二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- パート6:雷電霹靂(3) ( No.77 )
- 日時: 2015/03/26 09:45
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「旋、お前、どうしたんだ!!」
必死で呼びかけたけど、全然俺の声を聞く耳を持った様子は無かった。
そして奴からは、メガシンカに似た波動のエネルギーが感じられた。
「くそっ、こうなったら------------」
***
「……はぁ、はぁ、はぁ」
何とか、ボロボロになった俺は奴を力づくで止めることに成功した。あいつは当然病院に運ばれ、俺も治療を受けた。
事態をマスターに報告した俺だったが、とにかく旋のことが心配だった。
どうしてこんなことになったのかは、ラッキー達に聞いた。
「短期間で強くなり、体の中に眠っていたメガシンカの因子が目覚めたのでしょう」
「メガシンカの因子……?」
「ポケモンによりますけどね。力を抑え切れない未熟な者に多いようです」
奴は暴走したんだ。メガシンカの因子を抑え切れずに。
マスターが奴を育てた理由もようやく分かった。
メガストーン、ピジョットナイトの存在が明らかになり、それの捜索を進めていたからなんだ。
「くそっ、俺は……教え子が苦しんでいたのに、結局力づくで止めることしかできなかった」
病室で苦しんでいるあいつの顔を見ながら、俺はただただ語散ってばかりだった。
恨んだ。自分の無力さを。
***
次の日の朝。ベッドで寝ていたはずの旋の姿は無かった。そして、1枚の手紙だけが残されていたんだ。
『師匠へ
自分はもう、師匠に教えを請う資格はありません。今までありがとうございました。そして、本当に申し訳ありませんでした。自分は旅に出ます。さようなら』
すぐにあいつを探した。でも、中央区域には、もうあいつは居なかったんだ-----------
***
「俺は戻ってくるように、何度も言ったが、あいつは結局帰ってこなかった。直接天獄峡域にも行ったが、門前払いだ」
「……そんな、ことが……」
「旋は悪くねえんだ。俺はあいつのことが心配なんだよ。あそこまで俺を慕ってくれた後輩は、お前らとあいつくらいだから」
ボマーの顔はいつになく沈んでいた。
「今、旋さんに掛け合っても仕方がないと、僕は思います。また時間を置きましょう。彼自体、協力を惜しみたいわけでは無いようでしたし」
「そーだよ!」
「ま、人違いはあったにせよ、あいつは良いやつだと思うし」
「それに、ボマー先輩に非は無いと思いますから」
それを聞いて、安心したのかボマーは安堵したように微笑んだ。
「ま、後輩がこう言ってるんだし、大丈夫よ」
「そうです。旋さんとはじっくり向き合っていけば良いと思うのです」
「同感でさァ。真っ直ぐな奴は嫌いじゃねェぜィ」
もう、誰もボマーに対して疑念は抱いていないようだった。
彼は腕を組むと、言った。
「ともかく旋の件は時間を置いて、もう一回俺に任せて欲しい。良いか?」
やはり、本人が直接掛け合った方が良いだろうという本人の意見だった。
こうして、旋の件については完全に解決の方向性が決まったのである。
「さて、明日はどうしますか。僕は此処に残って、あるものを解析しようと思っているのですが」
「と言うと?」
アクアは、手にキューブ状の物体を掴んで見せた。
「敵のコンピューターを鹵獲し、圧縮したんです。これの解析も進めたいので」
「じゃあ、お前以外の6人で行くと」
「いえ、それだけじゃありません。向こうで仲間になるポケモンのスペースも考えれば、5人が妥当かと」
「理由は」
「万が一のために、こちらに最低限の戦力を残しておきたいからです。つまり、チャモさん」
え!? と今まで少しぼーっとしていたチャモが、アクアの方を向く。
「少し、僕に付き合ってくれませんか、明日は」
「つ、つ、つ、付き合うって……わ、分かった」
挙動不審な彼女に今度はアクアが疑念を抱いた。
「風邪ですか」
そう、的外れな質問をついついしてしまう。
「違うもん!」
何故か、言葉がしどろもどろになっている上に、頬に紅が乗っている彼女に白い視線を送りながら、アクアは説明を続ける。
明日は残りのエリアのどちらに行くのか、ということの取り決め、そしてパーティの最終確認だった。
その結果。
「明日のパーティは、俺、フレイ、ムゥ、ガメリオ、そしてレイドの5人だな」
「はい、これでOKでしょ-----------」
と、次の瞬間だった。厨房の方向から、お盆に盛られた料理を手に、火の粉達がやってきたのだった。
すかさずボマーは、フレイの方を見る。
「お前、こいつらに料理任せてたのかよ」
「ちょっと不安だけどね」
「さっき聞いたわ、それ」
「ぴーぴー」と鳴き声を上げながら、火の粉達は料理を華麗な手さばきでテーブルに置いていく。
流石、しっかりもののフレイの分身というだけはあるだろう。
ただし、1つ問題を上げるとすれば、だ。
「……これ、俺らは食えるのか」
オムライスのライスは唐辛子の赤で染まっており、スパゲッティナポリタンと思いきや、実はタバスコで真っ赤に染まったカルボナーラだという。
スープに至っては、煮え立ったマグマのような何かだった。
「ごめんなさい、やはり本体のあたしが辛党だから、あたしの好みのとおりに料理を---------」
辛党のレベルを通り越して、食品への冒涜すら感じるレベルである。
チャモだけが、にこにこしながら「あ、おいしー♪」と食べていたが、全員は手を付ける気すら起きなかったのだった。
「……いや、俺は食うぞ!」
「やめてください、先輩! 冒険の度を越しすぎです!」
「うおおお、気合を入れて、ちぇりおおおお!!」
結局、その後。ボマーの顔は真っ赤に腫れ上がり、そして彼自身も気絶。
後でフレイが普通の料理をちゃんと人数分作ったのだった。
激辛料理の方は、チャモが全て平らげてしまった。格闘タイプの癖して脂肪が胸に乗っているのは、無駄に大食いだからであろう、と全員は確信したのだった。
そのため、フレイが用意したのはチャモ以外の6人分だった。
「お腹いっぱいだよぉ……」
「食いすぎだ、コイツは」
***
帰り道。
チャモとアクアは一緒に歩いていた。
「今日は色々ありすぎて、頭がパンクしそうだったかな」
「明日は少し、休めそうです。いつもよりは。でも、コンピューターの解析もしなければいけませんし」
「……ありがとね。今日は一杯助けて貰って」
「僕だって貴方のことは言えませんよ」
かああ、とチャモの顔は少し赤く染まった。
今日の冒険は、彼女の力なしでは突破できなかったところがあるのも事実だ。
旋との戦いを手早く終わらせられたのも彼女のおかげだ。
しかし、彼女は負い目を感じていた。
「あたし、邪魔になってないかな。こんなに助けて貰ってばかりで……」
ぴたり、とアクアは足を止めた。それにあわせてか、チャモも止まる。
「……誰が邪魔なもんですか」
「でも……」
「貴方は確かにうっかりやでドジで、間が抜けていて……でも、誰よりも貴方は明るいじゃないですか。貴方がいなければ、僕の瞳に光が差すことは無かったでしょう」
照れているのか、そこで彼女は押し黙ってしまった。
「ありがと」
そして小さく、呟いたのだった。
照れながら、はにかみながらも、彼女の口から放たれた言葉に、アクアの胸が高鳴った。
「……じゃあ、あたしはこの辺で。また、明日ね」
「ええ、これで」
アパートの階段を上っていく彼女に手を振り、アクアはそのまま自分の家に向かっていた-------------
(やばいやばいやばい! 幾ら励ますためとはいえ、今の台詞は少し臭かったか……? どうしたんだろ、僕は……)
----------高鳴る鼓動を抑えて。