二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 悪夢の終わり その一 ( No.569 )
- 日時: 2015/01/22 22:39
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
「先手必勝! スルト!」
悠は魔術師のカードを砕き、燃え盛る炎を纏った剣を持つ男、スルトを召喚した。
「【ラグナロク】!」
命令を聞き届けたスルトは、紅蓮の炎を氷海の影に浴びせた。
「りせ! 耐性は」
「花村センパイ! 火炎が弱点…みたいだけど…様子がおかしいよ! ダウンしない!」
「何で陽介に声かける!?」
完全に無視を決め込むりせに、悠は泣きかけた。
『そんな攻撃、効かないわ。』
「…マジで効いてないっぽいな、確かに。」
余裕の表情でいる氷海の影に、陽介は乾いた笑いを漏らす。
「恐らく、あの厚い氷がシャドウを守っているのでしょう。確か、僕が加入する前に似たようなシャドウと戦っていませんでしたか?」
「ああ、久保ん時か。確かにあん時は本体を守るドット勇者を倒さないと、ダウンは奪えなかったな。」
「シャドウの本体は、氷に包まれて守られてるって事?」
千枝が尋ね、りせがサーチをする。
「…うん、そうかも! 中心部から強い力を感じる。氷海ちゃんのシャドウの本体はきっとそこだね!」
『それがわかったところで何になるの? 気付いているんでしょう? この氷は…そう簡単には破壊できないと言う事を!』
氷海の影は力を溜める。りせはそれを察知し、陽介を見た。
「氷結系の大技が来るよ! 千枝センパイ以外は防御した方がいいかも! クマも耐性までだし、防御した方がいいよ!」
「みんな、身を守れ! 里中、お前はりせの側でりせと氷海ちゃんを守りつつ、次に備えて【チャージ】だ!」
「わかった!」
陽介の指示で千枝以外は守りに徹し、千枝は力を溜めた。
『食らいなさい!』
氷海の影は手を前に翳すと、無数の氷が現れて落下し、ガラスが割れるように辺り一面に弾け飛んだ。
「うわぁっ!」
その氷で体を切り、痛みが走る。思わず悲鳴をあげるも、何とか踏ん張った。
「っ、ぐっ、くうぅ…っ!」
「千枝センパイ! 体が…!(まさか…!)」
氷結属性が効かない千枝の体が傷付いている事にりせは気が付き、千枝の影でサーチを始める。
「…! やっぱり、氷海ちゃんのシャドウも【マハ氷結ガードキルオート】を持ってる!」
「それ、もーちょっと早く言って欲しかったなー…。」
千枝は切り傷だらけになりながらも、りせにそう返した。
「ご、ごめん、千枝センパイ…。」
「いーよいーよ、痛いだけだし、後でクマ君に回復してもらうから。」
りせはただ、謝るしか出来なかった。
千枝はそんなりせを、気にしていない風に笑って頭を撫でつつ、防御に徹した。
「! みんな!」
悲鳴に気がついたのか、雪子が振り替える。
遠く離れていた為、ダメージは受けていないようだ。彼女はみんなを心配し、駆け寄ろうとする。
「ユキチャン! こっちはダイジョブクマ!」
それを止めたのは、クマだった。
「でっ、でもクマさん!」
「ユキチャンはレツを助けるクマ! こっちの回復はクマに任せるクマ!」
寒さで震える体を守りながら、クマは雪子に訴える。
「レツの氷はきっと一筋縄じゃイカンクマ! ユキチャンみたいな熱い炎じゃないと無理クマ! クマ、ハナセンサーなくても何となくわかるクマ!」
「クマの言う通りだ、天城! こん中で火炎を使うのは、天城のコノハナサクヤだけだ! 回復ならクマでも、威力は弱いが俺でも完二でも出来る! だから、頼む、天城! 烈を助けてくれ!」
クマだけでなく、陽介の説得も加わり、雪子は頷いた。
「烈君助けたら、絶対そっちに行くから!」
雪子は再び烈の方へと向かう。
その眼差しはどこか熱く燃えており、陽介はどこか、頼もしく感じた。
(普段の天城とは違うな…。何か、いつもより熱ぃや。今の天城なら、アイツを助けてくれっかな。)
そんな事を思っていると、いつの間にか氷の嵐は止んでいた。
「うしっ、止んだ! クマ、回復だ!」
「了解クマ! キントキドウジ! ズバッと【メディアラハン】クマ!」
クマはキントキドウジを呼び出し、全員を癒した。
「よしっ、反撃開始だ!」
「おう!」
陽介の士気をあげる言葉に、全員気を引き締める。
「…俺の存在って、何だろうな…。」
悠の問いかけは、誰も答える事無く、虚しく響いた。
- 悪夢の終わり その二 ( No.570 )
- 日時: 2015/01/22 22:46
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
雪子はクマと陽介の説得を受け、再びコノハナサクヤを呼び出して、烈の氷を外側から溶かすのを試みていた。
「コノハナサクヤ、手加減なしでいいよ!」
炎を氷全体に発生させ、何とか烈を救い出そうと動く。
だが、氷の厚みが大きく、周りを僅かに溶かしただけだった。
烈も内側から氷を溶かそうと焔を当てるも、結果は思わしくないようだ。
「っ、駄目か…! コノハナサクヤ、もう一度…!」
雪子は悔しそうに呟き、中心に閉じ込められている烈を見た。
「…あ、あれ…?」
その時、雪子は烈の様子がおかしい事に気がつく。顔色も悪く、フラフラと揺れた後、座り込んで体を丸め、震えている。焔を出す余裕もないようだ。
「りせちゃん!」
「わっ! ど、どうしたの!? 雪子センパイ。」
「烈君の様子がおかしいの!」
「えっ!?」
雪子に言われ、りせも烈を見る。
「ほんとだ、何か、凄く寒そう…! あっ、体温が急激に下がってる! きっと、氷で体を冷やしちゃったんだ!」
「…! まさか、低体温症に…!?」
りせの側で休んでいた氷海が何かに気が付いたのか、口許を覆った。
「低体温症って、確か…!」
「直腸温度が一定の温度を、下回ると起こる病気、です。震えているだけならまだ軽度だけど…このままじゃ…!」
氷海の脳裏に、嫌な言葉が過った。彼女はそれを振り払うかのように、頭を振った。
「(低体温症って、確か、ある程度下がっちゃうと、凍死に…!)それだけは、絶対にさせないよ! コノハナサクヤ! 全力の【アギダイン】!」
雪子は何度も何度も、炎を放つ。だが、虚しくも周りの氷を溶かすだけだった。
「ダメっ、雪子センパイの炎、全然効いてない!」
「そんな…! どうしたら…! どうすればいいの…!?」
悪態をつきながらも、雪子は炎を出す事をやめなかった。
- 悪夢の終わり その三 ( No.571 )
- 日時: 2015/01/22 22:52
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
悠然と佇む氷海の影。彼女の最初の一撃が止んだ後も何度か攻撃を加えていたが、成果はあまり無いようだ。
「里中! 相棒!」
「うん! スズカゴンゲン! 【アグネヤストラ】!」
「ヨシツネ! 続けて【八艘跳び】!」
事前に【チャージ】を加えた最強クラスの物理スキルを立て続けに放つ千枝と悠。
『言ったでしょう? そんな攻撃、効かない』
「それはどうでしょうか。」
『えっ? …!』
氷海の影は直斗の不適な笑みに疑問を持ち、自らの体を見る。
すると、一ヶ所だけ、ヒビが入っていたのが見えた。
『くっ! 攻撃を集中させたのね!』
「ついでに、クマの【マハラクンダ】で脆くさせてもらったクマ!」
『このっ、クマごときがっ…!』
悪態をつきながらも、氷を修復しようとする氷海の影。
「そんな暇は与えさせねぇぜ! スサノオ!」
「タケミカヅチ!」
「スクナヒコナ!」
陽介、完二、直斗が、ヒビの前でペルソナを呼び出す。
「ナオチャン、ヨースケ、カンジ! 受けとるクマ! クマのアイがこもった【マハタルカジャ】ーっ!」
「里中で十分だからお前からの愛はいらん! けどサンキューな!」
「凪君からの愛だけで十分です! でもありがとう、クマ君!」
「鈴花から貰いたかったが、ありがてぇ!」
「何かサラッとみんなしてシドイクマ!」
(花村、後でどーん!してやる。)
千枝が赤くなっているのはさておき、、クマからの強化スキルを貰った後、ヒビを睨み付けると同時に、
「【ブレイブザッパー】をお見舞いしてやれ!」
「【チャージ】付きの【イノセントタック】だ!」
「【空間殺法】です!」
自分が持てる最大の物理スキルを、ヒビ目掛けて当てた。
ヒビは大きな亀裂となり、氷は大きな音を立てて崩壊した。
「よっしゃ! 壊れた!」
「壊れたけど、まだ本体は氷に包まれてる! みんな、注意して!」
喜びに浸る陽介だが、りせの声で気を引き締めた。
『ま、まさかこの鎧を破壊するなんて…!』
氷海の影は動揺からか、先程までの余裕はない。
「この調子でどんどん壊して、本体を出すぞ!」
『…嫌…。嫌、嫌ぁっ!』
悠の言葉に、氷海の影は拒絶の色を濃くした。
同時に、肌を裂くような寒波が吹き荒れる。
「…? な、何だ? 急に、寒く…!」
『嫌、嫌っ! このまま消えるのは、嫌! 嫌なのよっ!』
「! 氷結系の大技が来る! みんな! 急いで防御して!」
焦りを伴ったりせの悲痛な叫びが響き渡る。
「今までの比じゃない! 戦ってきたどのシャドウよりも凄い力が来る!」
「全員! 防御だ! クマはりせと氷海ちゃんの近くで二人を守りつつ身を間まれ! 天城! お前も防御しとけっ!」
「わかった!」
陽介の指示で、全員防御体勢をとる。
『この吹雪で粛清されなさい! 輝ける雪よ、舞い踊りなさい…。【スノープリズム】!』
氷海の影が舞い踊るように一回転すると、鋭く美しい雪の結晶が風に乗って吹き荒れる。
あまりにも鋭いその結晶に、全員の体は沢山の切り傷で埋め尽くされた。
「ぐ、うぅ…!」
「痛い…!」
鋭さの痛みと、肌を刺すような寒さで、全員限界が近かった。
- 悪夢の終わり その四 ( No.572 )
- 日時: 2015/01/22 22:57
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
そんな時、風がいきなり止んだ。それにより、雪の結晶は動きを止め、辺りを漂いながら落ちていく。
「…!? 今だ! クマ、回復!」
「了解クマ! キントキドウジ、【メディアラハン】クマ! 凍結状態にかかってるといけないから、一緒に【アムリタ】もかけるクマ!」
クマは全員に回復と状態異常解除スキルを使い、傷を癒すと同時に凍傷を治した。
「今のはかなりこたえましたよ!」
寒さが苦手な直斗は、すぐに氷海の影に向けてブラックホールを向け、発砲する。
「きゃあっ!」
次の瞬間、聞こえたのは…りせの悲鳴。
「えっ…!? く、久慈川さん!? 大丈夫ですか!?」
「へ、へーきへーき…! ちょっと、腕掠ったみたいだけど。」
「あわわ、傷が残ったらタイヘンクマ! リセチャン、今治すクマ!」
クマが守っているはずのりせの悲鳴に、直斗は慌てる。どうやら大した怪我ではないようだが、どこから攻撃を仕掛けてきたのだろうか、直斗は思案に明け暮れた。
「直斗! どこ向けて撃ってるんだよ! 氷海のシャドウはこっちだろ!?」
「違うよ完二君! こっちだよ!」
「いや、こっちだ!」
「えっ…!? え、えぇっ!?」
更に、検討違いの方向を指す完二と千枝、悠の言葉が聞こえ、直斗は一瞬、思考が停止した。
「なっ、何でみんな幻覚を…?」
「花村君! その場で【マハガルダイン】を放って!」
検討違いの方角を示す一同に混乱した陽介だが、雪子の声で我に返る。
「なっ、何でだ!?」
「光の屈折がさっきの吹雪のせいでおかしくなって、虚像が見えてるの! だから、氷を吹き飛ばして! 鳴上君は火炎系スキルで氷を溶かして! これくらいの氷なら、すぐに溶けるはずだよ!」
「虚像…成程な。陽介、行くぞ!」
「何かよくわかんねーけど、わかった!」
悠と陽介は魔術師のカードを目の前に出現させる。
「スルト!」
「来い、スサノオ!」
そして同時にカードを武器で砕き、悠はスルトを、陽介はスサノオを呼び出した。
「【ラグナロク】!」
「【マハガルダイン】!」
二人が同時に命じると、熱い炎を纏った風が辺りに吹き荒れた。
雪は溶け、上空に氷海の影の姿が露になった。
『そ、そんな…! この技も見破るなんて…!』
氷海の影は余裕がないのか、わなわなと震えだした。このまま消え去る事を、想像してしまったのだろうか。
『…。』
ふと、そんな時、目に入ったのは、氷に閉じ込められ、震えたままの烈の姿。
『…一人で死ぬのは、嫌…。』
氷海の影は、烈のいる氷に手を翳した。
『…烈、どうやらここには、私達の邪魔をする人が多いみたい。』
「! 氷海ちゃん、何する気だ!?」
氷の厚みが増し、周囲の気温も下がる。
『だから…あの世で一緒になりましょう。そう、永遠に…。』
「! だっ、ダメ! ヤバイよ雪子センパイ、早く烈を助けて!」
「えっ?」
氷をサーチしていたりせが叫びだす。呼吸も乱れ、焦りの色を隠さずに。
「今まで、空気穴みたいなのが空いてたんだけど、氷海ちゃんのシャドウはそれを塞いでるの! 氷海ちゃんのシャドウは…烈と心中しようとしてる!」
「なっ!?」
雪子はそれを聞いて、絶句する。
「天城! こっちには構わず急げ!」
「レツがナナチャンみたいに死んじゃうのはイヤクマ! ユキチャン、急いでクマ!」
「わかった!」
陽介とクマの後押しで、雪子は再び烈のいる氷に向き直る。
- 悪夢の終わり その五 ( No.573 )
- 日時: 2015/01/22 23:03
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
「サクヤ! 全力の【アギダイン】!」
コノハナサクヤを召喚し、何度も炎を当てる。
だが、願い虚しく、砕けるどころか、溶けさえもしなかった。
「お願い…! 壊れて…! 壊れてよ!」
願うように、我武者羅に炎を当て続ける雪子。やがて限界が来たのか、コノハナサクヤは消え、膝を付き、うなだれた。
それでも諦めず、持っていたチューインソウルを食べ、立ち上がる。
「もう、目の前で誰かが居なくなるなんて嫌! 死ぬのなんてもっての他! 側にいるのに、助けられないのは、絶対に、嫌っ!」
雪子の脳裏に、菜々子の姿が過る。昴達の姿が過る。
側にいたのに、助けられなかった人達の姿が何度も浮かび、雪子は悔しさに涙していた。
「昴さん達のように傷付くのは嫌! 菜々子ちゃんのように死んじゃうのはもっと嫌!」
胸の奥から、熱い何かが沸き起こる。
「せっかく、氷海ちゃんが悩んで、答えを出したの! このまま烈君にそれを聞かせられないまま、永遠のお別れなんて、絶対にさせない! させたくない…させちゃいけないのっ!」
それは留まる事を知らぬように、雪子の心を駆け巡る。
「だから、溶けて…! 壊れてよっ!」
『…我儘だね、貴方って。』
「!?」
不意に、心の中に声が響く。
『あれも嫌、これも嫌…。我儘だね。』
(…我儘にもなりたくなるよ。分かってるでしょ? サクヤ。)
『そうだね。うん、わかる。』
留まる事を知らぬ熱い何かは、雪子の中で更に膨れ上がり、力に変わる。
その確信を得た雪子は、目を閉じた。
『烈君を、菜々子ちゃんのように死なせたくない。菜々子ちゃんの時みたく生き返る保証はどこにもないからね。』
(うん。氷海ちゃん達を、悲しませたくなんかないし。)
『それに、氷海ちゃんを連れて、みんなで戻るって決めたんだ。』
(うん、理乃ちゃん達が待つ、あの寮に。)
雪子は目を開け、原初の海を構える。
『さぁ、帰ろう、みんなで。』
(うん、帰ろう、みんなで。)
そして現れた女教皇のカードを、原初の海で思い切り叩き割る。
『…強くなったね、私。』
(私なんかまだまだだよ。まだ、弱いよ。でも、弱いなりに諦めたくなんかないの!)
『ううん、強くなったよ。弱さを認めても尚、諦めずに立ち向かえるんだから。…だから私も、強くなる。貴方が強くなってくれたから、私も…強くなれる!』
雪子の背後に現れたのは、コノハナサクヤではなく、金色に輝いた、盾を持つ女性のようなペルソナだった。
「雪子センパイのペルソナが…!」
「覚醒…したの…!?」
現れたペルソナに、りせと氷海は驚きを隠さず呟いた。
その神々しさと力強さに、息をする事を忘れるくらい、魅了された。
『我は汝、汝は我。我が名はアマテラス。汝に宿りし、仮面なり!』
「アマテラス、か。いい名前だね。さぁ、行くよ! アマテラス!」
アマテラスと共に、氷を見る。
「雪子先輩、無理に全部包み込んで壊すより、一点に集中させて貫いて下さい! 力を分散させるより、集中させれば…!」
「ありがと、氷海ちゃん!」
雪子は氷海のアドバイスを受け、烈目掛けて【アギダイン】を放つ。
「…あ…っ!」
普通に放ったつもりだった。だが、その威力は凄まじく、先程よりも多く氷を砕いた。
「(これなら…これなら、行けるっ!)アマテラス! もう一回!」
希望は見えた。雪子はそう信じ、アマテラスに命じた。
- 悪夢の終わり その六 ( No.574 )
- 日時: 2015/01/22 23:08
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
薄い酸素、冷えきった体。烈は一人、音も聞こえぬこの氷の中で、瞳を閉じた。
(…何か、眠ぃ…。)
体が限界を感じているのか、眠りにつこうとしている。
酸素が薄くなってきたせいか、頭がぼんやりして、何も考えられなくなっていた。
(…氷海に、謝らなきゃいけなかったのにな…。)
自分のせいで噂になって、こんな危険な場所に閉じ込められて、危険な目に遭って…。
なのに、自分は何もできずに、こうして寒さで震えている。
「…俺、死んじまうの、かな…。死んだら、氷海に…会える、かな…? 謝れる、かな…?」
『かっ…簡単に諦めないでよ! 馬鹿烈!』
突然、りせの怒声が聞こえ、烈の意識は覚醒した。
「り、りせ…? 何…怒ってんだ…? あれ…? 何で、お前の声…聞こえて、んだ…?」
『ペルソナを介した通信能力だよ! もうっ、寒さで元々馬鹿な頭が更に馬鹿になったの!? …まぁ、私もついさっきまでこれの事忘れてて、氷海ちゃんに言われて思い出したけど。』
「お前も…十分、馬鹿じゃねぇか…。つか…俺より、成績、悪いのに…馬鹿呼ばわり、するんじゃ、ねぇよ…。」
『むっかーっ! 女の子に馬鹿馬鹿言わないでよ!』
ギャンギャン騒ぎ立てるりせ。かなりオーバーヒートしている。
『…っと、そうじゃなくて。』
横にいた氷海に宥められたのか、りせは急に言い合いをやめた。
『烈、死んじゃダメだよ。ここにいるみんなが、烈を救おうとしてるんだよ? 氷を溶かそうと頑張っている雪子センパイの努力を無駄にする気?』
「…。」
「そうだよ、烈君。私とアマテラスの頑張り、無駄にしてほしくないなぁ。」
凛とした声が聞こえ、前を見るとそこには、アマテラスの肩に乗った雪子が、烈に手を差し伸べていた。
「…助けに来たよ、烈君。」
「先、輩…。」
「帰ろう。帰って、氷海ちゃんの話、聞いてあげて? 君への決意を、聞いてあげて?」
「…ああ。聞く。ちゃんと、聞くよ。」
烈は差し出された手を握り、雪子と共にアマテラスの肩に乗り、氷から脱出した。
「でも、まだ、やる事…あるんだ。」
「やる事?」
「…俺を、氷海の…シャドウの、方の、氷海の…とこに、連れてって、くれ…。謝り、たいんだ…。」
「…。」
雪子はアマテラスから降り、地面に降り立った。
「アマテラス! 熱を出しながら烈君を氷海ちゃんのシャドウの側まで寄って!」
「! えっ、ゆ、雪子先輩…!?」
氷海は雪子の言葉に驚いた。何故、ようやく危険な場所から脱出させたのに、また危険な場所に向かわせるのか、わからなかった。
「…謝りたいんだって。氷海ちゃんのシャドウに。だから、行かせてあげよう。ねっ?」
「…。」
雪子の言葉に、氷海は頷いた。
- 悪夢の終わり その七 ( No.575 )
- 日時: 2015/01/22 23:13
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
氷が割れた事に気が付いたのか、氷海の影は悲鳴をあげた。
その体は既にボロボロで、本体まで後もう一息、と言ったところまで追い詰められていた。
『そっ、そんな…! そんなそんなそんなっ…!』
「天城、やったんだな!」
「これでひと安心だね!」
雪子の頑張りに気付いた仲間達は、再び氷海の影に向き直る。
『嫌…! 嫌、いや、イヤアァァァッ!』
最後の抵抗か、あるいは感情の暴走か。氷海の影の周りに、氷の礫が漂う。
『消えて! 消えてきえてキエテ!』
礫は一直線に飛ぶ。烈を抱える、アマテラス目掛けて。
「! 雪子っ!」
「きゃあぁっ!」
千枝が叫ぶも、アマテラスに攻撃が当たり、ペルソナのダメージが雪子にも伝わる。
弱点である氷結属性をまともに食らい、倒れそうになる雪子。
(駄目…! ここで倒れるわけには、いかないのよっ!)
だが、倒れそうになる足を踏み止め、ダンッ! と力強く床を踏み、堪える。
『キエテ! キエナサイヨオォォッ!』
何度も何度も、アマテラスに氷の礫が当たり続けるも、雪子は何度も踏ん張り、アマテラスを前へと進ませた。
「アナンタ!」
そんな時、悠が運命のカードを砕き、七つのコブラの頭を持つペルソナ、アナンタを召喚させた。
「【白の壁】で天城を助けろ!」
悠がアナンタに命じると、アナンタはすぐに雪子に白い光の壁を張った。
これで、雪子の氷結属性に対する弱点が耐性へと変わる。氷海の影は氷結属性に対する耐性等を無効にする為、実質弱点だけが消える形となった。
「ありがと、鳴上君! アマテラス!」
雪子は悠の後押しで、更にアマテラスを進める。
『いやっ! こっ、来ないで!』
アマテラスが勢いづいた事に気が付いたのか、氷海の影は様々なシャドウを呼び出し、アマテラスの行く手を阻む。
「くっ、これじゃ進めな」
「スクナヒコナ、【メギドラオン】!」
雪子が悪態をつくと同時に、直斗が万能属性スキルで敵を一掃する。
「天城先輩、行って下さい!」
「直斗君!」
「…これは、僕の勘に過ぎませんが…氷海さんのシャドウの最後の鎧を破るには、烈君の力が必要だと思うんです。だから、行って下さい!」
「そーそー! 雪子、周りのシャドウはあたし達に任せて!」
「センパイ、気張って行って下さいッス!」
「みんなでレツをヒーチャンのシャドウに届けるクマー!」
仲間達の後押しに、雪子は思わず笑みを見せた。
「天城、今から俺が【マハガルダイン】で道を作る! シャドウの力は氷結だけだろうし、反射してきても平気だかんな。」
「任せたよ、花村君!」
「行くぜ、スサノオ! いっちょ決めてやれ、【マハガルダイン】!」
陽介は風を一直線上に吹かせ、シャドウ達を消滅させていく。
途中、疾風反射をする敵がいたが、今の陽介に風属性は効かなかった。
「アマテラス!」
雪子の声に答えたアマテラスは、氷海のシャドウの目の前で止まり、烈を前に出した。
- 悪夢の終わり その八 ( No.576 )
- 日時: 2015/01/22 23:18
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
『い、いや…! いや…!』
「…氷海。」
『! あ…。れ、烈…!』
烈に気がついた氷海の影は、怯えたまま、烈を見る。
それに気がついた烈は、小さく笑顔を見せながら、氷海の影が纏う鎧をそっと撫でた。
「…ごめんな、今まで、お前の気持ちに、気付いて、やれなくて…。」
『…。』
「近くに、いたのに…何一つ、気付けないで…。俺、馬鹿、だよな…。うん、馬鹿で、ごめん…。」
氷海の影は、ふるふると首を横に振る。
『…貴方がみんなから少し離れて歩いているのがわかってから、覚悟はしていたわ。』
「…。」
『思えば私…それも、知りたかったのかも知れない。烈の心に影を落とすそれを知って…救いたかったのかも知れないわね。…貴方を、過去の呪縛から。』
「…。」
烈は黙ったまま、氷海の話に耳を傾ける。
『…烈、一つだけ、聞かせて。』
「ん?」
『…私の事を…嫌いになった? こんなはしたない考えをする女…嫌いに、なった?』
その答えを聞くのが怖いのか、氷海の影の体が、震えだす。そんな彼女を見て、烈は微笑んだ。
「…ならねぇ、よ。」
『えっ…?』
「確かに、ちょっと、ビックリした…。お前に、そんな、一面が、あったなんて、さ。…でも、嫌いになんか、ならねぇ、よ。…そんな事で、嫌いに、なってたら…元々、仲間にすら、なってねぇって。」
『…烈…。』
「氷海こそ…俺に、幻滅、したんじゃ、ないか…? こんな、鈍感な、俺にさ…。」
今度は逆に、烈が問い質すと、氷海の影は烈の額に自身の額をくっつけた。
『…そんな事で嫌いになるなら、初めからここまで深く愛したりなんかしていないわ。…そうでしょ? 私…。』
氷海の影は、氷海に話を振る。氷海はそれに、頷いた。
「ええ…。きっと、そんな烈だからこそ、私は好きに、なれたのよ…。」
「…そっか。」
「…烈、私からもひとつ、いいかしら…。」
おずおずと問いかける氷海に対し、烈は頷く。
「…こんな事を仕出かして言う台詞じゃないのはわかってる…。でも、聞かせて。」
氷海はゆっくりと顔をあげ、烈に視線を合わせる。
「…これからも…今まで通り、貴方に接していい…?」
「…。」
烈は小さく微笑み…氷海を見て、頷いた。
「ああ。…俺が答えを出すまで…いや、出しても…一緒に、いてほしいんだ。」
そして、屈託のない、あどけない少年のような笑顔を浮かべる。
「お前が、後ろにいねぇと…調子、狂っちまうし、な。」
「…馬鹿。」
『フフッ、でも、烈らしいわ。…ありがとう、烈。』
氷海の影を纏う鎧が、音を立てて崩れ去る。そして、一点の穢れもない白いワンピースを着た美しい女性の姿が露になった。氷海の影の、本体だった。
「…ああ。」
烈はそう言って、アマテラスにもたれ掛かり、意識を飛ばした。
氷海の影の本体は、笑顔でアマテラスの上で眠る烈を見てから、砕けた氷の上に倒れこんだ。
「本体がダウンした!」
「きっと、烈君の暖かい気持ちが通じたんだ…! 花村君! 今なら総攻撃できるよ!」
「ここでも陽介!?」
完全にいないものとして認識されているリーダーの悠は何かを言うも、
「天城は烈を連れてっから下がってろ! 里中、完二、直斗、クマ、行くぞ! 全員、総攻撃!」
「おうっ!」
「…陽介…。」
無視を決め込み、更には相棒にまで見放され、悠はがっくりとうなだれる。が、完全にそれを無視して陽介達は武器を構えた。
「さぁ、これで最後だよ! アーユーレディ!?」
「行くぜ、みんな!」
りせの声援で力を得た一同は、氷海の影に強力な攻撃を与えた。
『…フフッ、ここで…消えるの、ね…。』
氷海の影は、小さく呟きながら、周りのシャドウと共に、黒い粒子を散らせていった。
『…でも…正直、満足よ…。』
その表情はどこか、晴れやかだった。
- 悪夢の終わり その九 ( No.577 )
- 日時: 2015/01/22 23:24
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
「…。」
氷海は元の姿に戻った影氷海を目の前にし、ゆっくりと歩いていった。
「…私は、どうあっても、烈の事を諦めきれない。…その心が、貴方を生み出してしまったのね…。」
『…。』
そう言うと、氷海は笑顔を見せ、氷海のシャドウを抱きしめた。
「…烈の事が大好き。烈の事を愛している。…烈の事を愛しすぎて…烈に嫌われる事を恐れた。烈が誰か他の人の元に行くのが怖かった。」
『だから、私は…烈を束縛した。分厚い氷で閉じ込めて、誰にも触れられないように…。』
烈を誰にも触れさせたくない。その姿も、その心も、自分に向けてほしい。それが表されたのが、あの堅牢な氷の牢だった。
「…そこまで烈を愛しすぎて、周りが見えなくなる…。ふふっ、貴方は…私ね。」
『…ようやく、分かってくれたのね…。』
『ありがとう。』そう、切なさそうな声を出し、笑顔で光に包まれ、消えていった。
「き、消えちまった…?」
(今、きちんとシャドウを受け入れていたはず…。なのに、何故ペルソナにならないのでしょうか…。)
ペルソナとしての形をとらずに、そのまま消えたシャドウに、陽介は狼狽え、直斗は考えを巡らせていた。
そんな中、氷海はシャドウが消え去った光を目で追うように、上を見上げた。
「…私こそ、ありがとう…。それから、ごめんなさい…。」
そう呟いた後、氷海の体は崩れ落ちた。
「氷海ちゃん!」
雪子が慌てて駆け寄り、氷海を助け起こした。
「わ、私は大丈夫です…。烈は…?」
「大丈夫。体温も戻ってきたし、そのうち目を覚ますよ。」
「よかった…。」
心から安心したのか、氷海はほっと安堵の息をついた。
が、すぐに表情を暗くさせ、全員を見た。
「…あの…すみません、皆さんを心配させただけでなく、ここまで巻き込んで…。」
自分のせいで彼らが危険な目にあったのが、どうしても心苦しかった。だから、氷海は謝罪をしたかった。
そして、一番傷つけてしまった最愛の烈にも、目を覚ましたら謝罪しよう。そう考えていた。
…だが、そんな事を気にする彼らではなかった。
「なーに言ってんだよ。別に巻き込まれたとか思ってねぇって。」
「うん! これが、あたし達自称特別捜査隊の仕事だもん!」
「巻き込まれたなんて思っていたら、助けてませんよ。」
当たり前の事のように話す陽介、千枝、直斗の三人。
「烈だってそうだ。お前を助け出したい一心で、オレ等についてきたんだ。足手纏いになる事を分かっていながらもな。」
「レツは、ヒーチャンとの日常を守りたかったクマねー。セイシュンは初恋のように甘酸っぱいクマー。プププー。内心、レツもヒーチャンの事」
「おい…クマ…。それ以上、言ったら…燃やす…!」
意識を取り戻したのか、完二に背負われたままの烈が、けだるそうに、だが睨みを利かせ、語気荒くクマに言った。
「クマはカンで言っただけクマよー? 本当にレツは」
「…。」
「…ゴメンクマこれ以上何も言わないクマだからそんなにクマを睨み付けないでほしいクマスーチャンがやるみたくローストハムにされるのはイヤクマ!」
元気になったら燃やされる。その考えにようやく至ったのか、クマは土下座が出来ない体でも、必死に土下座のような体勢をとって謝った。
これにはその場にいた一同、全員の笑いが起こる。氷海も、微笑を見せている。
「完二…。もう、大丈夫だから…下ろしてくれ…。」
「あぁ? 体冷え切ってんのに無理すんじゃねぇよ。お前、チビッこいからそんなに重くねーし、もちっと背負われとけ。」
「誰が…チビだ…っつーの…!」
完二の背中で吼える烈だが、やはりまだ覇気がない。長時間寒い空間で体温と体力を奪われたのが、まだこたえているのだろう。
「ともかく、早く烈を病院に連れて行こう。恐らく軽度の低体温症で済んでいそうだが、診せた方がいいだろう。氷海も休ませた方がいい。」
「そうだね。早く入口に…!」
悠の提案で入口に戻ろうとしたところで、りせが何かを察知してヒミコを呼び出した。
- 悪夢の終わり その十 ( No.578 )
- 日時: 2015/01/22 23:31
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: F1jZpOj6)
「っ、雪子センパイ! 後ろっ!」
「えっ!?」
なんと、雪子の背後から、黒い壷に入った女性型シャドウ、呪い女の壷が一体飛び出してきたのだ。
「なっ…!?」
相手は既に至近距離に迫っており、これではアマテラスを出す事はできずにやられる。そう思った雪子は、咄嗟に氷海を抱きしめるように庇った。
「粛清、されなさい!」
氷海はそんな雪子の背後から、能力を放つ。
氷の礫が直撃した呪い女の壷は、その場で崩れ落ちてしまった。
「えっ!? ひ、氷海ちゃんの攻撃、効いてる!?」
「マジ!? って、狼狽えてる場合じゃないよね! 雪子、行ける!?」
「いいよ、千枝! 来て! アマテラス!」
「行けっ! スズカゴンゲン!」
氷海を陽介に任せ、雪子と千枝は互いにペルソナを召喚させる。
そして目の前の敵を睨み付け、同時に力を放った。
「はぁっ!」
「ずどーん!」
二人の力に当てられた呪い女の壷は、消失していく。
「あー、びっくりした。雪子、大丈夫だった?」
「うん、氷海ちゃんのお陰で。…でも、烈君の時はまるでダメージなかったのに、何で…?」
首を傾げる雪子。
「…恐らく、氷海さんが自分のシャドウを受け入れたから、でしょう。そしてシャドウはペルソナに昇華し、攻撃が通用するようになったのではないでしょうか。」
その答えは、直斗が出してくれた。
「ペルソナとして目覚めたんじゃなくて、ペルソナの加護だけが氷海ちゃんの力になった、って事?」
「そう、だと思います。…以前、桐条さんからペルソナの適性の話を聞いた事があります。恐らく、氷海さんにはペルソナを具現化させるほどの適性はない。だが、自身のシャドウを受け入れる強さはあった。故に、ペルソナとして形をとらず、シャドウと対抗する為のペルソナの加護を得たのでしょう。初めてなので、憶測の域を出ませんが。」
「じゃあ、シャドウに攻撃が効いたのも、ペルソナの加護を得たから…?」
「その話、後にしねぇか? 烈も病院に連れてかねぇとやべぇし、氷海の親も心配してんだろ。」
完二がそう言うと、全員我に帰ったように思い出した。
「そうだよ! 烈君やばかったんじゃん!」
「鳴上君、【トラエスト】、お願い。」
「そうだな。えーっと…あ、いた。ザントマン!」
舞い降りてきた剛毅のカードを砕くと、月の形をした顔で袋を持ったペルソナ、ザントマンが現れた。
「【トラエスト】!」
悠がザントマンに命じると、一同の姿は光に包まれ、その場から消えていった。
■
光が収まると、そこは氷海のダンジョンの入口だった。
彼らはすぐにクマテレビの前へと戻り、出口を潜った。
「…お帰り、の前に約二名、病院送りにした方がいいな。」
テレビから出るなり、昴がそう告げる。
「そうしていただけるとありがたいです。事情は後で話します!」
「いや、いい。…りせ。お前だけ残れ。クマと完二と陽介、悠は氷海と烈を病院に。直斗と千枝と雪子は烈んちに行って事情説明だ。それが終わったら、全員、寮に帰れ。」
「はい!」
昴が手早く指示すると、一同はすぐに外へと出ていった。
そして、その場にはりせだけが残る。
「…昴さん、何で私を残したの?」
「ん? お前が一番手っ取り早いからさ。創世手帳、出せ。」
「えっ? う、うん。はい。」
りせは創世手帳を取りだし、昴はそれを創世ノートに乗せた。
「な、何してるの? 昴さん。」
「アイツがこういう時の為に、ちょっと特殊な機能を手帳に加えた。…俺達の管轄外の場所に行った時に、自動的にお前らが経験した事を記録するようにしたんだ。今それを、この創世ノートに吸い出してるんだ。」
「えっと、よくわかんないけど、何か手っ取り早そうってのは分かった。」
「…うん、それだけわかってくれんならいいよ。よし、終わり。ほら、返す。」
りせの創世手帳に刻まれた物語を創世ノートに同期させた後、昴は彼女に創世手帳を返し、黙ってノートを見る。
その間、りせは黙って昴を見守っていた。
「…今回はえらい大変だったな。」
「ほんとだよ、もー。【氷結ガードキル】のチート版は現れるし、氷海ちゃんのシャドウは強いし、女の敵は何の役にも立たないし…。何か、今回でちょっと自信無くしちゃったな…。」
「うん、女の敵は置いておこうか。ともかく、ご苦労だったな、りせ。」
「当たり前の事をしただけだよ。私達だって、氷海ちゃんがいなくなるの、嫌だったからね。」
昴の労いに、りせはにこやかに答える。
「それよりも…セシルは、大丈夫そうなの…? 朝、ショックでこっちに来たって聞いたけど…。」
「ああ、もう、大丈夫だろう。氷海も無事、戻ってきたしな。」
「よかった…。」
りせはほっと、安堵の息をついた。
「…りせ、お前も寮に戻って休め。理乃達が飯作って待ってんだろ?」
「おっと、そうだった! じゃあ、私、もう戻るね!」
その言葉を残し、りせは仲間達が待つ寮へと戻って行った。
「…。」
—浮かない顔だね。
(【マハ氷結ガードキルオート】とかいう変なスキルを持つイレギュラーなシャドウが現れたんだ。そりゃ、浮かなくもなるさ。)
—そうだね。…それに、犯人に繋がる手がかりを、氷海ちゃんが持っている保証も無い。…この事件、長引きそうだね。
創造者の文面を見た昴は、心の中で小さく(…ああ。)と呟いた。
—けど、新しい仲間は増えそうだよね?
(…あぁ、氷海の事か。確かにシャドウに攻撃が通じるようになったんだ。それに…氷海も、きっとアイツ等の力になりたいとか言って、一緒に行動するんだろうな。)
—そうだね。氷海ちゃんの事だし、放っておけないと思うよね。
(…あんまり危険な目に遭わせたくないけど…でも、そんな目に遭うだろうという事を見越して、鍛錬しているんだからな。止める方が失礼か。)
昴は溜息を吐きながら、肩を竦めた。
(まぁ、何にせよ、今は氷海が無事に戻ってきたんだ。その代わり烈が馬鹿をしたみたいだから、後で軽くお説教と…。)
—女の敵は軽くじゃ無くていいよ。死なせない程度に殺っておいて。
(…了解。まさかほぼ全員にフラグ期待してるなんて思わねぇよな…。)
烈と悠にどうお説教をしてやろうか、そう考えながら、昴は夕食の支度をしに台所へと向かっていった。
■
自分がいない間の出来事を見た風花は、一つ溜息をついた。
「随分、特殊なシャドウが現れたんだね…。」
「うん。【マハ氷結ガードキルオート・永続版】もそうだけど…今思えば、氷海ちゃんの技…。」
「【スノープリズム】だっけか。けど、あの威力は…。」
「それに、混乱状態にも陥っているような印象も受けました。普段使う【スノープリズム】とは別物…。【スノープリズム・改】と言った所でしょう。」
思わぬ力を持つシャドウに、風花は不安になった。
「(この件は、必ず桐条先輩に報告しないと…。特異的なシャドウが何を意味するか分からないけど、話しておかないと対策を練れない…。もしこれから先、こんなシャドウが現れたら…!)あ、そうだ…。この後、どうなったのかな? 氷海ちゃんと烈君。」
「それは次。」
昴はまたもページをめくった。
■
私—ラスト前だけど、ここで区切ります。
昴「感想あればどうぞ。」