二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート5:この風が泣いている(3) ( No.52 )
日時: 2015/03/09 18:13
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 -----------あっくん……!!

 暗闇に響く声。
 その声でようやく目が覚めた。見れば、そこにはチャモの姿があった。
 また、レイドもぱんっぱんに膨れた腹を上に向けて、寝ている。特性・呼び水で水を吸いすぎたのだろう。

「あっくん! 大丈夫!?」

 ああ、良かった。
 彼女は無事だ。濡れてはいたが。
 そして、そろそろ原型の姿でいるのは疲れてきたので、アクアは擬人化体に姿を変えた。

「結局、濡れちゃったけど……1人で流されるよりは良かったし」
「ちょっと待ってください、ここは一体何処なんですか!?」

 見たところ、洞窟か何かの類のようだった。見れば、川が洞窟内にも流れてきている。

「でも、あっくんがあたしを抱きしめて浮いてくれたから、溺れないですんだんだよ!」

 と、言った途端に彼女の頬が真っ赤に染め上がった。顔を手で覆う。
 冷たい手で、アクアは彼女には触れたくはなかったが、額に手の甲を当てた。
 とても、熱い。
 さらに、彼女の顔も真っ赤になっている。

「風邪引いたんじゃないですか、チャモさん」
「な、何言ってんの! あたしは平気だって!」
「バカ言わないで下さい。かのフレイさんも、そう言って無理に無理を重ねた結果、ぶっ倒れたことがあるんですから」
「ち、違うよぉ……あっくんの所為だよ……」

 え、とアクアは一瞬頭がフリーズした。

「それって一体どういう------------」


「そこに居たか」

 声が響いた。
 洞窟の入り口の方から、暴風が吹きぬける。
 見れば、先ほどの少年が風を巻き起こしているのが分かった。

「散々梃子摺らせやがって……もう此処までだ」
「まだ追って来ていたんですか」

 怒りを含めて、アクアは言い返す。しかし、余程この地に足を踏み入れられたことが気に食わないのか、少年の方も表情が怒りで歪んでいた。
 ゴーグルを上げて、怒りの眼差しをギラ付かせる。


「この峡域は立ち入り禁止だ……余所者はなッ!!」


 ピキピキ、と彼の皮が剥げていく。そして、次々に身の回りの物がデータ変換されていき、分子レベルで彼の身体が”元に戻った”。
 即ち、原型としての姿になったのだ。

「このポケモンは……ピジョット!?」

 鳥ポケモン・ピジョット。種族値はお世辞にも高いとは言えないが、このポケモンは確か---------

「メガシンカを得ていたはず……!!」
「ご名答!! しかし、貴様らなどメガシンカを使うまでも無しッ!! よし、分かった……この方向かッ!!」

 巻き上がる暴風。
 それが、一気に自分達の方に襲い掛かる。
 しかし、アクアも負けてはいない。原型に再び変身し、更にメガシンカでより肉体を屈強にして、襲い掛かる暴風を受け止め、受け流した。

「生憎、此処は僕の仲間がいるんだ。勝手に暴風を巻き上げられちゃ困るんですよぉ!!」
「あっくん! 頼んだよ!」
「分かってます!!」

 チャモはどの道、疲労とタイプ相性で不利。
 此処は自分が戦うしかない。
 
「メガラグラージ……か。やはり、お前が影の携帯獣だったか」
「言いがかりだ! 僕らはマスターのポケモンです!!」
「……キモい癖に、ほざくな山椒魚!!」

 再び暴風が巻き上げようと、羽根を羽ばたかせようとするピジョット。
 しかし、一気に飛び上がり、その翼をアクアが掴む。

「捕まえましたよ」
「貴様ァァァ!!」

 だが、元祖鳥ポケモンの筋力は伊達じゃなかった。羽を羽ばたかせる、その動作だけでアクアを振り落とす。

「ラグラージは自分が御三家最強だと奢り高ぶっているが、残念ながら、そういう奴ほど自分より種族値で格下の奴に負ける世の中だ」
「奢り高ぶってる……? 未だにメガシンカしていないアンタの方が奢り高ぶってるじゃあ無いですかぁ……! その首のメガストーンは飾りですかぁ!」
「残念ながら」

 瞬!! とピジョットは、アクアと間合いを詰めた。
 そして、囁くように言う。


「貴様らの前では、こんな石・ただの飾りだ」


 強烈な嘴による一撃が、アクアの左肩に炸裂した。
 
「痛ッ!! でも------------」

 刹那、同時にアクアの右腕が唸りを上げてピジョットを捉える。
 ---------冷凍パンチで、こんな奴……!!
 思い切り、腕を振り下ろす。
 しかし、拳は空振り、相手の姿はもう見えない。

「こっちだ、このノロマめ!! 暴風をあれだけ食らったんだ。好い加減、混乱して自滅する頃合だぞッ!!」

 ピジョットはアクアの後ろに回りこみ、嘴を叩き込もうとする。確かに、もう頭はくらくら、目の前の光景すらブレて見えてくる。
 だが、そのときだった。
 ピジョットは背中に激痛を感じる。冷たい感覚と共に彼は背後を見た。
 そこには、バシャーモの姿があった。

「あんたは1対1の勝負と途中から勘違いしていたみたいだけど、あんたはあたし達に吹っかけて来たんだよね? だから、あたしが攻撃しても問題ないよね!」

 そして、彼女の声でアクアは意識を取り戻す。
 ---------結局、また助けられてしまいましたか。

「……全く、僕に任せるんじゃなかったんですか」
「だ、だって……仕方ないよ!」
「まあ、良いでしょう。散々邪魔してくれたんだ。水の中に落としてくれた報復はきっちり返さなければ」

 ピキピキ、と凍っていく翼と背中に戸惑いを隠せないピジョット。
 めざめるパワー・氷だ。それも、命の珠を常時装備しているチャモの。

「い、嫌だ……氷だけは、嫌だ……!!」

 怯えさえ見せるピジョット。先ほどまでの威勢が嘘のようだ。威力に関わらず、弱点の氷技を食らったということが問題のようだった。
 好都合だ。
 アクアは、最大火力の技を、目の前の動けないクソヤローに叩き込むことができるのだから。

「まずは、1発!!」

 渾身の冷凍パンチを胴に叩き込む。

「うがっ、-----------バカな----------!!」
「ふんぬうううううううううううう!!」

 そして、すぐさま予備動作で------------


「食らえ-----------アクアテールっ!!」

 
 斬!! と、彼の激流を纏った尾は、見事に目の前のピジョットの身体を切り裂いたのだった------------