二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- パート5:この風が泣いている(5) ( No.54 )
- 日時: 2015/03/08 15:13
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
ピジョットというポケモンは、優れた胸筋と羽を持つポケモンだ。加速していけばマッハ2で空を飛べるし、羽ばたけば追い風が吹く。
何よりも----------全力で羽ばたいたその時、木はしなり、波は荒れる程の暴風が巻き起こるのである。
それを察したかのように、シェムハザと雲斬は下がる。
「……まったく、血の気の多い人だ」
「……退避」
チャモとレイドは、その場から離れていく2人を前に、疑問を覚えたがようやく理由が分かった。
暴風は、先ほどのものとは比べ物にならないほど、ピジョットを軸に巻き起こり始めたのだ。
水を巻き上げて渦を作り、アクア達に牙を剥いた。
「僕が盾になります!! 皆さん、後ろに!!」
「で、でも----------!!」
「早く!!」
すぐさま、アクアが庇うようにチャモとレイドを岩壁に押しやり、背中で暴風を受けた。が、
「ぐああああ!!」
彼の叫びと共に、身体が浮き上がった。
そして、そのままアクアを巻き込んで風は上昇していく。
それだけではない。
ざくり、とアクアは自分の身体が何かに切り裂かれていく感覚を覚えた。
「これは----------!?」
---------旋風の中心で巻き上げられる砂や小石……!! それが物凄い勢いで飛び回って、僕の身体を切り刻んでいっているわけですか!! 単純で子供っぽいトリックかもしれないが、かなり痛い!!
分かりやすくいえば、風の日に車に飛んでくる小石である。車についた傷は、車体が直進しているのもあって、まるで切れたような傷になるのだ。
それだけではない。飛んでくる石の中には、鋭利なものもあり、下手をすれば本当に身体を切断されてしまいそうだ。
と、思ったそのときだった。
風が止んだ。
考える前に、アクアの身体は空中で一瞬静止したかと思えば、落下していく。
アクアは下を見た。
自分の背中めがけて、ピジョットが嘴を向けて急上昇してくるのだ。
どうなるのかは、すぐに分かった。
「モズの早贄(はやにえ)という言葉を知っているか? モズという現実世界の生き物は、獲物を何かに突き刺してから食べるらしいなぁ? それとは少し違うが、お前を俺の嘴で串刺しにしてやるんだよッ!! いや、そのまま貫く!!」
アクアの身体は既にずたずた。
最早、身体に力は入らない。
だが。
「こんなところで、くたばったら、ボマー先輩に笑われてしまう……!!」
ぎゅっ、と大きな拳に力が入った。
「僕がやられたら、チャモさんもレイドさんもやられてしまう……!!」
歯を食いしばって、全身の力を解放した。
そして、閃いた。
「----------下から上昇するのと、上から下へ叩きつけるのと……どちらが強くて尚且つ力がいらないと思いますかねぇ?」
次の瞬間、アクアは尻尾の周りに激流を纏わせ、思い切り、振り下ろした。
嘴による突貫と、アクアテール+落下の勢い。どちらが勝つかは目に見えていた。
「つ、貫けぇぇぇぇぇ!!」
バキィッ、と音が鳴った。嘴こそ折れなかったが、激流を纏った尾は野球のボールを打ち返すように、ピジョットの身体を打ち払った。
ピジョットの身体は、それこそバットで打たれたボールのようにひしゃげて、岩壁に向かって一直線に飛んでいったのだった。
ただし、飛ぶのに羽は要らなかったが。
アクアテールの勢いで川に自分の身体が落ちたものの、メガシンカしていたため、先ほど橋から落とされたときよりも、衝撃に耐えることができるようになっていた。
***
岩壁に叩き付けられたピジョットは擬人化体に戻っており、息絶えたかのように首をもたれていた。
シェムハザと雲斬が飛んで様子を見に行く。
「さっきのを見て、分かったことがあります。彼らは影の携帯獣じゃあ、ありません」
「だがっ……奴はラグラージの種族だったぞ……!! 擬人化体も奴に似ているどころか、瓜二つ……! 間違いない……!!」
息も絶え絶えに言うピジョットの少年は、キッ、とシェムハザをにらみ付けた。
しかし。
「……目」
雲斬が呟いた。
「……目が、違う」
「それに、仲間を庇うような先ほどの行動。守護級は幾らでも仲間を量産できるのに、庇う必要はないでしょう」
「そんな……俺は一体、誰と戦っていたんだ」
うなだれるピジョット。自分の行いを悔やむようだった。
「中央区域のアクアと申します」
擬人化体に戻ったアクア達が駆け寄った。
「僕らは、このエリアにあるロックコンピューターを破壊しに来たんです。同時に、このエリアに巣食う守護級の撃破も兼ねていますが----------」
***
人通りの事情を話したアクア達は、すぐさま謝罪された。
シェムハザが、言った。
「すまなかった。我々も実は2日前、この先に居る守護級の討伐に向かいました。しかし、奴は防御結界の障壁で我々の行方を阻んでしまったのです」
そして---------と彼は続けた。
「守護級の姿は、貴方と瓜二つでした。種族はラグラージ、しかも性格も貴方に似て理知的だったのです」
驚いた。流石に。
しかし、これはボマーのときと似ている。
このボックスにいるポケモンの恨みや負の感情も吸収して、影は更に具現化していくのか。
「それであたし達が襲ってきたと思って、攻撃したんだ」
「全く、とんだ迷惑だぜ! とっとと守護級を、ぶっ倒してやろーぜ、アクア!」
「……」
アクアは黙りこくっていた。レイドがぐいぐい、と彼の袖を引っ張って呼びかけて、ようやく気づいたようだった。
「もしかしたら、その守護級は僕の恨みが混ざって、僕の姿を形成したのかもしれません」
「どういうことだ?」
ピジョットはシェムハザに抱えられて、呟くように問うた。
簡単です、とアクアは言った。
「僕らラグラージ族は、いずれも自分の外見に悩みを抱いている人が多いですから。特に僕は、思い上がるつもりこそありませんが、少し顔が整っていたという理由でいじめられていましたから」
「そっか、あっくん相当悩んでいたもんね」
ラグラージは、外見で相当好みの分かれる種族だ。原型の顔付きは大抵、擬人化体にも反映される。
かっこかわいいという人も居れば、気持ち悪いと言って嫌悪する人もいる。
だが、アクアは例外だった。幼少期から擬人化体が容姿端整で綺麗だったのだ。故に同属からはボロクソ言われることがあった。いじめを受け続けていた。マスターの厳選で、ボックス内のミズゴロウはアクアしかいなくなった。それでもアクアは、人前に出ることを避け、1人になることが多くなった。ラグラージに進化してからは、より酷くなった。
チャモと出会うまでは。
「いずれにせよ、そのラグラージを倒し、コンピューターを破壊しないと」
アクアは決意のこもった眼差しで答える。
そして、飛行ポケモンの2人も同意するように、
「我々も同行しよう」
「……賛成」
と答えたのだった。
「貴方は、どうするんですか?」
シェムハザの問いに、ピジョットは力を振り絞るように言った。
「元は俺の責任だからな。すまなかった」
「もう良いんですよ。こんな時世だ、誰だって疑心暗鬼になるときはあります」
「俺も協力しよう。良いか?」
アクアの答えは決まりきっていた。
「勿論です。よろしくお願いしますね」
「ピジョットの旋(ツムジ)だ。よろしく頼む」
2人の手が、固く繋がれた。
此処に今、協定が結ばれたのである。
***
------------アレモ要リマセン、コレモ要リマセン……全部、消エテクダサイ……!