二次創作小説(映像)※倉庫ログ

害悪支配者 ( No.22 )
日時: 2015/04/28 23:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

 おかしい。
 なぜ、金が回ってこない。
 奴らが馬鹿だとしても、僕がいなければ自分たちの非行がとっくに露呈していることは分かっているはずだ。
 なのに、なぜだ。なぜ、奴らの貢物は止まる?
 ……そうか。
 御剣鋏弥がやられたのか。
 だから連中も、動くに動けないのか。
 仕方ないと言えば仕方ない。裏で動いているとはいえ、組織に従属する身だ。トップには逆らえないだろう。
 だが、“支配者”たる僕に逆らうことなど、許されざることだ。
 しかし奴らが動きづらい事実は変わらない。致し方ない、僕が少しばかり手を出すことにしよう。
 幸い、奴らから話は聞いた。御剣を潰した奴の話を。

 速山翼。

 奴を潰す。
 そして僕の支配を盤石にする。
 それが、支配者たる僕の使命だ——



 ***



「——ここはやっぱ裏をかいて押すべきか……いや、裏の裏をかいて引くが吉……だが待て、相手はそれすら読んで裏の裏の裏をかく可能性もある、だったらこっちは裏の裏の裏の裏の——」
「ねぇ、ちょっと。翼」
「なんだよ、こっちは今、猛烈に頭をフル回転させてんだ! 邪魔すんな!」
「……いや、でも」

 放課後、いつものように教室に集まり、ポケモン対戦に興じていた翼、未歌、そして夏奈の三人。
 人数が奇数なので、対戦はローテーション。今は夏奈が観戦者となり、翼と未歌が対戦しているのだが、

「……考えるのは悪くないけど、考えすぎ……」

 呆れたように、嘆息交じりで言う未歌。
 今、翼の場にはボーマンダ、未歌の場にはサザンドラがいる。
 翼は、サザンドラの持ち物がいまだ分からないため、押し引きに悩んでいるようだった。眼鏡なら押す、スカーフなら引く、というように。
 だがしかし、その思考にかなり時間をかけている。未歌は既に選択済みで、軽く手持無沙汰だった。

「ポケモンってこんなに長く考えるんですねぇ、私いっつもさっさと決めちゃってました」
「対戦に慣れて来たら、長考はした方がいい。相手の体力、技、努力値、残りポケモンなどの情報を分析して、次の一手をしっかりと考えることは、とても重要なこと」

 だけど、と未歌は翼の方を見遣る。

「あんまり長引かせても、ただの遅延行為になりかねない。特に、こうやって面と向かい合ってる時は、対戦相手に失礼」
「誰が遅延行為だ! これも長考だろ!」
「下手な考え休むに似たり、って諺もある」
「そういえば私、この前レーティングですっごく長く考える人と当たりました。それで、いつの間にか終わっちゃってて……グライオンとラッキーとポリゴン2が相手だったんですけど……」
「それ受けループ……遅延行為ではないけど」
「俺はあの戦術大っ嫌いだな。なんつーか、ポケモンバトルをしてる感じがしねぇ」

 受けループとは、簡単に言えば、相手の攻撃をすべて受け止めて、時間切れまで戦う戦術。
 ポケモン対戦は時間切れになると、ポケモンの総体力が多いプレイヤーが勝つのだが、その仕様を利用し、高い耐久のポケモンで粘り続け、体力も回復させながら時間切れを待つ。
 1ターン1ターンを時間いっぱいまで使うので、10秒程度でさっさと決めてしまうプレイヤーからすれば、なかなかに鬱陶しい。
 しかもポケモンも、身代わりや守るを多用するので攻撃が全然当たらず、グライオンはハサミギロチンで一撃必殺を連打、ラッキーは小さくなるで攻撃を躱し続けるなど、とにかく一般的な戦い方をするプレイヤーからすると、専用の対策をしなければ構築の時点で詰みかねないので、毛嫌いされていることが多い。
 それでも立派な戦術の一つで、ルール違反をしているわけではないのだから、一方的に毛嫌いするのも間違っている、という意見もあるのだが。
 要は曖昧なマナーの問題だ。そしてそのマナーという点において、翼の長考は遅延行為扱いされてしまっているというだけだ。

「いーや、やっぱここはこれか、それか、それとも……」
「まだやってる……」
「あはは……あれ?」

 夏奈がふと廊下の方へ視線を向けると、少し焦ったように声を上げた。

「あ、あの、先輩っ、誰か来ますよ!」
「なに? 誰だ?」

 翼と未歌も、こっそりと窓の外を見遣る。
 そこからは、まだ遠いが、はっきりと教師の姿が確認できた。

「あれは……生徒指導の……」
「やっべ! 見つかったらまずいぞ! 早く隠れろ!」

 学校にゲーム機を持ち込むだけでも、厳しい教師は怒る。
 それを空き教室に勝手に忍び込み、隠れてこそこそやっているとなれば、大激怒だ。しかも相手は生徒指導。校則やルールには厳格で、見逃してくれるはずがない。
 翼たちは急いで扉と窓を閉め、電気を消し、掃除用具入れのロッカーの中と教卓の下に分かれて隠れる。

「——って、なんでこっちに来るの」
「仕方ねーだろ、掃除用具入れには東雲が隠れて、俺じゃ入れねーし」

 先に教卓に潜り込んでいた未歌は、後から入ってくる翼に、刺々しい声で言う。
 分かれて隠れる。それはよかったのだが、空き教室であるここには、大したものは置いていない。
 隠れられる場所は掃除用具入れと教卓の二ヵ所のみ。そうなれば必然、二人は同じ場所に隠れなければいけない。
 二人とも中学二年生。体もそれなりに成長している年頃だ。
 教卓の下なんて狭いスペース、入れないとは言わないまでも、二人も潜り込めば体が密着してしまうのは仕方のないことである。

「ぐ、狭い……もっと寄れないのか?」
「無理。そっちこそ、もっと寄って」
「それは無理な相談だ」

 結局、互いに身を縮めあい、背中合わせのような形で教卓の下に入り込んだのだった。
 コツ、コツ。と足音が響いてくる。生徒指導の教師が近づいてきているのだ。
 同時に、焦りと緊張で鼓動が高鳴る。背中合わせとはいえかなり密着しているため、お互いの心臓の鼓動も聞こえてくるようだ。
 だが、この鼓動の高鳴りは、本当に焦燥から来ているものなのだろうか。教師が近づいていて、見つかるかもしれないという恐怖が、心臓をのビートを速めているのだろうか。
 そんな考えがよぎる。
 そして、そんなことを考えているうちに、足音が遠ざかっていく。

「……行ったか?」
「たぶん……」

 念のためにまだ様子を見ようと、少し待ったが、足音は完全に聞こえなくなった。
 それでも念には念を入れて、そーっと顔を半分出して、教室内の様子を覗く。そこには、誰もいない。
 そこまで確認して、やっと翼は教卓の下から這い出てきた。同時に、未歌もパタパタと制服に付いたほこりを払い落しながら出て来る。

「危なかったぜ、生徒指導に目を付けられたら厄介だからな」
「確かに。内申点とかも、下げられるかもしれないし」
「だな……っと、忘れてた。おーい、東雲! もう大丈夫だぞ!」

 翼の呼び声で、キィ、と掃除用具入れが開き、中から夏奈がひょっこり顔を出す。

「先生、もう行きました?」
「行った行った。はーぁ、マジで冷や冷やしたぜ。だが、これで対戦にもど——」

 と、翼が手に持った3DSに目を落とした、その時。

「あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ……っ、いきなり大声出さないで。先生が戻ってきたらどうするの」
「俺のマンダが! 俺のマンダがいつの間にかあぁぁぁぁぁぁ!」

 見れば、翼のボーマンダは戦闘不能に。そしてなぜかサンダースが場に出ていた。
 その様子を見て、未歌はぼそりと呟くように言う。

「……隠れてる間に、時間切れになったんだ」
「時間って、技とか選ぶ時に、画面の右下に出てるあれですか?」
「そう。時間切れになると、左上に表示されている技が勝手に選ばれる」
「くそー、交代するつもりだったのに!」

 しかも隠れている間は3DSの画面など微塵も見ていなかったので、目の前のボーマンダを殺戮したサザンドラがどのように動いたのかもわからない。持ち物どころか、流星群で特攻が下がったのかどうかすらも不明だ。

「あの先公……! よくも俺のマンダを……!」
「もう、対戦も滅茶苦茶。仕方ないから、無効試合ってことにしよう」

 突然のアクシデントだったため、仕方ないことではあるが、これからもこのようなことがないとは限らない。
 そのたびに、いちいち隠れていては、対戦にも支障をきたす。そうでなくても、見つかったら厄介なことになるのは確かだ。

「今までそういうことがなかった方が奇跡染みてったわけ、か。そろそろ、ここで隠れて対戦するのも限界かも」
「そうだなぁ。もっと、堂々と校内で対戦できればいいだけどな」

 しかし、校則として『学校生活に関係のないものの持ち込みは禁止』とされているので、なかなかそういうわけにもいかない。
 いっそ不良たちのように開き直れば話は早いのだが、表向きは優等生ということになっている未歌などに、今まで築いてきたイメージを破壊させるのも忍びない。

「なにか、他のことで必要だから、みたいにして持ってこられたらいいんですけどね」
「他のことってなに……内容が曖昧すぎるし、ゲームが必要になる状況なんてあるわけ——」
「ちょっと待て。だったら、ゲームを持ってきてもいい状況を、俺たちで作っちまえばいいんじゃないか?」
「なにをいきなり。どうするのそんなこと? 校則を変える運動でもするの? そんなの、すぐに鎮圧されるのがオチ」
「いーや違うね。学校全体を変えることができなくても、一部の場所だけでゲーム持ち込みオッケーってことにすればいい。つまりはこういうこった」

 翼はスゥっと息を吸い、高らかと、そして堂々と。
 宣言した。

「俺たちで、部活を作る!」