二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第一章:飛翔の暴龍/流星の悪龍 ( No.7 )
日時: 2014/12/30 19:01
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 その日の夜。翼は彼女の事を考えっぱなしだった。何せ、ヤンキー相手に臆せずに向かっていくのだ。はっきり言って、とても度胸のある行動と言えるだろう。自分にはできない。
 だが、それは勇気と言えるのだろうか?
 考えも無しに突っ込むのは蛮勇としか言えないのではないか?
 自分に頼ってくれたって良かったのではないか?
 そう考えていた。
 ---------いや、逆だ。
 人に頼れなかった、あるいは人に頼る術を知らなかったのではないか。ひょっとして彼女が自分の対戦を受けてきたのも、今まで1人だったから-------

「考えすぎか」

 かちゃり、と3DSのフタを開ける。時計はもう11時を回っていた。

「ボーマンダ、俺はどうすれば良い?」

 --------って、ポケモンに聞いても仕方ないか。
 はぁ、と息をついた。
 思えば、ボーマンダというポケモンと出会ったのが遠い昔に感じられる。
 環境にはガブリアスが蔓延っているのは前々のこと。
 XYから厳選をはじめ、対戦初心者だった翼もガブリアスでレートを戦っていた。そのうち、そろそろ構成を少し変えようと思ったとき。
 600属って他にどんなのがいたっけな、とふと浮かんだ。
 一般ポケモンで尚且つ合計種族値600ぴったりである証、最強クラスの称号。それが600属。
 カイリュー、バンギラス、ガブリアス、ヌメルゴン。
 対戦で使われることが多いのはこれらだ。
 しかし、ボーマンダとメタグロス。
 これらは使われることが少なくなっていた。
 前者は今まで劣化だったはずのカイリューが優秀すぎる隠れ特性を手に入れた事、後者はギルガルドと鋼タイプの相性変化で泣きを見ており、第四世代トップメタとしての威厳などもう無かったのだ。
 --------もったいねえじゃねえか、過去の栄光を過去のまんまにしちまうなんて。
 さて、これでどうして投入したのかなんてのは忘れてしまった。だが、自分が思ったとおりにボーマンダを育成したところ、それがかなり的を射ていたらしく、後の対戦でもかなり活躍してくれた。
 
「そっか、俺の思ったとおりの事をすれば---------」

 もう、意識がまどろんで来る。
 と、その前に育成論を纏めたノートでも読むか--------と起き上がって本棚に手を伸ばした。
 
「……間違えた、習字の本だ。懐かしいな」

 本を戻して、もう1冊手に取った。目が霞んでよく見えないのだ。

「……間違えた、これ合気道の通信講座のワークじゃん、結局辞めたけど」

 本を戻してた。思えば、色々な習い事をやってきたが、何一つ大成はしなかった。
 もっとも、どれも習っていて損はしなかったのだが。
 器用貧乏の所為か、結局どれもそこそこどまりでやめてしまった。

「……間違えた、これ水泳の本だわ」

 もう寝よう、疲れてるんだわ、と翼はベッドに向かうが---------

「あれ、結局俺何読むつもりだったっけ」

 忘れてしまった。時計は1時を回っていた。
 だが、1つだけ忘れていないことがある。
 明日は例え彼女が求めていなくても、自分のやりたいようにやる。
 そう決めた翼だった。

 ***

 次の日の放課後。静谷は指定された公園、正確に言えばこの間まで翼と対戦をしていた場所に向かっていた。
 学生カバンの中には勿論、ポケモントレーナー最大の武器(誇大表現)3DSが。
 古い公園で落書きはあるが、日当たりは良くそこまで危険そうな場所ではない。
 しかし、今回に至っては問題が違う。
 不良・御剣。彼がどれ程の実力者かは知らないが、口ぶりから相当自信があることは確か----------

「おっと、悪い!」

 思考はそこで途切れた。
 誰かがぶつかってきたのだ。フードを被った少年はそのまま過ぎ去っていく。
 尻餅をついた静谷だったが、息をつくと立ち上がってそのまま目的地へ向かって行く。
 しかし、御剣のあの自信は一体何処から来るのだろうか。
 間接的ではあるが、舎弟のヤスから自分の実力は知っているはず。
 それは、並みの相手では歯が立たないほど、ということ。
 で、あの態度ならば御剣が相当な実力者ということになる。
 しかし、彼女はそれでも絶対に勝てるという自信があった。
 理由は唯一つ。
 忌み嫌われる程良い自分の頭だ。
 この頭脳から生み出される何パターンもの敵の行動パターンから、最も使ってくる可能性の高いものをピックアップし、そして自身の技選択・交代先を決める、というもの。
 しかし、自信と慢心は紙一重。
 彼女は見落としていた。
 対戦とは、3DSを握る前からもう始まっていると言う事に。

 ***

「おーう、おう、逃げねえで来たか、このアマ」

 嫌味な口調で御剣は言った。周りには舎弟が2人いた。
 腕組みをし、コキ、コキ、と首を鳴らす目の前の不良。
 そして、自ら3DSをポケットから取り出す。
 戦闘準備は万端、と言ったところか。

「ところで、DSは持ってきたよな?」

 彼は意味深気に言う。
 此処でようやく、静谷は引っかかるものを覚えた。
 学生カバンをすかさず覗いた。
 パッと見はどうもなってはいない。
 ……しかし、中を開けてみた瞬間、背筋が凍る。

 ---------3DSが、無い---------!!
 
 見当たらない。入れていた場所に3DSが無いのだ。
 慌てて中を探したが、すぐに無駄だと言う事に気付いた。
 家では確かに入れたはずなのに。

「おいおい、忘れモンか? ふざけんな、俺は時間にはうるせぇんだ。もう取りに帰るとか言わせねえぞ、テメェ」

 彼の態度が威圧的になってきた。

「どーしよっかなぁぁぁん? 忘れ物なんて小学生レベルのミスやってんじゃねえよ、クソアマァ」
「あ、う」
「学校にはこの事を全部バラす。そして、お前は俺様の学校を卒業するまで、俺様達の言いなりだ-----------」

 ひゃははは、と御剣が大きく笑ったそのときだった。


「ま、こんなことになるだろうとは薄々感づいていたぜ」


 ビキ、と勝利を確信した御剣の笑みにヒビが入って崩れ落ちる。
 御剣は静谷の背後を見た。
 静谷も彼の視線を追った。
 その先には、居ないはずの少年の姿が合った。


 ----------速山 翼。


 何の前触れも無しに、彼は現れたのだ。
 何故? と静谷は疑問を感じた。
 あんなにブチのめされて、あんなに冷たく突き放したのに、彼は何で今此処にいるんだろうか、と。

「おい、御剣。こんな小汚い手ェつかってお前は平気なのかよ」
「どんな手だろうと勝ちゃぁいいんだよ! そいつが戦えない以上、俺の勝ちだろうが! それによぉ、とんだ濡れ衣だぜ!! 証拠はあんのか、エエッ!?」
「俺は、静谷の後を追ってたんだ。そんときにすっげぇ勢いで駆けてくる奴が静谷にぶつかった。手には何か握られてたぜ。まあ、追いつけなかったし、下手に動いたら静谷に気付かれる恐れもあって見逃したがな。お前、舎弟に静谷の3DSスらせたろ」

 しゃあしゃあ、と翼は臆せずに言った。静谷は何故? という疑問が心配に変わった。
 まずい状況なのが分かったのだ。
 周りには、血相を変えた下っ端達が拳を鳴らしている。
 にも関わらず、翼ははっきりと言った。

「----------こんな真似すんのは、ぶっちゃけ自分のプレイスキルに自信が無いからじゃないのか? それぐらいなら、ちっとは過剰気味でも静谷の方がよっぽどましだ、理解できるか脳筋ヤンキー共」

 ----------最も、てめぇがポケモンプレイヤーなら、って仮定するならだけど。
 と付け加えた翼。
 周りのヤンキーは「てめぇ、キョウさんに何て口を!」、「野郎、ぶっ殺してやる!!」と怒鳴って、つかつかとこちらに歩いてきた--------のを何と意外なことにそれらを束ねる御剣が止めた。

「おい、手ェ出すんじゃねえぞ?」

 ひ、という声が舎弟2人から漏れた。

「俺だって此処までコケにされたら黙っちゃいられねえ。徹底的に、”俺自身”の拳で潰す」

 自分の拳をぶん、と軽く振った後、御剣は

「テメェはさっき、俺の事を脳筋ヤンキーって言ったが、それは違うぜ」

 よほど怒っているのか、青筋を頭に立てて彼は言う。

「俺はこれでも頭には自信があんのよ! そして、ポケモンだってれっきとしたプロだ。個体値厳選もするし、調整だってする!! つまり、何が言いたいかってぽっと出のでしゃばりに俺が負けるかって質問があるならば」

 と続けて、3DSを開いた。

「答えはNOだ! どこのどいつだか知らないが、ポケモン勝負で売られたその喧嘩、俺は男らしくポケモン勝負で買うぜ!!」

 よし、と翼は心の中でガッツポーズをした。
 理想的な話の流れになってきている。

「ただし、俺が勝ったらテメェはリンチの刑だ。死んでもしらねぇぞ、それでもやんのか?」

 静谷でさえ呆れ気味になった。
 命知らずにも程がある。
 が、彼女の心配を他所に翼は言った。


「オーケー、だけど宣言するぜ。この速山 翼は”この場で御剣 鋏弥を必ず倒す”とな!」