二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第一章:飛翔の暴龍/流星の悪龍 ( No.13 )
- 日時: 2014/12/30 18:44
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
愕然、とした様子だった。御剣は。余程自身があったのだろうが、何よりも現環境トップクラスのメガハッサムが、現環境で最も落ちぶれた600族のボーマンダに”物理技”で倒されたのだ。
それも、ストーリー中でしかまともに使わないであろう”空を飛ぶ”で。
はぁー、と溜息をつくと翼は言った。
「つーわけで、静谷の3DSは返して貰うぜ」
まさか、本当に勝つなんて、と静谷は驚きを隠せない。一歩間違えれば、即負けていたかもしれないが、何にせよ勝った事には変わりがない。
安堵を隠すことも、出来なかった。
「ま だ だ」
御剣が顔を上げた。足をずしり、と立てて翼に詰め寄る。
そして、余裕の笑みを浮かべた。
「まだだ、まだ俺は負けていねぇ……!! 俺は負けたくない、俺はなんとしてでも勝たなきゃいけねぇんだよ、ド三下ァ!! ちょっと意表を突いたからって勝った気になってんじゃねえぞ、マイオナ厨がよぉ!?」
ゴキゴキ、と嫌な音が彼の首から鳴った。
罵詈雑言を浴びせながら、1歩、1歩と翼に詰め寄っていく。
その姿からは執念すら感じる。
「てめぇは今、負けたはずだ。まだ何かあるのかよ」
にやぁーっ、と御剣は笑って返した。
「いや、まだだ……ここでお前をぶちのめせば、それで俺の勝ちだァーッ!!」
轟! と風を切って御剣の拳が翼の顔面へ突き刺さらんと突っ込んでいく。
ひっ、と静谷は悲鳴をあげた。
流石の舎弟も「キョウさん!!」と叫んで止めに掛かる。
何て奴だ。
約束云々と自分から言っておきながら、自分から破っていくスタイル。
このままでは、自分の顔はミンチになるだろう。
まあ、”このまま”何もしなければ、という話だ。
御剣の拳はそこで止まった。
手首がとても強い力で握られている。
殴られる寸前で翼が手首を握って止めたのだ。
「お前、さっき勝利が何たらって言ってたけどよ。こんな勝ち方して本当に嬉しいのかよ」
「るっせぇぇぇ、その手を離せぇぇぇ!! 勝ちゃいーんだよ、結果が世の中は全てなんだよ、ド三下ァーッ!!」
「メガハッサムっていうポケモンは、正面から相手を火力でねじ伏せる」
御剣の手首を取った翼は、そのまま御剣の体の内側に入り、体勢を崩した。
そして、両手を振りかぶりつつ、180度回転し、刀を斬るように腕を振り下ろした。
御剣の体が仰け反ったように倒れた。
肘は頭の後ろに回されている。
「俺さー、通信講座で合気道習ってたんだよな。結局途中で辞めたけど。けど何の護身術もなしにてめーら不良の居る場所に乗り込んでくる訳ねぇだろ」
「あ、あぎぎぎ、この野郎ォーッ!!」
押さえが甘かったか、払いのけられる翼。
殴りかかってくる御剣だが----------
「ぶち殺してやる、ド三下ァーッ!!」
「るっせぇ」
体勢を立て直し、静かに言った翼だったが、その拳には怒りが篭っていた。
右ストレートは確かに御剣の頬を捉えた。
突っ込んできた勢いが相乗し、脳天にまでその衝撃が響く。
そのまま、拳を押し出し、御剣の巨体を地面へ叩き付け、怒鳴った。
「正面からまともに殴り合えない卑怯者のお前に、メガハッサムを使う資格はない。文句があるなら、頭しっかり冷やしてから正々堂々挑んできやがれ!!」
御剣は完全に伸びていた。
硬い地面に頭を打ち付けられたのもあるだろう。が、頭には傷1つついていない。石頭で幸いだったろう。
「おいっ!!」
舎弟の1人に翼は怒鳴った。
「静谷の3DS盗ったのはどいつだ?」
「お、俺ですぅぅぅ!! 盗った後、全速力で裏道抜けて帰ってきたんです、データとか何にもいじってませんから、許してくださいぃぃぃ!!」
即・土下座。翼の怒気に何も反論できず、謝るしかないようだ。
「次やってみろ、あのバカと同じ目にあうぞ。俺前に不良10数人を病院送りにしたことがあるから」
「マジさーせんしたぁぁぁ!!」
静谷の3DSを翼に渡し、舎弟2人は気絶している御剣を背負って、そのまま撤退していった。
まだ不安げな顔をしている静谷に、翼はにっ、と少しだけ笑って言った。
「ま、今のは嘘だけど。合気道習ってたのは本当な。ほれ、3DS」
静谷は受け取った3DSを受け取り、電源をつけてデータを確認する。
大丈夫だ。レポートを最後に書いた時点から何も変わっていない。
「ありがとう」
「良いってことだ。さ、帰ろうぜ」
色々大変だったが、とにかく静谷と彼女の3DSが無事で良かった。
安堵した翼はとっとと帰ろうとするが--------静谷が「待って」と自分の袖を掴んでいることに気付く。
「さっきのバトル、すごかった。あのボーマンダがあんな動きをするなんて」
「たまたま相手の編成があんな感じだったからよ。ファイアローを選出してたらまずかったかもな。でも、竜舞空飛びって決まったらすっげー楽しいんだ」
「……今度、対戦して、翼」
ああ、いいぜ、と言おうとした翼は喉から出そうとした言葉が引っかかった。
今、自分が名前で呼ばれた気がしたのだ。
「おい、今お前俺の事を名前で」
「うるさい、バカ」
「バカ!? お前、恩人に対してなんてことを---------」
***
速山 翼は自分のライバルと成り得る初めての人間だった。テンプレの中に仕掛けられた地雷。
そして切札の圧倒的破壊力。
もしかしたら、将来とても化けるかもしれない、と。
速山 翼とボーマンダ。この1人と1匹が自分達を打ち負かす日はそう遠くない。
「ぎゃあ、此処で急所かよ、折角新しく育てたのに!」
……先はまだまだ遠いかもしれない。
学校の寂れた空き部屋で一緒に対戦している彼を見て、静谷 未歌はふっ、と息を漏らした。
「まだまだプレイングが甘い。そんなんじゃ、あたしには一生勝てない」
「るっせ、分かってるよ! 何か、この間みたいに行かないんだよな、お前相手だと」
「簡単に勝たせる訳がない」
「あ、そーだ次交換しようぜ。俺丁度、交換進化させたい奴がいるし-----------」
それでも、楽しむという心を忘れていない彼はいずれ、ライバルは愚か、自分を追い越すかもしれない。
それも案外、本当に近いうちに------------