二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- パート1:セントラル・フィールドへ(1) ( No.138 )
- 日時: 2015/05/31 13:27
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「”リリム”さん、チャモの容態は?」
男は医師のリリムという女に問うた。彼女は
「再生率90%、もうすぐよ。でも、チャモさんって、あのアクア君って子と仲が良かったんでしょ? 問題はそこなのよ」
「……どーしたものか」
アクアとチャモの関係が今後どうなるか。それが一番心配だった。
「私達も日々研究を重ねているけど、あの状態はメモリー全部持っていかれたのと同じだからね。記憶の再生は多分、出来ない」
「まっとうな精神でよくそんなことが言えるもんだ」
「事実だから仕方が無いじゃない! 当事者ならともかく、あんたにだからこそ言ってるの。そもそも記憶や思い出は一番デリケートなところなんだから。この再生治療も極端に言えば古いものを新しいものにとっ変えるやり方だからね。本当はやりたくないのよ。一番良いのは、再生、そして記憶も戻る。これがベストなのは皆分かってる。でも、それが出来ないから、諦めるか無理やり外面だけ戻すか選択させるのよ……」
「マスターが諦めるだなんて言う訳ないしな」
はぁ、と溜息をついたの男・ボマーは先日久々にマスターと話をした。どうやらマスターも出来るだけのことはしていたらしい。特にこの間の決戦で、ボマーに最後の気力を与えたのもマスターなのは言うまでも無く。
そして、肝心なところまで全く役に立たなかったのもマスターなのは言うまでも無く。
***
------------ごめんね、あっくん。
チョキン
ぽとり
「--------------うわああああああああああああああああああ!!」
絶叫しながら、アクアは飛び起きた。
ぜぇぜぇ、と肩で息をしている。現在は心療内科医のススメで彼も入院をしていたのだった。
しかし、やはりというべきか。
悪夢に毎晩苛まされる。彼女の首が落ちる夢だ。それも、寂しげな言葉を呟いて死んでいくのだ。
同じような夢を何度も見る。いつか気が狂ってしまいそうだ。そうならないように、鎮静剤を渡されているのだが。
「チャモさん……」
---------この戦いが終わったら、一緒にパフェ食べに行こうよ!
悔しい思いがこみ上げてくる。
「……あのときのシーンがまだ頭の中から抜けないなんて……僕はどうかしてるんだ」
***
運命の日から10日が経った。あれから、バトルスポット、GTSも使えるようになり、そして影の携帯獣の脅威も去ったのだった。
ボックスは平和を取り戻した。小さくない犠牲の上で。
ボマーは、そのことを悔やんでいた。
チャモの頭部の再生は未だに終わっていない。仮に終わったとしても、彼女は以前のことは覚えていない。
一番辛いのはアクアかもしれないが、ボマーとて同じだった。
静炎邸の一室。ぼんやりしながら渡された報告書を彼は読んでいた。
----------マスターもやはり、俺とフレイ、モーターの相性補完が最高だということは分かってる。分かってるが、問題はメガガルーラがこのままだとめっさ重いということだな。
だが、そんなことはぶっちゃけどうでも良かった。
----------この状況、早く打開してぇな。
はっきり言って、気分が悪かった。アクアもチャモもこんな状態だからだ。
「どーしたの、神妙そうな顔をして」
顔を覗き込んできたのは、フレイだった。
「……べっつに」
「色々問題抱えているからね、あんたも。アクア君とチャモちゃんのことも旋君のことも、あたし達に関係ないことじゃないんだから。もっと頼っても良いのよ」
「……俺は”あのとき”、お前にアクアを慰めに行かせた。お前はそのとき、何て言った?」
う、と彼女は言葉に詰まる。
「……あたしだって勢いでつい出ちゃった言葉だから反省してるの。おかしいでしょ? 思い出を無くしたなら、また新しい思い出を作れば良いって。……残酷すぎるわ」
「……いーや、どうなんだろうな。俺だって何て言えば良いのか分かんないしよ。ゴーストポケモンのお前なら生死の倫理とか分かるんじゃねえかって思ったんだ」
「むしろ、ズレてるって思ってた方が良いわよ」
「お前に頼んだ俺が馬鹿だった」
「下手に頼まれたあたしも馬鹿だったわよ」
はぁ、と2人は溜息をついた。
「……んあ、何だこれ」
ふと、ボマーは報告書の一番下に、もう1枚紙があるのに気付いた。
***
「〜♪」
ムゥは、厨房でボマーとフレイに差し入れするクッキーを焼いていた。
パッと見は鼻歌を歌っていて元気そうに見える。
しかし、彼女の心境もあまりよろしいものではなかった。
----------アクアさん……可哀想なのです。
早く彼にも元気になってもらいたい。クッキーは、後で面会のときにアクアにも渡すつもりだった。
さて、何個か焼いてボマーとフレイが居るであろう部屋に入ろうとした、そのときだった。
「あの馬鹿マスタァァァァァァァァ!!」
ボマーのシャウトが響き渡り、彼女の胸が飛び跳ねた。危うくクッキーを全て返してしまうところであった。
「あの野郎、俺にまた面倒ごとを押し付けやがってぇぇぇぇぇぇ!!」
「何コレ……セントラルフィールドの、地下闘技場?」
紙、それはボマーへの命令書であった。
「くそっ、折角影の携帯獣の件が終わったかと思えば!」
「セントラル・フィールドに行けるようになったのは良いとして、怪しいわよ、この場所」
「こういうミッションはよー、あの三つ首龍に頼みゃあ良いんじゃねぇか」
「あ、あの……どうしたのですか?」
ムゥが心配そうに声を掛けてきた。
「悪い、驚かせたか?」
「い、いえ……差し入れを持ってきたのです……」
「うわ、ありがと! ムゥちゃん!」
「それはそうと……何があったのですか?」
ああ、とボマーは機嫌が悪そうに言うと、「マスターからの依頼だ」と説明する。
マスターの依頼=命令だ。絶対服従が基本である。
ボマーはバトル以外での命令を嫌っていたのだ。面倒ごとが嫌いという性格もあるのだが、マスターも面倒くさがりな性格なので、大抵それが降りかかってくるのである。
「……マスターが信頼を寄せている携帯獣の1体、”ルカ姉”と会え、とのことだ。セントラル・フィールドの地下闘技場でな」
「ルカ……ねぇ、さんですか」
「あたし達も会った事があるけど、とんでもない人よ」
「異名は”血涙(ブラッド・ティアー)のルカ”だったか」
「ふぇええ!? 何か、やばくないですか、その人」
ムゥの顔が真っ青になっていく。
「……ガブリ姉同様、第四世代出身の”強襲型”携帯獣。そしてかつては第四世代の”破壊力SS”の座を賭けて、何度もガブリ姉と戦っている。ヤバいのはあながち間違ってねぇな。ガブリ姉と会う前の話だが、かつてのボックスで暴れまくり、破壊行為を繰り返したことから先の異名が付けられた」
「ふぇえええ!?」
さらに、とボマーは続けた。
「その暴れまくった理由が、当時も強かったガブリ姉をわざと怒らせて誘き出し、全力で戦うためだった、というとんでもねぇ戦闘狂なのさ」
「そのときにガブリさんからこっぴどく絞られて、以来は丸くなったのよね」
「だが、それ以来懲りないルカ姉は何度もガブリ姉に勝負を挑み続けた結果、2人はいつの間にか親友になっていたのさ。相性が不利にも関わらず、メガシンカを得た後は両方共ほぼ互角の実力に。まさに、ガブリ姉の最大のライバルってわけだ……はぁ」
まだ、何かあるのだろうか。ボマーは呆れたように顔を顰めて、天井を仰いだ。
「……それを抜きにしても、とんでもねぇ問題児だってマスターも言ってたがな……」