二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- おかえりの味とただいまの涙 その一 ( No.498 )
- 日時: 2015/01/17 21:31
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
穴を潜り、外へと出ると、まだ、星の輝く夜だった。
だが、東の空はうっすらと明るい。恐らく、夜明けが近いのだろうか。
「俺ら、一晩中こん中にいたのか…。」
『戦いで緊張していたせいか、眠気を感じなかったからな。自覚がないのも当たり前だろう。…む?』
ふと、ザリッ、と言う感じの砂を踏む音が聞こえ、全員、そちらを注目する。
「よー、お帰り、お前ら。」
(おかえり、おかえり)
そこには、MZDと影がいた。さらに後ろには…。
「…。」
黙ったまま腕を組み、烈達を見る昴がいた。
「え、MZD!? 昴さんも!」
「いやー、案外早く帰ってきたな。別次元だし、もっとかかるかと思ったぜ。なぁ、昴。」
「…。」
MZDの問いかけにも反応せず、沈黙を貫く。
(あ、あれ? やっぱり怒ってる…?)
『…神。』
沈黙が怖くて、全員思わず身構える。そんな昴の肩に、紅が舞い降りた。
「事情は後で聞く。…スキルコンバート…。」
(や、ヤバイ!)
誰かのスキルで自分達を攻撃する。絶対ここで公開お仕置きをされる。
全員、それを覚悟して、目を瞑った。
「す、昴さん、待って〜!」
パステルくんは氷海の肩から降り、昴の前にやって来る。
「氷海達は着いて来ちゃっただけなの! 何にも悪くないの! 悪いのは、あの時全部話さなかったボクだけだよ! だから、お仕置きするならボクだけにしてっ!」
「ぱ、パステルくん…!」
必死で氷海達を庇い、自分一人だけに責を負わせようと訴えるパステルくん。
「…誰がお仕置きするっつった?」
昴の目の前に、カードが舞い降りてきた。…女教皇のアルカナが描かれた、一枚のカードが。
「来い、コノハナサクヤ。」
創世ノートをカードを挟むように閉じ、カードを破壊する。すると、昴の後ろに雪子のペルソナ、コノハナサクヤが現れた。
「【メディアラハン】。」
昴の命にコノハナサクヤは一つ頷くと、烈達が光に包まれる。同時に、痛みが引いていくのがわかった。
「こ、これは…!」
「凄い…。」
どうやらジョーカー達にも効果を及ぼしていたようで、初めて見る力に驚いているようだった。
「昴さん…。その、俺達…。」
「事情は後で聞くっつったろ? …全員、聖域に来い。ある程度は紅に聞いておくが、詳しい事情はそこで聞く。そこのちっこい奴等もだ。」
ただ、それだけを言って、昴は紅を伴ってさっさと帰っていった。
「や、やっぱ、これから怒られるのかなぁ…?」
「…あんまりオレも言いたかねぇけど、それだけの事を、お前らはしでかしたんだ。それはわかってるか?」
鈴花の不安そうな言葉に、MZDは先程のおどけた表情から一転、真剣な表情で全員に聞き返す。
「…今回は無事だったけど、もし、昴達よりも酷い事になって、帰って来なかったらどうなってたか分かるだろ?」
「はい…。反省しています…。」
「ごめんなさい…。」
氷海を筆頭に、全員がMZDに謝る。本気で心配をかけさせた事に、申し訳なく思っているようだ。
「オレに謝らなくていいから、昴に謝れ。アイツが一番心配していたんだからな。」
そう言ってから、MZDは東を見た。
いつの間にか、眩い光を称えている。朝が来たのだ。
「…。」
その朝焼けが、今の烈達には眩しかった。何故だか分からない。だが、眩しすぎて、目を細めていた。
「ほら、昴が待ってんぞ。」
(はやく、はやく)
ぼんやりと佇んでいた烈達に、MZDはそう促し、影が急かした。
「っと、そうだった!」
「早く行きましょう!」
「ジョーカー達も着いて来てね。」
「うむ。…もう、逃げも隠れもせぬよ。」
一同はそのまま昴の待つ聖域に向かっていった。
「…待つ方も辛いな、やっぱ。」
(…)
その姿を見送りながら、MZDはポツリと呟き、影が同意する。
「…もう、誰かが消えるのは無しにしたいな。ただ、悲しいだけだしな。…そう考えたからこそ、またあん時みたいに干渉したんだろ? お前は。」
「あー、やっぱバレちゃってたか。」
ふわりと風が舞い、MZDの側に黒いローブを着た何者かが降りてきた。
フードを外すと、そこにはパステルくんの夢に出てきた昴そっくりの人物が…この世界の創造“者”がいた。
「昴に似かよった気配が穴からしてさ。けど、昴はワンダークロックについて相談したくてオレを探しに来てから今まで、ずっと一緒に居たからな。考えられるのは、お前しかいねぇだろ。」
烈達を見送った後、昴がりせを伴いこの場を離れたのは、MZDを呼びに行く為だったようだ。
ワンダークロックについて、MZDと協議する為に。
「…悪いけど、あんまり干渉する気がなかったのも事実だし、今回も正直干渉する気はなかった。でも、ね。…この世界に生きる人達には、笑って過ごしてもらいたいんだ。もう、あの時みたいに悲しむ人達がいるのは、絶対に嫌だったから。」
真剣な表情を浮かべる創造“者”。眼鏡の奥に見える瞳は、どこか射抜かれそうで怖かった。
その表情を見て、MZDはいつものおどけた表情に戻る。
「我儘な神様なこって。」
「あら、神様は総じて我儘なものじゃないのかしら? それに、そんな我儘なら言ってもよくない?」
「ははっ、違ぇねぇ。」
MZDはそう言ってから、再び東の空を見る。創造“者”も、同じように東の空を見た。
朝日は、完全に顔を出していた。
- おかえりの味とただいまの涙 その二 ( No.499 )
- 日時: 2015/01/17 21:38
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
神殿に辿り着いた烈達は、呼び鈴を鳴らす。
『来たか。鍵は開いてるから入ってこい。』
ただそれだけを告げられたので、早速中へと入る。
中は、いい香りが立ち込めていた。昴が鏡達の朝食を作っているのだろうか。
「えっと、昴さ」
「リビングで待ってろ。すぐ出来るから。」
すぐ出来る、の意味は分からなかったが、取り敢えずリビングへと向かう。
「…あっ…!」
そこには、既に料理が並べてあった。
ワカメスープにポテトサラダ。卵焼きにウインナー。朝によく並んでいそうな食事がパステルくんに丁度良いサイズの食器で六つ分。黒用にだろうか、野菜の千切りが盛られた物もある。
そして、四つのお弁当箱。一目見ただけで分かった。これは、自分のお弁当箱だと。
「ほい、出来たぞ。こっちはパステルくん達のな。お前等はそっちの弁当な。」
キッチンの方から出てきた昴が持ってきたもの。それは、小さなおにぎりだった。
「味は梅と塩。梅は種抜きだ。」
「昴さん、どうしてっ…!」
「昨日の夜から、まともに食ってないだろ?」
昴が言うと、誰かの腹の虫が盛大に鳴り響いた。
「…えへへ、お腹空いた…。昴さん、貰うねっ!」
腹の虫を鳴らしたパステルくんはおどけた表情で、おにぎりを手に取った。
「んじゃ、俺は洗濯物を干しに行ってくるから、食ってろ。事情はそれからだ。」
「あっ、昴さ…って、行っちゃった…。」
何故ここに自分達のお弁当箱があるのか問わねばならぬ気がして鈴花は引き留めようとしたが、昴はさっさと庭に向かっていた。
「…お説教、受ける気でいたけど…何だろう。何か、いつも通りだよね…。」
「だな。…食おうぜ。」
「そうね。折角作って貰ったしね。頂きます。」
『いっただっきまーす!』
パステルくんはおにぎりに手をつけ、食べ始める。黒も野菜の千切りに口をつけ、食べ始めた。
そして、烈達もお弁当箱の蓋を開け、食べ始めた。
「あれ? これ…。」
中身の違う品を食べた後、一斉に首を傾げるも、また食べ続ける。
「…。」
その様子を、ジョーカー達は少し呆気に取られながら見ていた。事情も聞かれず、裁きもなく、こうして温かい食事まで用意されるとは思わなくて、驚いているのだ。
「食わねぇのか?」
「い、いや…! ただ、あの神とやらの動向がわからなくて…戸惑ったのだが…。」
「昴さんの動向は、俺達にだってよく分からねぇよ。けど、事情は後でって言ってんだ。早く食わねぇとおにぎりなくなるぞ? パステルくん、結構食うから。」
ばっ、とジョーカー達が見ると、山のように積まれていたおにぎりは既に半分食べられていた。
「おいチビ! ボク達の分まで食べるなー!」
「早い者勝ちだよー!」
そして、パステルくんとローズのおにぎり争奪戦が始まり、ジョーカーがそれを諌める光景が巻き起こった。
- おかえりの味とただいまの涙 その三 ( No.500 )
- 日時: 2015/01/17 21:51
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
「…。」
そんな光景を眺める鈴花。箸を止めず、目の前の美味しそうなご飯を食べ続ける。
(この味…どこだっけ? どこかで、食べた。昴さんの作り方じゃない…。どこで…あっ…!)
食べた事のある味付け。そして、春巻きに口をつけた瞬間、思い出した。
「っ…!」
思い出した瞬間、鈴花の目から溢れんばかりの涙が零れ落ちた。
「…鈴花? ど、どうしたの?」
急に泣き出した鈴花が心配になり、風雅は声をかける。
「…これ…味なの…!」
「えっ?」
「これっ…お父さんが作る味付けなのっ…! それ、思い出したら…涙が、止まらなくてっ…!」
「!?」
それを聞いた他のつぎドカ!メンバーも、思い思いの品を口に含むと、氷海が何かに気がついたのか、口許を覆った。
「この、玉子焼き…! まさか、お父様…!?」
「その玉子焼き、氷海のお父さんの手作りなんだね…。」
「ええ…! でも、何故…!? 凄く、凄く美味しいのっ…! いつもの玉子焼きよりも、凄くっ…!」
ぽろぽろと泣き出す氷海。何の変哲もない、いつも作って貰っている玉子焼き。いや、玉子焼きだけじゃない。この氷海のお弁当箱に入っているもの全て、氷海の父親がよく氷海に作る味付けだった。
いつものお弁当なのに、今食べているこの中身は、とても美味しく感じられた。
「じゃあ、このご飯はやっぱり…母さんが作ったのか…。えへへ…ホントだ。氷海の言う通り、何の変哲もない野菜炒めなのに、いつもより美味しいや…。グスッ…。」
薄々感ずいていた風雅も、目の前のお弁当を見て、溢れ出す涙を堪えきれずに、その瞳から零した。
(…母さんの肉じゃがの味付けだって思ったら、本当に母さんの作った弁当だったのか…。)
一人、涙を堪えながらも食事を続ける烈。泣き出した一同を前にしても、涙を堪える。ここで泣く事はプライドが許さないのか、あるいは違う要因か…。
「いつもよりも美味しいのは、簡単な理由ですわ。」
かたっ、と音がした方を見ると、そこには牡丹がいた。どうやら起きてきたのだろうか、寝癖が少しついている。
「牡丹…。」
「私達も、こちらに再び帰ってこれた日…鈴花の料理を食べて、あの時一緒に食事をしていなかった昴さん以外、全員涙しましたわ。…同じ事を、無意識に考えてね。」
「それって…。」
「…死と隣り合わせの場所から、“帰りたい場所”に帰ってこれた事が嬉しかった。“非日常”から“日常”に帰ってこれた事が嬉しかった。私達にとって、鈴花の料理は“日常”でしたからね。」
“非日常”から“日常”への帰還。
ただ、料理を食べただけ。その何気ない行為だが、その行為は、牡丹達を“非日常”から“日常”へと引き戻すきっかけとなるには十分だった。
「あぁ、これも言わねばなりませんわね。」
牡丹は優しい笑みを湛え、鈴花を背後から抱き締めた。
「…お帰りなさい、鈴花。」
「う…牡丹…! 牡丹っ!」
鈴花は徐に立ち上がり、牡丹を強く抱き締めた。そして、彼女の胸で泣きじゃくる。
「牡丹っ、ごめんっ…! ごめんなさい…!」
ただただ、謝りたかった。普段から憎まれ口を叩いているのに、こうして心配してくれて、受け入れてくれる牡丹を、心配させた事を。
牡丹は何も言わずに、鈴花を撫で続ける。
- おかえりの味とただいまの涙 その四 ( No.501 )
- 日時: 2015/01/17 21:56
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
「あらあら、鈴花ったら。謝らなくてもいいのにね。…私達はこれ以上、心配させたのだから。」
「…!」
クスクスと優雅に笑みを称えながら、雪花もリビングへと入ってきた。
「雪花!」
雪花の姿を見て安心したのか、氷海は彼女に飛び付いた。
飛び付かれた雪花は一瞬だけ驚くも、すぐに笑みを浮かべ、そっと抱き締めてあげた。
「雪花…雪花…う、うぅ…!」
「何も言わないでいいわ。…お帰りなさい、氷海。」
「う、うぅっ…! うっ、ひっぐ…た、だい、ま…! うぅっ…!」
嗚咽のせいで、上手く言えない。だが、きっと、伝わっただろう。ただいま、と。
「…鈴花…氷海…。」
「風雅も泣いちゃえばー? 僕の胸なら空いてるよー?」
「う、うわぁっ! お、驚かさないでよ凪!」
「あははー、ごめんねー。気配隠すの、癖になってー。」
いつの間にか横にいた凪に、風雅は驚いて飛び退く。謝罪する凪だが、いつもの調子で返した為、反省しているのかわからない。
「あ…そうだ…。」
凪の顔を見た瞬間、思い出すのはフランシスに壊された、凪が作ってくれたヨーヨー。戦いの最中の不可抗力とは言え、壊してしまったのは事実なので、謝りたかった。
「凪、その…ヨー之助の事だけど…。」
「ヨー之助がどうかしたのー?」
「…戦ってる最中に…壊しちゃって…。」
「ふーん。そう。」
風雅はその凪の答えを聞いて、思わず俯けていた顔を振り上げた。
「そ、そうって…! 僕は君が作ってくれたヨーヨーを」
「ヨーヨーなら、いつでも作ってあげるよー?」
「いつでもって…! ヨーヨーを壊されて、悲しくないの!?」
「そりゃ悲しいよー?」
でもね、と、凪は笑顔で風雅を見ながら、続ける。
「ヨーヨーは壊れても替えが効くけどー…そのヨーヨーを操る風雅は、替えが効かないでしょー?」
「…! あっ…!」
「ヨーヨーは壊れたのは悲しいけど、それは些細な事ー。だって、風雅が無事に帰ってきたからねー。」
凪はいつもの笑みで、風雅と同じ目線で座る。
「お帰りー、風雅ー。」
「っ…! たっ…ただいま、凪…!」
「わー、涙腺大崩かーい。よしよーし。」
先程よりも大粒の涙を流している風雅を、凪はそっと抱き締め、頭を撫でてあげた。
「…。」
ジョーカーは、泣き続ける三人と、その三人を優しく包み込む分身達を見て、ローブのフードを深く被った。目にはうっすらと、涙が見える。
「…いい奴等じゃん…。」
「ええ…。凄く暖かくて…優しい方達ですわ…。」
ローズもセシルも、そんな彼らを見て、何故か安堵するのを感じていた。
「烈君…この人達は…?」
「ここに住んでる、昴さんの家族みたいなもので…俺達の記憶と力を元に昴さんが生み出してくれた、俺達の、大切な分身だ。」
「神の使い、と言ったところか。」
リリィの疑問に答える烈。その横では、フランシスが何やら考え込んでいた。
「…神は総じて、我儘で自分勝手なのだと思っていたが…これならば、俺達の言い分も聞いてくれるか…? 」
「昴さんはそう言った神様じゃないよ。ちゃんと真摯になって、俺達の話を聞いてくれると思う。」
フランシスにそう答えると、烈は立ち上がった。
「烈君…?」
「ちょっと、トイレ。」
『大か? 小か? どちらにしろ、我慢はよくなぷぎゃっ!』
何か言っていた黒が突然現れた宝石に潰される。
「…汚い。空気読んで。」
…どうやら、リリィが落としたようだ。
烈はそんな光景に乾いた笑いを浮かべると、廊下へと出ていった。
- おかえりの味とただいまの涙 その五 ( No.502 )
- 日時: 2015/01/17 22:02
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
「…っ…!」
廊下へと出た直後、烈の中で堪えていた感情が爆発しかけた。本当は、あの場で泣きたかった。だが、プライドが許さないのと、一人は涙を堪えて、話が出来る人が必要だと考えた烈は、必死で溢れそうな感情を抑え込んだのだ。
「…烈。」
自分の名を呼ぶ声に、烈は顔をあげ、その姿を目に映す。
そこには、鏡がいた。頭に少し寝癖をつけ、いつもの笑顔を浮かべて、自分を見ている。
「鏡…。」
「…あのお弁当ね、最初は、すーさんが作ろうとしたんだって。でもね、きっと自分の料理じゃ、戻ってきたっていう実感が湧かないだろうって思って、やめたんだって。」
「…。」
「…そう考えて、すーさんは…烈達の家に行ったの。りせを神殿に帰した後、MZDと一緒に。」
ワンダークロックの件を相談し、その足で烈達四人の家を周り、お弁当の件を頼んだのだろう。烈達四人を、“日常”へと帰ってきたと、実感させる為に。
「夜中なのにね、烈達の家族、全員承諾してくれたの。理由、わかる?」
「…。」
烈は首を横に振る。それを見た鏡は続ける。
「教える為、だよ。烈達の“日常”を。烈達の“日常”がある場所は…ここだって、教えてあげる為。それから…面と向かっては言えない、“おかえり”を伝える為。」
「っ!」
「大切な家族が作った手作りのお弁当を残さず食べる…。これも、大切な“日常”でしょ?」
「あぁ…! あぁ、そうだな…!」
溢れ出てきた涙を拭いながら、鏡の言葉に答える烈。
鏡はそんな烈を包み込むように、抱き締めた。
「えへへ、また、烈をぎゅーできて、オレ、嬉しいよ。」
「ば、馬鹿野郎…! 恥ずかしいだろ…!」
「いいじゃん、誰も見てないもん。」
烈をぎゅっと包み込み続ける鏡。まるで、烈の涙を隠してあげるように。
「…お帰り、烈兄ちゃん!」
「っ! この、馬鹿弟…! 兄ちゃん、泣かすなっ…!」
「えへへー。」
「笑って、誤魔化すなっ…!」
悪態をつきながらも、泣き続ける烈。
鏡は烈から貰い泣きしながらも、彼の頭を撫で続けた。
- おかえりの味とただいまの涙 その六 ( No.503 )
- 日時: 2015/01/17 22:07
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
四人は一頻り泣いた後、洗濯物を干し終えた昴を迎え、リビングへと再び集まった。
昨日からあまり寝ていない鏡達はもう一度睡眠をとる為、各々部屋に戻ったようだ。
「…まずは、烈、風雅、氷海、鈴花。それから、パステルくん。よく無事に帰ってきてくれた。それと、パステルくん。よかったな、言葉が戻ってきて。」
「昴さん、あの…ごめんなさい…。心配、かけさせてしまって…。」
「お仕置きなら、いくらでも受けるさ。その覚悟はあるから…。」
謝る氷海と、力強い目を浮かべる烈に、昴は軽く笑みを称えた。
「お仕置きはするつもりなんかないよ。」
「で、でも、私達、昴さんに心配させてっ…!」
「心配させたのは俺だって同じさ。あの事件でな。」
昴の言葉に反論を返す鈴花だが、その続けられた言葉で、何も言い返せなくなった。
「俺はただ、お前達が無事に、生きて帰ってきてくれた。それだけで嬉しいよ。」
そう、笑顔で言う昴に、鈴花は再び泣き出し、昴へと飛び付いた。
「う、うぅ…! ごめんなさい…! ごめんなさいっ、昴さん…!」
「謝らなくていい。…謝らないで、鈴花。」
昴は、鈴花が落ち着くまで、その頭を撫で続けてやる。
そして、鈴花が落ち着いたのを見計らい、食後の紅茶を全員に淹れた。
「さて、紅からかいつまんで聞いたが、お前の口からも聞きたい。いいか? ジョーカー、パステルくん。」
「うんっ! あのね…。」
パステルくんは穴の中で起こった出来事を、余す事無く話す。ジョーカーも、ワンダークロックを壊そうとした本当の目的を…タイムワープがもたらす惨事を話すが、ワンダークロックを破壊した後に起こると言う、時間軸の乱れについては知らなかった事は話さなかった。
「…ジョーカー、お前はワンダークロックを壊した時に起こる時間軸の乱れは知らなかったって紅に聞いたが、それは本当か?」
話そうとしなかったジョーカーに、昴は問いただす。これは大事な事だからだ。
「…ああ。タイムワープの柱と言うのは知っていたが、時間を司っているとは…。」
「もし、知っていたら、お前はどうした?」
「…どうも、していなかっただろう。ワンダークロックを破壊する、と言いもしなかった。それどころか、ワンダークロックを…守っていたかもしれん。」
「…やっぱり、いい奴等じゃん。」
ジョーカーの告白を聞いた烈は、ポツリと呟いた。リリィに対して感じていた直感は、当たっていたようだ。
「…ねぇ、昴さん。ワンダークロックはこれからどうするの?」
パステルくんは不安そうに聞いた。また、ワンダークロックを破壊しようとする存在がいるかもしれない。それを危惧しての質問だった。
「MZDと話したんだが…ワンダークロックへの道を、MZDの力で封印しようって事になった。そうすれば、誰も触れられないからさ。」
「…しかし、それではタイムワープを悪用する者が…。」
「させねぇよ。」
昴はまるで、ジョーカーの不安を一蹴するかのように言う。
「残念ながら、俺は時を越えられないけど…MZDがマスターと一緒に何とかするってさ。」
「マスター…? MZDは先程貴殿と一緒にいた者だろうが…。」
聞きなれない名前に、首を傾げるジョーカー。
「名前はマスターハンド。ある世界の、創造の化身…まぁ、神様だ。そんな考えを巡らせる輩を見つけて止めて…俺がお説教する。そういう体制を作っていこうって、MZDと話してた。多分、マスターも承諾してくれるだろう。とにかく、そんな不届き者がいたら、創造神三人でとっちめるから大丈夫だ。」
「そうか…。」
少しだけ、ホッとしたような表情を浮かべるジョーカー。三人の神様が味方についてくれる、それが、心強いのだろう。
- おかえりの味とただいまの涙 その七 ( No.504 )
- 日時: 2015/01/17 22:14
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
「…ジョーカーも安心したところで…これからどうするんだ? お前等は。」
「我等…?」
ジョーカーは考えた。ワンダークロックを破壊する事に必死で、それから先を考えた事がなかったのだ。
「…そうだな。ワンダークロックについても解決したから…住み処にしている場所に帰」
「私、帰らない。」
帰る場所を言おうとしたジョーカーだが、リリィはそれを遮り、きっぱりと言った。
「リリィ!? な、何故…!」
「…烈君に、興味を持った。だから、側で見ていたい。」
「俺んちに住むって事か?」
烈が問うと、リリィは頷いた。
「…烈君の家に、同棲したい。」
「どっ、どどどど同棲いぃぃっ!?」
ジョーカーはリリィの言葉に、驚きを隠せずにあたふたし始める。
「んじゃー、ボクも鈴花んちに同棲してやるよ!」
「なにいぃぃぃっ!?」
リリィに続いて、ローズも同棲発言したものだから、ジョーカーは頭がパニックになり、固まってしまった。
「ローズ、同棲の意味、わかってる…?」
「ううん、全然。でも、一緒に住むって言うのはわかるぞ!」
どうやらリリィが使ったから、ローズも使ったようだ。
未だに固まっているジョーカーを置いて、昴はリリィを呼び寄せた。
「…リリィ、だっけか。わざとか? 今の場合なら同居が正しいと思うが…。」
「わざと。ジョーカー様の困った顔、見てみたかった。」
「悪魔かお前は。」
表情の読めない顔をしてあざといリリィに、昴は思わず言った。
「あらあら。ならば、私は氷海の家に同居させてもらおうかしら。…愛しの烈さんの話も聞きふむぐうっ!」
セシルが変な事を言おうとした事に気がついた氷海は、素早く彼女の口を塞ぐように掴んだ。
「…? 俺がどうかしたか?」
「な、なんでもないのっ! セシル、これからもよろしくねっ!」
「むーっ、むーっ!」
「ひ、氷海、落ち着こう? ねっ?」
バタバタと暴れるセシルを押さえ込みながら、烈に何でもない風に返す氷海。パステルくんはそんな氷海を押さえ、その横では烈と氷海を見て、鈴花は溜息をついた。誰にって? 勿論、鈍感な烈といまいち一歩が踏み出せない氷海に。
「この流れだと、君が僕の家に住みそうだね。」
「フン、いいだろう。俺がお前の家に住んでやる。寝首をかかれないように気を付け」
「フランシスだっけ? 重犯罪はダメだぞ? 俺からお仕置きが行くから。」
明らか犯罪の臭いがするフランシスの言葉に、昴は笑みを浮かべながらノートを手に持ち、皇帝のカードを砕いて完二のペルソナ、タケミカヅチを召喚した。
「ひいぃぃぃっ!?」
「スミマセンデシタ。」
タケミカヅチと昴の威圧が怖かったのか、風雅は烈の影に隠れ、フランシスは土下座をして謝罪をした。それに昴は「よろしい。」とだけ言ってタケミカヅチを消した。
「…そんな感じになったが、お前はどうするんだ? ジョーカー。」
「む、むぅ…。」
ようやく、リリィとローズのショックから立ち直ったジョーカーは、考え込む。流石に自分一人で帰る訳にもいかないだろう。だが、こちらに住むとなれば、ねぐらの確保をどうするか…。
「…ならさ、ここに住むか?」
困り果てているジョーカーに、昴はそう提案した。
「ここに…?」
「ああ。部屋なら沢山あるしさ。」
『これとかな。』
今まで空気だった黒が、ジョーカーの目の前にある物を置いた。
それは、滑車や水飲み場、餌場がついた、ハムスターの檻だった。
これを見た烈は勿論…。
「お前が入れこの馬鹿黒。」
『ぎゃあぁぁぁぁっ! な、何をする烈! 痛い、痛い! 我はこの隙間に入らぬうぅぅっ!』
黒を引っ掴んで無理矢理狭い入口から押し込めました。
「とまぁ、あの馬鹿黒は置いといて…。」
『置いておくな! この鬼女!』
「…。」
それを聞いた昴は一瞬、表情から笑顔が消え失せる。
『…死んだな。あの馬鹿。』
紅は、憐れみの視線を黒に送った。
昴は寸銅を用意し、鍋一杯の水を入れ、火にかける。
「…なぁ、烈。」
「ん?」
「鴉の水炊きって、美味いかな?」
そう言いながら、烈から黒を受け取り、ノートの力で出した紐を黒に巻き付ける。
『ぎゃあぁぁぁぁっ! わ、悪かった! 許してくれえぇぇっ!』
バサバサと暴れる黒。ようやく自分のしでかした事が分かったか…。
勿論これにはその場にいた烈を除いた全員が怯えてしまった。
「で? どうすんだ? ジョーカー。」
「まずはその手に持っている鴉を解放してくれないか?」
未だに暴れる黒に気が散ってしまい、会話が難しいと判断したジョーカーは、昴に黒を解放するよう頼んだ。
昴はジョーカーの願いを聞き、黒を解放する。
「…貴殿がいいのならば…我は、ここに住みたい。構わないか?」
「始めからいいって言ってるんだがな。まぁ、いいか。それじゃ、そう言う事だから、今日はこれで解散。お前らも昨日から戦い続きで疲れただろ?」
全ての話を終えた昴は、四人にそう促した。
「そう言われれば…。」
「安心したら、疲れてきた…。」
「ほらほら、ここで寝ないで家で寝ろ。親とか、心配させてんだから。」
瞼が閉じそうだった氷海と鈴花だったが、昴の言葉を聞いて一気に目が冴えた。風雅と烈も、一気に眠気が吹き飛んだようだ。
「うわぁ…! 母さんに怒られそうだ…!」
「店番、何日やらされるかな…。」
「自業自得だ。腹括れ。ほれ、帰った帰った。俺も紅も昨日から寝てないからさっさと寝たいんだから…。」
「あ、そ、そうだよね。ずっと、待っててくれたんだっけ…。紅は着いて来てくれたし…。」
パステルくんは申し訳無さそうな表情を浮かべ、烈達に向き直った。
「みんな、早く帰ろ? 昴さん、眠そうだよ?」
「帰りたくないけど…帰るか。リリィ、行くぞ。」
「うん。ジョーカー様、また、ね。」
「またね! ジョーカー様!」
「あ、ああ、また。」
手を振る子供達を見送るジョーカー。少しだけ、その姿が寂しそうに見えた。
そんなジョーカーの頭の上に、昴が手を乗せる。
「あの四人はこの近くに住んでる。会おうと思えば、いつでも会えるさ。」
「う、うむ…。」
くしゃくしゃと頭を撫でる昴に、ジョーカーは胸の奥が暖かくなるのを感じた。
- おかえりの味とただいまの涙 その八 ( No.505 )
- 日時: 2015/01/17 22:22
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
あの後、仮眠を取り、昴はジョーカーを鏡達に紹介する。
そして、今自分達がしている仕事について話すと、いつしか夜になっていたので、昴が作った夕食を食べ、入浴を済ませたジョーカーは与えられた部屋で一息ついていた。
「ふぅ…。ん?」
そんなジョーカーの耳に、ノック音が聞こえる。
「ジョーカー、少しいいか?」
「昴殿か。鍵は開いているぞ。」
ジョーカーがそう言うと、昴が中に入ってきた。彼女は中に入るとそのまま、ジョーカーのいるベッドに腰掛けた。
「どうかしたのか?」
「一つ、話をしておくのを忘れていてな。」
「話?」
首を傾げるジョーカー。
そんなジョーカーを膝の上に乗せ、そっと頭を撫でてやる。
「…パステルくんを病院に連れて行ったの、お前だろ?」
「!?」
唐突に言われた言葉に、ジョーカーは驚き、思わず昴を見た。
彼女はただ、微笑んでいた。
「…何故、それを?」
「なんとなく、さ。(…アイツに聞いた。とは言えないからな。)」
どうやら、この世界を見守る彼女に聞いたようだ。
「…貴殿には、敵いそうにないな。」
ジョーカーは昴から離れ、目を閉じると、光に包まれた。光は沢山集まり、やがて散る。
そこにいたのは、黒いローブを纏った大人の男性。氷海の父親から聞いた特徴そっくりだ。
「…やっぱりできたか、擬人化。」
「擬人化、というか分からぬが、それに近いものだ。我以外にも、リリィとセシルが可能だ。」
「そう、か…。なぁ、ジョーカー。お前、家事、出来るか? 料理とか、洗濯とか。」
「家事…? まぁ、ある程度の事ならば出来るが…。」
ジョーカーのその言葉を聴いたその瞬間、昴の目が光り輝いた。
「ど、どうかしたのか?」
「いや、その…身内の恥を晒すようで悪いんだが、この神殿で家事がまともに出来るの、俺だけでさ。」
「そうなのか? 紅殿は致し方ないとして、鏡達は…。」
「皆無だ。一応、教えているけど。」
きっぱりと言い放つ昴に、ジョーカーはこれ以上何も言えなかった。
「そこで、お前に頼みたいんだ。」
「家事手伝いを、か?」
「ああ。だけど、お前一人にさせるのもアレだから、俺とお前でローテーションしていきたい。出来るか?」
「勿論だ。この家に住む以上、それぐらいはやらんとな。」
「決まりだ。」
昴はすっ、とジョーカーに手を差し出した。
「これからよろしくな、ジョーカー。」
「…ああ。」
ジョーカーはその手を握り返した。
神殿に、新しい仲間が増え、烈達にも新しい家族ができた。
この世界がまた一段と、騒がしくなりそうな予感がした…。
- 幕引き ( No.506 )
- 日時: 2015/01/17 22:35
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: OR22W8s.)
ここまでを振り返り、昴達は溜息をついた。
「もう、リリィがうちに住むようになってから一年も経ったんだな…。」
「時が経つの、早い。」
「アタシはそれよりもリリィ達が最初敵だった事に驚いたんだが。」
のんびりと会話をする烈とリリィに割ってはいるかのように、由梨が告げる。
「今では仲良くしてるけど、ボクもジョーカーも、お互いの信念の為に戦ってたんだ。由梨達にはびっくりでしょ?」
「うん、私も、凄く驚いた。意外だったよ…。」
風花も驚いたようで、もう一度ノートをまじまじと見た。
「何だか私、みんながどうしていたか、もっと知りたくなっちゃった。」
「あはは、それは結構なこって。さてと、そろそろチャイムが鳴るんじゃないのか?」
いつしか夕焼け空になっていたのを見た昴が前を向いたと同時に、トワイライトチャイムが流れる。
「もうそんな時間なんだな。」
「お兄ちゃん、早く帰ろ? おばあちゃん、待ちくたびれてる。」
『今日の晩酌のツマミはなんだろうか。』
チャイムを聞くなり、烈達はにこりと笑って互いに手を繋ぎ、
「フランシス、今日の夕飯なんだっけ?」
「今日は…唐揚げだったはずだ。」
風雅達は夕飯のおかずを思い描き、
「セシル、そういえばあの本はどうなったの?」
「氷海の部屋に戻しておきましたよ?」
「うん、ボクも見たよ。」
氷海達は何かの本を貸し借りし、
「鈴花、ボクちょっと温室見に行ってくる!」
「あ、じゃあ私も行くよ。あんまり長くかからないだろうし…。」
鈴花達は温室へと向かった。
が、途中で足を止め、ジョーカーを見る。
「じゃあ、ジョーカー。」
「ジョーカー様。」
「また明日。」
声を揃え、ジョーカーに向けて手を振った。そしてそれぞれの道を歩いていった。
「…また明日。」
そんな子供達の姿を見送りながら、ジョーカーもそっと手を振り、ポツリと呟いた。
「…さてと、理乃達も早く帰らないと締め出されるぞ。」
「そうですね。では、皆さん、また明日。」
「じゃーな。」
「またね、みんな!」
「では、私も失礼しますね。また明日。」
理乃も、由梨も、りせも、風花も、挨拶を交わしてから神殿を後にした。
「…さて、ジョーカー。俺らも夕飯の準備しようぜ。」
「そうだな。」
昴とジョーカーも、神殿の中に入っていった…。
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私—プレイバック第二段。いかがでしたでしょうか。
昴「感想あればどうぞ。次はいよいよあの凪計画の下らないアレだ。」