二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート7:暴龍警報(10) ( No.114 )
日時: 2015/04/21 22:50
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「セブンスドラゴンは、悪性データ生命体と呼ばれる中でも、特にタチの悪い部類に入るんだ」

 書物を取り出しながら、トトは言った。
 彼の見せたページには、データ生命体についての記述が記されていた。
 そして、セブンスドラゴンについても。

「広義の名称としては、循環種と呼ばれるものだよ」

 ボマー達は、その意味が何となく分かった。
 あの、無限に再生する能力のことだ。
 アクアは、ボックスのどこかにバックアップを大量に保存してあると言っていた。
 トトは、そんなことお構いなしに続ける。

「そして、奴らの性質として、まず小さなウイルスプログラムである”母体”がボックスのような大きなデータベースに寄生する」

 まるで寄生虫のようだ、とボマーは思った。
 しかも、こんなものが自然発生する世の中だ。悪質なデータの残骸の集合体らしいのだから、余計にタチが悪い。

「そして、その中にあるデータの隙間を見つけて、大量のバックアップを増やしていくんだ。誰にも気付かれずに」

 ぞっ、とボマー達の背にフシデが走っていった。
 ただし、これには制約があると彼は語る。
 まず、寄生している場所が元々そこまで広いとはいえないため、バックアップデータがその空間で実体化し、戦うことができないのである。バックアップデータは圧縮されており、必要に応じて転送されるというのである。
 そのため、別のプログラムに母体を守らせている、と彼は言った。
 余りにも詳しい情報。まるで、過去にも同じことがあったようだ。

「過去にも例があったのか? セブンスドラゴン以外に」
「ああ。別のボックスでね。そのときは、エスパーポケモンだったらしい。ただ、寄生していたエリアが早く特定でき、中を守っていたプログラムは大したことはなく、母体を倒すことでバックアップも消滅した、と記録が残っている。実体化していた敵は、もう二度と再生しなかったそうだ」

 しかし、セブンスドラゴンは倒されなかった。
 対処法が同じだと分かっているのならば、それを実行すればよかっただけにも関わらず。
 
「以前のセブンスドラゴン襲撃の時は駄目だったのか?」
「……掃討班は二度と帰ってこられなかったと聞いた」
「中を守っていた、敵のプログラムが強かった、ってことですかィ」

 そして。今はセントラル・フィールドの調査班の力も借りれない。
 どこに敵が寄生しているのか、全く分からないのである。
 
「だが、あんたなら分かるはずだ、トト。この図書館には、多くのバックヤードエリアに繋がるワープ装置が地下にある。ここの検索エンジンをフル稼働させれば、不可能じゃない」

 唯一つの希望を除いて。
 目の前のトトは、思った以上に早く首を縦に振った。


「……外がそんなことになっていたとは、知らなかった。情けない。私で良ければ、幾らでも力になろう」

 
 だが、彼ほどの男が、何故図書館に引き篭もっていたのか。謎である。
 笑顔の裏には、暗い影が落とされていた。


 ***


「……このままで良いのか」

 ユキキングは、警報令を聞き、居ても立っても居られなくなった。
 このまま、自分達は病院のベッドでのうのうと寝ているだけで良いのか。
 立てる。
 体はもう、動かせる。
 まだ、完全に再生が終わっていないだけだ。
 そのときだった。端末の着信が鳴った。

「……ワシだ」
『ユキキングさん、久々ですね』

 聞き覚えのある声だった。
 風のような少年の姿が脳裏に浮かぶ。

『俺達は、ボマー師匠達に……任せっきりで良いのでしょうか』
「……」
『お願いです。無理は禁物だが、今は時間が惜しい! 敵は全方位から中央区域を囲んでいる。逃げ場を無くすつもりなんです!』
「……馬鹿モン。誰が頼むか」

 ぶっきらぼうに、彼は言った。
 しかし。



「人に頼む前に、ワシが行くわい」



 豪快な笑みも、同時に浮かべていたのだった。

『ユキキングさん……』
「おい、若造。心配せんでも良い。このボックスには、あの馬鹿マスターと馬鹿に影響された馬鹿ばっかりだからな。わざわざ呼びかける必要は無いだろう」
『……はい!』


 ***


『アクア、おいらは行くぞ』

 端末から聞こえてきたのは、唐突な宣言だった。
 傷心状態だった彼は、入院していたはずの、あの少年が今何処にいるのか問い詰めたくなった。
 しかし。
 もう、そんな気力は無かった。

「勝手に……してください」
『お前の仇はおいらの仇だ。絶対討つ』

 ふざけるな。


「ふざけるなッ!!」


 何でこうも死にたがるんだ。
 そんな憤りが彼の中にはあった。
 しかし。

『それは、こっちの台詞だッ!!』

 そんな思いは断ち切られた。


『お前達が助けてくれた分だけ、今度はおいら達が助ける番だ! 警報なんざ、糞食らえだ!! 中部緑域に行くぞ、おいらは!!』


 そこで、通話は途切れた。
 
「……僕達は、何をやってるんだ……! 肝心なときに、あの人たちは何やってるんだ……!」


 ***


「コイル軍団に告ぐ! 我々は迫り来る夷敵にいつまでも屈していて良いのか! 警報に従い、このまま逃げて良いのだろうか!」

 雷電械域、工場。
 女、ボルルは目の前の単眼磁石ポケモン・コイル、レアコイル、そしてジバコイル達に呼びかける。
 

「敢えて言おう、クズであると!! 電気タイプに生まれた以上、電気の如く奴等を始末するのが、我等の誇りではないのか!!」


『イエス、マム!!』


 が、慌てて誰かがボルルに駆け寄ってきた。
 弟のデインだ。

「ちょっと姉さん、何やってるんだ!」
「まだ分からんか。コイル軍団の結成だ」
「何で軍人調!? 何この幾何学隊列!?」
「ふん、この中にいるレアコイルとジバコイルが、あの馬鹿に借りがあるんだとな。結局、この間も助けられてしまった。お前はモーターの強化改修を急げ!」
「イ、イエス、マム!!」

 
 ***


 遅れて、フレイの持っていた端末にも、例の警報が発信されてきた。
 書斎の検索エンジンが唸りを上げている間に、書物を調べていた一行は、それから目を離す。
 
「……強大な力を持った6体のドラゴンが中央区域に向かっているらしいわ」
「何だと!? こんなことやってる暇は---------」
「駄目だ、旦那。あっしらには、バックアップの居場所を探して潰す、という仕事がある」
「だ、だけどよぉ!?」
「それと、よ」

 フレイは、敵が通過する場所には、いずれも別のエリアがある、ということだった。
 それにより、住民が避難をしていること。
 そして----------

「中央区域や、そのエリアから合計何体かのポケモンが、奴等を止めようとしている」

 危険だ、とボマーは感じた。このままでは、無駄死にするポケモンが、また出てくるであろう。

「止めないと-----------」
「ボマーさん!!」

 ムゥが、彼の袖を引っ張った。

「それじゃ、今私達が此処にいる意味が無くなっちゃいます!! そのためにも、早くバックアップを叩かないと!!」
「だ、だけどなァ!?」

 そのときだった。
 今度は、ガメリオの通信端末に連絡が入った。どうやら、メールのようだった。
 それを早業で読み終えた彼は、くっ、と息を漏らす。

「……クナイさんまで……何やってんだィ、あの人ァ!!」

 クナイまでもが、セブンスドラゴンを止めに行ったのだった。
 
「おい、トトの旦那!! 割り出しは終わらないのかィ!?」
「もう少し時間がかかる! 待ってくれ!!」

 タイムリミットは、刻々と近づいていた。
 破滅への、タイムリミットが。