二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茶番3 ( No.22 )
日時: 2015/03/18 23:29
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「——で、なんの用だよ、グレン」

 一悶着あったが、なんとか雷切も収まり、グレンと向かい合って話し合うまでに至った。
 ……とはいえ、低い横長のテーブルを一つ隔て、雷切はそのテーブルに組んだ足を乗せているという、およそ話し合う気のないような状態だが。
 一方グレンは、矯正器具でも背中に差しているのではないかと思うほどに背筋を伸ばした姿勢だ。

「……ねぇ、ラグ」
「なんでしょう?」

 雷切とグレン以外の者はテーブルを囲うようにして立っているのだが、ココロは横にいるラグナロクに尋ねた。

「あの二人、なんであんなにも険悪なのかしら?」

 昔からの知り合いのようだが、しかし出会って早々、あの火力の足りない雷切が突っ込んでいったのだ。スペックはアレでも自分の性能をきっちり理解している雷切らしからぬ蛮行には驚きを禁じ得ない。
 逆に言えば、そうするだけの恨みつらみが、雷切はグレンにはあるのかもしれない。そう考えても不思議はないだろう。
 だが、

「とんでもない……雷切さんもグレンさんも、お二人とも仲は凄く良いですよぉ」
「はぁ……? いや、それはないでしょう、さっきと、今の様子を見たら……」
「これでも御三家の好、昔からずっと一緒にいた旧友ですからねぇ。僕からしてみれば、喧嘩するほど仲が良い、というやつですよぉ」
「ふぅん……」

 確かに、恨みがあるのなら、こうして話し合いの席には着かないか、といまだ釈然としないながらもココロは納得することにした。

「単純に雷切さんが、バシャーモという種族が嫌いなだけですからねぇ……まぁ、その原因となったのがグレンさんですけども」
「鶏が先か、卵が先か、ってことかしら」
「種族が根源的なもの、卵とするなら、この場合は鶏が先でしょうかぁ。雷切さん、今まで一度も殴り合いでグレンさんに勝ったことがないので、そのあたりが絡んでいるんだと思いますよぉ」
「むしろジュカインが殴り合いで勝てる種族ってなんなのかしらね」

 そもそも殴り合う種族値をしていないので、考えるだけ無駄ではあるのだが。
 しかしチョッキジュカインなど、案外面白いかもしれない。
 などと外野のことはそろそろ置いておき、本題である。

「今回は、貴様に仕事の話を持ってきた」
「はんっ、仕事ねぇ……俺みてーなのに、そんな重要なことを任せちまっていいのか?」
「無論、すべて一任するつもりはない。あくまで手伝いだ」
「それでも、俺なんかにそんな話を持ちかけるのか?」
「貴様とは付き合いも長い、信用もしている……それに、貴様の、いやさ貴様たちの置かれている状況も、私は知っている」

 グレンの言葉に、雷切はぴくりと眉を動かす。
 今の自分たちの置かれている状況。それは、つまり、

「金が必要、なのだろう?」
「…………」
「当然、貴様らの債務がすべて消えるほど良い仕事ではないがな。しかし足しにはなるだろう」
「……その話、どこで聞いたんだ?」
「ボックスに一度戻った時に、な。そうでなくとも、ボックス内——いや、主のポケモンの界隈では、今や貴様らの話題で持ちきりだ」
「一応、聞いておくぜ。どういう話題だ」
「無論、バトル・オブ・ホウエンだ」

 バトル・オブ・ホウエン。
 第六世代で行われた過去最大級の規模のインターネット大会で、いわばホウエン地方のポケモン限定戦。
 雷切たち六人は、かつてそれに出場した。その記憶はまだ新しい。
 しかし、いや、だからこそ、か。

「……冷やかしに来たのか」

 雷切は目を細め、声のトーンを落とす。

「大口叩いてボックスを飛び出した野郎が、生意気にも大規模な大会に出て——その結果を笑いに来たのかよ」

 そんな雷切の言葉で、グレン以外のメンバーの表情が、少しだけ沈む。
 それもそのはず。大会終了直後から察していたが、雷切たちの大会結果は、お世辞にも良いものではなかった。

「レートは1500半ばと中途半端、ランクインするどころか順位は五桁、大口叩いた奴がざまーねー結果だぜ。いい笑いもんだな」
「あまり自分を卑下するな。私は貴様を貶めるつもりはない。どころか、私は貴様を買っているくらいだ」
「あん?」

 言って、グレンは周囲のメンバーたちに、順番に目を向ける。

「ジュカイン、サーナイト、クチート、ヤミラミ、ラグラージ、ユキメノコ……成程、確かにバランスの悪い面子だ。よくこれでレート1500を切らなかったものだ」
「単体スペックは優秀な奴ばかりだからな。よほど立ち回りをミスらなきゃ当然だ」
「しかし炎が重いな。私一人で、ラグナロク以外は殲滅可能だ」
「……んだよ、自分を売りに来たか? 確かに俺の代わりにお前が入るだけで、火力も速度も上がり、勝率は伸びるだろうなぁ」
「だが、そんな炎が重いパーティーでも、戦い抜いたのは貴様の功績ではないのか?」

 自虐する雷切に、グレンは問う。そして問いながら、他のメンバーに再び目を向けた。
 それだけで、十分だった。

「もう一度言うが、私は貴様を買っているのだ。ジュカインなどという種族は、時代の波に浚われたのではないかというほどに環境では動きづらい種族だが、しかしその中でも——雷切、貴様の“対戦外”での能力は、評価に値する」
「……戦うためにいるポケモンが、対戦以外の能力を評価されても嬉しくねーっての」
「だろうな。貴様は昔からそう言っていた。だが」

 逆接して、グレンは続けた。

「主のポケモンたちもまた、バトル・オブ・ホウエンに出場した貴様たちを評価している。雷切、貴様自身がそうであったように、ボックスには育成済みにも関わらず、レート、フリー、フレンド、どの対戦でもほとんど選定、選出されないポケモンがいる」
「そうだろうな……それがなんだよ」
「貴様たちのバトル・オブ・ホウエン出場は、そういったポケモンたちに影響を与えているのだ。特に、ホウエン出身のポケモンには、一際強い影響をな……貴様らの影響によって、ボックスからこの街に来たり、また新たに主のポケモンとなったホウエンの者がいると聞き及ぶ」

 この話には、流石の雷切も目を見開く。まさかあの大会出場が、他のポケモンにそこまで強い影響を与えているとは思いもしなかった。
 そして、グレンは調子を崩さず、さらに続ける。

「貴様が思うほど、周りは貴様を過小評価していない。むしろ、貴様は、貴様たちはいまや、主のポケモンの中では希望の星そのものだ」

 マイナーでも、不遇でも、環境に置いて行かれても、出番がなくても。
 努力次第で、意識次第で、活躍することもできる。
 雷切の行動は、ボックスのポケモン、ホウエン出身のポケモンたちに、そのことを教えていたのだ。

「……少し褒めすぎたか。一応言っておくが、周囲の反応には私も賛成だ。しかし雷切、貴様対戦におけるスペックが低いことは抗いようもない事実だ」
「うっせぇ、んなこた俺が一番分かってんだよ。わざわざ言うな、そのままいい話で纏めとけよ」

 と、口では言うものの。
 毒気を抜かれたように、雷切はテーブルに乗せていた足を降ろした。

「仕事の話、だったか……とりあえず聞いてやる。言え」
「これでも善意で持ちかけているのだが、まあいい。私の仕事については知っているか?」
「無職だろ」
「確かに履歴書に記載する上ではフリーターと変わらんな」

 しかし、それでもあえて言うならば、

「簡単に言うと、荒事の類だな。要人護衛や凶暴化したポケモンの討伐、裏社会における抗争の鎮圧などだ」
「要は殴り合いだな。筋肉で物事を済ませる脳筋野郎っぷりは相変わらずか」
「先ほどの第二ラウンドを今から始めてもいいのだぞ?」

 グレンが拳を固め始めるものの、すぐに身を退いて話を戻す。

「今回はそういった仕事の手伝いを頼もうと思ってな。ここから少し離れた辺境の地に、龍型のポケモンが凶暴化しているらしい。私はその討伐の任を任されたのだが」
「数が多かったのか?」
「そんなところだ」

 いつもなら単身で強行突破するところだが、そのリスクを負うくらいならば、誰かの手を借りた方が効率的だ。
 そしてその考えは合理的でもある。

「無論、報酬は山分けだ。悪い話ではないと思うが」
「そうだなぁ……」

 雷切は少し思案しつつ、ちーちゃんとトンベリを一瞥する。

「……危険な仕事なのか?」
「それなりには、とだけ言っておこう。貴様の身体能力があれば、さほど問題ではないだろうが」
「だが、お前が負傷する可能性を感じるほどではあるんだよな」
「遺憾ながらな。そもそも私の仕事はすべて負傷にリスクを伴う荒事ばかりだが」
「ふむ……分かった、いいぜ。その仕事、引き受けてやる」

 再び少しばかり思案して、雷切はOKを出した。
 だが、同時に条件も指定した。

「引き受けてやる——が、俺たちのパーティーから全員は出さねぇ」
「……というと、なんだ」
「荒事なら、ガキ共は置いてくぜ」

 そう言って雷切が目を向けたのは、先ほど一瞥したちーちゃんとトンベリだった。
 まだ幼いこの二人を今回の仕事に連れて行くのはリスクがあると思われる。ゆえに、この二人は置いて行こうというのだ。

「ドラゴン相手なら、ちーちゃんはかなり有利だが、流石に危険だしな」
「ふむ、妥当な判断だ」
「え、でも、らいきりさん……っ」
「……ちーちゃん、これは、流石に……雷切の、言うとおり……」
「トンベリくん……」

 通常の対戦だったらまた話は違うが、今回は事情が事情なだけに、幼い二人は連れていけない。
 このことについては、他のメンバーも同意を示した。

「……決まりだな。詳細は後日連絡する。出発は三日後だ」

 最後にグレンがそう纏め、この日は解散となった。