二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート5:この風が泣いている(4) ( No.53 )
日時: 2015/03/22 00:04
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「がっ、はっ……」

 呻き声を上げたピジョット。そのまま壁に叩き付けられて、気を失ったように倒れてしまった。
 アクアが叫ぶ。

「急いで下さい、チャモさん、レイドさん! 川を上って逃げましょう!」
「そっか、メガシンカしてる今なら、あんな激流は」
「余裕です! レイドさんもこっちに!」

 ぶっ倒れていたレイドは、訳が分からないままチャモに引きずられて、アクアの背中に一緒に乗せられる。

「うっぷ、何事!?」
「逃げるよ、れーくん!」
「本当なら、再起不能になるまでやられた分を返しておきたかったですが、マスターのポケモンである以上は、これ以上の手出しはできません」
「怖いよ、あっくん!?」
「冗談です。が、次に奴が追ってきたら、今度こそ容赦なく叩きのめします!」

 言ったアクアは、そのまま腕に力をこめて水を掻き分けて、だんだん深くなってくる川を泳ぎだした------------
 息も絶え絶えに、その一部始終を見届けたピジョットは、一旦擬人化体に戻ると、壁に寄りかかった。そして、連絡機らしきものをデータ変換で呼び出すと、それに口を近づけて、呟くように声を絞り出した。


「----------侵入者です。奴等は三途の川を上っている。挟み撃ちにしましょう……!!」


 ***


 雷鳴が轟く天獄峡域。その川の流れはどんどん強くなる。
 名は、三途の川。志半ばで敗れた鳥ポケモンのデータの残骸が沈んでいるらしい。
 幸い、水タイプである自分用に開発したレーダーマップは防水加工していた上に、無くさないように首からブラ下げていたため、無事だった。
 これさえあれば、今自分がどのルートを渡っているのかが分かる。
 それを見ながら、アクアは激流を泳いでいく。

「まさか、この川を通ることになるとは」
「想定外だったみたいだね」
「おっかねぇ場所だな……とっとと泳いじまえよ」

 この川は、山から落ちない限りは辿り着けない。周りは断崖絶壁だからだ。しかし、この川を登り切れば、そこがコンピューターのあるポイントだと示されていた。
 だが、あれで済んだとは思えない。
 嫌な予感がする。というか、目の前に浮かぶ人影が2つ。
 アクアはぴたり、とそこで泳ぐのをやめて止まった。

「誰ですかぁ、そこにいるのは!」

 宙に浮く2つの影の姿がはっきりとした。ポケモンの擬人化体だ。
 1人は、白いスーツに身を包んだ青年。
 1人は、鋼鉄の鎧に身を包んだ女。
 それを認めたアクアは聞き返すのを待つまでもなく、思い出す。

「待ってください、あれって確か……」

 何度か、バトルボックスでも見かけた者達だった。
 そして、マスターが強力な飛行タイプと認めたポケモン。

「ここ、天獄峡域で好き勝手にしてもらうのは、あまり好い気はしないな」
「……排除」

 2人の姿は、原型の姿へと変換されていく。
 それぞれ、男がずんぐりとした白い羽毛に包まれたポケモンに。
 女が鋼の身体で構成された鳥のポケモンに成った。
 
「トゲキッスのシェムハザさんじゃあ無いですか……!」
「エアームドの雲斬(クモキリ)さん……こんなところで会うなんて!」

 強力なポケモン故、マスターも愛用していた飛行ポケモンだ。
 名前もしっかり、覚えていた。
 そして何よりも、明らかにこちらに対して敵意を剥き出しにしているところか。

「---------これで、3対3だ」

 そして、声が後ろからした。
 バッサリ胸を切られてはいたが、さっきのピジョットだ。

「俺は、嘘は絶対付かない。付いたことがない。言ったことは全て実行する、有言実行を掲げてきた。そして、宣言する。貴様らは排除する、とな!」
「君が梃子摺る程の相手だ。丁度相手も3人。ですが、私が加わって負けた戦いはありません。今こそ、賊に神の天罰が下るときです」
「……成敗」

 トゲキッスのシェムハザと、エアームドの雲斬はアクア達を囲むと、一気に攻撃態勢に入る。
 どうやら、交渉の余地など与えてくれはしないらしい。
 -----------どういうことだ? さっきから思ってはいましたが、皆僕たちにあからさまに敵意を向いている! 
 
「ほうら、怯め!」
「……突貫」

 エアスラッシュと、ドリル嘴が迫る。
 動こうとするアクアだが、2人が立った。これ以上、彼に負担を掛けさせまいということか。

「あたし達が迎え撃つよ!」
「しゃーね、やってやるか」

 足場になりそうな、岩に飛び移ったチャモは大の字の炎を一気に雲斬へ放ち、一方のレイドはミラーコートで放たれた空気の刃を跳ね返そうとするが---------

「……成敗」

 まともに炎を浴びたにも関わらず、雲斬はチャモに突貫した。嘴が胸に突き刺さり、痛みのあまり彼女は絶叫をあげる。

「チャモさん!!」
「い、痛いよぉ……! あっくん……」

 同時にレイドも空気の刃を跳ね返そうとするが----------

「あ、あれ……!?」

 怯んで動けない。

「神の粛清の時間です」

 そして、シェムハザが波動の力を一気に込めた弾を放った。
 つまり、波動弾。
 抜群攻撃をまともに食らったレイドの身体は損傷し、ぶっ倒れてしまった。
 特性:天の恵みでエアスラッシュの怯み効果発生率は6割。レイドが怯んだのは、彼に自覚が足りなかった訳ではない。
 トゲキッスの恐ろしさは、苦手な相手でもエアスラッシュだけで強引に突破できる可能性にあるのだ。

「--------そ、そんな、皆さん……!」

 --------流石、マスターに使われていたポケモンというだけはある。シェムハザさんは、エアスラッシュ+天の恵みで怯ませまくり、ヒートロトムを何度も倒したという伝説を持ちますし、雲斬さんは鋼の身体でどんな物理攻撃も受け止めてしまっています。何故だ? 何故此処まで僕らに襲い掛かってくるんでしょうか……!?
 
「風の声が聞こえてきた……よし、分かった。消え失せろ、賊徒めっ!!」

 殺意に満ちたピジョットの翼が勢いよく羽ばたかされる。
 そして、轟!! と唸りを上げた暴風が、アクア達に襲い掛かった------------