二次創作小説(映像)※倉庫ログ

パート5:この風が泣いている(12) ( No.61 )
日時: 2015/03/23 10:54
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「あぎっ……バカな……頭脳SSランクを持つ貴方をコピーしたはずなのに……!!」
「借り物のメガシンカで勝てる世の中ならば、とっくにポケモンというゲームは終わっていますよ」

 冷たく、突き放すようにアクアは言った。過去の自分と重なって見える目の前の影に見切りを付けたのだ。
 影は、がっくりと項垂れて、そのまま壊れた人形のように呟いた。

「ハ、ハハハ……僕ハ何のために生まれてきたンでショウカ……!」

 そのまま、影は消えていった。
 同時に、周りの景色も暗い水源に戻っていた。

「一件落着、ですか」

 見れば、コンピューターが剥き出しになっている。
 もう、これを守るものはいない。
 そのままアクアは、慣れた手つきで自分のタブレットを接続し、コンピューターのプログラムを停止させたのだった。

「やったか、アクア」

 旋がふら付いた足取りで、やってくる。かなり疲労困憊で参っているようだったが、アクアに気を使ったのか、そういった素振りは極力見せないようにしていた。
 
「ええ、何とか。それよりシェムハザさんと雲斬さんも心配です」
「いや、あの2人は簡単にやられないだろう」
「……まあ、そうですね。それに、リーダーを倒したから、下級はもう増えないでしょう」

 レイドとチャモも駆け寄ってくる。
 アクアは、先ほどのコンピューターをデータ変換でキューブ状の物質に圧縮すると、2人に見せた。

「これはとりあえず、鹵獲しておきましょう。前回はその前に破壊せざるを得ませんでしたが。つーか爆発したんですけどね」
「良いんじゃねーか? これで2つ目のエリアも開放だな!」
「ボマー先輩達も無事なら、これで4つの領域を開放したことになるね!」

 む、と旋がその台詞を聞いてやってきた。

「そういえば、ボマー先輩に言われていたポケモンも探さなければ------------」
「ちょっと待て、お前達。本当に何者だ?」

 アクアの間に入って旋が問うた。
 彼は、少し困った顔で「いや、だから中央区域のアクア----------」と答えたが「違う、そうではなくてだな」と返される。
 つまり、旋は何を言いたいのか。
 それはすぐに分かった。

「---------お前達、”師匠”の知り合いなのか?」

 アクアとレイドとチャモは顔を見合わせた。 
 師匠といわれてもイマイチぴんと来ないのである。

「……失礼、師匠って一体誰のことですか----------」
「いや、だからだ」

 一度もったいぶる様に間を空けると、彼は言った。


「ボマー師匠の知り合いかと聞いているんだ!!」


 一瞬、殴られたような衝撃にアクアは襲われた。
 そういえば、である。
 ---------そーいや、俺らがORASのボックスに移った直後の事だ。あいつからもメガシンカを習得したことを知らせる手紙が届いたんだ。
 ORASでの新規メガシンカ習得したこと。
 ---------『低種族値のテメェ如きがそんなジョークで粋がってんじゃねーよ』って返そうと思ったが、可愛そうだから手紙を捨てることで手を打った。
素の種族値が悲しくなるほど低いこと。
 ----------種族値の低いポケモンは特性でカバーするっきゃないが、それもできないならば、レートの闇に飲まれるしかねえ。
 そして何より、その低い種族値をカバーする特性も持ち合わせていないこと(メガシンカ前)


(こ、こ、こ、この人かあああ!!)


 完全に一致である。さっきまで、一戦交えていたポケモンが、それだったとは今の今まで気づかなかったのである。
 ピジョットという種族は物の見事に、今挙げた3つの特徴に当てはまってしまっていた。
 結論:旋こそ、ボマーの言っていたポケモンである、と。
 見事な証明である。QED(証明終了)。

「実は僕達、貴方の師匠の後輩なんです」
「影の携帯獣を倒すために、ボックスを回って仲間を集めてるんだよ!」
「ボマーの奴も、今別行動こそしてるが、俺達と同じことやってるんだぜ」

 ふむ、と旋は納得したように呟くと言った。

「そうなると、いよいよすまなかった。完全にお前達の邪魔をしてしまったようだからな」
「いえ、良いんですよ。何故ならば、ボマー先輩が貴方の力を欲しているんですからね」
「……師匠が?」

 怪訝そうな顔で彼は問うた。

「俺のような種族値の低いポケモンで、師匠の力になれるのだろうか。メガシンカ後の特性も、お世辞にも良いとは言えない」
「今回の試合、貴方がいなければ、僕らは負けていたかもしれないんですよ。それに貴方のメガシンカの強さは本物だ。貴方には、負け筋を消してくれるどころか、勝ち筋を作る力があるじゃないですか」
「そーだよ! 強かったよ、つーくん!」
「ま、♀じゃねえのが残念だけど、そーゆーことだからよろしく頼むぜ」
「そういうことです。さあ、僕達と一緒に来ませんか」

 ふぅ、と息をついた旋は言った。


「すまない、今の俺に師匠に顔を向ける資格は無い」


 そう言って、その場から飛び去ってしまったのだった。

「おいおい、どういうことだよ!?」
「ま、彼にも色々あるんでしょう」
「うーん……」

 仕方が無いだろう。恐らく彼はこの地に慣れ親しんでいるように見えた。
 そこを離れて、いきなり一緒に戦えと言われても、無理があるものである。

「ゆっくり、彼にも考えをまとめる時間をあげましょう。それで良いでしょう」

 
 ***

「本当に、ありがとうございました。神に代わり、礼を言いたいところです」
「……同意」
「いやいや、そこまで言わなくても……」

 今回の件は、シェムハザと雲斬が下級を食い止めてくれたからこそ、アクア達は思う存分に戦えたのだ。
 感謝せねばなるまい。

「全く、旋の奴は。こんなときくらい、顔を出せば良いのですがね」
「……無礼」

 そう語散る2人に、アクアは今までの経緯を話す。
 そもそも今回は、旋を仲間にするために此処に来たこと、彼がまだ不安を抱いているのではないか、ということだった。

「ふーむ。彼は此処の風が一番好きだ、と言っていましたからね……」
「此処の風が?」
「限りなく純粋な飛行タイプ、即ちノーマル複合の飛行タイプですか。彼らには、風の声が聞こえるのです。かく言う私の種族も、第五世代まではそうだったので」

 尚、トゲキッスは第六世代でフェアリータイプが追加されたため、この力は失われたようである。
 シェムハザは、ふと空を仰ぎ見た。

「ただ、それだけでは無いような気がするのですがね……」
「それだけではない?」

 アクアは聞き返した。

「彼は、過去の自分の力で辛い目に遭ったことがあるらしいのです。もっと強くなるため、此処で修行をしているのだ、とも言っていました」
「力……?」
「ですが、私にも分かることがあるのです。これは追い風。旋はかならず、貴方達と行きたいと言い出すでしょう。何かきっかけがあれば、ですが」