二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート4:忍の街(3) ( No.35 )
日時: 2015/03/01 11:52
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

***

「やーっと、終わった……異常なしってどういうことよ……しかも、あいつらどこに行ったのよ!」

 ぷんすかぷんすか、怒りながらフレイは街角を走る。ボマーとムゥをひっ捕まえて、怒鳴り飛ばすために。
 すると、団子屋の前で談義に花を咲かす2人を見つけた。すぐに出て行こうと思ったが、思いとどまった。
 妙に難儀そうな顔をしているのだ。あのボマーが。仕方なく、店の裏に隠れてこそこそ2人の話を聞くことにした。

「そんな、あのフレイさんが……」
「俺達はあいつの火力や耐久を良いことに色々無理を押し付けちまってたんだ」

 まだ、内容がいまいち掴めていないフレイの頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶ。

「その後、あいつは今まで無理してたのが全部出てバッタリ試合後に倒れちまってな。しばらく入院で離脱せざるを得なくなった。そんな中、当時のレートパーティも、俺以外はある事情で全員離脱」

 後、爆発したオニゴーリも再起不能。10ヶ月入院することになったようだ。

「そ、そんな……」
「しかも、フレイはそれですっかり元気を無くしちまったんだ」

 ---------あのときの話ね。あいつ、勝手に……
 だけど、とボマーは続けた。

「いや、だからこそ、俺はBOH(バトル・オブ・ホウエン)に出ようと思った。俺らの戦いを見て、元のうるせーあいつに戻ってくれたら、って思ってな。物足りないんだよ。もう考えられねぇんだよ、うるせーあいつが居ない日常は」

 ---------えっ……?
 フレイは、少し驚いた。彼の口からは、何故BOHに出たいか、というのは「レートパが全滅したから暴れたりねぇからだ」としか聞いていなかったのだ。
 そこまで言ってボマーが口をつぐむ。我ながらしゃべりすぎたか、と反省しているようだった。
 そこに油を注ぐように、

「……ひょっとして、ボマーさんはフレイさんのことが好きなんです?」

 ムゥが追い討ちをかける。
 
「ば、バカッ! ちげーよ、これはそういうのじゃねえんだよ!!」

 顔を真っ赤にして言い返すボマーを見ていたフレイの顔も、自分の顔が炎に負けず劣らず赤くなっているのが分かった。
 心臓の位置がどこにあるか、意識しなくとも分かる程に。

「違うわよ……あたしは、あんな奴……」

 目の前がくらくらしてくる。ボマーの顔が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて、を繰り返す。
 いつも調子に乗って、バカばっかやってるあいつ。
 でも、自分がピンチのときは、仲間がピンチのときはいつも助けてくれたあいつ。
 自分が600族であることだけを糧に、厳しい下積みを重ねてきたあいつ。
 そして、ぶっきらぼうで、粗雑で、バカでも、多分世界一優しいボーマンダのあいつ。
 気づけば、フレイの口からは

「……ボマー」

 彼の名前が零れていたのだった。


 ***

「いやー、今日もお客さんが来てくれて、嬉しいね--------」

 店の奥でみたらしだんごを焼き続ける店主。この店には、店主である彼以外、店の外にいるボマー達を除けば従業員も誰も居ない---------はずだ。

「----------”役”に成り切るのは良いが、どうするつもりだ?」
「----------全部聞いていたのかい。あんたも人が悪いね。だけど、生憎団子屋は趣味なんでさァ」
「----------それは失礼した」

 店主はだんごを焼く手を止めずに続ける。

「----------あっしは、奴らが相応しいかどうか、見極めてるだけですゼィ」
「----------奴らを誘導するために仕掛けていたらしいな。しかし、どうやった?」
「----------方向を示す矢印をコンマ1秒、つまり見ても分からない程の割合で点滅させる透明なパネルを道に敷き、その方向に行くように誘導する。サブリミナル光彩パネルって奴ですが、脳の深層を刺激し、極端な言い方をすれば洗脳するサブリミナル効果の応用でさァ」
「----------何だ、それは」
「----------例えば、元は酒好きで禁酒している相手を毒殺したいとき。DVDと毒入りの酒を一緒に送る。そのDVDを相手は確認したくなるもんでァ。それで、もしもそいつの好きなDVDだったら見たくなるもんですぜ。ところが、すっとこどっこい中身は普通の内容に見えるが、実はコンマ1秒ほどの割合、そいつが意中では気づかなかった程の割合で同じ種類の酒の画像を挟んでいたら、どうなると思いやすか?」
「----------例え、禁酒していたとしても、無意識に脳が刺激され、手元にある毒入りの酒を飲んで、死に至る、でござるか」
「----------左様。今やったのは、それと同じでさァ。俺らも人間と脳の構造は殆ど同じように電脳世界で進化しているから尚更ですゼィ。さらに、あっしの能力を使えば、周りを近づけさせないように、光彩パネルを瞬時に片付けながら奴らの進む方に置くこともできる。あっしは、相手の視覚に干渉するのが得意で好きなんでさァ」
「----------流石、幻覚の忍者。感服した。そして、奴らを誘導しながら、自分の姿を消したまま店の中に入った、か」
「----------レートパ出身のあんたでも勝てなかった影を倒したボマーという野郎は、あっしにとって興味深い存在でさぁ。ありゃ、俺らの力になってくれる----------」

 そして、直後。店主は再び元気良く、「さっきの旅のお客さーん、まだいるかい? だんごをもう1本サービスしとくよ!」と叫んだのだった。


 ***

 機嫌の良い店主からサービスに団子を追加して貰ったボマーは、それを食べてから言った。

「好きか嫌いか、そういう風に聞かれたら、好きと答えるとは思うぜ、俺は」

 いよいよ、フレイの鼓動のスピードはMAXに達していた。そのまま爆発してしまいそうな程に。

「だけど、それでも俺とあいつの関係は”仲間”。それ以上でもそれ以下でもねぇ。フレイのためにBOHに出たのだって、あいつが仲間だから、それで説明が付かないか?」
「そ、そうですけど……」

 ----------そっか、何盛り上がってたんだろ、あたし。そうだよね、仲間。あいつはあたしの仲間、それ以上でもそれ以下でも無いじゃん。あたしは……あいつの仲間でしか無いじゃん。
 紅葉が切なく、ひらりと舞い降りたのが自分の手の平に触れた。

「ごめんなさい、でしゃばっちゃって……。でも、2人の今までの活躍とか聞いていたら、そんな風に、仲間っていう言葉じゃ表せないほどに互いを信頼し合ってるなっ、て思っちゃったんです」
「ケッ大体、あいつにゃ色気が致命的に足りねぇ。無理だね。あいつとは死んでも恋人になってやるもんか」

 ははっ、と笑い飛ばすように言うボマーにフレイはブチ切れそうになった。特に色気が足りないとか、明らかにぺらっぺらの胸部装甲のことを言ってるようにしか聞こえない。
 -----------何よ! あたしは傷ついてるのに! 追い討ちかけるのもいい加減-----------
 そこまで、言おうとして気づいた。
 -----------あれ? でも、傷ついてるって……あたしは、そんなにあいつのことを意識しちゃってる、ってことなの……?