二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- パート2:遮断された箱庭(3) ( No.14 )
- 日時: 2015/02/22 23:35
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「ユウキリンリン、ゲンキハツラツ、キョウミシンシン、イキヨウヨウ」
「活気付けにアドバンス・アドベンチャー歌ってるのは良いけど、めっちゃ震えてるわよ、あんた」
「ガックブルブル、ガックブルブル、ガックブルブル、ガックブルブル」
「もう、何言ってんのか分からないわよ!」
そういうフレイも、ブレザーの上にコートを着込んでいる。そして、外出時には絶対つける、トレードマークの黒いネックウォーマーを首に付けていた。そのネックウォーマーにはご丁寧にC145とプリントされている。
にも関わらず、少し足が震えているのが分かる。
ボマーはファーコートを何重に着ているにもかかわらず、ガクガク震えていたが。というか着込みすぎて、もうお前誰だという状態だ。
今歩いているのが、極寒の地・氷海水域の流氷の上、というのもあるが。
氷の柱が辺りには沢山立っている。
「助けてくれ〜死んじまうよぉぉぉ」
「仕方ないわね……」
ぽうっ、とボマーは自分の身体が温かくなった気がした。だんだん暑くなってきたので、ファーコートをデータの塊に変換し、元の上下ジャージの姿に戻った。
「おっ、すげぇ! あったかいぞ!」
「火の粉ちゃん、しばらくボマーを暖めてあげて」
青い火の粉の精は、うなずくとボマーの周りを漂い始めた。
「だけど、寒いのはあたしも苦手だわ……。あの思い出が蘇っちゃう」
「何言ってんだ、弱気なことを。いーか、誰にだってミスるときはあるんだよ」
「爆風の中で問答無用であたしの中の温度が下がっていく感覚。身体の中を燃す炎が消えていく感覚。あたしが初めて真に”怖い”って思った瞬間よ」
「ばっきゃろ。んなこと言ったら、氷4倍弱点の俺はどうなるんだ-----------」
先をずんずん、と歩いていたボマーはそこで言葉を失った。
「ん?」とフレイも立ち止まって、ボマーの位置まで駆けた。
「何てこった……」
彼は青ざめた声を上げる。
そこには、死屍累々。先ほどまで普通に立っていた氷の柱は何本も圧し折られていた。
倒れた原型のポケモン達が沢山横たわっていた。
それも、いずれもユキメノコのみぞれ、オニゴーリのコキュートス、ミロカロスのヘルメス、ダイケンキのミルマなど、水や氷タイプなどのポケモンばかりだった。
「ど、どうしたんだ……皆……!」
しかし、いずれもマスターが育てたポケモンだ。
そして、真ん中に瘴気が見える。
影だ。その影が何かと戦っているのが見えた。
真っ白な巨体だ。
ユキノオーが、影と戦っているのだ。
「ユキキングの親父っ!!」
「あの影と戦っているのかしら。助けないと!」
ユキノオーのユキキング。このエリアの主を務める程の大物だ。ボマーも親父と呼んで慕うほどである。
フレイとボマーは影の方に向かって、駆け寄る。
「貴様……許さんっ!!」
「忌々シイ……携帯獣メ……邪魔ダッ……!!」
「此処は、貴様の居るべき場所では、無い!! この冷気で永久に凍るが良い!!」
影の姿がだんだんはっきりとしてくる。
空間が裂けて、穴が開いた。
そして、空間と穴の境から、牙が生えてきた。そして、穴の中央に人影があった。
次の瞬間、人影が暗黒の球を放つ。
しかし。
「むんっ!!」
ユキキングの身体から光が放たれる。
そして、更なる存在へと”進化”を果たした。
メガユキノオーと成ったのだ。
「砕いてくれるわぁぁぁーっ!!」
その玉を掌で粉砕するユキキング。
しかし、彼に向かって走ってくるボマーが叫ぶ。
「ダメだ、親父!! メガシンカするんじゃねえ!!」
次の瞬間。
ユキキングの背後に手が伸びる。
空間が僅かに裂けている。
ぐさり、とその手がユキキングの胴を貫いた。
「が、はっ」
「メガシンカノエネルギー……ツイでに貰うか……ふふふ」
だんだん、言葉が饒舌になってくる。
そして、力尽きたのかユキキングの姿が元に戻る。
「うむむむ、フハハハハ!! 馴染む……最高に馴染むぞ!!」
ふははははは、と笑いながら空間が閉じていく。そして、影は完全に姿を消した。
遅かった。
いや、相手の方が遥かに速かったのだ。
「お、親父ィィィーッ!!」
「バ、バカな……! ワシのメガシンカが……!」
「おい、しっかりしろ、親父!」
空ろな眼をしていたユキキングはそのまま動かなくなった。
「くっ、くそっ!!」
「気を失っているだけだわ」
「仕方がねぇ。俺だってこのままじゃ黙っていられない、奴が何処に行ったのか、探さないと」
「待ちなさい。今回のあたしらの目的は、アクア君に指示された、ロックの繋がっている位置に向かう、ということよ」
「だ、だけどよ! このままじゃ、収まりが付かねぇよ!!」
と、ボマーが怒鳴ったそのときだった。
うっ、うっ、とすすり泣く様な声が聞こえる。
それに気づいたらしく、ボマーはその方向へ走る。
「うっ、うっ、おじちゃあん……」
折れた柱の影に誰かがいる。小柄な少女のようだった。
「お、おいっ! 誰か居るのか!?」
「きゃあああ!? 氷柱針ィィィーッ!!」
へ? と上空を見上げたボマーは思った。
---------あ、死んだわこれ。
と。
『ボマーに効果は抜群だ!! ボマーは倒れた』
***
「ん……あ?」
眼を開けると、そこには2人の少女が見えた。
まだ、おぼろげにしか見えないが。
「俺は、いったい……」
「ごめんなさいっ!! 驚いちゃって、つい!!」
涙目になって謝る少女。彼女の体躯は見たところ、かなり小さく、茶色のファーコートを羽織っており、さらにフードを被っていて内気な印象を持った。
「あたし、ムゥって言います……」
「ムゥ? 聞かねぇ名前だな? 俺はボマー、よろしく」
「あたしはフレイ、よろしく」
さて、とフレイは続けた。
「この子の親はあんたと同じパーティで戦ったことがあるみたいだけど? 」
「あ?」
そういえば、似たような雰囲気の女を見たことがあるような気がする。
が、あの女は相当背が高かった気がするが。
「私と、私の母の種族は……マンムーです……」
「どわい、マンムー!?」
「はい……私の母さんは、貴方とレートで戦ったことがあるって」
「ああ、別のサーバーからやってきたあいつか」
「私はその娘です」
なーるほど、あの女は子持ちだったのかー、とボマーは思い返す。
しかし、マンムーにしては彼女の体躯は釣り合わない程に小さい。あくまでも、擬人化体の姿ではあるが。
「あたし、あの影がやってきたとき、怖くてずっと隠れていて……」
「ま、こんな小さな子に、あんなのは酷だわな」
「おじちゃんが戦ってるときも、泣きながら隠れているしか出来なくて……」
泣きそうになりながら、彼女は言った。
「でも、仮にもマスターの育成を受けたのに、情けなさ過ぎるわ」
しかし、フレイはばっさり、と冷たく言った。
「お、おい、お前」
「仲間がやられてるときに、自分だけ戦いもせずに、メソメソ泣いてたのよ!! あたしがムカ付くのは、泣いてばっかで何もしない奴よっ!! そういうのを弱っちいって言うのよ!!」
うっ、とムゥの顔が歪む。そして、すぐにわんわんと泣き出してしまった。
「おい、フレイっ!」
「行くわよ、ボマー。ムカ付いたわ」
「だ、だけどよ、あんな言い方は……!」
「知ったこっちゃないわっ!!」
----------ムカ付くのよ、昔のあたしを見ているようで、ムカ付くのよ!
先に行くフレイを追うため、ボマーは仕方なく走っていくのだった。
未だ泣き続ける少女を置いて。