二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第二章:携帯獣対戦のすゝめ ( No.15 )
- 日時: 2015/08/20 21:11
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
その後の対戦でも彼女の奇行は続いた。
ボーマンダの飛行複合を忘れて地面技を撃ったり、バタフリーでメタグロスに突っ張ったり、最後は剣の舞→波動弾の黄金コンボを繰り出す始末。よく殿堂入りが出来たものである。
そのほかにも本来なら抜かせるはずのボーマンダをマフォクシーが抜けなかったりなど育成も滅茶苦茶な点が見られた。
「……」
「す、すいません、あたし対戦とか下手で……」
いや、下手以前の問題である。
パーティは全て殿堂入りに使ったポケモン、努力値・性格は当然滅茶苦茶、技構成も秘伝技ばかり……。
「レーティングバトルとかやっても全然勝てないんです。旅で最後まで連れていったポケモンなのに……」
「ま、確かに旅で連れていったポケモンには愛着があるわな」
ふぅー、と息を吐いた翼は彼女には勝ちたいという強い意志がある、と感じた。
悔しいだろう。翼だってそうだ。
厳選を繰り返しても、勝てないときだってあるのに。
だが、今のままでは夏奈は絶対に勝てない。
対戦という境地に踏み入れた自分達には。
だが、何と言ったものか。翼だって殿堂入りしたパーティでは対戦で勝つことはできないと知ったとき、ショックだった。
「……勝ちたい?」
ふと、夏奈と翼の視線が机に座っていた静谷に向いた。
こくり、と彼女は頷く。
「誰だって……負けたくて対戦やってる人なんか、いるわけないじゃないですかっ」
さっきまで元気だった彼女の顔に雲がかかったようだった。影が差し込むような、そんな顔だ。
とても、悔しそうだった。
「じゃあ教えてやるぜ、俺達が」
しかし、翼が暗雲を切り開くように言う。
「ただし、俺らに付いて来る覚悟があるんならよ」
「い、良いんですか!? そこまでしていただいて!」
「強くなりたい、その意思があるならあたし達は応援する」
「お、静谷。気が合うじゃねえか。それじゃあ、初心者用レッスンパート1だ-----------」
***
「タイプ相性、プレイスキル云々は後回しだ。お前の持っている問題は、それ以前なんだよ」
ごくり、と夏奈は息を呑む。
翼はふぅ、と息をついて言った。
「厳しいことを言う様だが、お前のポケモンははっきり言って------------弱ぇ」
ズガーン、と彼女の頭に落雷が降りかかる。
あははは、まあ薄々気付いてましたよー、と彼女の口から漏れているのが分かった。
全く先の思いやられる後輩である。
「でも、例えばあたしのマフォクシーは1匹で四天王全員のポケモンを倒せるんですよ、弱いわけがないんです!」
はぁー、と翼は溜息をついた。
懐かしいものである。旅の相棒であるゲッコウガでレーティングに挑み、ボッコボコにされた思い出を。
「お前のマフォクシーは確かに1匹で四天王全員を倒せるかもしれない。が、そんな甘い考えは捨てろ」
「え、えええ!?」
「え、じゃねえ。さっきも言ったとおり、公式のフラットルールではレベル50以上のポケモンはレベルが50に統一される。つまりを言えば、レベルによるごり押しが通用しない」
確かに旅では相手が自分よりレベルが低かったりして楽に勝てるときが多い。
しかし、それはあくまでも”旅のポケモン”。
対戦のためだけに選別され、鍛え上げられた”対戦用のポケモン”相手では勝てるわけがないのだ。
「辛いかもしれないけど、旅の仲間じゃ負ける。諦めて」
「ポケモン対戦には3つの重要な隠しステータスがある。俺らはそれらをまとめて”3値”と呼んでいる」
「これを知らないと、相手と同じ土俵には立てない」
ぽかーん、とした様子で突っ立っていた彼女は口を開いた。
「クトゥルフでも始めるんですか?」
「は?」
「いや、だって先輩”SUN値”って」
「……ニャル子さん今関係ねぇ! クトゥルフも関係ねぇ! 3だよ、”3値”の3は数字の3だよ!!」
「ひえええ、SUN値ピーンチ!」
「しつけーんだよ!!」
***
「というわけでだ。第一回、3値を学習しよう、チキチキ補習授業の時間がやってきました、ドンドンパフパフ〜」
「先生、古いネタやらないで下さい」
急に敬語で話しだし、机を綺麗に並べて前に夏奈と静谷を座らせた翼は、伊達眼鏡を掛けて指示棒片手に黒板の前に立っていた。しかも、これを終始仏頂面でやっているのが非常にシュールである。
白いチョークででかでかと3値と書いている。
「というわけで、対戦初心者の東雲さんのために今日は速山先生が時間をとって補習授業をします、よろしくね」
「先生、何であたしまで生徒になってるんですか」
「はいはい、授業は静かに受けましょ----------」
次の瞬間、コンパスが翼の額に刺さった。
表情はいつもの仏頂面だが、静谷の顔から明らかに殺意と憎悪のオーラが滲んでいるのが分かった。
「あ、あー、とりあえず、このキャラ面倒だからもう良いや。いだだだ、つーわけでだ。まずさっき言った3値っつーのは勿論3つある。これがぐだぐだだと、東雲、お前は今後絶対に対戦で勝つことは有り得ない」
「うっ」
「だが、逆に言えばこれさえ覚えればレートに潜ってる廃人共と同じ土俵に立つことができる。もしかしたら初陣で勝つかもしれねえ」
ぱああっ、と夏奈の顔が輝いた。
全く分かりやすい性格の少女である。
さて、と翼は言うとまずは”種族値”と黒板に書いた。
「まずは種族値だ。よーするにポケモンそのものの能力で、例えば------------」
ピカチュウ
HP:35
攻撃:55
防御:40
特攻:50
特防:50
素早さ:90
合計種族値:320
ボーマンダ
HP:95
攻撃:135
防御:80
特攻:110
特防:80
素早さ:100
合計種族値:600
「と、このように、だ。ピカチュウは素早さが伸びやすく、ボーマンダは攻撃力が高いが、ボーマンダの方が圧倒的に種族値は高い。ま、ポケモンに絶対はないからピカチュウがどう足掻いてもボーマンダに勝てないってことはない。ちなみに、ボーマンダの合計種族値は600だが、この600という合計種族値を素の状態で持つポケモンは伝説を除くと7匹しかいない。これを種族値最強クラスのポケモンに送られる名誉の称号、”600族”という」
「じゃあ、ボーマンダはとても強い部類に入るんですね!」
「種族値だけなら、だけど。でも600族はいずれも弱点が共通しやすいから、これだけで組んだらバランスがガタガタになる。ポケモンは種族値だけじゃ決まらない」
静谷の種族値だけなら、という言葉が地味に刺さる翼だった。いや、本当にやめてさしあげろ。
「ちなみにポケモンが進化すると強くなるのは、」
ライチュウ
HP:60
攻撃:90
防御:55
特攻:90
特防:80
素早さ:110
合計種族値:485
「このように、種族値が上がるからだ。これでようやくボーマンダを上回る素早さを手に入れられる」
いったん説明を終えると、ふぅと翼は息をついた。ちなみに、上のピカチュウとボーマンダのデータはこの小説の作者の1人、モノクロの雑談スレ『DM第三相談室』に載っているものから引用している。3値について詳しいことは手っ取り早い話、そこを見ると良いかも知れないが、できればこのままお付き合い願いたい。
さて、翼の疲れた様子を見かねたのか、静谷が今度は説明を始めた。
「次は努力値。これはスパトレとかで確認できる基礎ポイントと意味は同じ。これを溜める、俗に”振る”ことでポケモンのその能力はもっと伸ばせる。努力値は510まで溜められて、そのうち508が適用される。1つの能力値に252まで溜められるから、最初はアタッカーなら攻撃&素早さor特攻or素早さの優れている方に振ると良い」
人間でもポケモンでも努力をしなければ強くはなれない。
努力値は正に、そのポケモンの努力指数なのだ。
そして、夏奈のポケモンをスパトレで見てみたが、やはり滅茶苦茶で中途半端な振り方になっている。
当然だろう。道中でポケモンを倒しても努力値は手に入るが、そのため変なところに努力値が振られてしまいがちなのだ。
「あはは、これじゃダメですね」
「攻撃が高くて特攻が低いポケモンに特攻の努力値を振るより、攻撃に振った方が無難」
「ちなみに、防御型ならHP&防御orHP&特防に限界まで振ると良いぜ。後、素早さの種族値が元々低い奴はアタッカーでも、素早さよりHPに振った方が良いかもな」
「慣れたら、調整っていってもっと複雑な振り方にしても良い……大丈夫?」
静谷が声を掛けるが、見れば彼女は目を回している。
「えーと、努力値が252で……」
「まあ、焦らずじっくり覚えていこうぜ。俺のボーマンダだって、攻撃と素早さに限界まで振ってるだけだしさ。スパトレとかを使うと便利だぞ」
さて、と翼は笑って続けた。
「次は、俺達が厳選を繰り返す理由である、3値の中で一番難儀な数値だ----------」