二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- パート7:暴龍警報(5) ( No.107 )
- 日時: 2015/04/08 00:25
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
気付けば、アクアはベッドの上に寝ていた。
とても悪い夢を見た気がする。
チャモの首が跳ね飛ばされて、そこから先は-----------覚えていない。
「あ、あはは、夢でしたか、夢」
しかし、おかしい。
まず、この部屋は明らかに自室ではない。
病室、だ。
暗くて最初は分からなかったが。
見れば、そこには少女の姿があった。
思わず、名を呼んだ。
「チャモさん!!」
「……」
少女は少し悲しそうな顔をした。
「……ごめんなさい、アクアさん」
ようやく、少女の顔が分かった。ムゥだ。
どうやら、間違えていたらしい。
----------普通ならば、ありえないのだが。普通ならば。
「はあ、何だムゥさんでしたか。で? 何で僕は病室に寝かされて----------」
「それは--------」
泣きそうな顔で、彼女は曖昧に答えた。
まるで、答えを出し渋っているような。
アクアの表情は、今のところ至って普通だった。今のところ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、それで? チャモさんはどこに----------」
「アクア」
反対の方からも声がした。
ガメリオだ。
「目の前で見ていたおめーが、一番分かっているはずだぜィ」
「はは、目の前----------」
夢じゃない。
それは、アクアが一番知っているはずだった。
いや、認めたくなかった。
あんなことが、目の前で起きるだなんて----------
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫した。
今まで、逃避していたものに”追いつかれた”というところか。
頭を抱え、身体が異常に震えている。
過呼吸気味になっており、発狂しかけているのは誰が見ても分かっていた。
「すまねぇ、アクア。でも、現実を見てくれ!!」
「夢だったら!! 夢だったら良かったのに!! 僕は、僕はチャモさんの前で何にもできなかった!!」
嘆き、嘆き、嘆き。
ただ、それだけが襲い掛かる。
「目の前で、爆ぜたんだ----------僕の目の前で-----------」
データ生命体は頭を失っても、バックアップデータによって再度復活することができる。
だが、しかし。
電脳医学にも精通していたアクアにだからこそ、知っていた。
そのバックアップデータは、素の人格面だけをコピーしたもの。
立ち振る舞い、性格、行動は確かに彼女そのものかもしれない。
だが、しかし。
「----------それでも、”僕らを知っている”チャモさんはもう、戻ってこない----------」
記憶は本人の違和感のないように操作された仮初のものになる。
即ち、アクア達のことは全て忘れてしまうということになる。
だから、1つだけ言える事があった。
----------アクア達を知っている、アクア達の知っている、彼女はもうこの世にはいない、ということ。
「何で、止められなかったんだ!! 僕があのとき止められていれば!!」
後悔の念が巻き上がる。
「僕は相棒を死なせてしまった!!」
「お前の所為じゃねェ。お前の所為じゃねェ」
「死ぬなら、僕が死ねば良かったんだ!! 僕が、僕が身代わりになれたら、良かったのに!!」
シーツに顔をうずめて、泣き続ける彼を、誰も止める術はなかった。
自責の念だけが募っていった。
***
廊下で、2人は暗い気持ちで沈んでいた。
「しばらく1人にしてくれ、か。変な気を起こさなければ良いがねィ」
アクアはあの後、発狂し1人でオノノクスに突っ込んでいくのを、ムゥとガメリオとフレイの3人がかりで抑えたのだ。
仕方が無かったので、ガメリオが最後には気絶させた。
そして、チャモの胴をムゥに乗せ、そのまま命からがら此処まで逃げ込んだのである。
「無理も無いです」
「おい、それよかムゥ」
ガメリオは彼女の頭に、手をぽん、と置いた。
「我慢なんざ、しなくて良いんだ」
彼女の瞳に、雫が溜まっているのは、さっきから分かりきっていた。
それでも、彼女は1滴も零さなかった。
ガメリオには、それが堪えられなかった。
「わかってた……んですね」
最後まで、彼女は平静を保とうとした。
しかし、その場に崩れ落ち、手を顔で覆い、そのまま嗚咽をもらしはじめたのだった。
「……わりぃ、ムゥ。本当に、すまねェ。何もできねーのは俺の方じゃねーか」
己の無力さを思い知る。自分は、目の前にいる少女の涙を止ませることすらできない、ちっぽけな男だと罵った。
それで何がどうにかなるわけでもないことが、分かっていて。
***
「首から上は?」
「オノノクスに踏み潰されて消滅したわ」
「やっぱりダメ、か」
この病室のベッドに寝転がるは、ボマーだった。
腹に傷を負っており、動くと痛むらしい。
「つーか? 首から上が吹っ飛んでも、存在は消えないのね俺ら」
「私達はマスターからみれば、悪く言うと対戦のための道具よ。内部(こっち)のいざこざでデータが最悪消えることはないように、電脳医学は発達してる」
だが。
思い出や大切な人の記憶を蘇らせるには至ってはいない。
くっ、と怒りを食い殺し、ボマーは話題を変えた。
「そういえば、モーターの奴は?」
「雷電械域に送られたわ。数時間の改修で済む程度らしいけどね。プラズマ体だし」
彼女ならば大丈夫か、と少々ぞんざいな扱いではあるが、そう判断した。
元々が電影少女みたいな彼女は、切り刻まれても焼かれても平気だったはずだ。
「ああ、そうだ。アクアの方も、見に行ってやってくれ」
「でも」
「あいつはな。本当にチャモと仲が良かったんだ。今のあいつには、誰か人が着いていねーとダメなんだ」
「分かったわよ」
BOHの準備期間で何度も見た光景。
チャモがじゃれつき、邪険にしつつも満更でもない様子のアクア。
「何であれ、だ。あのチート野郎は絶対にブチのめす」
「それに、セブンスドラゴンを誰が復活させたのかも気になるわね」
「んなもん、分かりきってるだろ」
「……動揺しすぎて忘れていたわ」
影の携帯獣の守護級。
他に何も無ければ、彼らがやった以外に考えられない。
「ぜってーに許さねぇ」
ボマーの目には、悲しみだとかそういう色は無かった。
淡々とした怒りが込められていた。
いや、単に涙すら枯れ果てたのかもしれない。
***
「入るぜィ、触手野郎」
全身を包帯で包みながら、ナノマシンのシャワーを浴びているレイドに、ガメリオは話し掛けた。
「---------おめーはまだ知らないと思うが----------」
「チャモが死んだ、か?」
「ひょっとして起きてたのかィ、おめー」
軽く驚きながら、ガメリオは答えた。
「余りの痛みで飛び起きてな。惨事を見て、もう1回気が遠くなった」
冗談っぽい言い方だ。
しかし、目は全く笑っていない。
いつものような、間延びした口調も鳴りを潜めている。
「信じられねぇよ……あいつはドジで間抜けでうっかりやだったけどよお」
レイドの頬に涙が伝う。
「俺、まだ信じられねぇよ……」
***
「仲間が1人消えて涙を流す、か」
暗業に仲間は不可欠だ。
しかし、死んだときは自己責任。追悼なども一切しない。それが隠密機動の暗黙のルールだった。
仲間が死んだからといって、涙は流すことはしない。
「俺はおかしいのかねィ」
空を見上げ、ガメリオは呟いたのだった。
彼らを見ていると、それがおかしいように感じられてくる-----------