二次創作小説(映像)※倉庫ログ

激突! パステルくんVSジョーカー その一 ( No.491 )
日時: 2015/01/17 20:46
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

「…。」

ワンダークロック前、風雅は辺りの様子を伺っていた。

(隙あらば攻撃しようと思うけど…烈達が気絶している以上、迂闊な事ができない…。)

何とか隙を見つけて、一撃かましてやろうと考えるが、上空にフランシスの刃があり、烈達が気絶している以上、難しい。
何も出来ない自分に、悔しくて思わず拳を握りしめる。
だが、その目から諦めの色は見えない。

「…そんな状況でも…諦めないの…?」
「えっ…?」

じっと、自分を見るリリィに気が付いた風雅は、思わずそちらを見る。
暫く、見ていたかと思うと、急ににこりと笑った。

「…やっぱり、面白い。」
「リリィ、何話してるんだよ!」

風雅と会話している事がバレたらしく、ローズがプンプンとふくれ面を浮かべながら怒る。

「…内緒…。ただ、面白いだけ。」
「ワケわかんないよー! もー、リリィの行動は予測しづらいんだから!」
「…。」

ローズの言葉に、リリィは黙る。どうやら興味を失ってしまったらしい。

「…何か、話してよ。」
「…。」

ふい、とそっぽを向くリリィ。どうやら、会話は終わりのようだ。

「貴方達! 話をしてないで辺りを警戒し…! 危ない!」

前方から何かが接近してくるのが見えたセシルは、ローズ達に注意を促す。
すると、青い光が集まり、矢のようになった物が飛んできて、風雅を縛り付けていた刃と、烈達の上空で待機していた刃が貫かれたかと思うと、粉々に砕け散った。

「なっ…!?」

突然の攻撃に、フランシスは動揺を隠せずに辺りを見回す。

「…また打ち倒されに来たか、小鼠よ。」

ワンダークロックから視線をそらし、風雅達のいる場所を見るジョーカー。
ふわりと、白い羽が舞い落ち、羽と共に何かが降りてくる。全員、その降りてきたものに注目した。
そこにいたのは、白いスーツを着て白い片翼を生やし、包帯が巻かれている見覚えのある丸い耳を持つ鼠…パステルくんだった。

「ぱ、パステルくん!」
「ぼにゅっ!」

風雅はその姿に安堵し、同時に体から力が抜けるのを感じた。
パステルくんもまた、風雅の無事を喜んでいるようだ。が、すぐに氷海達に視線を移し、心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫。みんなは気を失ってるだけ…あっ…!」

ふと、呻き声が聞こえた気がして、風雅は烈達を見る。
すると、ゆっくりと起き上がる一同の姿が見え、風雅は思わず駆け寄る。

「み、みんなぁっ!」
「風雅、無事だあぎゃあっ!」

嬉しさのあまり、風雅は烈に飛び付く。
…くどいようだが、烈の左手は折れている。それを忘れているのだろうか。

「ぐっ…! ぐおぉ…!」
「あ、ご、ごめん…忘れてた…。」

痛みに呻いている烈と心配する風雅の横で、パステルくんは氷海に飛び付いていた。

「ぼにゅーっ!」
「パステルくん! 良かったわ! 無事だったのね! でもその格好…?」
「ぼにゅっ!」
『神に貰った…?(今回、神は干渉するつもりはないと言っていた筈なのに…。)』

昴が言っていた事と目の前の事実が全く食い違う事に、紅は首を傾げた。

「ぼにゅぼにゅっ!」
『…!? い、イメチェン!? 眼鏡にサイドテール!? 神らしくもな…!(待て。…眼鏡…? りせから聞いた特徴と似ているが…まさか!)』

紅は何かに気がついたが、すぐに沈黙する。
もし彼が知っている存在ならば、これから先は他言無用だからだ。

激突! パステルくんVSジョーカー その二 ( No.492 )
日時: 2015/01/17 20:52
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

「…束の間の再会は終わったか?」
「…!」

ジョーカーの言葉に、烈達は身構える。同時に、セシル達も構える。
が、そんな烈達を制したのは、パステルくんだった。

「ぱ、パステルくん!?」
「ぼにゅっ!」
『…! 一人で戦うと!? 無茶だ!』

紅が訳したパステルくんの言葉に、全員驚いた。

「なっ、何でなの!? パステルくん!」
「ぼにゅっ!」
『…これ以上、皆を傷付けたくないそうだ。』
「! …。」

パステルくんの優しい思いに、烈達は二の句が継げない。
そしてパステルくんはジョーカー達の方を見た。

「ぼにゅぼにゅっ!」
「…何て言っているんだ? パステルくん。」
『…ジョーカーとの一対一の勝負を望んでいるようだ。…これ以上傷つけたくないのは…あの者達に対しても同じだから、だそうだ。そしてジョーカー。お前も、彼等が傷つくのを望んでいない。そうだろう?』
「…。」

ジョーカーは黙り込んだかと思うと…頷いた。

「ジョーカー様!?」
「小鼠の言う通りだ…。我とて、お前達が傷付くのは、もう見たくない…。」
「…。」

リリィは何を考えたのか、ふわりと浮き、ワンダークロックの針の元へと向かう。

「…? リリィ、何を…!?」

そして、持っていたオレンジ色の玉をそっとはめた。すると、息を吹き返したかのように、針は再び時を刻む。
突然の事に、セシルとフランシスは動揺する。

「リリィ! 何をしてっ…!」
「私は、戦えない。…戦うより…見ていく方が、面白いから…。」

そう言った後、リリィは烈の側に寄った。
そして、持っていた烈のマフラーでその折れた腕の応急手当をした。

「お前…。」
「私は…貴方に、興味を持った。戦って傷付けるより…側で、見ていたい。その方が、面白そう。」
「!?」

リリィの一言に、ジョーカーやセシル達は、驚きを隠せない。

「…何事にも興味を示さぬお前が、一人の人間に興味を持つとは。珍しい事もあるものだ。」

フランシスはそう言いながらリリィを見る。
リリィはただ、烈の側でそっぽを向くだけだった。

「…。」

そんなフランシス達の横で、ローズはじっと、鈴花のマフラーを見ながら、考え込んでいた。

「…ローズ…迷うなら、動いた方がいい…。」
「…!」

迷いを見透かすようなリリィの言葉に、ローズは鈴花のマフラーを握り締めながら、ワンダークロックの針の前にやってきた。

「ローズ!?」
「…ごめん、セシル、フランシス、ジョーカー様…。ボク、分かんないんだ…。」

そしてローズはピンク色の玉を取り出し、針に取り付けた。針は生気を取り戻したかのように、再びカチリ、カチリと時を刻み始めた。

「ローズ…!」
「人間に、あんなに優しくされたの、初めてで…。その、ジョーカー様の役に立ちたいけど、これ以上、あいつを傷つけるのも、嫌だって思う…。」

ローズはそのまま鈴花の元まで飛んできて、彼女にマフラーを差し出した。

「ローズ…。」
「勘違いするなよ? お前だけは傷付けたくない。そう思うだけだから。…これ、ありがと…。その…暖かかったぞ。」
「えへへ、どういたしまして!」

照れ臭そうにお礼を言うローズに、鈴花は満面の笑みで返す。

激突! パステルくんVSジョーカー その三 ( No.493 )
日時: 2015/01/17 20:58
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

「…これでローズも不戦敗か…。」

フランシスは苦々しげにローズとリリィを見た。まさかこうして裏切られるとは思わなかったのだ。

「…フランシス、セシル。お前達は下がれ。」
「えっ!? じ、ジョーカー様!?」
「本気で一人で戦うおつもりですか!?」

心配するセシルとフランシスを余所に、ジョーカーは一人前へと出た。

「この、小鼠から放たれる、先程とは違う、強い力…。その服が影響しているのか?」
「ぼにゅ?」

ジョーカーの問いに、パステルくんは首を傾げるだけ。どうやらそれはパステルくん自身にも分からないようだ。

「…まぁいい。再び叩き潰すまでだ!」

そう言ってジョーカーはパステルくんに向かって突っ込んでいった。

「ぼにゅっ!」

パステルくんは避けようとせず、目の前に赤く輝く光を生み出した。

(何をする気だ…!?)
「ぼっ、にゅーっ!」

そしてその光を、ジョーカー目掛けて弾いたのだ。
カァン! と、いい音を鳴らしながら、ジョーカーへと一直線に飛んでいく光。その光は更なる光を纏って加速し、ジョーカーに直撃した。

「ぐあっ…!」

突然の攻撃に避けきれず、当たった腹部を押さえる。どうやら効いているようだ。

「すげぇ…!」
「あんな技、初めて見るわ…! あの服の影響なの…!?」

長い時間一緒にいる氷海でさえ初めて見るパステルくんの技に、烈達は感嘆の息を漏らすしか出来ない。

「ぼにゅっ!」

先程同様に、赤い光を生み出すパステルくん。そしてまた、光を弾いた。

「同じ手は通用せんぞ!」

しかし、ジョーカーは立ち止まり、ローブの下で腕を振るった。
すると、見えない力が光の色を青く変え、一直線にパステルくん目掛けて飛んでいく。

「!? ぼにゃあっ!」
「パステルくん!」

まさかの反撃に、パステルくんは反応できずに直撃を食らう。
烈達が心配するが、パステルくんは服についた埃を払い、にこりと笑って手を振った。どうやら大丈夫そうだ。
パステルくんは再びジョーカーに向かいつつ、小さな拳を握った。

(凄い…。あの時は…最初に対峙した時も、今までも、全然ダメージを与えられなかったのに…。)

そして、スッ、と右に避ける。

「何っ!?」

同時にジョーカーは驚く。
パステルくんがいた場所に、見えない力の塊を落とした筈なのだが、それを簡単に避けられた事に驚いているようだ。

(ダメージを与えたばかりか…ジョーカーの力まで見える! 凄い、凄いよ昴さん!)

パステルくんが見たジョーカーの力。それはまるで、徳に背き、望みを絶たれ、それを嘆く怨念の塊のようなもの。
そのあまりにも、見ているだけ悲しくなる力に、パステルくんは泣きそうになるも、ぐっと、溢れ出そうな涙を抑え込んだ。

「くっ…!」

ジョーカーはがむしゃらに力を放つも、パステルくんはまるで攻撃が予測出来るかのように、すいすいと避けていく。

(フン、やるな、小鼠よ。だが、これはどうだ!)

このままでは避けられ続けるだけだと気付いたジョーカーは、力の塊を一箇所に仕掛ける。そして、次々と力を放ち、パステルくんは避け続ける。…力の塊がある場所に向かって。

(…! しまった!)
「かかったな。」

パステルくんが気付いた時には、既に力の塊が爆発していた。

「ぼにゅっ…!」

何とか体を抱えて防ぐも、その衝撃で体が吹き飛ばされてしまい、そのまま地面に叩きつけられた。

「…ぼ、にゅ…!」

ふらふらな体で立ち上がるパステルくん。だが、その目の闘志は消えていない。

「まだ、抗うか…。」
「ぼにゅっ、ぼにゅぼにゅっ!!」
「なっ…!?」
『…!? 時間が滅茶苦茶に…!?』
(成程。その事情ならば、彼女が干渉する訳だ。…いや、知らなくてもこの状況ならば干渉するか…。)

パステルくんがジョーカーに何かを訴えている事を聞き取った黒がジョーカーと共に驚き、紅はその黒の横で何故か納得を見せた。

「紅、パステルくんは何て?」
『あのワンダークロックについてだ。パステルくんはあの時計を修復したから、その機能を大体把握していたのだろう。』

紅はオレンジとピンクの針が時を刻む時計を見つめた。

『先程ジョーカーから説明があったように、あのワンダークロックはタイムワープの柱として存在する。だが、それと同時に、全ての世界に流れる、過去、現在、未来…全ての時間を司る機能を持っている。…これが壊れた時、どうなるかはお前達でも予測ができるだろう。』
「…あっ…!」

確かに、完全にその光景が予測出来る訳ではないが、嫌な考えしか過らないのは同じだった。
黒の訳したように、時間が滅茶苦茶になる。それがよい結果を招くとは到底思えない。

「でもさ、紅。前に、このワンダークロックが壊れたんだよね? その時は大丈夫だったのかな?」

鈴花が首を傾げながら聞くと、紅は頷く。

『恐らく、パステルくんがすぐに修復したので、大した影響はなかったのだろう。(…烈達が戦っている間に壊れたと考えると…その時はまだ、この世界は生まれていなかったからな。創造神も、彼女に創世ノートを渡していなかったはずだ。)』

全ては、この世界が生まれる前に起こった、いや、起こっていた記憶の中での出来事。実際に起こった記憶もないのだが、それを知る紅はこれ以上話す事はしなかった。

激突! パステルくんVSジョーカー その四 ( No.494 )
日時: 2015/01/17 21:03
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

「…。」

ジョーカーは黙って、深く頭を下げていた。ワンダークロックの機能を知って、動揺しているのだろう。
それはセシル達も同じで、驚きを隠せずに狼狽えていた。

「…そ、そんな…。じゃあ、ジョーカー様がしようとしていた事って、時間を滅茶苦茶に…!?」
「…ううん、ジョーカー様も、知らなかった。…知っていたら、起こしてない。」

鈴花の後ろで狼狽えているローズだったが、リリィがきっぱりと答える。

「…! そ、そうだよな…。」

その、確固たるリリィの姿を見て、ローズも落ち着いたようだ。
やはり彼らは本当に知らなかったようだ。ワンダークロックを壊す、その代償を。

「…小鼠…パステルくん、と言ったか。」
「ぼにゅ?」

不意に、ジョーカーは顔を上げ、パステルくんを見据える。その瞳には、迷いが映っていた。

「お前の話が本当なら…ここで止めてくれた事、感謝する。だが…我は、それでも…このワンダークロックは必要のないものだと思っている。」
「…。」

パステルくんはジョーカーの言葉を、黙って聞く。

「これがあるから、タイムワープが容易にできる。…タイムワープを使い、過去へと戻った存在が、過去を意のままに変えようとしたら…誰も望まぬ今に変えられたら…。」
「…そうか…。それが、お前達の本当の目的だったんだな。自分の意のままに過去を改変させない為に、過去を変える要因となる未来を知らせない為に、そのワンダークロックを壊そうとした。ただ、それだけだったんだな。」

今まで黙って聞いていた烈の問いに、ジョーカーは肯定も否定もせずに黙り込んだ。

「…起こらなかった方がよかった事、沢山あるよ。つい最近も、そう思う事、あった。」

烈の横で、鈴花が寂しそうに呟いた。恐らく、その頭の中には、数日前までの昴達が過っているのだろう。

「もし…もし、あの時、聖域にいたら…。昴さん達を逃がす事ができたら…。そんな風に、今でも時々考える。そうすれば、みんなはあんなに傷ついてしまう事はなかったんじゃないかって。今まで通り、普通に過ごせたんじゃないかって。」
「鈴花…。」
『…そうだな。…我も、あんな神や皆を見るのは初めてで…正直、紅とも目を合わせたくなかったくらいだ。…見ていると、こちらまで悲しくなりそうで…。パステルくんも、雪花を見ているのが辛い、そう零した事があったな。』
「ぼにゅ…。」

黒の言葉に頷くパステルくん。それをきっかけに思い出したのか、風雅も烈も沈み込んでしまった。

「…お前達の大切な存在の為に、過去を変えたいと思わないのか…?」
「勿論、思」
『我は思ってほしくはないな。』

だが、そんな一同を、紅はばっさりと切り捨てた。
事件の当事者である紅がまさかそんな事を言うとは思っておらず、烈達は思わず彼を見た。

「紅! 何でっ…!?」
『…確かに、あの事件があったせいで、鏡達は傷付き、神も癒えぬ心の傷を負った。しかし、あの事件があったお陰で、得るものがあったのも事実だからな。』

スマブラ世界での出来事は、何も不幸せな事ばかりではない。楽しい事もあった。新しい仲間もできた。
それを消したいなど、紅には思えなかったのだ。

『お前達だって、あの事件がきっかけで、強くなろうと、強くならねば駄目だと気が付き、暇さえあれば皆と手合わせをしていたのだろう?』
「そ、そうだけど…。」
『あの出来事が起こらなければどうなっていたか、我にも分からぬ。だが、あの出来事が起こらなければ、我はクッパ殿と知り合っておらぬし、ロボット殿とも出会ってなかっただろう。お前達だって、ここでこうしてあの者達と戦ったにも拘らず生きているのも、強くなりたい、そう思い、鍛えたからだと思うがな。』
「うっ…。」

あっさりと言う紅に、烈達は何も言えなかった。確かに、ここまで無事でいられたのは恐らく、自分達が強くなりたいと願い、必死に己を鍛えてきたからであり、今まで通りの生活を過ごしていたのならば、道中でやられていただろう。

(…大切な者が傷ついても、それを糧とし、沢山の幸せを見つけ、今を生きる…。あの者達のような思いが、全ての者達に抱かれていればよかったのだがな…。)

ジョーカーは一度目を伏せ、深く頭を下げた。
その表情は、どこか穏やかな気がした…。

激突! パステルくんVSジョーカー その五 ( No.495 )
日時: 2015/01/17 21:09
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

誰もが、このまま和解へと進む。そう思った。
かと思いきや、ジョーカーは戦いへと引き戻す言葉を放つ。

「聞くに値せぬ戯言はやめよ。」
「!?」

冷たいジョーカーの言葉に、パステルくんは驚いた。だが、その瞳に映る迷いの色が消えていない事に気がつき、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

「お前達がどう言おうと、どう思おうと、我はこのワンダークロックを破壊する。小鼠が真を述べている証拠もないのでな。」
「パステルくんが嘘をついているって言うの!?」
「確かめる術はこのワンダークロックを破壊しない限りはないという事だ。」

尚も続く、冷たいジョーカーの言葉。

「…ぼにゅっ!」

パステルくんは何を思ったか、再び赤い光を生み出し、ジョーカー目掛けて弾いた。

「その攻撃は既に見切って…!?」

ジョーカーは先程同様弾き返そうとしたが、同じ速度の光が三つ、連なって時間差で飛んできている事に気がつく。

(これを弾く時のジョーカーの力は大振りだ。これなら捌ききれないよね!)
(あの小鼠、我の力を見切って…! くっ、これでは全て弾き返せぬ! 弾けても、一撃のみ…!)

自身の力は強大な物程、どうしても大振りとなってしまう。しかし、この力は大振りな力を使わないと跳ね返せない。それに気付いているからこそ、全てを捌ききれないと確信するジョーカーは、一撃目を何とか跳ね返し、二撃目を別の力で消滅させようとしたが、既に目前に迫っていた。

「くっ! ぐあっ!」

目の前に来た光をガードして防ごうとするも、体勢を整える前に光が到達する方が早く、ジョーカーの体は光に直撃し、そのまま地面に吹き飛ばされ、体を強く打ってしまう。

「ジョーカー様!」
「! 来るな! お前達!」

心配して駆け寄ろうとしたセシルとフランシスを制し、ジョーカーは再び浮き上がる。

「で、ですが…!」
「そのお怪我では…!」
「掠り傷だ。心配ない。」

ジョーカーは強がり、心配させないように言う。本当は大きなダメージを負っているのに。
だが、ここでセシル達を戦わせたくはない。

(これ以上、我が子が傷つく姿など、見たくない…!)

血の繋がりはないが、自分の子供同然に思っている、子供達だからこそ…父親として、守りたいと思っていた。











その後も、光を飛ばしあったり、力でねじ伏せあったりと、攻防が続いた。

「はぁ、はぁ…。」
「ぼ、にゅ…!」

いつまでその攻防が続いていたのか分からないくらい長い気もしたし、すぐに終わった気もした。
いつしかジョーカーもパステルくんも、満身創痍となっていた。互いに後一撃、後一撃叩き込めば、それで決着がつきそうなくらい。

「くっ…!(恐らく、これが最後の一撃…!)」

ジョーカーは力を練り上げて作った見えない剣を構えた。

「ぼにゅっ!(ここまできたら、もう気合だ…!)」

それに対し、パステルくんもスパナを構える。
暫く睨み合った後、同時に地面を蹴る。

「…!」

ジョーカーとパステルくんがぶつかり合い、同時に地面へと降り立つ。
静かな時間が流れる。まるで、静止画を見ているかのような。

激突! パステルくんVSジョーカー その六 ( No.496 )
日時: 2015/01/17 21:15
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

「…見事、だ。」

そんな時間が続いたのち、ジョーカーの体が傾き、そのまま地面へと倒れ込んだ。

「ジョーカー様!」

セシルやフランシス、烈達の側にいたリリィやローズも駆け寄り、ジョーカーを心配した。

「…我が、負けた、か。」

上を見上げながら、ポツリと呟くジョーカー。その眼差しには、迷いの色はない。負けたと言うのに、どこかスッキリとしていた。

「…我はどうしようと構わぬ。だが、セシル達は…我が巻き込んだだけだ。何も、悪くない…。」
「ジョーカー様!?」

自分の身を差し出し、セシル達を不問にするよう頼み込むジョーカー。そんなジョーカーにセシル達は驚きを隠せない。

「…パステルくん。どうするの?」
「ぼにゅっ。」

氷海が問うと、パステルくんは首を横に振る。

『それを決めるのは、自分ではない。神だと言っている。…神の裁量に任せるようだ。』
「神…?」

ジョーカーはセシルの手を借り、痛む体を起こし、紅の言葉に首を傾げた。

『我らの住む世界を創りし創造神だ。何、事情を話せば、悪いようにはせん。』
「ああ、怒ると鬼のように怖いけど、悪いようにはしないと思うぞ。」
(烈、余計な事を言うな。神に殺されても知らぬぞ…?)

紅が何か言いたそうな表情をしているが敢えて無視し、ジョーカーは烈達の姿を見た。
…全員、ボロボロだった。

「…お前達を、そんなに傷付けても、か?」

烈達をこんなに痛めつけ、時間を滅茶苦茶にしようとした張本人を許してくれる神様などいるものか。そう考えたジョーカーは、烈に聞いた。

「んー…わざとじゃないし、大丈夫じゃね?」

だが、烈はそうあっけらかんと言った。他の三人も、否定しなかった。
ジョーカーはそんな烈達の態度を見て、何故だか力が抜けた。

『そうだな。さて、とにかく今は帰ろう。神も首を長くして待ち侘びているだろう。』

一同はとにかく、元来た道を戻ろうと歩を進める。ジョーカー達は抵抗を見せないので、特に縛り付けたりせずに一緒に帰る事になったようだ。

激突! パステルくんVSジョーカー その七 ( No.497 )
日時: 2015/01/17 21:22
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)

そんな雰囲気の中だったのだが、諦めていないのがいた。

「まだだ! まだ俺達が残って」
「見苦しい。」
「ぐはっ!」

一人で戦おうと突っ込んでいこうとするフランシスだったが、リリィはそんなフランシスの上に宝石を落とした。
フランシスは頭を押さえ、蹲った。

「〜〜〜〜っ…! リリィ! 何をす」
「ジョーカー様、いい顔、してる。素直に、負けを認め」
「嫌だ! 俺は一人でも戦」

互いに台詞を遮りながら言うフランシスとリリィ。埒が明かないと判断したのか、リリィはフランシスを宝石の中に閉じ込めた。

「リリィ! 何をする! 出せ! 出さないかーっ!!」
「…うるさい。」

リリィはぎゃんぎゃん騒ぐフランシスに注意するも、聞く耳を持っていないのか、騒ぎ立てるばかり。
流石にイラッと来たのか、リリィは溜息を一つ吐き、烈を見た。

「…えっと、烈、君?」
「おう、何だ?」

突然リリィに名前を呼ばれた烈は軽く驚くも、きちんと答えた。

「…アレ、燃やして。うるさい。」
「…敵に味方を燃やせって頼む奴、初めて見たんだけど…。」

次の瞬間、リリィは躊躇いもなくフランシスを指差しながらそう烈に懇願する。これには烈も苦笑いを浮かべるだけだ。そしてフランシスは、声にならぬ声で何事かを叫んだ後、すぐに黙り込んだ。どうやら本気でリリィが怒っている事をようやく察したらしい。

「ようやく大人しくなった…。うるさかった…。」
「いや、リリィ。この場合、お前が大人しくさせたと言うんだ。…フランシス、気持ちはありがたいが、我らはこの小鼠達に負けた。弱者は勝者に従うべきだ…。」
「ですがっ、神などと得体の知れぬ者にジョーカー様が…!」

自分達の大切なジョーカーが、誰ともわからぬ存在に消滅でもさせられたらと思うと、気が気ではない。だったらここで抵抗し、ジョーカーを守りたい。そうフランシスは考えていた。
そんなフランシスの気持ちがわかったのか、ジョーカーは小さく微笑みながら頷く。

「大丈夫だ。きっと。この者達を見ていると、何となくだが、そう思う。…っと、そうだ。もし仮に我が消失してもいいように、返すべき物は返しておかぬとな。」

ジョーカーはパステルくんに向け、指をパチンと鳴らす。

「…? ジョーカー、何をし…って、あれっ!?」
「パステルくん、言葉がっ…! 言葉が戻ったのね! よかった…!」
「うわーい! やったー! ボクの言葉が戻ったよ! 氷海!」

自分の言葉で再び話す事ができるようになって嬉しいのか、パステルくんは氷海に飛びつき、喜びを露にした。

(あぁ、可愛いわパステルくん可愛いわ! もううちのパステルくんが一番可愛いっ!)
「えへへ〜、くすぐったいよ、氷海〜♪」

嬉しさのあまり、氷海はパステルくんを頬に当て、何度も擦り合わせた。
が、とても息を荒くし、若干恍惚とした表情だったのだ。あまりにも氷海らしからぬので…。

「ひ、氷海…? 何か、怖いよ…?」
「氷海ちゃん、息が荒いよー。氷海ちゃーん、もっしもーし。」

その光景を見ていた風雅は引き、鈴花は流石にまずいと感じたのか、声をかけるも、一切反応しない。

「…烈君が見てるよー。」
「!? えっ、み、見られてる!? 嘘っ!」

仕方がないので、鈴花は手法を変え、そう氷海の耳元で言うと、すぐに顔を赤くさせてパステルくんへの頬ずりをやめた。そして、烈の姿を探す。

「これで、ワンダークロックも元に戻ったんだな。」
「そうだな。」

その当の本人は、セシルとフランシスに預けた玉が再びはめ込まれ、元に戻ったワンダークロックを見ながら、ジョーカーと会話をしていた。どうやら先程の氷海は見ていないようだ。勿論、その事に氷海がホッとしたのは言うまでもない。

「…。」

パステルくんは再び時を刻むようになったワンダークロックを見てから、氷海を見た。

「…ワンダークロックの事も、昴さんと相談しないとね。」
「そうね。…あら? パステルくん、服が…。」
「えっ? あ…。」

氷海に指摘され、パステルくんは自分の服を見る。いつの間にか、ヴァリスの服ではなく、元々着ていた服に戻っていたのだ。

(…時間つきのプレゼントだったのかな?)

考えてもわからない。確かめる術は、昴に聞いてみる事だけ。帰ったら昴に聞いてみよう。そう、パステルくんは考えた。

『するべき事もしたし、まずは帰ろう。』
『そうだな。ふぅ…早く帰って父上殿と晩酌したい…あぎゃっ!』
「店の酒着服すんなよ!」

黒が突然悲鳴を上げる。どうやら烈が殴ったようだ。

『貴様はまず母上殿からこってり絞られろ。それを酒の肴に神と晩酌してやる。』
『分身の癖に本体の扱い酷くないかお前! 今に始まった事ではないが!』
『日頃の行いが悪い貴様が悪い。』

その言葉をきっかけに、鴉二羽の醜い争いが始まったのは言うまでもない。

「…。」
「ジョーカー様?」
「…案外、この者達の語る神という存在も…悪い奴ではない。そんな気がしてならないのだ。…あの者達を見ているとな。」

戦いを終えたが、敵がこうしてまだ目の前にいるにも拘らず、喧嘩を始める鴉達や、再び小鼠に頬ずりをしだす少女とそれを諌める少女と引きつつも眺める少年。そして、そんな光景を目の当たりにして苦笑いを浮かべる少年。不思議と、その姿が滑稽で…どこか、安らげる。そんな気がした。
そんな彼らの培った環境を創った神様。ジョーカーは少し、興味を持った。

(…きっと、大丈夫。そんな気がするな。)

ジョーカーは一つ頷き、セシルを伴って烈達の元へと向かった。











「諦め悪いなフランシス。」

ジョーカー達との対決を振り返り終え、昴は真っ先にそう言った。

「し、仕方ないだろう! あの時は、ジョーカー様が何されるか分からなくて…。」
「まぁ、子として、親を心配するのはいいが…もちっと親の意を組んでやれよ。」
「う、そ、それは…すまない。だが、あの時諦めても何の問題もなかったな。今思えば。」
「そうだな。昴殿はこんなにも優しいしな。」
「え、ジョーカー。優しいじゃなくてやかましいの間違いじゃ」

この後、烈に昴からの拳骨が飛んだのは言うまでもないだろう。

「…。」
「馬鹿は放っておいて、次行くぞ。」

机に突っ伏している烈を無視し、昴は次なるページをめくった。