二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート1:謎の敵(1) ( No.2 )
日時: 2015/02/26 23:50
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 英雄、英傑、という言葉は誰しも聞き覚えがある。誰もが笑った巨大ネットワーク大会『Battle of Hoenn〜バトル・オブ・ホウエン』への出場、そしてランク100以内への進出。
 それを成し遂げたポケモン達---------という小見出しで綴られた新聞を手にした少女は何やらブツブツ呟いていた。
 
「すごいよね、脳筋の癖してあいつも。ま、対戦環境トップメタだったのもあるけど」

 黒いブレザーの女制服にさらりと伸ばした黒髪。胸の蒼いリボンと黄色い瞳が目を引く少女は青い炎のような妖精っぽい何かが運んできたティーカップに手をとり、紅茶を啜った。
 瞳の奥には静かに燃えるような炎がゆらめいているような妖しさを思わせる。
 仕事仲間のその男を称えているのか、貶しているのかははたまた謎だが。
 

「今、良いか?」

 
 という声と共にノック音。
 ええ、と答えた後、青い炎の精が何匹か飛んで行き、扉を開けた。入ってきたのは背の高い気の強そうな女だ。武人肌、というかそういうものが見るだけで伝わってくる。
 が、そんな空気などとっくに慣れているのだろう。

「何のようですか? 貴方がわざわざ此処、”静炎邸(ジョウエンテイ)”に来るなんて」
「いや、な。うちのバカの弟分が此処まで成長するとは思わなかったんでな。同僚のお前に話聞きに来たのさ。それに、怪我も心配だったからな」
「バカ、ですか。ま、その通りですけど。でも、バカ程真っ直ぐに成長するものですね。バカですけど。後、怪我なら心配なく。今すぐ実戦にも復帰できますよ」
「普段からお前とあいつは組んでたじゃないか」
「暑苦しくて鬱陶しいだけです、あんな奴」
「そうか、だけど実はお前が一番、今回の件を喜んでいるんじゃないか?」
「へっ?」

 一瞬フリーズ。
 解凍。
 そして、かあああ、と彼女の顔が真っ赤になる。

「そ、そんな訳無いじゃないですかぁーっ!!」

 そうかそうか、と鼻で笑うように女は青い炎が持ってきたティーカップを取り、中身を啜る。

「ひ、ひどいですよ! あたしがあんな奴、の心配なんか!!」
「ひどいのはお前だ、あんなに入院してた時に心配してもらってからに」

 ケラケラ、と笑う女に少女は真っ赤になったままの顔を俯かせて言う。

「心配しろって頼んだ覚えはないです、あんなやつぅ〜!!」

 オカルトチックではあるが、どこか神秘的な書斎の明かりは、彼女の付き役をしている蒼い炎達だけだ。
 しかし、今は”本体”の彼女の感情に呼応してか、メラメラと赤く激しく燃えている。
 ようやく、彼女が落ち着いた頃、女は続けた。

「今じゃ、私に代わってあいつはマスターのエースとして先陣切ってくれている。こりゃ、私が引くのはもうそろそろか」
「とんでもない。マスターもマスターです。クラス:6Vという生まれながらの天才を勿体無い」
「6Vだって5Vとは変わらない。要らない能力にVが入っていたって邪魔なだけだ。役割破壊の大文字なんて、今時あたしらガブリアスでやることでもない」

 ”V”。その能力値が最強であることを表す勲章。それが多い者が育成され、対戦に出る権利を獲得する。
 制服の少女は5Vの称号を持つ。Vがないのは、対戦では使わない能力のみ(物理型のポケモンならば特殊攻撃力、特殊型のポケモンならば、物理攻撃力)。
 一方の長身の女は生まれながらの天才、6Vの称号を持っていた。軍人肌の彼女はいつも周囲を引っ張ってきた。

「だから、それに奢ることなく、努力してきたつもりだが、私だって引き時は分かる。私にはマスターの求める物は無い」
「火力、ですか。馬鹿馬鹿しい、A種族値130を火力不足と自分で言うんですか。PGLランキングだって、貴方の種族が1位じゃないですか。あのバカは圏外に転落したのに」
「……ランキングの問題ではないさ」

 はぁ、と彼女は溜息をついた。


「私よりも、奴のほうがマスターの求めるそれに合致していた、それだけだ」

 
 その顔には絶望だとか、そういう色は無かった。
 むしろ、清清しい気分だったであろう。

「……メガシンカ」
「……」

 少女の呟いた一言で、女は押し黙ってしまった。

「メガシンカさえ使えば、貴方だってエースの座に---------------」

 ***


「だーっはっはっはっ!! 粉砕、玉砕、大喝采☆」
「バカがバレるのでやめてください」

 これが、噂のバカである。青と赤のメッシュの髪が特徴的な彼は、サングラスを掛けており、威圧感ばっちりだが、台詞の所為で威圧感など無くなってしまっている。
 それを窘める少年は、眼鏡にオレンジの突起がついたヘッドフォンが目を引く。優等生、という言葉が似合うが、目は生憎三白眼でワルっぽい。

「今日も3タテだったぜ、なぁ!?」
「ええ、僕が起点を作ったおかげですね」
「あ? 俺以外誰も出てないだろ」
「てめぇぇぇ、好い加減にしろよぉぉぉ!! アンタは自分が活躍すりゃ、それで良いんですかぁぁぁ!!」

 キレた眼鏡の少年。どうやら、気は長い方ではないらしい。

「勝ったときは100%俺のおかげ、負けたときは100%お前らモブの所為だろ」
「最低だよ、コイツ!! エース失格だよ!!」
「エースは、このボマー様一択だぁぁぁ、俺以外あり得ん!」
「自惚れも度が過ぎますよ、全く……」

 ふはははー、と叫ぶバカ(ボマー)。いまや、チームは愚かボックス全体のエースとして名を馳せる彼は、バトル・オブ・ホウエンでも見せた超火力で今日も相手を3タテしたのだった。
 そう、彼の種族はボーマンダ。オメガルビー・アルファサファイアからメガシンカを得た600族ポケモンの一角だ。

「ボマー先輩、バトル・オブ・ホウエンの後から、相当元気になってるよね」
「チャモさん……このバカ先輩は最初ッから元気です」

 頭を抑えながら、眼鏡の少年はチャモと呼んだ少女を見るが、つい目を逸らしてしまった。何故なら、彼女の格好は開け放した丈の短い白のパーカーの下に赤いチューブトップのみを纏っている、というもので結構露出が多い。本人曰く「暑いから」。
 今はもう慣れたと思ったが、最近、また彼女の格好を意識してしまっていた。いや、ひょっとして意識しているのは彼女自体か?

(僕の顔が熱くなりそうです……)
「どしたのー? あっくん?」
「何でもありませんっ!」

 しかし、本当疲れる面子だ。彼の名はアクア。ポケモンの中でも御三家、と呼ばれる最初の三匹の最終進化系・ラグラージだ。その中でも最強クラスの能力を彼は持っている。誇張ではなく、種族値的な話だ。
 が、好きなことはアタッカーよりも起点作りや頭脳戦。どちらかというと、物理攻撃力の方が高いにも関わらず。
 さて、他の面子はボマーに呆れて帰ってしまったところである。
 自分達も早く、このネットワークの海・バトルスポットから自分の居場所に帰りたいところだ。

「早く帰りましょう、皆さ------------」

 そう言って、踵を返したそのときだった。


 ズドン


 爆発した。
 背後で、何かが。轟音と共に。
 直後、振り返ればネットワーク空間の壁をブチ破るように現れたのは、黒いもやもやの塊-----------だった。
 それは直後、一気に黒い玉を放った、玉は周辺に居た他のポケモンに襲い掛かり、再び爆発する。
 同時に、何か光のようなものが黒い塊の元に集まっていく。


 ----------我、汝ラニ復讐スル者ナリ。


 アクアは気づいた。
 さっきまで普通に話をしていた少女が痛そうに肩を抑えているのだ。

「い、痛い、よぉ……!」
「チャモさん!!」

 慌てて駆け寄る少年。心配そうに彼女を安静にする。

「……よくも、よくもチャモさんにこんな真似を---------------!!」
「あっ、くん……!!」
「アクア、待て!! 無闇に突っ込むんじゃない!!」

 アクアの姿は、先ほどまでの人間の姿ではなかった。
 完全に”原型”と呼ばれる携帯獣(ポケモン)の姿へと変化していた。
 此処にいるポケモン達は、普段こそ擬人化された姿をしているが、対戦のときのみ、または闘争本能が高ぶったときのみ、こうして元の姿へと戻れるのだ。
 ただし、かなり疲れる。体力を多く消費するのだ。普段の対戦の時は、模擬戦なのでこういった体力消費を心配する必要は無いが。
 さらに、アクアは主の持つキーストーンの力を無理矢理借り、(実際はその場に居なくとも、気合で何とかできる)自身のメガストーンに力を注ぎ込んだ。
 激しい光と共に、その姿をより屈強に、そして

「メガラグラージの馬鹿力、見せてやりますよぉ!!」

 ”進化”した。
 限界を超えた更なる進化、それがメガシンカ。
 アクアもまた、メガシンカを可能とする種族・ラグラージ。そして、バトル・オブ・ホウエンでは決して自分からはやらなかったアタッカーを自ら進み出たのである。
 その火力は、馬鹿にはならない。

「アクアテールッ!!」

 激流を尾に纏わせ、黒い塊に向かって-----------突撃する。
 辺りのもの、全てを押し流すように。
 しかし、そのときだった。
 黒い塊は確かに呟いた。


 オマエノメガシンカパワー-----------貰ウゾ……!!