二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 選出画面2 ( No.106 )
- 日時: 2015/05/21 00:31
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=YUT4Gew75n4
(やばい……どうする、どうするオレ……なにが、最善なんだ……)
焦り、焦り、焦り。ただそれだけだ。
時間はある。しかし、だからと言って永遠に悩み続けられるわけではない。どこかで必ず、その思考をやめなければならない。
いつものように明確に時間制限が設けられていない分、どこで思考をやめればいいのかが分からない。そのことが、さらに彼の焦燥感を加速させる。
(……いや、待て……落着け、落ち着くんだ、オレ……こういう時、あいつなら……雷切なら、どうする……?)
対戦ではあまり頼りないが、策略という面では認めざるを得ない、自分たちのリーダー。
彼のことを考えながら、トンベリは少しずつ、自分の中に芽生えた、炎上するような焦りを鎮めていく。
(雷切なら……雷切なら、きっと、こう言う……)
——とりあえず、トンベリぶっこんどくか。便利だし——
いつものように聞かされる、忌まわしい言葉。そんなとりあえず一杯、みたいな感覚で自分を選出しないでほしい。
いつもならそう思っていた。しかし、今はそうではない。
(……とりあえず、オレを、選ぶ……それだけ、オレのスペックは、汎用性が、ある……!)
この時トンベリは、ふと思い出していた。
バトル・オブ・ホウエンで戦う前の夜。正に決戦前夜とも言える、あの日の夜を。
雷切に、今の自分の型を、教えられたあの時を——
——トンベリ、お前、もうイカサマいらねーよな。
——……は……? いや……それ、したら……ダメージソース、なくなる……
——元から大したダメージでねーんだ。気にすることじゃねぇ
——でも……積み技、とか……対策に、なるし……
——挑発でなんとかしろ。
——……鬼火、と、自己再生、だけで……粘れ、って……?
——そうは言ってねーよ。ただ、イカサマなんてピンポな技はいらねーって言いたいんだ
——……回りくどい……はっきり、言え……
——お前にそんなことは言われたかねーが、まあいいか。お前、今度からこれ使え。
——……? ……メタルバースト……?
——そうだ。それがお前の新しいダメージソースだぜ
——……襷……でもない、のに……?
——まあな。お前は大抵の攻撃を一撃耐えるだけの耐久力はあるんだ。再生が追いつかなくて、鬼火も効かなくて、押し切られそうな相手でも、一発耐えろ。一発耐えれば、そのメタルバーストで返り討ちにしてやれるぜ。
——……襷、の代わりに……耐久調整、する、ってこと……?
——そういうこった、物分かりが良くて助かる。これでお前やちーちゃんの、つーか俺らの苦手な骨折焼き鳥野郎にも、一杯食わせてやれるぜ。やってくれるか?
——……どうせ、拒否権ないし……やることは、やるよ……
「……オレ……」
「へ? なに? なんか言った?」
「トンベリ君? どうしたのです?」
ぼそり、と呟くトンベリの声は、誰にも届かない。
最初はそれでもいいと思った。思い返せば、こんな面倒なことに参加したいわけではなかったし、所詮は学校行事。そんなことに本気になるのも馬鹿馬鹿しい。
なので、聞こえていないなら聞こえていないで、すぐさま取り消してちーちゃんにでも譲ろうかと、一瞬だけ思ってしまった。
だが、それではダメなのだ。それでは、いつまで経っても、ダメな自分のままだ。
気に食わない話だが、それを分からせてくれたのは、あの速いだけが取り柄の、自分たちの司令塔だった。
たった一歩。小さな一歩でも、前に進むために。
トンベリは、声を振り絞る。
「最後は……オレが、出る……!」
【選出確定
ニコラス——[♂:シザリガー]
いなずま——[♀:ライボルト]
トンベリ——[♂:ヤミラミ]
All select】
最後の一枠は、自ら申し出た、トンベリだった。
「トンベリくん……」
「だ、大丈夫なのですか……?」
「……大丈夫だ……」
「本当にー?」
「あぁ……メタバで、相手の型次第、だけど……全員に、打点が、ある……」
リーフィアやストライクのような物理アタッカーっぽい面子には鬼火と挑発を撃てば封殺できる。その他の特殊アタッカーにはメタルバーストで技を反射させれば倒せる。
懸念材料と言えば、オンバーンの眼鏡すり替え。そして、バシャーモの、特に積んでくるメガバシャーモの超火力を耐えられるかだが。
しかし、相手依存になるとはいえ、トンベリはすべての相手と戦える可能性を秘めている。選出する価値は大いにあるだろう。
「んじゃま、これで決まりだな!」
「頼むわよ、電、ニコラス、トンベリ!」
かくして、トンベリたちの、新学期初の対戦の幕開けだ。
たかが新歓の一イベントに過ぎないこの対戦だが、しかしトンベリにとっては、ただのイベント以上の意味があるように感じる。
この対戦を通して、自分の中で、なにかに決着をつけられるかもしれない。そんな根拠もなにもない、淡い希望を抱いていた。
そんな折、ふと彼に声がかかる。
とても聞きなれた、彼女の声が。
「がんばってね、トンベリくんっ」
なんということのない。彼女の声援。
別段、自分にだけ向けているわけではない。彼女の性格上、誰にだって同じことを、同じ気持ちを込めて言う。
ゆえにこの時も、そこにいたのがたまたま自分というだけであって、ニコラスや電がいれば、彼らにも同じことを言うだろう。
だがそれでも、その言葉が自分の力になることは感じていた。
だから、本来ならここは、威勢のいい言葉で景気でもつけるべきだったのかもしれない。
しかし、今の自分は今の自分のまま。結局、出て来る言葉は消極的なものばかり。
「ん……まあ……やることは、やるよ……」
そんな自分に、やっぱり嫌気が差すが——
「……やることは……やって来る……」
それが自分なのだと思えば、そんなに悪い気もしないかもしれない。
(……いや……やっぱ、嫌だな……)
最後にそんなことを思わなければ、少しは格好ついたのに。
そんな自分にまた嫌気が差す堂々巡り。
だがやはり、嫌々言いながら、自分にも嫌気が差すのが自分なのだ。それはもう、認めるしかない。
それに今ここで、そんなことを言っても仕方ない。今はただ、目の前の対戦に集中しなければ。
これが、そんな嫌になるような自分との、決別になるのかもしれないのだから。
「……行くぞ……」
そして、新歓バトルマッチ。
2年5組代表パーティーの対戦が、幕を開ける——