二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 冷酷なる御霊 その一 ( No.546 )
- 日時: 2015/01/20 21:11
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
氷海がマヨナカテレビに映った日の、午前四時。一日中起きていた昴は自室でテレビのニュースを見ていた。
(…霧が出るかはわからないが、もし出るとなれば、雨が何日か降った後。)
淡々と天気情報を流す気象予報士の下に映る週間天気。それを食い入るように見る。
(明明後日…二日連続で雨が降るな。)
それを確認した後、昴は一階に降りる。
リビングでは既に、昨日聖域に泊まり込んでいたクマがスタンバイしていた。
「スーチャン、見てきたクマよ。」
「どうだった?」
「…ヒーチャンは間違いなく、テレビの中クマ。ヒーチャンの匂いがしたし、テレビの中、また広くなってたからカクジツクマよ。」
「そうか…。」
昴はクマの報告を聞くと、一つ頷いた。
「クマ、今回は時間がない。明明後日に雨の予報が二日連続ある。以前と同じようにこっちに霧が出るかは分からないが、早めに助けた方がいいのは確かだ。」
「今まで以上に時間がないクマね。でも、それでも、ヒーチャンは助けなアカンクマ!」
「ああ。…頼んだぞ、クマ。」
「任せるクマ!」
そう言って、クマは携帯を取り出した。
「そうと決まれば、センセイに連絡クマ!」
「いや、連絡は俺からするよ。」
「えー…。」
「流石にまだ寝てるだろアイツ等。クマももう一寝入りしておけ。…今回、俺達は力になれないからな。お前達だけが頼りなんだ。」
昴の言葉に、クマは大きく頷いた。
「…分かったクマ!」
そして宛がわれた部屋に戻って行った。
クマがいなくなった後、昴は再び二階へと上がり、ジョーカーの部屋にやって来た。
「…ジョーカー。」
昴が呼ぶと、ベッドの横で座り込んでいたジョーカーが昴の前までやって来た。そのフードの下の表情は、どこか悲しそうな姿を浮かべていた。
「セシルの様子は?」
「今ようやく落ち着いて、眠ったところだ。…ショックだったのだろうな。自分がついていながら、氷海を連れ拐われてしまったのだ。…立ち直るには、時間がいるだろう。」
「…セシルは、責任感が強いからな…。」
そう呟きながら、昴はベッドの上で眠るセシルを見つめた…。
- 冷酷なる御霊 その二 ( No.547 )
- 日時: 2015/01/20 21:17
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
セシルが来たのは、数時間前に遡る。
マヨナカテレビの映像から数十分後、突如、呼び鈴が鳴った。
「…ん? 誰だこんな夜中に…。」
あのまま眠れなかった昴は、すぐに一階へと降り、玄関のドアを開けた。
「…。」
「えっ、ちょっ、セシル!?」
そこには、黙ったまま呆然とどこか遠くを見るセシルがいたのだ。
その体はずぶ濡れで、覇気がない。
「お前、何でこんな雨の中何も差さずに…! って、それは後だ! あぁもう! 事情は後で聞くから中に入れ! 誰か! タオル用意しろ!」
昴はセシルを掴み、そのまま中へと入っていく。
そしてジョーカーが用意したタオルで体を拭いてあげた後、暖かいミルクを入れてあげた。
「…済みません、夜分遅くに…。」
「構わないさ。ほら、ミルク。熱いから気を付けろよ?」
「…。」
セシルは、ミルクを一口飲んだ。
「…セシル、どうしてこの雨の中、傘も差さずに来たのだ? 風邪を引いたらどうする。」
「…。」
ジョーカーのお叱りに、セシルは黙ったまま俯いた。
かと思えば、肩を震わせ、嗚咽をあげ始める。
「…ご、めんな、さい…! わたくしが、見ていながら…! 氷海を…氷海を…!」
「…。」
セシルが呟いた謝罪に、ジョーカーは黙ってセシルを抱き締めた。
「セシル、今は何も言うな。…思う存分泣いて、スッキリしろ。話はそれからだ。」
「っ、ジョーカー、さま…!」
「…昴殿。」
「分かってる。…お前の部屋に泊めてやれ。」
「感謝する。セシル、行くぞ。」
ジョーカーはセシルを伴い、二階へと上がっていった。
(…無意識に、ジョーカーに…親に、縋ろうとしたんだな…。それで傘も差さずに無我夢中でここに来た…。辛かったな、セシル…。)
セシルの気持ちがわかったのか、昴は黙ってジョーカーに任せる事にした。
■
そして、現在に至る…。
「…ジョーカー、朝飯の用意は俺一人でやるよ。お前はセシルの側にいてやってくれ。」
「助かるが…いいのか?」
「構わないって。…今は、セシルの方が辛いんだからさ。」
「…そうだな。では、頼む。」
ジョーカーは昴にそう言うと、再びセシルのいる部屋に戻った。
(…氷海を助けるまで、セシルはあの調子だな…。)
昴は一つ溜息を吐きながら、一階へと降りていった。
- 冷酷なる御霊 その三 ( No.548 )
- 日時: 2015/01/20 21:22
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
やがて時間が経ち、寮では朝食の時間となった。
食堂へと集まるも、誰も、何も話そうとしなかった。
「…。」
箸でご飯が盛られた茶碗をつつく音と、周りの人達の話し声が響く。
—おーこーめー。おーこめこめ〜♪
そんな時、誰かの携帯電話が鳴った。
「…あ、俺だ。この着うたは昴さんだな。」
「悠、昴さんに殺されるぞ? その歌、あんまり好きじゃないみたいだから。」
「フッ、由梨。こう言うのはバレなければ問題ないんだ。もしもし?」
『まず理由を聞かせて貰おうか。俺からの着信、お米にしてる理由。』
悠は電話口から響いた昴のその声に、ビクッと体を強ばらせた。
「以前、昴さんの待ちうたがお米だと聞いて、つい。」
『キサマアトデブチコロス。』
「すみませんでしたっ!」
電話口にいても伝わる殺気に思わず土下座する悠だが、その前に昴は通話を切っていた為、その謝罪は届いていないだろう。
程なくして、今度は『記憶』と言う曲が流れる。
「あ、それ、マr」
「ネタバレダメだろ里中。…昴さん、とりあえず言っておきます。神秘的な感じ繋がりでこの曲にしました。」
『俺もこのダンジョンは特殊だったが何だかんだで好きだった。曲もしかり。』
電話口の昴は機嫌がいい。どうやら陽介のお陰で機嫌が直ったようだ。
『本題に入る。お前達は朝飯食い終わり次第、テレビに入る準備をして神殿に来い。理由は何となく分かるだろ?』
「はい。…氷海ちゃんの件ッスよね。けど、入口は…。」
『心配要らない。もう見つけたからな。』
「ほ、ホントッスか!? どこに…!」
『…まさか俺もこんな所が入口だとは思わなかった。…場所は、神殿のリビングだ。』
昴の答えに、陽介は驚くも、どこか納得を見せた。
『とにかく、だ。朝飯終わったら神殿に集合。いいな?』
「了解!」
陽介は通話を切り、スマートフォンをしまった。
「入口、見つかってたのか。」
「ああ。神殿のリビング。あそこが入口になるみたいだ。」
由梨の疑問に陽介が答えると、どこか納得したように頷く。
そんな彼らの横で、理乃が申し訳なさそうな表情を見せる。
「…私達もお力になれればよかったのですが…。」
「理乃ちゃん達はご飯作って待っててよ! あたし達、お腹ペコペコで帰ってくるから! あ、あたしにはスペシャル肉丼で!」
「あっ、私、麻婆豆腐食べたーい!」
「オレ、コロッケおなしゃす!」
千枝が頼んだのを皮切りに、りせと完二も注文する。
その様子に最初は呆気にとられた理乃だが、すぐに笑みを見せ、由梨を見た。
「ええ、任せて下さい。」
「飛びっきりの作って待ってるよ。だから、必ず帰ってこい。氷海も一緒にさ。」
「私、料理できないし、帰ってきたらハグをプレゼントしたげる!」
「七海のハグは洒落にならないよー? 骨、五、六本は逝くから。」
お茶を啜りながら平然と言う葉月の言葉に、全員七海と距離をとる。
確かに彼女の力加減の出来なさのせいで、何度犠牲が出たかわからない。主に理乃が。
「ひっど〜いっ! 葉月、そこまで言う事ないじゃん!」
「葉月は事実を述べてるだけじゃない。」
「へぐぁっ!」
葉月の言葉に反論する七海だか、理乃の鋭い言葉に撃沈した。
「…まぁ、とにかく、無理せずに無事に帰ってこい。信じて待ってやっからさ。」
無理矢理纏めた由梨の言葉に、全員頷いた。
そして、帰りを待ってくれている人がいる事を噛み締めながら、食事を続けた。
- 冷酷なる御霊 その四 ( No.549 )
- 日時: 2015/01/20 21:27
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
食事も終わり、ペルソナ組は全員、神殿の前にいた。
「…日曜だってのに制服の集団がいるって奇妙だな。」
「いやー、何か、これで行くの、癖になってて…。」
「まぁ、気持ちはわかるクマ。クマも何だかんだでキグルミ着てるクマからねー。」
玄関口で待っていた昴の第一声に、千枝は難しそうな表情を浮かべながら答える。
そう、休日だと言うのに、全員制服姿なのだ。そして各々、武器を隠し持っている。
テレビに入る準備は万端のようだが、端から見れば怪しい集団だ。
「でも、確実に持っていたら補導どころか逮捕される武器を持っているのに、見つからずにここに来れたのは奇跡で…」
交番を避けて通ったとは言え、ここまで音沙汰がなかった事に直斗は疑問を持つも、笑顔の昴を見て、全てを悟った。
あぁ、この人が根回ししたのだ、と。
「(この人の仕業ですか…。)昴さんが頼んでおいたようですね。どうやって警察官寮に根回ししたかは聞かないでおきます。」
「賢明だ。時間が惜しいから、さっさと入ろ」
「待ってくれ!」
昴が悠達を中に招き入れようとした時、後ろから声がかけられた。
聞き覚えのある声に驚いて振り向くと、そこには、普段着姿の烈がいた。
「ちょっ、烈! お前、どうしてここに!?」
「悪いとは思ったけど、後、つけさせて貰ったんだよ。…お願いがあってさ。」
烈の言うお願いを察知したのか、陽介は厳しい視線を烈に浮かべ、
「駄」
「うん、いいよ。」
拒否の答えを出そうとした横で許可したのは、雪子だった。
許可を出した雪子に驚いた一同は、彼女を見た。
「ちょっ、雪子!?」
「本気なの!? 雪子センパイ!」
「本気だよ。…私、烈君は氷海ちゃんの所に連れて行くべきだと思うの。」
「…理由、聞かせて貰っていいか? 雪子。」
昴の問いかけに、雪子は頷く。
「ここ数日間で、氷海ちゃんは答えを出したんだ。それを聞いて、私は烈君を連れて行くべきだって思ったの。危険だって分かってる。だけど、氷海ちゃんと烈君を引き合わせるべきだって思う。」
「氷海の…出した、答え…。雪子先輩、それって一体…。」
烈が答えを聞こうとしたが、雪子は彼を見て首を横に振った。
「それは、烈君が氷海ちゃんから直接聞くべきだよ。私から言う事じゃないから。」
「…。」
「そこまで言うなら、連れてってやるべきなんじゃねぇか?」
「! 昴さん!?」
雪子の言葉を聞いて、昴まで許可を出した事に驚き、全員、今度は昴を見た。
「烈なら身の振り方は分かってるだろうから、誰かさんみたいに危険な場所に他人の制止も聞かずに一人で向かう事はないと思うけどな。」
「誰かって誰の事?」
千枝は分からずに昴に聞き返すも、
「あぁ…。」
「それは…。」
「言えてるクマ…。」
その誰かさんのせいである意味痛い目を見た三人は、その誰かさんを見た。
「…って、何で三人してあたしを見るの?」
「自分の胸に聞いてみろ!」
恐らく、雪子のダンジョンでの事を言っているのだろうが、等の本人である千枝は、まったく覚えていないようだ。
「…直斗、オメェも若干その口だったよな?」
「はい、今思えば、事件解決の為になんて馬鹿な真似をしたのだろうと思っています。」
直斗も直斗で、事件がまだ終わっていないと言う証明をする為に、一人で無茶をしたので、反論はできない。が、忘れている千枝よりは罪は軽いだろう。
「…それはもう後だ。相棒、どうする?」
「…。」
悠は腕を組み、どうしたものかと考え込む。
「…烈、武器はあるか?」
「いや、能力頼りだったから用意してな…あっ。」
何かを思い出したのか、烈はごそごそとポケットを漁る。
取り出したのは、折り畳み式の警棒。
「これがあった。」
「何で警棒なんか持ってんだよ!?」
「最近、由梨先輩に剣術習っててさ。素振りするのにいいってこれ貰った。」
「何でこんなもん持ってたんだ由梨ちゃんは!?」
クラスメイトの謎の所持品に、陽介はもうツッコミしか返せない。後で本人に聞いてみようと考えるも、教えてくれるかどうかは謎だ。
「…絶対に一人にはならない。俺達の言う事を聞く。それは約束できるか?」
「ああ。千枝先輩みたいに単独行動はしない。約束する。」
「あたしみたいにって酷くない!?」
千枝は何事かを言うが、悠と烈は軽くスルーした。
「…クマ、眼鏡を用意してやってくれ。」
「相棒!?」
「あ…ありがとう、悠先輩!」
狼狽える陽介の横で、烈が悠に礼を述べる。それを見た陽介も、頭を抑えて溜息を吐き、「しゃーねぇな…。」と呟く。どうやら認めてくれるようだ。
「烈、絶対に俺達から離れるんじゃねぇぞ!」
「ああ、わかってる。みんなの足手纏いになるような事はしない。」
烈は力強い眼差しで陽介に答える。どうやら、これなら大丈夫そうだ。
「…さて、今は時間が惜しい。さっさと入れ。」
「おう!」
全員、急いで神殿内へと入った。その足取りはどこか、力強かった。
- 冷酷なる御霊 その五 ( No.550 )
- 日時: 2015/01/20 21:32
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
テレビの中に入った一同は、目の前に広がる光景に驚いていた。
「ちょ、ちょっとこれ…! あの場所と同じ場所!?」
いつもテレビに入る際に見ているスタジオのようなエントランス。その光景と同じ風景が飛び込んできたのだ。
「そうクマ。クマも驚いた。スーチャンちのリビングとジュネスのあの場所、入口があんまり離れていなかったみたいなんだクマ。だから、みんなのダンジョンもすぐ行けるクマよ。」
「…あんまりいい思い出ないから、ちょっと行きたくないんだけど…。」
雪子は苦笑いを浮かべながらクマに言う。確かに、自分の衝撃的なシャドウが暴れた記憶が詰まった場所になど、好んで行きたくはない。
「しかし、何故また霧が…。」
眼鏡をかけた直斗は辺りを見回し、苦々しげに呟いた。
ラビリスの事件の時にはなかった深い霧が、再び発生しているのだ。
「そこは、クマにもよくわからんクマ。クマも入ってみてビックリしたクマ。でも、あの時と同じ霧だというのは、なんとなくわかるクマ。」
「本当に何にも見えねぇんだな…。おっと!」
視界が悪いせいで烈はよろけ、出口用のクマテレビにぶつかったようだ。
「あ、そうだ、烈君、眼鏡ないんだっけ。クマ君、眼鏡出してあげて。」
「ホイキタクマ!」
クマはゴソゴソとどこかを漁る。そして取り出したのは、陽介と似たようなフレームの眼鏡だ。
…但し、そのフレームの色は…。
「…おいクマ、これネタか? 俺の担当曲作ったコンポザさんと同じ色なんだけど。」
そう、何故か烈の担当楽曲の生みの親である方と同じ、白縁の眼鏡なのだ。
「急ごしらえだから、それしかなかっただけクマよ。」
「れ、烈君、か、かけて、早くかけて…ブフッ!」
「かける前から何笑ってんだよ雪子先輩! たくっ…。」
烈は笑いが止まらない雪子を見ながら、眼鏡をかける。
「おー、すげ…。ホントに見えるようにn」
「ブッ! アハハッ! や、やばっ、のっ、ノンビリ坊やがっ! PONさんがいるっ! アハハハハハハッ!」
「うるせぇよ雪子先輩! って、何で悠先輩まで笑ってんだよ! おい、直斗にりせ! お前らまで笑うな!」
「すっ、すみませ…プフッ!」
直斗は謝ろうとしてくれているが、笑っているので誠意は伝わっていないだろう。
ただ、他のメンバーは謝罪もせずに笑っているだけなので、直斗より罪は重い。
「…あー、うん。何か分かるっちゃ分かるな。」
「雪子、笑ってる場合じゃないでしょ。」
「クマ吉、他の眼鏡あるか? 流石にウルセェ。」
笑っている場合ではないと悟っているのか、烈からの仕返しが来ると予想したのか、陽介、千枝、完二は溜息を吐きつつ、クマに他のがないか促した。
「他のって言ったら、これしかないクマ。」
「ブフッ!」
そう言ってクマが取り出したのは、パーティーグッズでお馴染みの、あの鼻眼鏡。
取り出した瞬間、雪子と悠は更に腹筋崩壊したようだ。お腹を抱えて笑っている。これには笑っていなかった三人も思わず吹き出してしまった。
「れ、烈君、か、かけ…ブフゥッ!」
「絶対かけねぇよ! もういい! 白縁で行く! おいりせ! 笑ってねぇでさっさとサーチしろ!」
「ケホッ、ゴホッ…。あー、笑った笑った。…そうだね。時間もないし、こっからは真面目に行くよ。ヒミコッ!」
むせていたかと思えば、急に真面目な顔つきになり、ヒミコを呼び出してサーチを始める。
「…うん、やっぱり氷海ちゃん、ここにいる…。微弱だけど、感じるよ。」
「やっぱり本当に…! りせ、場所は!?」
「…大丈夫。気配を辿れるくらいは分かる。」
そしてりせはヒミコを戻し、全員に向き直った。
「案内するよ。着いてきて。」
全員、りせの言葉に頷き、彼女を先頭に歩き始めた。
- 冷酷なる御霊 その六 ( No.551 )
- 日時: 2015/01/20 22:16
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
辿り着いた場所は、全面鏡貼りの、大きな館だった。
まるで氷のように透き通った美しい場所だと、全員同じような第一印象を抱いた。
「綺麗…。」
「こんなに美しい建物、見た事がありません…。」
あまりにも美しいその建物に、千枝と直斗は息を飲む。言葉では言い表せないその建物に、ただただ、綺麗と誉める他なかった。
「ここに、氷海がいるのか?」
烈に問われ、りせは再度ヒミコを呼び出し、サーチをする。
「…うん、この奥にいるよ。間違いない。」
「なら、さっさと助けに行ってやらねぇと…!」
「落ち着け、烈。気持ちは分かるが、約束を破る気か?」
「…だよな。ごめん、悠先輩。」
焦る烈に、悠は冷静になるよう促す。烈はそれにより、落ち着きを見せるも、焦る気持ちは変わらない。
「…あれ?」
そんな中、雪子は入口にあるドアを見て、首を傾げていた。
「どうした? 天城。」
「鳴上君、これ…。」
雪子は悠に入口を指し示す。そこには、女性の絵が描かれたカードがあった。
そのカードを、雪子は見覚えがあった。
「このタロットカード…私のアルカナ…“女教皇”だよね?」
「あ、ああ。」
「何で氷海ちゃんのダンジョンにこれがあるのかな?」
首を傾げる雪子。悠には何故ここにカードがあるか、何となく理解していた。
「それは、俺と氷海が、“女教皇”のコミュニティで結ばれているからだろう。」
「えっ!?」
これには全員驚き、悠を見た。
「アルカナの重複なんてあり得るの?」
「あり得るかと言うか…天城達との絆とは別に、氷海達との絆を結んだんだ。新天地に来て、別の絆を育めと言う事だろうと、マーガレットは言っていた。」
「じゃあ、あたし達と鳴上君、氷海ちゃん達と鳴上君の絆は別物なんだ…。」
「別物ならば、アルカナの重複はあってもおかしくはありませんね。」
千枝と直斗が纏めた言葉に、悠は頷きを返すだけだった。
「鳴上君、ちなみに聞くけど、今現在新しい絆が判明しているのって何人?」
「今判明しているのは氷海を含め、四人だ。氷海、鈴花、昴さん。そして…烈、お前だ。」
「俺も!?」
「ここに来て、初めてコミュニティが発生したのが、お前との“運命”コミュだった。」
「う、運命か…。あ、直斗、一緒だな。」
何故自分が運命かすぐにわかったのか、苦い顔をした後、すぐに同じアルカナの存在に気づき、直斗を見た。
「はい、僕と一緒ですか…。嬉しいような、何か複雑なような…。」
「ツッコミの星は、引かれ合うものなのかな…。」
遠い目をして明後日の方角を見る烈と直斗。
「…お二人さん、気持ちは分からないでもないけどさ、氷海ちゃんの救出、行かないのか?」
「っと、そうだった!」
陽介の言葉に、元に戻ってくる烈。
「相棒、アルカナ談義は後にして、さっさと行こうぜ。」
「ああ、行こう。りせ、警戒は任せた。」
「任せて!」
ヒミコを呼び出し、準備万端な悠達は、中へと入って行った。
- 冷酷なる御霊 その七 ( No.552 )
- 日時: 2015/01/20 22:27
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
館の中は、どこか冷たい空気が漂う、至る所鏡だらけな空間だった。
—初めは、生意気な生徒だと思っていた。
「…! 氷海ッ!?」
中に足を踏み入れた瞬間、氷海の声が聞こえた。
—学校へは遅刻ばかりで、授業中は寝てばかり。何度ノートを写させてくれって頼まれたか、分からない。
「…。」
氷海の言葉に、烈は顔を覆って踞る。そんな彼を、同情の視線で見る一同。言葉はかけられない。何だか分からないが、かけられなかった。
—バトルして、あんな生意気な生徒に負けたと思うと、腹立たしかった。あんな中途覚醒の子に、生まれ持った私の力が及ばなかったのが、悔しかった。
イライラしたような、強い口調。だが、次の瞬間、
—けど…いつからだったかは分からない。いつの間にか、私の中で烈は、大きな存在になっていた。
戸惑いが混じったかのような言葉。だが、その言葉に混じり、どこか優しいトーンを含んでいた。
—烈を見る度に、胸が高鳴ってしまう…。これが…“恋心”というものなのかしらね…。
その言葉の後、氷海の声は聞こえなくなった。
「氷海さんも、初恋だったんですね。」
「戸惑ったろうな、氷海ちゃん…。あんなに悔しい思いをした相手が…いつの間にか、大きく膨らんでいったんだもん…。」
「…何で、そんな思いを抱いていながら、俺を好きになったんだ…?」
りせの言葉の後、烈は戸惑いの色を隠さずに、誰かに問いかけるように聞いた。
「何で、って言う程の大きなきっかけはないと思う。色々な小さな事が重なって、いつしか、氷海ちゃんが気が付かない内に、心の中で烈君が大きくなっていったんだと思う。」
「雪子先輩、何でそう思うんだ? 好きって言うのにも、きっときっかけとか、必要じゃないのか? いつの間に、って言うのも、おかしくないか?」
雪子の話に、烈は再び戸惑いの色を見せながら訪ねる。
「きっかけなんかない、いつの間にか芽生えてる恋心って言うのもあると思うよ? だって、そこにいる千枝と花村君だってそうじゃない。」
「何でこっちを引き合いに出す!?」
突然自分達に振られ、陽介と千枝は思わず顔を赤くしながら驚いて雪子を見る。
「事実でしょ? 千枝だって、あの事件が終わった辺りから、花村君を思い始めていたんでしょ?」
「え、何で知って」
「バレバレだったよ? 気づいたら花村君を目で追ってたし、花村君が休みだと、溜息ついてたよね?」
「さ、里中、そうだったのか…?」
「わーっ! わーっ! ちっ、ちがっ、違うのーっ!!」
顔を真っ赤にして訳も分からず喚き立てる千枝。かなり慌ただしく動いている。
「直斗君や完二君だって、凪君や鈴花ちゃんの事をいつのm」
「天城先輩、それ以上言うと引き金を引きますよ?」
「女だからって容赦しねぇぜ?」
あまり触れられたくないのか、顔を赤くしながらも鋭い視線で拳銃をスタンバイさせる直斗と、指をポキポキ鳴らし始める完二。
「…とにかく、恋心にきっかけ何か必要ないよ。むしろ、何故と問いかけられても、わからないって答える恋心の方が多いんじゃないかな? ネタ集めに人間観察していると、そう思うよ?」
「最後の一文で何か聞いて損した気分になるんだけど、雪子先輩。」
確かに最後の一文はいらないだろう。と千枝は心の中で思うも、烈が既にツッコミを入れていたので、もう何も言わなかった。
「と、とにかくっ、実際、そんな恋心が多いと思うのは私も同…!」
りせが烈に何かを言おうとした時、何か強い気配を感じ、ヒミコを呼び出した。
- 冷酷なる御霊 その八 ( No.553 )
- 日時: 2015/01/20 22:42
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: fhgz9KYE)
「みんなっ、構えて! シャドウが来るよ!」
「!?」
その言葉に、全員武器を取りだし、構える。
程なくして、頭に布のようなものを被り、あぐらをかいて白い椅子に座った女性のようなシャドウが三体現れる。
「敵、狂乱のマリア三体! 大丈夫、慎重に行けば勝てるよ!」
「よしっ、行くぞ!」
悠は先制攻撃とでも言うように、十握剣を振るう。
狂乱のマリアはもがき苦しむも、まだ平気なようだ。
「センパイ、普通に効いてるだけみたい! 確かこいつの弱点は…!」
過去に出会った事がある敵のデータを引き出し、りせは頷く。
「火炎と闇が弱点だよ! だから雪子センパイ、【アギダイン】か【ムドオン】をお願いっ! 直斗君も【マハムドオン】をっ!」
「む、【ムドオン】覚えてたんっすか、雪子先輩…。」
「きっちりMAXまで絆を深めたからな。」
いい顔をして答える悠。その辺りは抜かりないようだ。
「直斗君、取り逃がした奴を私がやる!」
「わかりました、お願いします! スクナヒコナ、【マハムドオン】!」
スクナヒコナが身構えると同時に、辺りが深い闇に包まれた。
その闇に当てられた狂乱のマリアは、もがき苦しみながら消えていった。
「雪子センパイ、一体残った!」
「了解! 後は私が…!」
「! 先輩、あぶねぇっ!」
残った狂乱のマリアが雪子目掛けて襲いかかってきたのだ。
「なっ!?(やばっ、コノハナサクヤを呼び出す前に来る!)」
「先輩、伏せろ!」
烈が後ろから焔を飛ばし、狂乱のマリアに当てた。
だが、一瞬の間、怯んだだけだ。
「ダメっ、烈の攻撃、まったく効いてない!」
「やっぱペルソナないと駄目か…!」
「でも、怯ませてくれただけでも感謝だよ! コノハナサクヤ!」
一瞬の隙、その隙に、雪子は原初の海でカードを叩き壊し、コノハナサクヤを召喚する。
「ダウン狙いで行くよ! コノハナサクヤ、【アギダイン】!」
大きな炎が狂乱のマリアを襲い、そのまま消滅させた。
「あ、あれ、倒しちゃった。ま、いっか。」
ダウン狙いの筈が、倒してしまい、戸惑う雪子だが、結果オーライなのでよしとしたようだ。
『あらあら、お客様がいらっしゃったようですね。それも大人数。』
「!」
戦いを終え、一息ついている間に、クスクスと笑い声を上げながら現れたのは、胸元に雪の結晶をあしらったブローチを付け、ピンクと白を基調としたフリフリのドレスに身を纏い、髪型をポニーテールにした氷海だった。
肩と胸元は大きく出ており、氷海の豊満な胸が露になっている為、烈以外の男性陣は生唾を飲み、完二は鼻を押さえていた。
その烈はと言うと、千枝の影に隠れており、見えなかった。
(花村、あとでどーん!してやる。)
「ち、千枝先輩、何で俺を隠すんだ?」
「マヨナカテレビでは、烈君の事を呼んでたし…それに、何となくあんな氷海ちゃんを烈君には見せたくない。」
氷海の狙いは烈であり、それに、流石にあんならしからぬ氷海を見て、烈が答えを悪い方に導かないとも限らない為、千枝は小声で烈に理由を説明する。
『それでは、そろそろ始めましょうか。“咲かせて見せよう恋の花! 真実を映す鏡と私のマヨナカ恋愛相談室!”を!』
氷海がそう宣言すると同時に、周りから歓声が聞こえる。
「私達の時と、まったく同じ…!」
「本当にあの事件はまだ終わっていなかったみたいだね…! ほらそろそろ鼻の下伸ばしてないで元に戻んなさいよ! 男子!」
雪子と千枝は警戒し、鼻の下を伸ばしている男性陣をひっぱたき、元に戻す。
『最初の相談者は、そうね…。貴方にしようかしら。』
「お、オレ!?」
『そう、貴方よ、完二。』
そう言って狙いを定めたのは、完二。氷海は完二を上空から降りてきた大きな鏡に映し出し、見る。
『…あら、鈴花の事を口ではライバルだと言っていたけれど、本当は普通に一人の女性としてみていたのね。』
「あ、うわあぁぁぁぁっ! やめろ! オレの心を覗くんじゃねぇ!」
心の中に眠らせていた鈴花への思いを言い当てられ、完二は思わず叫ぶ。
「…隠してても、バレッバレだけどね。鈴花ちゃんは気付いているかどうか分からないけど。」
「久慈川さん、それは今言わないでおきましょう。先輩ではありませんが、そっとしておきましょう。」
そんな完二の慌てっぷりを横目に、りせと直斗はこそこそと話し出す。
『案外、鈴花も満更でもないかも知れないわ。思い切って告白してみたら?』
「あ、う…!」
完二は口を閉ざし、どうしたらいいのか分からなくなり、その場で狼狽えてしまった。
「完二、乗せられるな! これはあくまで氷海のシャドウの言葉…!」
『いいえ、私の言葉ではなく、今のは完二の心の叫び。』
氷海は目の前に置かれた鏡を見つめながら、にこりと微笑んだ。
『この鏡は真実を映し出す。この鏡の前では嘘をつけない。…だから、私はこの鏡で、彼を…烈を映し出したいの。』
「!?」
突然、自分の名前が出てきて驚いた烈は、思わず千枝の影から飛び出そうとしたが、
「烈君、駄目!」
雪子に小声で静止された。
烈は渋々、千枝の影に再び隠れる。
「その鏡に烈を映して、どうするつもりだ?」
『決まっているじゃない、陽介先輩。…彼の本心を聞きたいの。』
そう言って、氷海は千枝を指差した。
『千枝先輩、そこに烈がいるのは分かっているわ。退いて頂戴。』
「氷海ちゃん! そんな無理矢理烈君の本心を知っていいの!? 烈君の口から語って貰った方が」
『それは駄目。優しい言葉の裏に、本心を隠している可能性があるもの。だから、知りたいの。烈の本音を…。さぁ、退いて頂戴、千枝先輩。』
氷海は鏡に千枝を映し、微笑んだ。
『でないと…陽介先輩を下の名前で呼びたいのに、恥ずかしくて呼べn』
「わーわーわーわーっ!! ど、退くっ! 退くからそれだけは言わないでえぇぇぇっ!!」
(…おい、千枝先輩と陽介先輩って似た者同士か? 下の名前で呼ばない理由が同じなんだけど。)
烈は心の中でそう思いながら、溜息をついた。結局、自分の姿は露になってしまった。
『あぁ、烈! 逢いたかったわ!』
「氷海、もうやめろ! 人の本心なんか暴露したって、そいつが困るだけだろ!? 人には秘密にしておきたい事だってあるんだ!」
『知っているわ。そんな事くらい。』
「じゃあ何で!」
不意に、体が暖かくなるのを感じた。誰かに抱きしめられていると悟るまで、時間は要らなかった。
『…何で? 決まっているじゃない。好きな人の事は、心の奥底まで…知りたいもの。』
氷海は烈を抱きしめ、にこりと微笑んだ。
そして目の前に鏡を出現させ、覗き込む。
『…不安、戸惑い、迷い…。これは、私への答えを迷わせている原因ね。赤い、炎にまかれた建物が見えるわ。ここは…』
「! やめろっ!! それ以上見るなっ!!」
烈は焔を飛ばし、氷海の目の前にあった鏡に当てる。
鏡は大きな音を立て、粉々に割れた。
『…烈、貴方は…』
「それ以上、言うなっ!」
烈は何度も、氷海に向けて焔を飛ばす。
「烈、やめろ! 落ち着けよっ!」
陽介は必死に止めようとするが、焔の勢いが強すぎて、迂闊に近づけない。
そんな中、氷海はまるで焔なんてないかのように、優雅に烈に近づき、そして…。
「…!?」
烈を抱き締め、その唇に自らの唇を重ね合わせたのだ。
突然の事に、烈の頭は真っ白になり、焔が消える。周りのみんなも、驚いて二人を見ていた。
『そんな迷いを、私が断ち切ってあげる…。さぁ、私と一緒に行きましょう、烈。』
「あ…。」
烈の腕から、力が抜ける。そしてそのまま氷海に寄りかかり、目を閉じた。
「烈君!?」
「睡眠状態になってる…! 多分、さっきのチュウで薬を…!?」
『当たりよ、りせ。こうでもしないと、烈を連れて行けないわ。大人しく連れて行かれるような子じゃないもの。』
氷海はその腕に烈を抱き締めながら、指を鳴らした。
すると、ペーシェ系、マリア系のシャドウが沢山現れる。いずれも、女教皇のアルカナを持つシャドウだ。
『貴方達はこの子達と遊んでいて。私は烈と一緒に過ごすわ。…永遠に。』
その言葉を残し、氷海は溶けるように消えていった。その腕に抱かれた、烈と共に。
「烈!」
「センパイ! 今は烈よりもこっち! これを切り抜けなきゃ、烈を助けるどころか、私達が死体になっちゃう!」
「…くそっ!」
悠は悪態をつきながらも、十握剣を握り締めた。
「みんな、構えろ! 一気に倒して、切り抜ける!」
「おう!」
リーダーの士気を高める言葉に、全員武器を手に取り、りせはサーチの準備を始める。
(烈、無事でいてくれ…!)
そして、大量のシャドウ達へと、それぞれ向かっていった…。
■
「烈君が…!」
「アタシ達は中の事はさっぱりだったが…こんな事が起こってたとはな…。」
「あの時は本当に焦った。氷海ちゃんばかりか、烈まで危険な目に…!」
りせは真剣な表情を浮かべながらも、どこか苦しげだ。恐らく、当時の事を思い出したのだろう。
「…アイツがあんな状態だったのも納得。」
「流石に、強すぎる氷の前では烈さんの焔も歯が立たなかったのですね…。」
「…次、行くぞ。」
昴はそっと、ノートのページをめくった。
■
私—関係ない事を言うけどね。第六回料理対決は、りゅーとさんのくれた案で行こうと思うの。
昴「ああ、スミス氏が来るアレか。」
私—で、今ちょっとくじ引きアプリで出場者決めをやってみたんだけど…。波 乱 が 起 き た 。
昴「」
私—言っておくね。ス ミ ス 氏 死 亡 フ ラ グ 立 っ た 。あ、勿論、ア ン タ 等 も 。
昴「」※気絶
私—…あ、感想どうぞ。