二次創作小説(映像)※倉庫ログ

氷雪の女王 その一 ( No.563 )
日時: 2015/01/22 21:36
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

蠢く大量のシャドウ。りせは早速サーチを開始する。

「敵、うわ、五十体!? こんなにシャドウだらけなの初めてだよ! しかも個体は全部バラバラ! 共通しているのは、“女教皇”のアルカナ持ちって言うだけだよ!」
「狼狽えるんじゃねぇよ、りせ! 先手必勝だ! おらぁっ!」

完二はペルーンプレートを目の前にいた壷に入った女性型のシャドウ、囲ひ女の壷に叩きつけようとした。

「わーっ! バ完二! そいつは…!」
「ぐはっ!」

ペルーンプレートが囲ひ女の壷に触れる前に、バリアのようなものが展開され、完二に攻撃が跳ね返る。

「そいつは物理攻撃を反射するのっ! もうっ、これで注意何度目!?」
「う、うるせぇな! ペルソナ!」

完二はりせに悪態をつきながらも、タケミカヅチを召喚し、【ジオダイン】で一気に葬り去る。

「弱点属性がバラバラだとやりにくいな…! 急いで二人の元に行きたいのに…!」

直斗は苦々しげに呟き、本のような物を頭に乗せた白いシャドウ、怒りの聖典にブラックホールから銃弾を放ち、ダウンを奪う。
ここにいる誰よりも、クラスメイトとして、二人を側で長い間見てきた直斗は二人を一番心配していた。

「直斗、【コンセントレイト】だ! 【メギドラオン】で一気に叩くぞ!」
「そうですね! スクナヒコナ、【コンセントレイト】です!」
「ルシファー、【コンセントレイト】!」

厄介である耐性や無効、反射がない、強化された万能魔法で一掃しようと、直斗と悠はスクナヒコナとルシファーを召喚し、自身を高めた。

「おまけクマ! キントキドウジ、【マハラクンダ】クマ!」

更にクマが敵の防御力を下げるスキルを使い、準備は整った。

「行きますよ! スクナヒコナ、【メギドラオン】!」
「ルシファー! 【明けの明星】だ!」

強烈な力の塊が舞い降りてきたかと思うと、それが一気に拡散し、物凄い風圧が襲い掛かった。

「うわっ!」
「きゃあっ!」

それは周りの仲間達にも影響し、風圧で飛ばされないよう互いが互いに支え合って何とか耐えた。
シャドウ達は強化された万能属性魔法になすすべもなく消失していく。だが、まだ何体か残っていたようだ。

「今ので粗方減って、残り囲ひ女の壷三体! 四属性ならどれでも効くよ!」
「それなら、スサノオ! 【マハガルダイン】でダウンを狙え!」

陽介のスサノオが放った風は、囲ひ女の壷を的確に捉え、ダウンさせた。

「よしっ、怯んだ! 仕掛けるよ!」
「ああ、行くぞ! 総攻撃だ!」
「万能属性が効き難いけど、センパイと直斗君の一撃で弱ってるから倒せるよ! さぁ、行くよ! アーユーレディ!?」
「逃さない!」

りせが号令を出し、全員、残りの囲ひ女の壷に向かっていく。
暫く殴りつけた後、囲ひ女の壷は消失していった。

「さっ、次行きましょうか。」

雪子が扇子で扇ぎながらにこやかに微笑んだ。

「次に行きたいが、まずは烈と氷海のシャドウがどこに行ったかを把握しないと。りせ、サーチを頼む。」
「分かった。烈も心配だし、ぱぱっとサーチしちゃうね。ヒミコ!」

悠の指示でりせはサーチを開始する。その表情はどこか焦りの色が見える。

(…まさか、烈が攫われるなんて思ってなかった…。早く探し出さないと、氷海ちゃんだけじゃなく、烈まで…!)

焦れば焦るほど、サーチの精度が鈍る。だが、どうしても、烈が攫われた瞬間を思い出してしまい、それがサーチを鈍らせる。

—大丈夫。
「!?」

不意に、声が聞こえた気がして、りせはハッと顔を上げる。声の主はこの場にいないはずなのに、不思議と、その場にいるような感覚がした。

(…そうだね、大丈夫。…烈と氷海ちゃんを探し出せるのは、私だけなんだから。だから、焦っちゃ駄目だよね、昴お姉ちゃん。)

彼女はテレビの中へは干渉できないと聞いていた筈なのだが、それでも、胸元に入れた創世手帳は暖かく感じられる。彼女が側にいるような気がして、りせは安心した。それと同時に、焦りも消える。

「…うん、烈も氷海ちゃんも、最深部にいるみたい。氷海ちゃんのシャドウは離れてるみたいだね。多分、烈の眠りは相当深いから放って置いても大丈夫とか思ったのかも。」
「クマのハナセンサーも同じ意見だクマ。とにかく、奥に向かっていけばきっとレツ達に会えるクマ。」
「居場所も分かったし、行こうよ、みんな。」

急かす雪子に、全員頷いてから先に進んだ。

氷雪の女王 その二 ( No.564 )
日時: 2015/01/22 21:41
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

—最初は、この恋が報われないなら、いっその事、烈の事を諦めて、他の人を好きになろうとしました。

暫く進んで見えた氷の階段を上ると、そこでまた声が聞こえた。

—烈は鈍感で、そして、どこか、私達に一線を引いている面がありましたから、報われないとは、早い段階で分かっていました。

切ない氷海の声が、辺りに響き渡り、全員、悲しそうな表情を浮かべた。

—でも…それでも、あんな事があっても、烈の事を諦めきれない自分がいるんです。

だから、と、繋げ、

—私は、烈の事を愛し続けます。報われなくても、気付いてくれなくても。…この感情を否定するのは、私には、できませんから…。

悲しくも優しい言葉が、強い氷海の決意が、届けられる。
そして、氷海の声が聞こえなくなった。

「…今の、誰と話していたのでしょうか?」

誰かとの会話のようだと思った直斗は、首を傾げながら仲間に問いかけた。

「私、だね。」
「えっ!? 雪子、氷海ちゃんちに行ったの!?」

雪子がそう言ったので驚いた千枝は思わず聞き返した。

「うん。何だか、行かなきゃいけない気がして、氷海ちゃんが入れられる前々日にちょっとね。今思えば、同じアルカナだから、何か感じたんじゃないかなって思う。」

そう言って雪子は前を向き、少しだけ歩いた。

「最初は、報われない恋に諦めようとしていた。…烈君に打ち明けて悪い方向に変わるくらいなら、きっぱり諦めようとしていたんだ。でも…。」
「それが、出来なかったんだね。烈君を諦めきれない自分に気付いたんだね…。」

千枝の言葉に、雪子は頷く。

「…ここまで本気で恋をしたのは初めてだって言ってた。だから、諦めたくなかったんじゃないかな。忘れる事が出来なかったんじゃないかな?」
「氷海にとっちゃぁ、それ程、本気の恋、だったんッスね…。」
「…ヒーチャンのシャドウは、レツが大好きすぎて仕方がないのが歪んで、それが形になったクマね…。ヒーチャンのレツへの思いが歪んだ形になって、ああやってレツを攫っていったんだクマ…。」

氷海の、烈への強い思いが、ああして歪んだ形をとったシャドウ。
一同はそれに気が付き、悲しそうな表情を浮かべた。

「…烈君、凄く幸せ者だね。こんなにも思われてるのに鈍感って、どんな大馬鹿者なんだか。」
「一線を引いているとも言ってたよ。きっと、さっき氷海ちゃんが見たっていう、燃え盛る建物…。それが、烈がみんなと一線を引く理由なんじゃないかな?」
「過去に縛られ続ける烈君と、そんな烈君を思う氷海さん、か…。」

直斗はポツリと呟いた。近くにいたのに、それに気付けなかった自分を少しだけ悔やみながら。

「…氷海ちゃんは奥にいるんだよね? なら、立ち止まっていないで行こう?」

雪子が感傷に浸っていた一同に向けて言う。その目は、真剣だった。

「そうだな。ここで話していても仕方がない。」
「だな。時間もないし、助ける人数も増えちまったし、さっさと行こうぜ。」

一同は互いに顔を見合わせ頷き、走り出した。

氷雪の女王 その三 ( No.565 )
日時: 2015/01/22 21:47
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

シャドウと戦いながらも、一同は奥へと進む。

「…! 待って!」

大きな扉の前に辿り着いた時、りせがヒミコを呼び出し、サーチを始めた。

「この先、強い力を感じる。もしかしたら、氷海ちゃんのシャドウかも…!」
「…みんな、心してかかれ。」

取っ手を握った悠の言葉に、全員頷く。
そして、悠は勢いよく扉を開いた。

『あらあら、またいらして下さったのですか?』
「好きで来た訳ではありません。…烈君を連れていないようですが、彼をどうしたんですか?」

直斗が問いかけると、氷海はクスッ、と笑った。

『烈なら、奥で眠っているわ。…邪魔も入らなさそうだし、寝込みを襲って、烈とここじゃ言えないような大人の行為をしてもよかったのだけれど…。するなら起きている状態でゆっくり、って考えて…やめたわ。』

想像しているのか、ウットリとした様子で語る氷海。その色っぽい仕草に、男性陣はまたも生唾を飲み、完二は鼻を押さえる。

「(あたしと言うのがいながら…アイツーっ!)…花村、後でどーん!一回追加。」
「ひぃっ!? ゴメンナサイ!」

流石に千枝の怒りを感じ取ったのか、陽介は元に戻り、彼女に全力で謝罪した。

「烈君が奥にいるのはわかりました。では、すぐにそこを退いていただけませんか?」
『焦らないの、直斗。私の鑑定は、終わっていないわ。』

そう言って直斗の目の前に、鏡を出し、眺めた。

「!?」

直斗は思わず胸を庇うように体を抱える。

『心を隠そうとしても無駄よ。…あら、やはり凪の事を好きなのね。素直になれないのは意地かしら。』
「っ、意地なんかじゃ…!」
『それに…ウフフ、直斗もやはり女なのね…。凪と結婚して、楽しい生活を思い描いているわ…。あら、今すぐにでも凪と』
「あっ…! う、うわあぁぁっ! それ以上は見ないでっ!」

顔を赤くし、踞った直斗を、氷海はクスクスと笑う。

『探偵王子も、本当は女の子。それくらい欲望があっても構わないじゃない。何を躊躇い、遠慮するの?』
「氷海さんだってわかっているはずですよっ! そんな欲望を持っているって知られたら、嫌われてしまうかも知れない…それがっ、怖いんですよっ!」

直斗の言葉に、氷海は先程までの笑顔から一転、氷のような表情を浮かべ、直斗を蔑むように見た。

『確かにそれは怖い。だけど、言わないと何も始まらないわ。怖いから、今自分が抱えている思いを、相手に告げずに逃げるだけ。…それじゃ、何も変わらないわ。変わる訳がない。告げていいじゃない。打ち明けていいじゃない。何かが変わってしまうのは当たり前よ。だって、ただの“友達”や“仲間”から、特別な“恋人”になるのだから。』
「あ…。」
『凪には、貴方と“恋人”になる覚悟はあると思うわ。だけど、何も変わらないのは…今の貴方に、思いを告げる勇気がないからよ。』

そう、冷たく言い放った後、鏡を手元に戻し、笑顔を浮かべた。

『さぁ、次は誰を占おうかしら…。』

じぃっ、と一同を見回し、目を付けたのは…。

『…特に興味もないし、結果は何となく予測が付くけれど…悠先輩にしましょうか。』
「何か酷い言い草じゃないか!?」

興味なさそうに、渋々鏡を悠の前に出し、眺める氷海に、思わず言い放つ悠。

『…あらあら、これは、その…酷い、わ…。』
「えっ、どれどれ?」

興味を持ったのか、氷海の横から覗き込むりせ。覗き込んだ後、何と言い表していいか分からない表情を浮かべた。アイドルとしては浮かべていけない顔だ。

「うわぁ…あい先輩に綾音ちゃんと二股かけてるくせに、まだ狙うの?」
『昴さんに私に鈴花に雪花に…。転校して来たばかりの葉月先輩に由梨先輩に理乃先輩まで…。あら、セシルにまだ幼そうなリリィまで狙っているわ。盛んねー。まぁ、誰もフラグを立てようとはしていないみたいだけれど。』
「いや、いつかきっと俺の魅力に気がついてハーレム状態になるはずだ!」
「…。」

直斗に寄り添っていた千枝はゆっくりと立ち上がり、そして…。

「女の敵いぃぃぃっ!」
「ぎゃあぁぁぁぁっ!」

悠の背中から、どーん!をかました。哀れ、悠は屋敷の壁まで吹き飛ばされ、そのままずるずると落ちた。

『ちょっと、流石にこれは粛清しないと気がすまないわ。』

そう言って氷海は指を鳴らした。
すると、椅子に座った紫色のシャドウ、解放のマリアが現れた。
いつもなら悠達より少し大きいサイズなのだが…。

「な、何これ…! 何か、変だよ!? 大きさもそうだけど…。」

遥かに、大きかった。自分達が知るサイズよりも、遥かに。この部屋を埋め尽くす程はないが、それぐらい大きい。
だが、りせによれば、それ以外にも変なところがあるらしい。

「アナライズ情報が消えてる! もしかしたら、私達が戦った解放のマリアとは別物なのかも!」
『さぁ、どうかしらね…。』

氷海はクスクス笑いながら、消えていった。

「くそっ! ここに来て強敵登場ってか!?」
「花村センパイ! 右に避けてっ!」
「!」

りせの指示に従い、陽介はすぐに右に避ける。
直後、陽介のいる地面が凍りついた。

「うえ…! おい、りせ! あいつ確か…!」
「うん、ブフ系はない筈…!」
「とにかく、みんな、構えろ! とっとと切り抜けて烈と氷海ちゃんの所に急ぐぞ!」
「おう!」

全員、陽介の指示で戦闘体勢をとった。

氷雪の女王 その四 ( No.566 )
日時: 2015/01/22 22:15
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

先制したのは、素早さの高い陽介だった。

「スサノオ! 試しに【ガルダイン】だ!」

陽介はスサノオを召喚し、【ガルダイン】を放つよう命じる。すぐにスサノオはそれを実行し、風を放った。

「花村センパイ! 普通に効いてるだけ! 無効化とか反射とかもしないみたい!」
「了解! ガル系は駄目か…! 確かこいつの本来の弱点って…!」
「アギ系だけど、雪子センパイは耐性までだから、ちょっと賭けになるかも…! 悠センパ…いやいや、あの女の敵が起きていれば、何とかなったけど…!」
「でも、恐れていちゃ始まらないよ!」

りせの言い直しを無視し、雪子は臆する事無く、コノハナサクヤを召喚し、【アギダイン】を放った。
すると、解放のマリアは怯んだ。

「うん! 効いた! 火炎の弱点は変わってない!」
「よしっ、総攻撃チャンス! さぁ、行くよ! 花村君!」

悠が先程の千枝の一撃で倒れてしまった為、総攻撃の許可を陽介に取った。

「ああ、行くぜ! みんな!」
「おう!」

全員、解放のマリアに向かって走っていく。

『!』
「あ、うわっ!」

だが、解放のマリアは怯んでいても体力はまだ残っており、全員弾き飛ばされてしまった。

「くそっ! りせんとこのダンジョンで出てきたのとは桁違いかよ!」
「でも、弱点はあんまり変わってないと思う! あ…だけど、ボスクラスの強さを持つなら、光属性の弱点は消えてるかも…!」
「でも、試しに放ってみても損はないですよね。」

直斗は舞い降りてきた運命のカードに、ブラックホールの銃口を当てた。

「直斗君!? だ、大丈夫なの!?」
「僕には耐性があるので、跳ね返っても恐らく平気です。スクナヒコナ! 試しに【マハンマオン】だ!」

スクナヒコナは直斗の声に答え、すぐに辺りに光を展開させ、お札を散らせた。
だが、解放のマリアは悠然と佇んでいる。特に効いていないみたいだ。

「光、まったく効いてない! 他のボスシャドウと同じく、無効みたい!」
「よしっ、それだけ分かれば十分だ! 天城は【アギダイン】でダウンを狙え! 里中と完二は物理スキル! クマは補助と回復を頼む! 直斗はちとコストわりぃが、【コンセントレイト】からの【メギドラオン】で攻撃しろ! ダウンが取れたら、全員総攻撃だ!」
「了解!」

陽介の指示に、全員頷いて従う。まるでリーダーのような振る舞いに、りせは少し、驚いていた。

(花村センパイ、何だか頼もしい…。色々相談に乗ってくれた烈が攫われて、どっかふっ切れてしっかりしたのかな? …正直、女の敵よりも指示は的確かも。もうリーダー交代しちゃってもいいんじゃないかな。)

などと考えながら、注意深くサーチを続けた。
そんな折、【チャージ】からの千枝が【アグネヤストラ】、完二が【イノセントタック】を放つ。解放のマリアはよろけたが、ダウンをとるまでは行かなかったようだ。

「千枝センパイ、完二! 物理、特になしだよ! そのまま続けちゃって!」
「了解!」
「おうよ!」

千枝と完二が返したすぐ後、解放のマリアは完二を見つめていた事にりせは気がつく。
すると、冷たい冷気が高まるのを感じた。

「完二! そっちに【ブフダイン】が来る!」
「何ぃっ!?」
「完二君、あたしの後ろに!」

スズカゴンゲンになってから、自分は氷結属性を無効化する事が出来るようになった千枝は、完二を後ろに庇った。
直後、特大の【ブフダイン】がやってきた。

「氷結なら効かな」

千枝の言葉を遮るかのように、彼女の体が凍りついた。

「(えっ…!?)うあっ、きゃっ!」

氷はすぐに割れ、その衝撃で完二の元まで飛ばされた。

「千枝!?」
「里中!?」
「うおっと! 里中センパイ!? だっ、大丈夫ッスか!?」

千枝を受け止めた完二は、すぐに彼女を心配する。少し凍傷が出来ているが、何とか無事のようだ。

「いったー…! 何で…!? スズカになってから、氷結が無効になった筈なのに…! それに、【氷結ガードキル】なんかも使われてなかった筈!」

氷結属性が無効であり、尚且つその無効を打ち消す魔法も放たれなかった筈なのに、こうしてダメージを受けている事に疑問を持った千枝は、痛みに呻きながらも考えを巡らせた。

「…! わかった、それだよ、千枝センパイ!」
「へ?」
「更にサーチしてみて分かったんだけど、こいつ、常に【氷結ガードキル】をみんなにしてるみたいなの!」
「ど、どういう事だよ、りせ!」

りせの放った一言に、完二は首を傾げてしまった。

「女の敵のペルソナが覚える【マハ〜オート】とかと性能は一緒のものが、永続的に展開されてるみたいなの! 敢えて名づけるなら【マハ氷結ガードキルオート】みたいな感じかな。」
「どんだけチートスキルだよ! とにかく、クマ、里中! お前らもブフ系の魔法に気をつけておけ! 天城は言わずもがなだ! 天城が危なさそうだったら…そうだな、クマ、お前が庇え! そこそこ魔法の方の耐性があっからな!」
「了解クマ!」
「作戦は変えねぇ! さっきの指示通り動いてくれ!」

作戦の変更をせずに、再び立ち向かう陽介達。

「ダウン狙い行くよ! コノハナサクヤ!」

再びコノハナサクヤを呼び出し、【アギダイン】を頼む。
そして再びダウンを取り、陽介を見た。

「このチャンス、逃がさない!」
「行くぞ、総攻撃だ!」
「ダメージは減ってるけど、まだまだ元気っぽいよ! 油断しないでね! みんな、準備オッケー?」
「おう!」

りせの掛け声と共に、全員再び解放のマリアへと向かっていく。

「いっけー! ボコボコにしちゃえーっ!」

アイドルの声援が力になったのか、先程よりもダメージを多く与えられた気がした。
だが、まだ立ち上がる力はあるようだ。

「多分、後一回くらいで倒れるかも!」
「それなら、僕が!」

直斗はスクナヒコナを召喚し、解放のマリアを睨み付けた。

「【メギドラオン】!」

いつもより強めの力が、解放のマリアを襲った。どうやら【メギドラオン】を放つ前に、前もって【コンセントレイト】をかけていたようだ。
直斗の攻撃で、解放のマリアは消失した。

「力付くはあんまり好きじゃないんだけど…氷海さんと烈君の為に、そこを退いてもらいます。」

拳銃をクルリと回し、ホルスターに収めながら、直斗は一息ついた。

「よし、行こう、みんな。きっともうすぐ最深部だ。」
「おう!」

陽介の号令に、全員頷いた。











「…ところで、センセイ、あのままでいいクマか?」
「あ。」

…途中、悠を忘れていた事に気が付き、戻ったのは内密に…。

氷雪の女王 その五 ( No.567 )
日時: 2015/01/22 22:21
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

シャドウを倒しながら階段を上がっていくと、やがて、一際開けた場所に出る。
そこは、屋敷の屋上なのか、青空が見える。もっとも、霧が濃くて、綺麗な青空かどうかは分からなかったが。
そして視線を移すと、美しい氷の橋があり、その先に塔のような建物が見える。

「綺麗…。」
「菜々子ちゃんとこと、どっこいぐらいな綺麗さだな…。」

あまりにも美しいその場所に、息を呑む一同。

「…! みんな、この先、ヒーチャンとレツがいるクマ!」

そんな折、鼻をヒクつかせてこの辺りをサーチしていたクマが、一同にそう言った。

「何だって!?」
「クマの言う通りだよ。この先…この橋を渡った先にある部屋に、烈達はいる。多分、氷海ちゃんのシャドウもそこにいる。」

りせのサーチも加わり、信憑性が増した一同は、橋の先にある塔に向き直った。

「行くぞ、みんな!」
「…。」

悠の号令には、誰も答えない。

「…行こうぜ、みんな。烈と氷海ちゃんを助け出して、理乃ちゃん達が待つあの寮に帰って、うんまい飯をたらふく食おうぜ!」
「おう!」

だが、その後に放たれた陽介の言葉には、全員答えた。
哀れ、悠はその場でがっくりとうなだれてしまった。

「相棒ー! 置いてくぞー!」
「待ってくれ陽介ー!」

だがそんな暇を陽介から貰えず、泣く泣く先へと急ぐ事になった。
そして氷の橋を渡りきり、扉を潜る。
部屋の中は美しい氷のような傷一つない壁があり、先の方には赤い絨毯の敷かれた階段が見え、その上部にベッドが見える。

「…! 氷海ちゃん! 烈!」
「烈君! 氷海ちゃん!」

階段の下に氷海が寝転んでおり、ベッドの上では寝息を立てる烈に氷海のシャドウ…影氷海が寄り添い、膝枕をしている様子が見えた。
陽介はすぐに普段着姿の氷海に駆け寄り、容態を見る。

「おい、氷海ちゃん! しっかりしろ!」

外傷はない。ただ、気を失っているだけのようだ。

「…う…。」

陽介が揺さぶった事で、意識を取り戻したらしい氷海は、ゆっくりと目を開け、陽介を認識した。

「よう…すけ、せんぱい…? わたし…。」
「よかった、気がついたんだな…。」

氷海は陽介の助けを借り、起き上がる。そして、辺りを見回し、自分そっくりの人間に膝枕をされて眠っている烈を見付けた。

「烈!? それにあれは…誰!?」
『誰とは心外ね。』

影氷海は氷海の様子に、クスクスと笑い声を漏らす。

「烈を離して!」
『嫌よ。ようやく、烈が私の側に来てくれたんですもの。離さないわ、絶対に。』
「眠らせて、側において、それで満足なの!?」
『起きてから色々するわ。…色々、ね。』

雪子の怒声にも臆する事無く、影氷海は烈を抱きしめ、その頬に一つキスを落とした。

「…! 烈から離れて!」

それを見た氷海は、カッとなる感情を爆発させ、影氷海に向けて氷の礫を放った。
影氷海は烈を離してベッドから降り、階段を半分くらいまで素早く降り、能力を発動させて氷海の礫を相殺させた

『危ないじゃない。烈に当たったらどうするの?』
「当てないように狙ったわ。貴方だけを。」
『まぁ怖い。冷酷生徒会長のお出ましね。フフフフフッ!』

まるで氷海を嘲笑うかのように言葉を繋ぐ影氷海。

氷雪の女王 その六 ( No.568 )
日時: 2015/01/22 22:41
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)

「…ん…。」

その高めの笑い声で目を覚ましたのか、烈はゆっくりと起き上がった。

「…!? え、ちょ、俺、何でこんな所に!? てか、そもそもここどこだ!?」
「烈、気がついたか!」
「! 陽介先輩! みんなも…!」

陽介の姿を見付け、今自分が置かれた状況を思い出せたのか、すぐにベッドから降りようと体を動かそうとするが…。

「…!? なっ…!」

足が、まったく動かなかった。原因が分からず見てみると、そこには冷たい氷に足を包まれていた。大方、影氷海がやったのだろう。

「烈! 何やってんだ! 早く降りて来い!」
「無理だ! 足が氷で包まれて動かねぇ!」
『起きたらどうせ逃げようとするだろうから、先手を打たせて貰ったわ。』
「くそっ!」

烈は焔を宿し、氷に触れた。
だが、氷は砕けるどころか、溶けもしない。

「っ、氷海の能力の方が上かよ!」
『そうよ。いくら貴方でも割る事の出来ない氷を張らせて貰ったわ。…そうしないと、ゆっくりお話も出来そうにないもの。』

影氷海は烈に近付こうと、階段を上っていった。
同時に、後ろから礫が掠めるように飛んでくる。

「烈に近付かないでって言ったでしょう!?」
『あらあら、ヤキモチ?』

クスクス笑う影氷海。彼女は烈から視線を外し、氷海を見た。

『大好きな男が誰とも知らぬ女と寝るのは嫌なのね。例えそれが自分自身でも。』
「なっ、何を言っているの!? 貴方が、私とでも言いたいの!?」
『ええ、そうよ。私は貴方。貴方は私。…烈の事を深く深く愛して、誰にも渡したくない、誰にも触れさせたくないと考えている、貴方よ。』
「冗談はやめて頂戴!」

氷海は何度も礫を飛ばし、影氷海に当てようとするが、彼女も負けじと相殺させる。

『冗談なんかじゃないわ。烈の事を深く愛し、心の奥深いところまで知ろうとし、そして…彼を独占し、烈と二人、一緒に過ごす事しか考えていない。』
「!?」
『烈がいれば、何もいらない。本当に愛した烈だけいれば、私の世界は保たれる…。答えを待つのなんか嫌。今すぐこの場所で、二人だけで…。』

影氷海が烈を見ると、途端に冷気が辺りに漂う。

「何だ、急激に寒く…!?」

烈は足元を見て驚いた。なんと、氷が急成長し、烈の体を徐々に凍らせていたのだ。

「なっ…!」
「烈!」
『私の烈に寄り付かないで!』
「きゃっ!」

影氷海は烈に近付こうとする氷海を、階段から突き飛ばした。氷海はうまく受身を取り、大した怪我はないようだ。

「氷海ちゃん!」

心配した雪子が駆け寄り、【ディアラハン】をかけてやる。

『邪魔をしないで。ようやく、烈と二人きりになれるの! 烈と二人でしたかった事がようやくできるの! 烈の“恋人”でいる事が、ようやくできるのよ!』
「烈が望まぬうちに、心の底からの“恋人”になれるわけなんかないわ!」
『なれなくてもいい。私は烈に、私を壊してほしいの! 深く深く愛して、烈の欲望のままに私を壊してほしいの! そして…! 烈に、私色に染まってほしいの! 私だけを深く愛して、私だけを見てほしいの!』
「! もうやめて!」

ずっと心に秘めた感情。恋心以上に抱いた、欲望。烈を独占したいという欲望。烈と交わりたいという欲望。邪な愛情。
それを影氷海に暴露され、氷海の中で何かが外れた。

「私はそんな事まで考えていないわ! 出鱈目な事言わないで!」
『出鱈目なんかじゃないわ!』
「出鱈目よ! それに、何が貴方は私よ! 私は、私!」
(…! やばい、このままじゃ、氷海ちゃんは自分のシャドウを否定しちまう!)

雲行きが怪しくなってきたのを感じ取ったのか、陽介は動いた。

「花村君、動かないで。」
「!? 天城!?」

それを止めたのは、雪子だった。

「天城、止めるな! このままじゃ氷海ちゃんはシャドウを」
「…いいんだよ。否定、させよう?」
「何で!?」
「完二君が言っていたじゃない。否定させて、すっきりさせてあげよう? そうじゃなきゃ、氷海ちゃんはいつまでも、シャドウを…ううん、烈君に対する深い愛情を受け入れられないと思う。」

凛とした雪子の言葉に、陽介は黙り込んだ。心のどこかで、雪子の言う通りだと、考えたのだ。

「完二君じゃないけど、私達は暴走したシャドウを倒して、氷海ちゃんを持ち上げてあげればいい。…でしょ? 完二君。」
「おう! その通りッス!」
「…わーったよ。全員、戦闘準備だ!」
「おう!」

陽介の号令で、全員武器を取り出した。

「貴方なんか、私じゃない!」

氷海の辛辣な言葉が、影氷海に刺さる。彼女が自身を否定した瞬間、影氷海は歪んだ笑みを見せ、辺りに黒い粒子が巻き起こった。

『アハハハハッ! これで私は、私よ!』

影氷海は黒い粒子を取り込み、形を変えていく。

「…! センパイ、やばい! 烈の氷が…!」
「えっ、あっ!!」

なんと、いつの間にか烈を凍らせている氷が厚くなるスピードが増し、彼を分厚い氷に閉じ込めてしまっていた。
体を動かせる程の空洞はあるのか、氷を叩いて何事かを言っているようだが、まったく聞こえない。

「烈!」
「きっと、ヒーチャンのシャドウが暴走して、力を得ちゃったから、氷も早く固まったんだクマ!」
「あんなに厚ければ、下手をすると烈君の力が通用しませんよ!?」
「…。」

雪子は原初の海を取り出し、現れていた女教皇のカードを叩き割った。すると、背後にコノハナサクヤが現れる。

「烈君の氷は、私が溶かす! みんなは氷海ちゃんのシャドウをお願い!」
「了解! 天城、烈を頼んだ!」

全員、雪子を残し、影氷海に向き直る。

『我は影…真なる我…。ようやく、烈と二人でいられるの。邪魔をするなら、本体諸共、殺してあげるわ!』

黒い粒子が晴れ、そこには影氷海が纏っていたドレスを着た、美しい氷細工の人形がいた。
その氷は分厚く、なかなか攻撃が通らなさそうだ、と陽介は思う。

「…氷海ちゃん、辛かったな。けど、烈も頑張って答えを模索してんだ。…俺達は、それを絶対に聞かせてやる。だから、絶対帰るぞ! みんなでな!」
『まぁ、生意気。…さぁ、粛清してあげるわ!』

全員、影氷海の元へと駆けていった。
戦いの火蓋は、今、切って落とされた…。











「…。」

ここまでを振り返り、全員黙り込んでしまった。あまりにも深すぎる、烈への恋慕。彼を閉じ込めた分厚い氷は、まさに堅牢…。誰にも渡したくない、その思いの強さゆえに、烈を閉じ込めたのだろう。

「ここまで、深かったんだな。氷海の、烈に対する思い。」
「…烈を閉じ込めておきたい、自分だけの手元においておきたい。その思いが…強すぎたんだな。だから、あんなふうに歪んでしまった。」

昴の言葉の後、全員再び沈黙した。

「次、行くぞ。」

沈黙を破った昴は、次なるページをめくった。