二次創作小説(映像)※倉庫ログ

囚われの氷硝 その一 ( No.540 )
日時: 2015/01/20 20:31
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

翌朝、学校に辿り着いた直斗は、黙って自席に着き、窓際を見た。
そこにいる筈の藤色も、赤色も、今日はいない。それが、直斗の心を沈み込まさせた。

(…昨日の今日ですから、無理もないですよね…。)

そして、一つ溜息を吐く。

(昨日、鞄を届けに行った時に話したセシルさんが言うには、ずっと部屋から出ていないそうですし…。烈君も、きっと悩)
「おはよーさん。」

ガラッ、と教室の戸が開かれ、一番にその声が響いた時、直斗は驚きを隠せずに思わずそちらを見た。
そこには、烈がいたのだ。何事もないような表情で、平然とこちらに向かってくる。

「れ、烈君!?」
「おぅ、おはよーさん、直斗。」
「え、あ…お、おはようございます…。普通に学校に来れるんですね…。」

直斗がそう言うと、烈は少し微妙な顔をした。

「正直言うと、若干人の目が痛ぇよ。けどな、昨日の夜に、りせからいきなり着信があって、話した時に『そんな人の目なんか一時的なんだし、気にしないのっ! それよりも氷海ちゃんの事で悩んであげなさいっ!』って言われて…何か、そこまで言われたら来なきゃいけない気がしてさ。そういやあいつ、昨日は深夜近くまで仕事だった筈だよな?」
「(久慈川さんも転校当初はきっと好奇の目に晒されたでしょうから、気持ちがわかったんでしょうね。)ええ。恐らく、休憩時間の時にでもかけてきたんでしょうね。…ふふっ、久慈川さんらしい言葉ですね。」
「ああ。それ聞いて、俺も少し楽になったよ。…これで、氷海の事に集中出来そうだな。」

烈は自席に鞄を置き、直斗に向き合うようにして座る。

「…そうだ。直斗、昨日の午前0時、起きてたりしたか?」
「その時間なら既に眠っていましたが…何かあったんですか?」
「そっか、寝てたか…。いや、実は…。」
「直斗君っ!」

バンッ! と勢いよく扉を開け、中に入ってきたのは、りせだった。

「久慈川さん。ドアは静かに開けないと壊れ」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃないのっ!」

直斗の前に着くなり、勢いに任せて言い放つりせに、直斗はただならぬ様子を感じた。

「な、何があったか落ち着いて話して頂けませんか?」
「…テレビが…映ったの。」
「えっ?」
「また、映ったのっ! “マヨナカテレビ”がっ!」
「なっ…何だって!」

流石の直斗も、これには平静を装えなかった。
再び映ったマヨナカテレビ。自分達が原因を打ち破った筈のものが、再び映ったのだ。驚かない訳がない。

「昨日、仕事が長引いて門限過ぎちゃったから聖域に泊まってたんだけど、何か眠れなくて、リビングに行ったら、丁度0時で、何の気なしに見たら、いつものアレが映ったの! 見間違いかと思いたかったけど、昴さんも部屋のテレビで見たって…! そ、それに、悠センパイと理乃センパイも見てたって完二が言ってた!」
「そんな…!」
「…やっぱりあれ、マヨナカテレビだったのか。」

話を聞いていた烈はポツリと呟いた。

「! 烈君も見たんですか!?」
「ああ。偶然だけどさ。りせ、お前が見たのって、まだぼんやりとした状態だろ?」
「あ、うん! …そっか、烈も見たんだ…。」
「昨日のが衝撃過ぎて寝付けなくて、偶然な。なぁ、りせ。お前はアレ、誰かに見えたか?」

烈が問うと、りせは首を横に降った。

「わかんない…。映った衝撃が大きすぎて、誰かまでは…。あ、でも、昴さんは女じゃないかって言ってた。理乃センパイは髪が長い人じゃないかって。」
「…髪の長い、女子…。」
「烈君、心当たり、あるんですか?」
「…。」

暫く黙り込む烈。やがて顔を上げ、一つ頷いた。

「…あれ…氷海、じゃねぇかな。」
「ひ、氷海さん!?」
「た、確かにそう見えなくもないけど、何で氷海ちゃんが出て…あっ…!」

烈の言葉に驚く二人。だが、りせは心当たりに思い至って、口許を覆った。

「昨日の新聞…!」
「! そ、そうか! 噂になれば、テレビであろうが新聞であろうが関係ない…!」
「…昨日ので噂になっちまったんだな。だから、マヨナカテレビに映る条件が整っちまったのか…。」
「こっ、こうしちゃいらんない!」

りせは携帯電話を取りだし、ある場所にかけた。

『はい、もしもし。』
「あっ、セシル!」

どうやら、相手はセシルのようだ。
氷海は出ないと踏んで、彼女にかけたらしい。

「お願い、セシル! 氷海ちゃんから目を離さないで!」
『い、いきなりどうしたの? りせ。事情を話して貰ってもいいかしら?』
「マヨナカテレビに氷海ちゃんらしき影が映ったの!」
『ま、マヨナカテレビ?』
「おいりせ、マヨナカテレビを知らない奴にそう説明したって訳分からないだろ? セシルはゲームとかしないし…。」

烈に宥められ、りせは「うぐ。」と言葉を詰まらせる。

「で、でも、どう言ったらいいのか…。」
「久慈川さん、僕が説明します。」
「うぅ…ごめん、直斗君。任せた…。」

どうやらマヨナカテレビについてどう説明していいかわからないようで、敢えて説明を端折ったようだ。
りせは直斗に携帯電話を渡した。

囚われの氷硝 その二 ( No.541 )
日時: 2015/01/20 20:38
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

『…そう。映った人物はテレビの中に入れられる。そして霧がこちらの世界に発生すると、テレビの中に入った人間は死ぬ…。それが本当なら、氷海が危険ね。』
「入れられないのが一番いいですが、そうとも限りません。念の為、警戒をお願いします。」
『分かったわ。』

説明を終え、直斗は通話を切り、りせに携帯電話を返した。

「映った人物が分かって早めに対処できたのはいいですが…本人の側で見張る事は難しそうですね…。」
「氷海ちゃん、あの状態だから…。暫くそっとしておいた方がいいかも。…セシルとパステルくんに任せよう?」

りせは少し悔しそうな表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐに笑顔になった。

「今回は、誰か分かって、早めに対応出来ただけでも上出来だよ。」
「そうですね…。今は、パステルくんとセシルさんを信じましょう。」

そう言ってから、直斗は烈を見た。

「な、何だよ。」
「いえ。烈君にお礼を言いたくて。」
「俺に?」
「ええ、君に。…氷海さんと判明できたのは、君のお陰ですから。」
「そーそー! …こんな時だけど、ちゃんと氷海ちゃんの事、大事に思えていたんだなって。思いが強いとくっきり映るって前に生田目さんが言ってたし、千枝センパイが雪子センパイを見た時だって、すぐに判明したしね。」

二人の美女に見つめられ、烈はほんの少しだけ顔を赤らめた。

「なっ、仲間なんだから当たり前だろ! あ、いや、仲間っつーか…今は考え中っつーか…。」
「おお、ちゃんと考えてる。」
「茶化すんじゃねぇよりせ!」
「顔、真っ赤ですよ。」
「うっせーよ直斗!」

顔を真っ赤にしたまま喚き立てる烈。はっきり言って、説得力がない。

「あははっ! 烈ってわかりやすーい♪」
「マジでぶん殴っぞりせ!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ。…それだけ喚き散らせるなら、ちゃんと考えられてるみたいだね。さーって、今の段階でどう考えてるわけー? 烈ー。」
「うっ…。正直、その…ちょっと、まだ、わかんねぇんだ。俺さ、正直な話、恋とかした事なくて…。好きな奴の事を考えるとドキドキするとか、苦しくなるとか、今まで一度も味わった事なくて…。その…。」

しどろもどろになる烈を見て、りせと直斗はふむふむと頷いた。

「初めての恋でしたか。」
「初めての恋だったんだ。」
「うっ、うっせーよ! 悪いか!」

完全に耳まで茹で蛸になる烈に、りせはニッと笑って烈の頭を撫でた。

「なっ、何だよ!」
「んーん。何か烈って可愛いって思ってさ。んじゃ、そろそろホームルームだから、戻るね! バイバイ!」
「おいちょっと待て! っ、たくっ、逃げ足だけは早ぇんだから…。」
「烈君、あの、この場で言うのもアレですが…。」
「んだよ、直斗。」

直斗は目の前にいるクラスメイト達を指差し…。

「今の初恋発言、全員に聞かれていますよ?」
「…あ。」

そう、発言した。
確かに大声で話していた為、聞かれてもおかしくはない。いや、確実に聞かれている。
その証拠に、ここにいる全員がニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべている。

「いやー、甘酸っぱい初恋かー。いいねー、烈。若いっていいねー。」
「う…あ…っ! にっ、ニヤついてねぇでさっさとホームルーム始めろよ!」

いつの間にか教壇の上でニヤニヤ笑っていたDTOは、烈の怒鳴り散らす声に「ハイハイ。」と空返事をしながら、出席を取り始めた。

「…りせの馬鹿野郎…。後で絶対に燃やしてやる…。」
(ふふっ、いつもの烈君が戻ってきましたね。意図はないにせよ、久慈川さんには人を元気にさせる何かがあるのでしょうか。)

りせの持つ人を元気にさせるような何かに、直斗は感謝していた。

(いつものリーダーじゃないと、ツッコミ属性持ちメンバーの調子が狂ってしまいますからね。久慈川さんには後で感謝をしないと…。)

直斗はそう思いながら、DTOの連絡を聞いていた。
…途中、彼の甘酸っぱい色恋沙汰が入ったのは、気のせいだろうか。

囚われの氷硝 その三 ( No.542 )
日時: 2015/01/20 20:45
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

昼休み、いつものつぎドカ!メンバーとペルソナ組、理乃達が集まって食事をしていた。

「そう…ですか…。やはりアレは、マヨナカテレビだったのですね…。」

直斗や陽介から説明を受けていた理乃は、難しい顔をしながら考え込んだ。

「…コミュの練り直しで夜中まで起きていてよかった…。」
「相棒、お前そんな下らない事で起きてた訳?」

その横で呟いた悠の言葉を聞き取った陽介は、思わずそうツッコミを入れるも…。

「下らなくはないぞ、陽介! これが俺のアイデンティティーだ! …今回の件で氷海のフラグは一生立たないと見た。故に! こうして新しい恋のフラグを立てようと」

—ゴンッ! バキョッ!

「女の敵っ!」

千枝、りせ、直斗、鈴花、葉月、由梨の踵落としが、悠のド頭にクリーンヒットし、なおも暴行は暫く続いた。
哀れ悠はそのまま抵抗できずにいた。…心なしか、嬉しそうな顔を浮かべているのは気のせいか。

「…え、えっと…。」
「気にしないでいいよ、理乃先輩。」
「いつもの事ッスから治療しようとしなくても平気ッスよ。」
「わ、分かりました…。」

ズタボロになった悠を心配そうに見つめ、手に魔力を宿して回復魔法のスタンバイをする理乃だが、風雅と完二の説得でその手を下ろした。
そんな時に、ようやく悠を締め終わったようだ。

「でも、何でまたマヨナカテレビが映ったんッスかねぇ…。」
「完二、それを考えるのは後にしようぜ? とにかく、だ。まずは氷海ちゃんが入れられるのを阻止! 後は…仮に入れられちまった場合の、入口か…。」
「マヨナカテレビの噂も広まったし、ラビリスの時みたいにあの入口が出来てそうだね。けど…。」

雪子はその言葉の後、溜息を吐いた。

「流石に向こうまで帰るのも大変だよね…。」
「だよなぁ…。しかもあのテレビ、今里中んちだし。」
「あ、そだっけ。でも、あのテレビ、何かもうあの場所に行かないみたいなんだよね…。」
「マジか!?」

千枝の発言に、全員驚いて彼女を見た。

「うん、マジなんだよ…。試しに首だけ突っ込んでみたけど、見た事ない場所に出るみたいでさ…。多分、ジュネスのあの場所になきゃいけないとかじゃないかな?」
「帰っても無駄かよ…。じゃあ、こっちで入口になるような場所を探さなきゃダメか…。」

陽介は頭をバリバリと掻く。
入口探しは骨が折れるだろうが、それでも探さなければ、テレビの中に入ってしまった人を助け出せない。

「…陽介、それはクマに頼んだらどうだ? アイツ、学生じゃないし、フリーだろ?」
「やっぱそれしかないよな…。バイト終わりに探すようメール入れっか。」

由梨の提案でスマートフォンを取り出し、陽介はクマにメールを送る。
その間、つぎドカ!メンバーは食事を進めつつ、携帯電話を操作していた。

「…お前ら、どうだ?」
「メールも電話も駄目だね…。」
「Twitterも開いてないみたい…。烈君の方は?」
「…セシルにも聞いたけど、部屋から出てこないみたいだ…。」

どうやら氷海を心配し、何とか連絡を試みているが、全員音沙汰無しのようだ。

「…。」
「んな落ち込むんじゃねぇよ、オメェ等。」
「だけど完二っ…!」
「氷海は今、一人で悩んで、必死に答え探してんだ。あっちはセシルとパステルくんに任してやれよ。こんな事で邪魔すんのもアレだろ? 察してやれよ。」

完二の言葉に、ぐっと言葉を詰まらせるつぎドカ!メンバー。
確かにその通りだと、全員同じ事を思ったようだ。

「仮に、仮にだ。氷海がもしあっちにブチ込まれて、シャドウを暴走させたら、オレ達でブッ飛ばして、スッキリさせてやればいいんだよ。じゃねぇと苦しいだけだしな。」
「巽君、僕の時もそれ言ってましたよね。」
「あん? そーだっけか?」
「そうですよ。でもお陰で、スッキリしたのは事実ですね。」

直斗は自分の時に完二が言った言葉を思い出し、小さく微笑んだ。

「…でもまぁ、一番は入れられない事。マヨナカテレビがこのまま消える事だよね。」

千枝が言うと、全員同意したように頷いた。

「…この風の流れだと、今日の夜も雨になりそうです。念の為、皆さんでマヨナカテレビを見ておいた方が宜しいかと思います。」
「えっ? 雨の予報なんてなかったけど…。」
「凄いね、理乃先輩。風の流れでそこまでわかるなんて…。」
「ふふっ、この力は子供の頃からの付き合いですので、これくらいは分かります。」
(僕のこの能力も、子供の頃からなんだけどなぁ…。)

改めて、自分の力不足を感じてしまう風雅。

(…理乃先輩にもっともっと、力の事とか、教わりたいな…。)

また強くなる為に、修行の師から次なる事柄を教わる事を考えていた。

囚われの氷硝 その四 ( No.543 )
日時: 2015/01/20 20:51
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

深夜0時より少し前、窓に打ち付ける雨を聞きながら、陽介は自室のテレビ前でスタンバイしていた。
同室の完二は、別の部屋に行って貰っている。一人でないと、マヨナカテレビが映らないのだ。

(…もし、本当に氷海ちゃんが入れられたとしたら…烈、苦しんじまうな。多分、この氷海ちゃんが映ったマヨナカテレビだけでも、自分が関わっているから、とか考えてそうだな…。ああ見えて気負っちまう奴だからな、アイツ…。)

無茶する後輩を思いながら、ぼんやりとテレビを見ると、ノイズが走った。

(映った!)

そこには、髪の長い女性が何かを求めるように手を差し伸べ、笑顔でいる影が映っていた。
暫くの間同じように映っていたが、やがてノイズと共に消え去った。

(…本当に映っちまうとはな、マヨナカテレビ。もう二度と、係わり合いになるとは思っていなかったのにな…。)

溜息をつく陽介の耳に、着信音が入った。誰からだろうと思い、スマートフォンを見てみると、そこには昴の名前が表示されていた。

「(きっと、今のマヨナカテレビの事だな。)もしもし。」
『悪いな、陽介。こんな夜遅くにさ。』
「分かっててそれ言います?」
『…だな。』

電話口にいる昴も、きっと笑っているだろうなとか考えながら、陽介は話を続ける。

「まだ、映像は不鮮明のようッスね。」
『テレビに入れられてないって証拠だ。…今、雪花にも確認させたが、やっぱり氷海で間違いなさそうだ。』
「雪花ちゃんが言うなら間違いなさそうッスね。」

分身たる雪花の言葉なら間違いないと踏んだ陽介は、さらに話を続ける。

「…昴さん、その…。」
『入口の件だろ? 手伝い当番だった理乃から聞いた。俺の方でもりせのスキル使って探してみる。』
「助かります。」
『何にせよ、一番は入れられないでこのまま終息する事だが…。入れられたら入れられたで、お前達に任せるしかないと思う。確か、シャドウに対抗するには、ペルソナの力が必要だって話だよな?』
「ああ…確か、そうです。(そっか、昴さん達は今回力になれねぇんだ…! 俺達でやるしか、ねぇんだよな…!)」

頼れる昴は今回お留守番。そして自分達以上に戦闘慣れをしている理乃達も同様に留守番しかできない。
陽介はその事を思い出し、不安になった。

「あれ? でも、俺等のスキルで攻撃が通用したりするんじゃ…?」
『確かにそうかも知れないが、シャドウに攻撃が効くか分からない。効けば万々歳だが、もし通用しなかったら、足手纏いになる。今回は留守番してるさ。』

どちらにせよ、昴はこのまま留守番するようだ。

『…陽介、不安になんかならなくていい。お前達は何人もの人間をテレビから救い出したじゃないか。』
「あ…。」
『自信を持て。これは、お前達にしか解決できない事件だ。そうだろ? 自称特別捜査隊。』

昴の言葉に、少しだけ、いや、大いに安堵した陽介は、一つ大きく息を吐いた。

「…本当に敵わねぇな。…気持ち、楽になった。ありがとな、昴さん。」
『どーも。…俺は、お前達を信じてる。無理しないで、頑張ってくれ。』
「ああ!」

その会話を最後に、昴との通話は切れた。
彼女との会話を終え、陽介の顔はどこか吹っ切れたようにすがすがしかった。

(…映っちまったものは仕方ねぇ。けど、まだ入れられていない。まだ、この場で助けられる。それに、仮に入れられちまっても、俺達なら、やれる。だって何人も救ってきたじゃねぇか。俺と相棒で結成した、自称特別捜査隊は。)

陽介はぐっと拳を握り締め、明日からの決意を新たに、眠りについた。

囚われの氷硝 その五 ( No.544 )
日時: 2015/01/20 20:56
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

それから、何事も無く二日が経った放課後、陽介は烈を伴い、屋上に来ていた。
そこでまた二人並んで寝転がる。緩かな雲の流れが、どこか心を落ち着かせた。

「…いい天気だよな。」
「だな。」

吹く風は心地よく、傾いてきた日差しもどこか暖かい、そんな屋上。うっかりしたら眠りそうだ。

「…今日、雨って信じらんねぇよな…。」
「でも、理乃先輩が言ってたし、間違いないんじゃね?」

そう、こんなにいい天気なのに、理乃はまたもや雨の予報をしたのだ。先日も当てたので、もう信じる事しか出来ない二人。

「マヨナカテレビ、チェックできるな。」
「ああ。氷海、入れられてないといいけど…。」
「セシルとパステルくんを信じろって。…お前はお前の事に集中しろよ。まだ答え、出してないんだろ?」

陽介が聞くと、烈は空を仰ぎ、溜息を吐いた。

「…何か、考えれば考える程深みにはまってくみたいにさ、訳がわかんなくなってくるんだよ。氷海の願うような関係になってやりたい自分と、いつものような関係を願う自分がいて、変な風にバトって…それでまたぐるぐるなって、あーわかんねー! ってなって…その繰り返し。」
「一回、単純に自分の気持ちを受け止めてみろよ。お前としては、どっちなんだ? 氷海ちゃんと恋人同士になりたいか、今まで同様仲間として接したいか。」
「…。」

烈は起き上がり、座りながら空を仰いだ。

「仲間でいられれば、満足だった。いつものようにバカ騒ぎして、楽しんでいられりゃ、満足だった。…だった、筈なんだ。」
「…。」
「…それ以上の幸せを望むのは…いけない気がしてさ。俺自身が、幸せになっちゃいけないって思ってさ。」
「何でそう考えるんだよ。幸せになる権利なんて、誰にだってあるだろ?」
「…誰にだって、か…。」

寂しそうに呟いた烈に、陽介は疑問を持ち、起き上がって彼の顔を覗き込んだ。
その顔はどこか、泣きそうだった。

(こいつは…俺の知らない、いや、俺じゃ想像も出来ない何かがあったんだな…。)

それを見て、陽介はそう察知するも、言及する事はしなかった。
これ以上追求すれば、烈は今以上に苦しむと思ったからと、

「…ん?」

同時に、烈のスマートフォンに着信が入ったからだ。

「誰からだ?」
「…セシルだ。もしもし、どうした?」
『あの、烈さん…氷海を見かけませんでしたか?』
「えっ…!?」

心配そうなセシルの声が響き、烈の胸に嫌な予感が過る。

「い、いや、見てないけど…。学校も休んだままだし…。どうかしたのか?」
『実は、昨日の夜に、少し元気を取り戻した氷海が、病院の手伝いを申し出て、暫く働いて…夜勤と切り替わる時間に帰したと氷海のお父様が言っていたのですが…昨日から、家に帰っていなくて…。』
「何だって!?」
『今、パステルくんが探していますが…もしかしたら…!』

そこから先はずっと、セシルの嗚咽だけが響く。
不安だったのだろう。そしてその不安を口にしてしまえば、より不安な気持ちに押し潰されそうで、怖かったのだろう。

「セシルのせいじゃねぇよ。お前が見張れない場所でやられちまったらおしまいだ。…それに、まだ入れられたと決まった訳じゃない。」
『でっ、でもっ、わたくし…!』
「落ち着け、セシル。…今は、氷海の無事を祈っててやれ。なっ?」
『っ、ぐすっ…! わ、分かりました…。』

その言葉を最後に、セシルとの通話が切れた。

「…おい、まさか…!?」
「…氷海が消えた。昨日から帰ってないらしい。」

烈と陽介は、互いに顔を合わせ、頷いた。

「マヨナカテレビ、チェックしねぇとな。」

囚われの氷硝 その六 ( No.545 )
日時: 2015/01/20 21:04
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)

その夜、案の定雨が振り出してきて、午前0時前には本降りの雨となっていた。
天気予報では、また明日には止んでいるようだ。

「…。」

昴は、自室にて、テレビをぼんやりと眺めていた。

—心配だね、氷海ちゃん。

不意に、ノートが開かれて文字が書かれる。それを察知した昴は、ベッドランプを点け、見た。

(セシルの話を聞く限り、十中八九、昨日の夜に入れられてるな。なぁ、氷海の足取り、わかったか?)
—それがね、行方不明になった時間辺りからの心情がまったく描かれないの。
(どういう事だ? お前が呼び出せば、すぐにそいつの視点で物語が描かれる筈だよな?)
—普段はね。けど、ある状況下だと、こうなる。そして、こう言った事は初めてじゃないんだよね。

ある状況下、初めてじゃない事例、昴はすぐに、何の事か思い至った。

(あの事件と…ワンダークロック事件か。お前が干渉出来ない場所に居られると無理ってか。)
—そっ。…この時点で、氷海ちゃんは既に私が干渉出来ない場所に居る事が分かる。どうやら、テレビの中は、私がここからじゃ干渉できない異世界みたいね。けど、それじゃ説明できないのが一個。…入れられるちょっと前の心情でさえも呼び出せないの。
(は? それおかしくないか? 入れられる前はこっちの影響下だから、干渉できるんじゃないのか?)
—…そう、おかしいんだ。でも、これに関しては影君が一つの仮説を立てたの。

影の立てた仮説、それを聞く前に、もうすぐ午前0時になりそうだった事に気が付き、ベッドランプに手をかけた。

(悪い、そろそろ時間だ。また後でな。)
—了解。後でその仮説について話すね。

その文字が書かれた後、昴はノートを閉じ、ベッドランプを消して部屋にあるテレビをぼんやりと見た。
程なくして、非常に鮮明な映像が映し出された。

(やはり入れられていたか!)

昴は苦々しい表情を浮かべながら、成り行きを見守る。
テレビの中は、美しい氷の鏡が万華鏡のような場所が映し出され、その中心に大きな鏡があり、その傍には…。

(…ぴ、ピンクて。氷海、白はいいけど、ピンクて。あとフリフリて。)

ピンクと白を基調としたフリフリの可愛いドレスに身を包んだ氷海らしき人物がいた。

『皆さん、こんばんは。“マヨナカ恋愛相談室”のお時間です。』
(え、恋愛相談って、らしくな…いや、うん、大体の映った奴はらしくないけどさ。)
『今日は、鏡に映し出された方の恋の悩みを相談していきたいと思います。とは言っても、私は鏡に映し出された貴方の本音を話すだけ…。』

そう言って氷海らしき人物は、その手をスッ、と伸ばした。

『でも、私が一番知りたいのは、あの人の心…。ねぇ、来て…。ここに、来て…。』

まるで、誰かを誘うかのようなその仕草に、昴は思わず背筋を震わせた。
何か、言いようのない不安が彼女を襲った。

『私の大好きな—』

それ以降、ノイズが走り、元の静寂が訪れた。

「…。」

昴はベッドに戻り、ベッドランプを点け、ノートを開いた。

—…やっぱり、入れられちゃっているみたいだね。何か随分衝撃映像映ってたみたいだけど、大丈夫?
(正直、動揺してる。…なぁ、影が出した仮説って?)
—…この創世ノートの効果を妨害できるような能力を持った、MZDのような存在が近くにいたのではないか、と言うものね。
(神クラスの存在が近くに?)
—あくまでも仮説だけどね。…でも、正直、この件は一筋縄じゃいかないかも。神様が関わっているなら、尚更。…気を付けた方がいいかも。

その文字を見た昴は、ぐっと強く拳を握り、その拳を…壁に思い切り叩きつけた。

「神? それが何だってんだ?」

その表情は、完全に怒っていた。殺気が外に漏れ出ている。そんな気さえした。

「上等じゃねぇか。俺達の世界を荒らすなんざよぉ…。」
—それには同意。…流石に私も今回ばかりは亜空間事件の時並みに許せない。

ノートの外にいる創造者も怒りの感情を抱いているのか、文字に力が篭っている。

「氷海を入れた犯人、首を洗って待ってろよ…。」
—私達が必ず捕まえて…。

そして、同時に…。

「ボコボコに嬲ってから“消去(デリート)”してやる。」

そう、同じ文章を口走った…。











「」

最後の文面を見るなり、全員昴から距離をとる。

「な、なんだよお前等。」
「す、昴さんが本気で切れるとこうなるんだなーって…。」
「うえ、えぐっ、えぐっ…!」

全員、彼女に対して恐怖心を抱いているようだ。鏡なんて泣いてるし。

「ごめんごめん、確かに俺は切れるとこうなるけど…それは誰だって同じだろ?」
「ま、まぁ、そうだよね…。」

りせが言うと、次々と昴の周りに戻ってくる。

「さて、続き行くぞ。」

全員戻ってきたところで、昴はそう言ってページをめくった。