二次創作小説(映像)※倉庫ログ

激突! 氷海VSセシル その一 ( No.470 )
日時: 2015/01/15 23:08
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fRqJ.hcc)

パステルくんを先に行かせた後、少しだけ攻防を交わした氷海とセシルは、黙ったまま動かない。
互いに様子を伺っているようだ。

「…何故、動かないのですか?」
「貴方こそ、何故動かないの?」

先に動いて貰うよう、互いに牽制し合うも空振りに終わる。
…睨み合いの時間が、続く。

「…先に動いたら如何ですか?」
「そっちこそ。」

再び互いに牽制し合うも、動かない。

「…。」
「…。」

油断なく様子を伺い、力を込め、いつでも迎撃できる準備を整える二人。だが、どちらも動こうとしない。

「…何故、動かないの?」
「先程の、あのネズミさんの背後でわたくしに向けた氷の一撃。あの一撃で、貴方の力量は粗方把握できました。故に、動かない方が妥当かと思いまして。」
「食えないわね…。」

氷海は呟くも、ほぼ同様の理由で自分から動く事はしなかった。
再び、睨み合う氷海とセシル。

「…このまま動かなければ、先に行ったネズミさんや、後ろに残った人達がどうなるか、わかりませんよ? わたくしはジョーカー様やリリィ達を信じているので、心配はいりませんが…。」
「あら、私だってパステルくんや烈達を信じているわ。みんなはそうそう、簡単にやられはしないと分かっているもの。」
「…ですが、このままでは埒が明きませんね。」
「それには同意する、わっ!」

長い膠着状態に終止符を打つかのように、氷海は氷の礫(つぶて)を大量に、時間差で隙なく放つ。

(あの風雅でも避けきれなかった技。これなら、何発かは、当てられる…!)

これは風雅が食らった技。いくら強い力を持つであろうセシルも、これは避けられない。氷海はそう、考えていた。
だが、現実はそう甘くはなかった。

「…甘いですわね。」

セシルは身を翻し、時間差で飛んできた氷を避けた。自分に近付き過ぎて避けられないものでも、冷静に短い手足で叩き割る。

「なっ…!?」
「この程度の攻撃では、わたくしには当たりませんよ?」
「くっ…!」

余裕の表情で笑みさえも見せるセシルに、氷海は悔しそうに顔を歪めるだけだった。

「今度はこちらから、行きますわよっ!」

そう言って、セシルは氷海に向かって来た筈だった。
が、氷海の目の前で、その姿は消えた。

「なっ!? ど、どこに!?」

突然の事に氷海は狼狽え、辺りを探し回る。

「こちらですわ。」
「!? あぐっ!」

背後からセシルが迫ってきたと気が付いた時には、既に氷海の体は吹き飛んでいた。腰の辺りに鈍い痛みが走る。恐らく蹴られたのだろう。

「痛っ…! 風雅並みに早いわね…。」
「お誉めに預かり、光栄です。…やはり、貴方は戦いに慣れていないようですわね。戦いに慣れてない方は、わたくしの姿を捉えられずに無様に吹き飛ばされておりましたから。」
「…確かに、私達の戦闘経験なんて、あのバトルくらいよ…。」

恐らく、セシルはこれまでいくつもの戦闘経験があるのだろう。だが、自分達がまともに戦ったのは、あのバトルくらいだ。

(けど…ここで勝たないと…! パステルくんに追い着くには、ここで勝たなくては!)

氷海は氷柱を作り上げ、セシルに放つ。

「…攻撃に焦りが見えていますよ?」

だが、セシルはそんな氷海の攻撃を、いとも簡単に避けていく。

「そんなに早くあのネズミさんに追い着きたいのですか? 背後の仲間達を置いて。」
「烈達は、貴方達の仲間になんか負けはしないわ。それに、パステルくんは今、怪我をしているの。だから、早く追い着いてあげないと…!」

あんなにも体をボロボロにさせた、自分の大事な家族。その家族の元に早く行き、助けてあげたい。その気持ちが、氷海を急かしていた。

激突! 氷海VSセシル その二 ( No.471 )
日時: 2015/01/15 23:13
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fRqJ.hcc)

「その焦りが、貴方の攻撃を鈍らせているのです。その焦りを払拭しなければ…わたくしには、勝てませんよ!」

セシルは再び、氷海の視界から消える。

「なっ…! またっ…!」

氷海は再びセシルの姿を探す。だが、セシルの姿を捉える事は難しかった。

「遅いですよ。」
「!?」

セシルの言葉が聞こえた時、氷海はようやくその姿を捉えた。そこは…氷海の腹部辺り。

「はっ!」
「がっ…!」
「もう一撃っ!」
「あうっ…!」

腹部に強い衝撃を連続で感じた後に脛に激痛を感じ、氷海は膝を付き、咳き込んだ。

「ごほっ、ごほっ…!」
「…わたくしも貴方を殺すのは、本位ではありません。諦めて、引き帰したら如何ですか?」

明らかに勝負がついたと見たセシルは、氷海にそう持ちかける。

「…。」

氷海は静かに、瞳を閉じる。その脳裏に浮かぶのは、自分の大切な分身、雪花。

(…雪花は…こんなに痛い思いをして…泣きたくなるくらい辛くなって…寂しくなっても…無事に、帰ってきてくれた…。)

昴達が側にいない状況。知らない人と行動しなければならない状況。そして、強大な敵。
それでも、そんな状況の中でも、新しい友達を連れて、帰ってきてくれた、パステルくんと同じくらい大切な、大切な家族。

(…確かに、私には雪花のように、誰かと戦ってきた経験は少ない。でも、それじゃいけないって分かったから、私達は…。)

氷海は息を整え、再びセシルに向き合う。
その瞳は、強い闘志を宿していた。

(こんなところで負けていたら、雪花に笑われてしまうわ。また、あの時のような事が起こらないように…強くならなくちゃ…! パステルくん、もう少しだけ待っていて。まずは、この子との戦いに集中させて!)

激突! 氷海VSセシル その三 ( No.472 )
日時: 2015/01/15 23:20
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fRqJ.hcc)

氷海の目の色が変わったのを見て、セシルは溜息をついた。

「…どうあがいても、諦めるつもりはないようですね。では、少しの間、眠っていただきます!」

そう言って三度、セシルの姿が消える。
だが、今回の氷海は慌てずに、目を閉じた。

(…凪と手合わせした時を思い出して…。彼は、私の動きを察知していた。)

烈・鏡達と同様に、氷海も雪花に頼まれ、凪と手合わせをした事がある。その際、自分の攻撃が、凪には一切通用しなかった。
それは何故かを、氷海は考えていた。考えた末に編み出した答え。凪に話して確信を得られたそれは…。

(自分の能力を使って…風の動きを読んで、私の攻撃を見破った。)

バトルをしていた頃の風雅にも考え付かなかった、自分の能力の使い方。それを、自分の力でも応用しようと考えたのだ。
氷海は寒さを感じさせない程の冷気を辺りに漂わせ、様子を伺う。

(…? 何をするつもりでしょうか…?)

セシルはそんな氷海の考えが読めずに、素早く動きながらただ首を傾げるばかり。

(…ですが、何をしようと彼女にはわたくしの姿を捉えられない筈。なら、一撃で決めます!)

そしてセシルは氷海の背後から首筋を狙って突っ込んできた。
だが、氷海は優雅にセシルが迫ってきた背後に振り向き、作っておいた氷柱の先をセシルの顔面に当たるコースに突き立てた。

「!?」

セシルは氷柱の存在に気が付き、当たる寸前で飛び退く。

「あら、意外と簡単に出来たわね…。もっと難しいと思っていたけれど…。」
「何を、したのです?」
「…秘密よ。」

氷海は唇に人差し指を当て、微笑んだ。そして、再び無数の氷の礫をセシル向けて飛ばす。

「くっ!」

セシルは素早く避け、そのまま姿を消した。
氷海は再び冷気を辺りに漂わせ、様子を伺う。

「…真正面から突っ込んでくるなんて、烈みたいね。」
「なっ、うあっ!」

鳩尾の辺りを狙おうと突っ込んできたセシルの動きを氷海が読んでいた事に気が付いた時には、セシルの体は既に氷海の手の中に収まっていた。
氷海は徐々に冷気をセシルに当て、その体を凍らせる。

「…まだ、やるつもり…?」
「…いえ。この状態では、もう動けないでしょう。…わたくしの負けですわ。」

悴む手足を見て、セシルは悔しそうに、だが、潔く諦める。
それを見た氷海は氷で檻を作り、セシルを閉じ込めた。

激突! 氷海VSセシル その四 ( No.473 )
日時: 2015/01/15 23:28
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fRqJ.hcc)

「…ぐっ!」

その直後、ダメージが大き過ぎたのか、氷海は再び膝をついてしまった。

「無理もありません。その蓄積されたダメージでここまで立ち回ったのですから。」
「…けど、雪花もパステルくんも…これ以上のダメージを受けて、立ち上がってきたわ…。私なんて、まだまだよ。」
「…あのネズミさんと言い貴方と言い…。諦めが悪いのですね。」
「どこかのお馬鹿さんに似たのかしらね。」

クスクス笑う氷海だが、そのお馬鹿さんの事を思い出した途端、顔が熱くなる。

「…口では罵っていますが、本心は違うと。成程…。そのお馬鹿さんと貴方は、恋仲ですか?」
「あ、あの、ちょっ…! ち、違うわ! 私と烈は…!」

顔を真っ赤にして慌てる氷海に、セシルはいい事を聞いたとでも言うように、笑みを見せた。

「…今度、その烈と言う方を見てみたいですわ。そして…。」
「や、止めて頂戴!」

何をされるか分からないが、全力で阻止しようとする氷海。それにセシルは更に微笑んだ。

「機会があれば、その愛しの殿方のお話をじっくりと聞いてみたいですわ。」
「だっ、だからっ! 私と烈はそんなっ…きゃっ!」

突然、セシルが輝き出し、氷海は思わず目を覆う。

「大丈夫ですわ。針があるべき場所に帰ろうとしているだけ。」
「えっ!?」

セシルの纏うローブから、スペードが刻まれた紫色の玉が飛び上がる。
それは氷海の作った檻を突き破り、宙に浮いた。

「あ、あれが、ワンダークロックの、針…?」
「ええ。玉の形をしていますが、あれこそワンダークロックの針ですわ。…わたくしは詳しく分かりませんが、これの詳細なら、ジョーカー様がご存じですわ。」
「…後で聞いてみるわ。教えてくれるかはわからないけど。」

そうこう話している内に、玉は奥へと向かっていく。セシルの話が本当なら、あるべき場所…つまり、ワンダークロックの在りかに帰っていったのだろう。

「…。」

氷海は、パステルくんがいるであろう道の先を見つめた。

「氷海ーっ!」
「…!」

そんな時、聞きたかった声が背後から聞こえ、振り向くとそこには、パステルくんや雪花と同じくらい会いたかった存在がいた。

「烈っ…!? な、何でそんなボロボロなのっ!?」

が、その姿が自分よりも酷い怪我を負っていた為、思わずその左腕に飛び付いた。そう、よりにもよって折れている烈の左腕に。

「あだだだだだだっ!! お、お前も飛び付くんじゃねぇよ! そっち、折れてんのっ!!」
「あっ、ご、ごめんなさい…。その、大丈夫…?」
「へーきへーき。後でお前の親父さんに診てもらうよ。心配してくれてありがとな。」

氷海は烈の腕にされている応急処置に気がつき、素直に謝罪する。

(私達、すっかり無視されてるけど、これが見られたからいいや♪)
(氷海、僕達に気がついているのかな…。何か、完全に二人の世界に入ってるけど…。)

そんな中、すっかり忘れ去られている鈴花と風雅は、微笑ましくそんな二人を見ていた。

『…氷海、少し落ち着かんか。お前の受けた傷に障るぞ。』
「ご、ごめんなさい、紅。…紅?」

烈の肩にいる、ここにいてほしくない存在…紅の存在を見つけた氷海は、急に全身から血の気が引くような感覚に陥った。

「…氷海、諦めた方がいい。昴さんにもバレてる。」
『神にも洗いざらい報告するからな。説教の覚悟をしておけ。』
「うぅ…やっぱり、こうなるのね…。」

紅の言葉に、氷海は項垂れてしまう。もう昴の説教は、決定事項のようだ。

(…あの、腕の折れた子が、烈ですか。…どうやらまだ片思いと言ったところでしょうか。)

そんな中、セシルは烈と氷海を見て、小さく笑みを溢していた。檻は開いているのに、脱出をする様子はない。どうやら、氷海の最後の一撃が効いているようだ。

(…思ったよりも、凍傷が酷いですわね…。これは、動かない方が賢明ですわね。…それよりも…あの、彼女の仲間達…。)

セシルは氷海の周りに集まった、彼女の仲間達を見て、優しげに微笑んだ。

(…あの方達なら、ジョーカー様を倒す事が出来そうな気がしますわ。…何となく、ですが。)

ジョーカーは強い。後ろにいる、烈達が倒してきた三人よりも、自分達よりも、遥かに。
だが、何故か氷海達には期待していた。理由は分からないが、期待出来る存在だった。

(…ジョーカー様…。お気を付けて…。)

激突! 氷海VSセシル その五 ( No.474 )
日時: 2015/01/15 23:41
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fRqJ.hcc)

「…ローズ、フランシス、リリィ…そして、セシルまでもがやられるとはな…。」

視線の先に、紫色の玉を映しながら、ジョーカーはポツリと呟いた。
そしてパステルくんに視線を移し、溜息をつく。

「…そろそろ、寝た振りはやめたらどうだ?」
「…ぼ、ぼにゅ…!」

パステルくんはゆっくりと起き上がる。どうやら暫く前から気が付いていたらしい。

(ワンダークロックが直った…! 氷海達、やったんだ…! なら、僕ももう一頑張りしないと、氷海達に笑われちゃうね!)

そして、ネジを象った盾とスパナを手に持ち、ジョーカーを見据えた。

「無駄な事を…。」
「ぼにゅっ!」

パステルくんは何発も、ジョーカーに向けて氷を放つ。
だが、ジョーカーは軽々と避け、パステルくんの目の前までやって来た。

「もう一度眠っていろ。」
「!? ぼにゅっ!!」

ジョーカーはパステルくんに触れずに、彼を吹き飛ばした。パステルくんはそのまま壁のような場所にぶつかり、落ちていった。

「…。」

その後、ジョーカーは再びワンダークロックに視線を向ける。

「ローズ、フランシス、リリィ、セシル。よく、頑張ってくれた。…後は、ゆっくり休んでくれ。お前達の無念は、この私が…!」

ジョーカーの言葉は、虚空に響いた。











「つかおい、セシル。この時点で氷海の烈に対する恋心気付いてたんかい。」
「ええ。氷海ったら分かりやすいので。」

昴の問いかけに答えつつもクスクスと笑うセシルに、氷海は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「ですが、その好意を向けている殿方は思いっきり鈍感であんな事があるまでまったく気付かないと来たものですから、思わずわたくしも言ってしまおうかと何度考えた事か…。」
「悪かったな鈍感で!!」

呆れるセシルに、烈は思わず怒鳴り返した。

「…鈍感なのも悪いですが…烈さんの場合は、鈍感の他にもまだ何か…理由があるのですよね?」
「…。」

自分の過去の事を言っているのか、そう思った烈だが、それ以上は何も言わなかった。

「…。」

黒も、烈の過去を知らされた理乃も、記憶の共有をされた紅も、烈の過去を間接的に知っている昴と風雅も、何も言わなかった。

「…やっぱり氷海ちゃんも思い浮かべたんだね、雪花ちゃんの事。」
「ええ。何故かしらね。その後…凄く、元気が出てきた気がするの。雪花もあんな苦しい事を乗り越えて帰ってきた。私にもきっとそれが出来る。そう思ったのかしらね…。」

氷海はポツリと呟いた。

「…当時の事は俺らにもわからねぇよ。けど、こうして無事に帰ってきたのは…何だかんだで、帰りたいって思っていたからなんじゃないのか? それはさておき、続きを見ようぜ。」

昴はまたも、創世ノートのページをめくった。







私—いったん区切ります。
昴「感想OKです。では、どうぞ。明日はつぎドカ!メンバーとジョーカーの対決をやっていくぞ。」