二次創作小説(映像)※倉庫ログ

対戦後の茶番 ( No.28 )
日時: 2015/03/21 19:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

 後日。
 報酬の分配について、グレンは再び雷切の邸宅を訪れていた。
 そして、

「はぁ!? ざけんな! なんでお前の方が取り分が多いんだよ!」
「結局、貴様たちは一体も撃破していないではないか! 当然だ、分け前があるだけでも感謝されるべきだ!」
「指示出してたのは俺じゃねーか! お前単独で戦っても勝ち目がなかったのは明白! 百歩譲っても平等に分配だろ!」
「百歩譲って平等は強欲すぎるだろう! この手の依頼は撃破数が報酬の量と等号で結ばれるものだ! 貴様にはそれが理解できんか!」
「はっ、知らねーなぁ! お前こそ、対戦じゃ前座の働きが重要なことを知らねーんじゃねーの? お前一人でカイリュー突破できたのかよ、あぁ!?」
「あれはラグナロクの働きだろう! 貴様が尊大になる理由にはならん!」
「知ったことか! ラグナの働きは俺の働きだ! イコール! 俺の取り分もそれだけ増えるってことだろ!」
「なんと自己中心的な……! 貴様の腐敗した性根、私が叩き直してくれる!」
「なんだと、やるってか……! 上等だ! かかってきやがれ!」
「ふんっ、威勢だけはいいな。一撃で戦闘不能になってくれるなよ!」

 その分配について口論となり、最後には取っ組み合いの喧嘩となった。

「……またやってますねぇ」
「はわわ、と、止めなくていいんですか……?」
「問題ありませんよぉ。いつものことですからぁ」
「そう言えば、前も出会って早々ライが殴りかかってたわね。昔からこうなの?」
「大体、目を合わせるたびに口喧嘩くらいにはなりますかねぇ。学校を卒業した頃には、それなりに分別もついていたんですが……まぁ、久しぶりですし、少し盛り上がってるだけですよぉ」
「……ラグナロクが……大人、に見える……不思議……キモイ……」
「HAHAHA! 僕もう立派な大人ですよぉ!」
「キモイって言われたのは気にしないのね」

 外野が二人の戦闘模様を観戦しつつ雑談に興じている。ココロ辺りは止めようか決めあぐねているが、ラグナロクは止めるほどのことでもないと言う。

「お二人とも、嫌い合ってはいますが、お互いの力を認め合ってもいますからねぇ。心の底から嫌ってはいないのですよぉ」 
「嫌よ嫌よも好きのうち、みたいな?」
「どちらかというと、喧嘩するほど仲が良い、ですかねぇ。HAHAHA!」
「あたしには都合の良い時に利用し合っているように見えるのだけどね……」

 と、その時。
 バキィッ! と一際強い音が響いた。見れば、雷切が吹っ飛ばされて壁に叩きつけられているのが見える。

「かふっ……!」
「こうして殴り合うたびに言っているが、貴様では私には勝てん。諦めろ」
「あぁ? うるせーよ。こちとら借金返済がかかってんだ。おら、とっとと金出せや」
「言ってることが小物すぎるわ……理由も理由だし」
「……それに、そんな、ボロ雑巾、みたいな姿……恰好、つかない……」

 雷切の、金への執着が凄まじい。
 いや、金というより、借金返済という“目的”への執念、とでも言うべきか。

「……幾度も思ったことだが、やはり貴様は、相変わらずか」
「それはお前もだろ、グレン……クールぶっててやっぱ脳筋じゃねーか」
「黙せ」
「そんなんだから男の一人もできねーんだってな、筋肉女」
「女ったらしの貴様には言われたくない!」



【グレンの炎のパンチ! 効果は抜群だ!】



 グレンの熱い右ストレートが雷切の顔面に炸裂。
 もう戦闘不能になってもいいくらいにボロボロにされた雷切であったが、外野の気にするところはそこではなかった。

「……ん? ちょっと待って」
「どうしましたかぁ、ココロさん」
「ライ、今なんて言った?」
「あ……? 男も近寄らない筋肉女がどうかし——」
「ふんっ!」



【グレンのブレイズキック! 効果は抜群だ!】



 雷切の言葉は最後まで紡がれることはなかったが、しかしココロの知りたかった情報は得られたと言える。


「……もしかして」
「グレンさんって、女の人、だったんですか……!?」
「HAHAHA! なにをいまさら! グレンさんは女の子ですよぉ」
「いやいやラグナ、この筋肉野郎を女の子というのは流石に無理が——」
「はぁっ!」



【グレンのフレアドライブ! 効果は抜群だ!】



 グレンの全体重を乗せた一撃が雷切に襲い掛かり、そろそろ雷切の生命活動が危うくなってくる。
 その命と引き換えに、ココロたちはグレンの性別を知ったのだが、


「ちょいと確認させていただきますねー」
「っ、な、なんだ……!」

 雷切をボコボコにしていたグレンに、スゥッと雪姫が近づき、真っ白なその両手をグレンの胸にあてがった。
 そして、少し妙な手つきで動かしてから、

「これは……バストじゃない、チェストだ!」



【グレンのブレイズキック!】

【しかし雪姫には当たらなかった!】



「おぉっと危ないなぁ。にしても、凄い胸だった……!」
「余計な世話だ!」
「いやいや、本当に凄いよ。無駄な脂肪が一切なくて、全部筋肉だったもん、ボディビルダーみたいに。すっごいムキムキだった」
「なんでまたそんなことに……」
「仕事柄、荒事が多いからな。鍛えているだけだ」
「その結果、データスキャナーではオスとして認識されるようになって、データ上はオス扱いになったんだよな。ざまーねーぜ」
「ここのシステムがすべて悪いのだ……これはジェンダーとして由々しき問題ではないのか!」
「そりゃお前が脳筋な男女なのが一番の問題——」



【グレンの馬鹿力!】

【雷切は倒れた!】



 最後にグレンの渾身の一撃を見舞われて、遂に雷切は立てなくなった。
 意識もろとも吹っ飛びかけ、視界が霞む中、雷切は掠れた声を振り絞り、

「やっぱ……脳筋、じゃねーか……がふっ」
「今日は帰らせてもらう。この話はまた後日だ。それまでに、多少は鍛えておくんだな」

 踵を返し、玄関へと向かうグレン。
 その途中で、ラグナロクが彼——じゃない。彼女を呼びとめた。

「グレンさん」
「どうした、ラグナロク」
「申し訳ないのですが、雷切さんの要求は飲めないでしょうかぁ……」
「…………」
「お願いします、僕らの仲ですし、どうかここは一つ……」

 頭を下げて懇願するラグナロク。グレンは少し思案するようにジッと彼を見つめ、そして、

「仕方あるまいな」
「! ということは!」
「貴様はカイリューのマルチスケイルを潰す仕事をした。あれがなければ、急所に当てていても突破できなかった弥もしれん。それに他ならぬラグナロクの頼みだ」
「お、おぉ! ありがとうございます! グレンさん!」

 結果、報酬の配分は平等に山分けということになった。
 その後、グレンとラグナロクの間で二、三やり取りがあり、グレンはそのまま帰ってしまった。

「……さっきまでの殴り合いはなんだったのかしら」
「殴り合い、というか……雷切が、一方的に、殴られてた……だけ……」
「雷切君は身体張ったのに、ラグナ君が頭下げるだけでこうなっちゃうとは」
「まあ、身体を張ったというか、自分からやられに行ったようなものだったけど」

 いつもの雷切らしくないようではあったが、もしかしたら、あれが本来の雷切なのかもしれない。
 そんなことを思いつつ、ラグナロクは雷切へとその報告をする。

「HAHAHA! 雷切さん、やりましたよぉ! グレンさんは話が分かってくる人です。報酬は半分ずつ山分けになりましたよぉ!」
「そ、そうか……よくやった、ラグナ……」
「今日は随分とやられましたねぇ」
「はっ、あいつの攻撃なんざ、屁でもねぇ……」
「HAHAHA、そうですねぇ。雷切さんは何度グレンさんに殴られても、復活しますものねぇ」

 と、ラグナロクが雷切に肩を貸しながら部屋へと運んでいく。
 家主がいなくなり、残った四人は本格的に手持無沙汰になってしまった。

「……らいきりさん、だいじょうぶでしょうか……」
「さぁ。でもラグ曰く、また復活するらしいし、明日また覗いてみましょうか」
「雷切君があれじゃ、もうやることもないしねー」

 なので、本日はこれで解散となったのであった。