二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート7:暴龍警報(9) ( No.113 )
日時: 2015/04/20 23:35
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「……マスターの最初のドラゴン?」

 言うまでもがな。マスターが最初に育てた対戦用ドラゴンは、ガブリアスであるガブリだったはずだ。
 にも関わらず、目の前の男は自分が最初のドラゴンだという。
 その表情に嘘が含まれているとは思えないが、確かな信憑性も得られないのだった。
 表情筋は先ほどから、緩む気配が見当たらない。
 不気味さ、と同時に目の前の男から放たれるオーラが相当なものだと、感じた。
 ボマーは唇が乾いたものの、舌でそれを舐めることすら忘れていた。肌が泡立つ。本能が、目の前の男を天敵と認識しているようだ。
 フレイは男の覇気を感じ取った。今まで、表面化していなかったものがいきなりあふれて来たからか、脚が震えて来る。
 ガメリオでさえ、目の前の男に気圧されていた。
 ムゥに至っては涙で眼が潤んでいたほどである。

「……成る程、妖精の魂か」

 ようやく、ボマーは言葉を紡げた。
 天敵、でようやくピンと来たのだ。

「妖精の魂……ですか?」
「成る程ね。目の前のこの人が、まさしくそれだと」
「道理でヤバそうな訳だぜィ」
「ご名答」

 メガシンカポケモンが、新たにタイプを得るとき、特にドラゴンが追加されるポケモンと、フェアリーが追加されるポケモンには、”魂”が必要である。
 ただし、それには、多くの修羅場を乗り越えてきたポケモンであることが条件なのだ。
 プレイヤーの見えない場所、つまりサイバー空間内から、対戦まで。
 それらの試練を潜り抜けたもののみ、”魂”は与えられる。
 龍と成るものには、”龍の魂(ドラゴンソウル)”。主にリザードンなどがそれだ。
 妖精と成るものには、”妖精の魂(フェアリーソウル)”。主にタブンネなどが例として挙げられる。
 その種類のポケモンに限り、上に挙げた魂が宿っていなければ、メガシンカは出来ない。故に、この種類のポケモンは相当な訓練を積むのだ。その代わり、とてつもない力を手にすることができるのであるが。
 目の前の男からは、少なくと別格の強さを感じられた。同時に、妖精の力も感じた。
 ドラゴンにも関わらず、妖精の力を感じるのはこのためだろう。
 さらに。

「それだけじゃねえ。あんた、相当のベテランだろ」

 歴戦の力。
 それが彼の体からひしひしと伝わってくるのだ。

「しばらく対戦は引退していたんだけどね」
「どーりで、俺らが気圧されてるわけだ」
「それもそのはず。私がマスターの元に最初に来たのは、第五世代なのだから」

 第五世代。それもBW2の頃だ、と彼は付け加えた。

「旅パの頃からの付き合いなのさ。第五世代が終わってから、しばらくは、この図書館の中に居たんだけど」
「成る程、納得だ。それならば、妖精の魂を持っていてもおかしくはねえ」
「マスターからメガストーンを渡されたときは、正直困惑したよ。対戦の誘いも断った。だが------------」

 彼の顔が、初めて変わった。硬く、決意に満ちたような表情だった。


「----------相手がセブンスドラゴンというのならば、致し方ない」


 止むを得ない、といったところか。
 最近まで彼はこの図書館に引きこもっていたらしい。影の携帯獣のことも知らないようだった。
 しかし。セブンスドラゴンの事件は知っているようである。

「奴らについて教えよう。私の書斎に着いて来てくれないか」
「あ、ああ……」
 
 崩した表情を再び笑顔に戻し、彼は言ったものの、ボマー達の心境は未だに冷や汗ものである。
 その静かな迫力に押され、4人はトトの書斎に行くことになったのだった。
 

 ***


「緊急事態発生、緊急事態発生!」

 中央区域、中央管制局。此処には、ポケモンではないデータ生命体・セキュリティが住んでいる、ボックス内の全エリアの管理を行う場所である。雷電械域から提供された技術により、不審なプログラム、データなどが入ってきていないか、住民の数は正常か、などである。ただし、此処最近影の携帯獣によって、通信がジャックされてそれが行えない状況にあった。
 だが、守護級が討伐されたエリアは、再び管理ができるようになったのである。
 そして。
 今回感知された異常は余りにも大きいものだった。

「6つの方向より、影の携帯獣と思われるポケモンが接近しています!」
「データの容量が恐ろしいほど大きいな……モニターに映せ!」
「はいっ!」

 モニターには、中央区域から見て6つの方向より、それぞれ50kmほど離れた場所から、それぞれ1匹ずつのドラゴンがこの中央区域めがけて飛んでくる様が映し出されていた。
 だが、ドラゴンの力は明らかに通常のものとは規格が違う。影の携帯獣である以上に、とても大きな存在なのであろう。

「奴らが接近している途中に、氷海水域、中部緑域、雷電械域、群雲街域、天獄峡域があります!」

 ちなみに、いずれのエリアの中で最も遠いとされるのが、頂龍山域である。
 そして、妖精部隊が全滅したと知るや、山域のワープ装置は既に閉ざされていた。さらに今回の敵の発生源もこのエリアだと分かったのだ。
 しかし、他のエリアは頂龍山域に比べると、遠い場所にあるわけではないのである。

「住人を避難させて、ワープ装置を切るんだ!」
「了解!」

 それぞれのエリアと中央区域を繋ぐワープ装置から住民を避難させてから、それらの繋がりを絶つことで時間を稼ぐ、それが彼らの考えであった。幸い、それぞれのエリアと中央区域の間はワープなしだと30kmほど離れているのである。
 そして、その考えはすぐさま、エリアの住民に伝えられることになった。


 ***


「……これは、ジッとしている暇は無いな」

 少年・旋は既に強大な龍の気配を感じ取っていた。

「……立ち向かうつもりですか。旋君」
「……無謀」

 避難警報を伝えられた天獄峡域。
 逃げ出すもの、まだ脅威を実感できないもの。
 そして---------実感した上で逃げない者。
 シェムハザと雲切は、そんな旋のことを心配していた。

「俺は結局、前を踏み出せなかった。せめて、俺は迫ってくる敵とやらを倒す義務があるのではないか」
「君は自分をいじめたがる悪癖があります。より、危険な方へ、危険な方へ、と突っ張ってしまう」
「……シェムハザさん、雲切さん、頼む。あんたらは中央区域に--------」

 
 チャキン


 金属音と共に、旋の喉へ冷たい何かが宛がわれた。

「……馬鹿……死にたいのか」

 雲切が、いきり立った表情で問い詰めた。冷たい何か、とは彼女の刀なのだ。
 彼の肌が泡立ち、抵抗する意識を失わせる。

「まあ、そういうことです。我々だって同じ考えなのですから。君が1人で行くというのには確かに反対だ」
「……え?」
「……連れて行け、私達も」

 意外だった。
 シェムハザも、雲切も、最初からやる気だったらしい。

「……すまない」

 そう答え、彼は一歩、踏み出したのだった。