、煮付け大丈夫かな?」
「一! って、何気にしてんだよ由梨先輩!」
「2015年、おめでとー!!」
花火が上がる。同時に、辺りに青い光が放たれた。
「って、なにこれ!?」
「大丈夫だよ。ここに祀られてる御神体、青龍の気が満ちてるの。…この日、丁度一年の始まりの日に、それが目に見えて現れる。この場所はそういった場所なんだ。だから、ここに人が集まるの。ねぇ、氷海ちゃん、雪花ちゃん、クマ君、千枝ちゃん、何か、感じない?」
「そ、そう言えば、何か力が湧いてる感じが…!」
「青龍の加護を受けて、水属性や氷属性の力が上がるの。目に見えて強力になっているわけじゃないけど…。」
「つまり、ここは水属性や氷属性にとってはパワースポットなんだな。」
昴が聞くと、葉月は頷く。
「とりあえず…まず突っ込ませろ。誰だ二年連続菜々子ちゃんネタ出した奴。あと六の侍は納得。誰だ時間戻そうとした奴。」
「由梨先輩、煮付けの事を気にしている場合かよ。」
「いや、だって大丈夫かなって気になったんだよ。」
「相変わらずレツとスーチャンのツッコミは冴えてるクマねー。」
「「お前等が突っ込ませるからだろ!!」」
「あっはっは! 相変わらずの冴えたツッコミじゃのー!」
「黙ってろばーちゃん!」
愉快そうに笑い出した祖母に突っ込みを入れる孫。そんな二人を見て、周りの人間は思わず笑みを見せる。
「…こんな笑い会える日が、ずっと続くといいな…。」
昴のこの呟きが、風に乗って消えていった…。
終
- 年末恒例巫女さんバイト 後書き ( No.359 )
- 日時: 2014/12/31 21:56
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: f2zlL8Mb)
後書き de 雑談
私
—ちょっとグダグダになったけど、今年最後の更新だよ!
昴
「一年間もこんな作品達を読んでくれてありがとうな。」
鏡
「また来年も張り切って更新していくよー!」
りせ
「とりあえずまずは目先の事だと…料理対決第四戦?」
理乃
「の結果発表になりますね。」
由梨
「牡丹の心変わりの理由、クマが何故牡丹の理由を知っているのか、そこも楽しみに待っていてくれよな。」
風花
「第五、第六の料理対決も考えているそうですので、その辺りもお楽しみに。」
私
—あとは…残っている他のシリーズも頑張って執筆していきますんでお楽しみに! 今年に水鏡お兄さん出したかったな…。
昴
「言うな。では、今年もお世話になりました。来年もまた宜しくお願いします。」
全員
「それでは、よいお年を!」
■
私
—何とか今年に間に合った…。
昴
「感想あればどうぞ。」