二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート5:風が泣いている(1) ( No.48 )
日時: 2015/03/03 22:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「さて、この谷に来た理由は唯一つ」

 ボマーの言っていた話には続きがあったのだ。
 ---------そーいや、俺らがORASのボックスに移った直後の事だ。あいつからもメガシンカを習得したことを知らせる手紙が届いたんだ。
 ---------え!? そんなのがあったのなら、何で先に----------
 ---------『低種族値のテメェ如きがそんなジョークで粋がってんじゃねーよ』って返そうと思ったが、可愛そうだから手紙を捨てることで手を打った。
 ---------や、マジ最悪だなアンタ。
 ---------ギャグだよ、ギャグ。別にシリアスなシーンじゃねえから、いーだろ、これくらい。つーのは嘘で、取り合えず返信しておいた。『今どこに居る?』ってな。ちなみに、こないだの大掃除の時に手紙は全部処分した。
 ---------はいはい、だからその手紙はもう無いって言うんでしょう? で? どこに居るんですか。その人は。
 ---------それはだな-----------忘れた。
 ---------冷パン食らわすぞ、バカマンダ。
 ---------嘘! 嘘! ジョーク! それはだな、さっき俺が言った--------

 天獄峡域。
 暗雲が立ち込め、雷が鳴り響き、冷たい風が吹きぬけるエリア。

「ボマーさんの言っていた人を探すためです」
「此処になら、居そうだよね」
「飛行タイプにとっては自由の天国であると同時に、試練の地獄ってことだなー」
「ええ。そのため、此処を修行場にしている飛行ポケモンも多いですね」


「ギエエエエエーッ!!」


 突如、奇声が聞こえてくる。見れば、野生のムクバードと思われたが---------


【アクアの冷凍パンチ!!】

【ムクバードは倒れた】

 
 瞬殺。
 アクアが表情一つ変えず、拳を振り下ろす。そのままムクバードは冷気と共に地面に叩き付けられて消滅。
 この間、コンマ3秒。

「と、このように。修行のために野生ポケモンのデータを開放しているらしいので、寝首を掻かれないように、ご注意を」
「アクア……お前、最近どんどん強くなってねーか?」
「気の所為ですよ」
「いや、でもあっくん今のすごかったよ?」
「気の所為ですよ」


 ***


 峡域、岩山山道。ごつごつとしており、足場も悪い上に上り坂のため、かなりの苦難の道となっていた。
 
「あひぃーっ、あひぃーっ、もう無理だよぉ……」

 スタミナの低いチャモが一番ヘバっている。幾ら武闘派と言っても、彼女は長距離の訓練などをしていた訳ではない。
 瞬間火力は高いが、体力が少ないので、大抵居座る前に引っ込むか倒される。

「全く情けないですね。我がチームの主砲がその程度ってどういうことですか」
「俺達はHの種族値が高くて助かったな」
「あんたが言うとやらしく聞こえるから、やめてください」

 ちなみに、ラグラージはH100、ユレイドルはH86、持久力はアクアが一番高いのだ。ユレイドルはそんなに高くはない。つーか、種族値上だとユレイドルとバシャーモ(H80)はどっこいどっこいなのだ。

「ともかく、コンピューターの場所はー?」
「えーっと、後2つ山越えしたところですね」
「ええええええ!?」

 レーダーの反応を追うと、そこに辿り着く。が、山登りの達人でもないと、至難の技だろうか。
 しばらく歩き、開けた場所に着いた。2つ目の山に繋がるエリアなのだ。
 そして、目の前には、そのための移動手段であるつり橋。それも、手すりなんかありゃしない危険なタイプの奴だ。幅こそ、それなりに広いが足を踏み入れると軋んで揺れる。下を見れば、奈落の底。

「うーむ、これは1日で辿り着けるか、分かりませんね」
「うー、怖いよあっくんー。おんぶー」
「え?」

 ぎゅっ、とチャモがアクアに抱きつく。その瞬間、アクアの頬が赤くなったのは言うまでもなく。初めての柔らかい感触に、胸が騒ぐ。

「疲れたからさー、あっくんおんぶしてよー」
「バッ、何するんですかっ! 重いから離れて下さい!」

 がっ、理性はアクアの頭脳の中を厳しく巡回している。
 自分は断じて、あんな変態(レイド)と同類ではないぞ、と。
 何とか彼女を振り払う。

「もー、ケチー」
「ったく、自分の身を案じてください、貴方は」

 タダでさえ、そんな露出の多い格好をしてるのだから。

「あはははー、アクア滅茶苦茶嬉しそうじゃねーか」
「うん、後で冷パンなお前」
 
 次の瞬間だった。
 轟!! と風が吹く。一瞬、風に身を揺られそうになった3人だったが、すぐに目の前に不自然に渦を巻く風を認めた。

「わわわわわ、怖いよ、揺れるよぉぉぉ!」
「落ち着いてください!」

 その中から、人影が現れた。

「ヒトカゲ?」
「ボケんな、変態ユレイドル」
「あっ、見えてきたよ」

 風が一瞬で止む。
 人影は自分達より年上と思われる少年。ブラウンのコートに身を纏い、軍用ゴーグルで目を覆っている。

「あんた達か」
「---------何者ですか。影の携帯獣---------では無さそうですね」
「しらばっくれるな。それはあんたらの方だろう」

 少年の声が少し荒くなる。

「あんた達が現れた辺りから、風が騒がしくなった」
「風が……え?」

 ギラリ、とゴーグルの奥の眼光がアクアは自分を貫いた気が……その前に、え? 何言ってんのこの人、みたいな困惑した感情に襲われる。

「立ち去れ。お前たちのせいで----------風が、泣いている」

 一瞬、3人組はぽかーん、となった。
 あ、この人イタい奴だ。状況は色々違ったりするけど、某男子高校生の日常的なアレを思い浮かべた。
 ----------あははははははははははは、おもしれーわこの人!! なあ、そうだろアクア。
 ----------あははははははははははは、やばいです、笑いを抑えるので一苦労。

「さもなくば、俺の風がお前たちを切り刻むぞ」

 ----------典型的なイタい人来ちゃった? みたいな? もう無理、俺笑いそう。
 ----------レイドさん、今だけあんたに同感です、今僕も笑いを堪えるので必死……


 轟!!


 風が吹き抜ける。
 遅れて、何かが切れる音がした。もっと遅れて、がらがらと崩れる音がする。
 え? と疑問の声を上げた3人組は地面に目を向けた。
 つい今まで、自分達が歩いていた場所に切れ目が入っている。

「----------立ち去れ」

 ----------なあ、アクア。こいつ、イタい奴なんじゃなくって……。
 ----------そうですね、レイドさん。やばい部類ですね。そんでもって……。
 そして、バラバラ、と吊り橋が音を立てて崩れた。身体が、引力に逆らえる訳もなく。
 3人組は即座に落下。
 勘違いしていた。目の前のあいつは、決してイタい奴ではない。中二病丸出しとか断じてそういう部類ではない。言ったことは全て実行するタイプなのだ。
 そして、これは-----------


「きゃああああ!?」
「えええええええ!?」

 チャモとレイドの悲鳴が聞こえる中。
 アクアの結論は既に出ていた。
 イタいのは目の前のあいつではなく。


 ----------僕らが、物理的にイタい目に遭うパターンじゃないですかぁぁぁぁぁ!?