二次創作小説(映像)※倉庫ログ

「ランダム対戦」「はレートもフリーも魔境です」 ( No.14 )
日時: 2015/03/02 15:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

 山奥の別荘や、合宿の宿舎としての利用を想定していたのではないかというほどに広い、一人で住むには広すぎる木造の一軒家。
 その一室にて、一人の男が寝ていた。
 そしてそんな男に、音もなく近づく人影が一つ。

「…………」
「ふふふー……ふむふむ、こうしてみるとなかなか……」

 その人影は、ひっそりと男の顔を覗き込み、口元に微笑みを浮かべる。
 とても楽しそうで、しかし悪戯っぽい笑みだ。

「いつもは強気な男の子ほど寝顔は可愛いものだね……ラグナ君とかは変わらずキモそうだけど」

 それからその人影は角度を変えてキョロキョロと男の寝顔をまじまじと見つめる。その間、男が起きる気配は一切ない。完全に熟睡している。
 ややあって、その人影は動きを止め、

「それじゃあいい感じに堪能したところで、お仕事お仕事」

 男に顔を近づける。
 そして、耳元に口を近づけていき——

「……ふぅっ」

 ——息を吹き込んだ。



【■■■■の氷の息吹!】

【効果は抜群だ!】

【急所に当たった!】



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 それから、男の断末魔が近所中に鳴り響くのだった。







「なにしやがる雪姫!」

 断末魔が鳴り終わった瞬間、男——雷切は跳ね起き、すぐ近くにいた女性に詰め寄る。

「やだ、ちょっと雷切君、強引すぎぃ」
「うるせぇ黙れ! 朝っぱらからなにしやがるてめぇ! 俺を殺す気か!?」
「いやだなぁ殺すだなんて大袈裟な。ちょっとしたレディの悪戯だよ。モーニングコール代わりのサービスだよ」
「草タイプに氷の息吹を吹っかけるモーニングコールなんざ聞いたことねぇ! 下手したら永眠するぞ! 起こす気ねーだろ!」
「ふふふー、私の火力が低くて助かったね。今だけ特別のHS振りだよ」
「CSだったら確実に死んでたな……つーかやっぱ殺す気だったのか!」
「そんなことより朝だよ。ココロちゃんたちも来てるよ」

 雷切の命を「そんなこと」で済ませ、シャッ、とカーテンを開ける、雪姫と呼ばれた女性。
 幼さが残っているような、それでいて超然としたような雰囲気を漂わせる姿。雪のように白い髪と、袖を切り落とした簡素な着物が差し込む朝日に照らされる。
 かつてココロやラグナロクと共にバトル・オブ・ホウエンで戦った仲間の一人、雪姫だ。
 本来は彼女の父親がパーティーに入る予定だったのだが、クリスマスのある日に爆発したとかなんとかで入院、その代理として彼女が派遣されたのだが、

(家賃滞納してたのはあの主人野郎だが、よくよく考えれば借金として押し付けて来たのはこいつなんだよな……)

 だからと言って雪姫に恨みがあるわけではないが、いまいち彼女の行動の真意が読み取れない雷切であった。

「らーいきーりくーん?」
「あ? なんだよ」
「四十秒で支度しな」
「無理だ。つーか急かしすぎだ」
「雷切君、昨日はどこか行っちゃったから対戦できなかったでしょ。チビちゃんたちはもうやる気満々だから、早く行ったげないと」
「そうかい。んじゃ急ぐから、お前は連中のとこに戻ってろ」
「雷切君が着替えてるとこ見てていい?」
「さっさと出てけ!」

 いつものように自由奔放な雪姫を押し出して、雷切は手早く着替えを済ませる。
 黄緑色のコートを羽織り、最後に使いもしないメガストーンと繋げたチェーンを提げて、準備は整った。

「……さて、行くか」







「あ、らいきりさんっ! おはようございます!」
「……遅い……」
「おう、ちーちゃん、トンベリ。昨日は悪かったな」

 寝癖なのかただのくせ毛なのか判別のつかない無造作に跳ねた髪を掻きながら居間に現れる雷切を迎えたのは、幼い少年少女。
 黒っぽいこげ茶色の髪をポニーテールにした、活発で元気そうな少女。
 それとは対照的に、室内にもかかわらずパーカーのフードを目深にかぶり、目元も前髪で隠れがちな根暗そうな少年。
 ちーちゃんとトンベリ。どちらも、バトル・オブ・ホウエンで共に戦った仲間で、幼く低種族値ながらも、それぞれ攻撃、防御においてこのパーティーの要となるメンバーだ。

「……つーかお前ら、なんで休みの日に制服着てるんだ?」
「え? いやー……なんだか、この服じゃないといけないような気がして……」
「……なんとなく……それに、全員、いつも同じ服……」

 確かにその通りである。
 ふと思ったことを口にしただけなのでそれ以上深く突っ込むつもりはなかったのだが、しかしこういうことを耳聡く追及してくる輩が、我がパーティーに入るのだ。

「ポケ擬は衣装も含めて擬人化なんだから、服装変えちゃったら色々不都合なんだよ。それに、こういう作品でそーゆーこと言うのは無粋! いーじゃん、萌えるじゃん、セーラー服! 学ラン! ロリショタの基本ステータスの一つだよ!」
「なに言ってんだお前……」

 いつものことだが、雷切はたまに彼女の言っていることが理解できない。
 理解したいとも思わないが。

「ユキは相変わらず飛ばしてるわねぇ」
「面白い人ですからねぇ、雪姫さんは」
「お前らも来てたか、ココロ、ラグナ」
「えぇ、あなたが最後よ」
「そうか、悪い」

 仮にもこの家に住んでいる者が最後に出て来るというのも締まらない話だが、誰も気にするまい。
 そもそも、こういう時のために皆には合鍵を渡しているのだ。
 雷切は首や背骨を軽くコキコキと鳴らすと、思考を切り替える。

「……さて、面子は揃ってるわけだし、早速やるか」
「そうね。あたしたちはともかく、ちーちゃんたちは早く戦いたいでしょう」
「はいっ! もう早く対戦したくてうずうずしてるんです! ね、トンベリくん!」
「え……いや、オレは……別に……どうせ出ずっぱりで、疲れるし……」
「HAHAHA! 了解ですよぉ!」
「雪姫ちゃんたちの活躍はこの後すぐ! チャンネルはそのまま!」

 今日も今日とて、彼らの本業を為していこう。
 それ即ち——ポケモンバトル。
 バトルスポット、ランダムフリーの海へ、いざ行かん——