二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 揺蕩いから、覚醒めの時へ その一 ( No.485 )
- 日時: 2015/01/16 23:13
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j4pb2Tbk)
ゆらゆらと揺蕩う体。まるで海の上に寝そべっているかのように、心地よい感覚が、パステルくんを包んでいた。
(…ボク…また、負けちゃったんだ…。)
立ち上がろうにも、身体中が痛い。それに、同じ相手に二度ならず三度も負けて、パステルくんは自信を失っていた。
(ワンダークロックを…守らなきゃいけないのに…。時間が、滅茶苦茶になったら…また、あの人達が悲しむのに…!)
パステルくんは悔しそうな表情を浮かべ、その小さな手を握りしめる。目には、溢れんばかりの涙が溜められ、零れ落ちる。
(悔しいよ…! あの人達は大変な目に遭って帰ってきたばかりなのに…また、また…!)
脳裏に何度も過るのは、ついこの間の出来事。ようやく戻った笑顔の、数週間前。
(あんなみんな…見たくないのに…見たくないのに! でも…ボクは、何も出来ない…! 悔しい…悔しいよっ!)
再びその笑顔を消さない為にも、立ち上がらなければならない。だが、体が言う事を聞かなかった。
悔しさに涙を流していると、ふと、波のような揺れが体を揺らす。その揺れが来た方向を見ると、そこには、黒いローブを着て僅かに浮遊している誰かがいた。
その姿を、パステルくんは知っていた。知っていたが故に、驚いて飛び起き、涙を拭いた。
「目覚めたか、小さき鼠よ。」
「だ、誰!? もしかして…番人さん!?」
頷く番人の表情は見えない。正直、誰かは分からなかった。
「こ、ここはどこなの!? 何で番人さんがここにいるの!?」
「ここは、貴殿の意識と無意識の狭間…。夢の中だ。故に、貴殿は今、有り得ぬ行為をしたではないか…。」
「あっ…!」
番人の言葉に、パステルくんははっとする。
確かに今、自分の言葉で、目の前の人物と対話していた。
自分の言葉は、ジョーカーに奪われた筈なのに。
「じゃあ、本当にここは夢の中なの?」
「そうだ。そして、我がここにいる理由は今、気にする事はない…。」
「…あれー?」
首を傾げながら番人を見るパステルくん。その目は疑り深く、番人を射抜いていた。
「…如何した?」
「番人さん、話し方、変じゃない?」
「! …気のせいだ…。」
そう、番人が答えるも、パステルくんの眼差しは変わらぬまま。寧ろ、更に疑いの色が強くなった気がする。
「…あ、頭の上に虫さんが…。」
本当は虫などいないのだが、パステルくんは相手の化けの皮を剥がす為に嘘をついた。
「え、嘘!? いやーっ! とってとって! どっか行ってーっ!」
動揺しているのか、機械の音声ではなく、女性の声が聞こえた。
- 揺蕩いから、覚醒めの時へ その二 ( No.486 )
- 日時: 2015/01/16 23:18
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: j4pb2Tbk)
そしていない虫を振り払うかの如く、フードを取る。そこには、眼鏡をかけ、髪を左サイドに緩く縛った女性がいた。
「冗談だよー。やっぱり、昴さんだったんだ!」
「…ったく、折角上手く騙せるかと思ったのによ…。見破んじゃねぇよ、パステルくん。」
「ごめんねー。でも、何であんな格好をしてたの?」
首をこてんと傾げながら聞くパステルくん。女性…昴は、その姿にキュンとなるも、平常を保とうと努めていた。
「そのまま干渉するのも味気ないしな。それに、俺は今回、お前達を信じて干渉する気はなかったし。けど、そうも言ってられない状況だから、こうして変装してたって訳だ。」
その説明に納得してくれたパステルくんは、にこりと笑ってもう一度昴を見た。
「だから、イメチェンしたんだね! 眼鏡の昴さんも可愛いよ!」
「なっ…!」
突然誉められ、昴の顔が赤くなる。だがすぐに、平静を取り戻し、パステルくんをまっすぐに見つめた。
「俺の事は別にいいだろ。」
「えへへ。…ところで、どうしてボクの夢に出て来たの? …勝手に病院抜け出したから、連れ戻しに来たの…?」
「…いや。」
パステルくんの不安そうな表情を見て、昴は緩く首を横に振る。
「どうせジョーカーって奴をぶっ飛ばさなきゃ帰らないって予測ついてたからな。」
「うん…。ワンダークロックはタイムワープの柱。それが壊れたら、時を越えられなくなる。でも、それだけじゃないんだ!」
真剣なパステルくんの表情に、昴の顔も一層険しい物になる。
「どういう事だ?」
「タイムワープの柱であると同時に、時間も司っているの。そのワンダークロックが壊れたら、安定した時間が流れなくなっちゃう! 時間が滅茶苦茶になっちゃうんだ!」
時間の流れを管理する巨大時計。それが壊れたら、どう考えてもいい方向に向かないのは間違いなかった。
ワンダークロックのもう一つの機能を聞いた後、昴は腕を組んで考え込んだ。
「それは、厄介だな…。ジョーカーに諦めて貰えば、何とかなるか…。」
時間の流れが滅茶苦茶になったら、いくら自分でも直す事ができるかどうか、不安だった。
恐らく、ワンダークロックを直せば再び正常な流れを取り戻すだろうが、ジョーカーがそれを許さないだろう。ならば、ここでジョーカーに諦めてもらう他ない。
その考えに至った昴だが、それとは別件でどうしても許せない事が一つ。
「けどさ、何で病院にいた時、その事を話して俺やMZDを頼らなかったんだ?」
この問題は、自分やMZDにも十分関わりのある問題だ。ならば、話して助力を得てもいいのではないか。パステルくんだけが戦わずともいいのではないか。そう思った昴は、パステルくんにそう質問した。
昴に問われたパステルくんは、申し訳なさそうに俯いてしまう。
「だ、だって…この間の事件からまだ日が浅かったし…傷付けたく、なかったから…。もう、これ以上…あんな傷付いた姿、見たくなかったから…。」
彼女達にこれ以上の苦労は、かけさせたくない。この世界にいる人達ならば、誰もが思う事。パステルくんも勿論、その一匹だ。それに、時間が滅茶苦茶になってしまう事実を話して、皆を不安にさせたくなかった。
だから、誰にも頼らず、自分が何とかしなければ。その気持ちが強くて、誰にも頼れなかった。
「…その気持ちは嬉しいよ。でもそのせいで…誰にも言わなかったせいで、烈達が勝手に着いて行って、お前の為に傷付いた。それは分かっているな?」
「うん…。ごめんなさい…。」
パステルくんは反省する。烈達につけられていた事を知らずに、巻き込んでしまった事を。傷付けてしまった事を。
- 揺蕩いから、覚醒めの時へ その三 ( No.487 )
- 日時: 2015/07/13 19:25
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: /48JlrDe)
十分反省しているパステルくんに、昴は更に投げ掛ける。
「…パステルくん。ワンダークロックの針が直ったのは知っているな。」
「うん。氷海達がやったんだ。そう思ったよ。だからボク、氷海達の思いを無駄にしない為に、ジョーカーにまた挑んだけど…。」
自分が一撃を与えられずに、謎の力の一撃で、決着をつけられてしまった。
落ち込むパステルくんを見てから、昴は続ける。
「ジョーカーの配下を打ち破り、針を直した烈達が次に向かうとしたら…どこだ?」
「! あっ…!」
そんなの簡単だ、と言わんばかりに、答えはすぐに思い至る。
氷海達は、自分の助けとなる為にこの危険な場所にやって来た。ならば、針を直してそのまま帰る筈などない。
恐らく全員合流し、そして…ジョーカーの元へ向かったと考える以外、ない。
「昴さん、氷海達は…!」
「…ジョーカーと対峙して…圧倒的な力の差に、全員立ち上がる事が出来ないくらいに傷付いた。」
「そんな!」
結果的に巻き込んだ挙句、戦う事が出来ない程までに傷付けてしまった。
昴は少し俯き、溜息を漏らす。
「…このままじゃ、以前のあの子達とは違って、戻って来れなくなる…!」
そしてぽつりと呟く。誰にも聞こえないくらいの、小さな声で。
「…!」
昴の言葉が少し聞こえたのか、パステルくんは拳を握った。
「ボク、行かないと! これ以上、昴さんを…みんなを悲しませたくなんかない!」
力強いパステルくんの言葉。
昴は顔を上げ、その目を見る。力強く揺らめく、その決意ある瞳を。
「…二度…いや、三度も負けているのにか?」
「何回負けたかなんて、関係ないよ! ボクは、諦めたくなんかない!」
「…。」
しばらく、見つめ合い、昴は一つ、頷いた。
「いい目してんな。これなら、大丈夫だろうな。」
「昴さん…?」
昴は笑顔を見せ、パステルくんを見た。憂いなどない、飛び切りの笑顔で。
「強い心を持つお前なら、俺のちょっとしたプレゼント、役立てくれるだろ。」
「プレゼント? なになにー?」
パステルくんは興味津々に目をキラキラさせながら聞く。それに昴は笑顔を崩さず、人差し指を立てた。
「後のお楽しみ。だが、この状況を打破するには、もってこいかな。」
そう語った昴の背後から、光が溢れ出す。パステルくんはその目映さに思わず目を覆った。
「さぁ、パステルくん。闇に揺蕩(たゆた)う時間は終わりだ。お前の覚醒(めざ)めを待っている奴等がいる。己が信ずる道を駆け抜けたいなら…その内に眠る己が本能を、呼び覚ませ。」
「う、うん! 何だかよく分かんないけど、行ってくるー!」
パステルくんは光へと向かい、駆け出していった。
- 揺蕩いから、覚醒めの時へ その四 ( No.488 )
- 日時: 2015/01/16 23:38
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: IqVXZA8s)
「ぼ…ぼにゅ…?」
パステルくんはゆっくりと目を開ける。
辺りの景色は代わり、青と黒一色で、何があるのかよく分からない。ただ、そこには昴がいないのは分かる。
(やっぱり、さっきのは、夢…? あっ…!)
ふと、自分の服に違和感を感じ、見てみる。
白いスーツに、白い片翼。勿論、見覚えがあった。
自分とスミス氏が走り抜いた、あの苦しいマラソン。その際に着ていた…。
(ヴァリス君の服だ…!)
長い事、リフレクにいた男…ヴァリス・ネリアの衣装だった。
(昴さんのプレゼントって、これ…?)
他に何も見当たらない事から、恐らくそうであろうとは思う。だが、いまいち実感が湧かない。
この服が、どう現状を打破してくれるのか。
(確か最後に…『己が本能を、呼び覚ませ。』って言って…えっ!?)
夢の中にいた昴の言葉を思い出した瞬間、自分の胸が熱くなるのを感じた。
同時に、パステルくんの左目が青く光り、力が沸いてくるのを実感する。
(力が、沸いてくる…。よくわかんないけど、行ける気がする!)
パステルくんはまるで知っていたかのようにふわりと宙を舞い上がる。
そして、すぐにジョーカーの待つ場所に向かって行った。
(待ってて、風雅、鈴花、黒、紅、烈、氷海! 今、今行くから!)
早く、早く飛んでいく。
自分を心配してきてくれた仲間達の元へ。まるで神憑りな早さで、早く、早く…。
■
「あの時聞くのを忘れたけど…このプレゼントって、時間制限付だったの?」
「あ、ああ、まぁ、そんなとこ。」
昴は少し濁すようにそう言った。
実のところ、パステルくんに干渉したのは彼女ではないので、知らないのだ。
「何か、台詞が一部他人事のように言ってる所もあるけど…。」
「気のせいだよ。」
一瞬、心臓が早鐘を打つも、そう言っておく事にした。
「ほら、次行こうぜ。」
話をはぐらかすように、昴は次なるページをめくった…。
■
私—今日はここまで! 明日は最終決戦と、お待ちかね…あのシーンです。
昴「感想あればどうぞ。」