二次創作小説(映像)※倉庫ログ

対戦後の茶番 ( No.37 )
日時: 2015/03/25 19:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「さ、勝負は俺たちの勝ちだ。もう突っかかってくんなよ」
「くそ……!」

 対戦が終わり、少年は悔しそうに地面に拳を打ちつける。他の仲間たちも、一様に沈んだ表情で俯いていた。中には泣き出す者までいる。

「……流石に……後味……悪い……」
「ネタとしてはこういうゲスいヒール役も面白いからありだけど、やっぱリアルで考えたらちょっとねー……」
「知ったことか。俺らには俺らのすべきことがあって、こいつらのために妥協してやる義理なんてねーんだよ。ほら、さっさと行くぞ。ラグナ」
「は、はぁ……」

 子供から無理やり玩具を取り上げて泣けしてしまったような罰の悪さを感じるも、雷切だけはそんなことお構いなしだ。
 それにこれは、お互いが約束として取り決めた勝負の結果。ラグナロクは渋々ながらも雷切に従い、スパコンピを運ぼうとするが、

「131012718」
「え、な、なんですかぁ……?」

 ラグナロクに持ち上げられる前に、スパコンピは自分から動き、子供たちの前まで移動した。

「58416178181641621020519」
「な、なに……? なんていってるの……?」
「俺が知るかよ」

 スパコンピは機械的な音を発しているが、独自のプログラミング言語を無理やり音声化したようなただの電子音では、なにを伝えたいのか分かろうはずもない。
 だが、スパコンピはなにかを伝えようとしている。それだけは確かだった。

「……ちょっと、どいてくれるかしら」
「ココロ……?」

 と、その時。ココロが前に進み出る。
 そして、スパコンピの額(らしき部位)に、手を置いた。

「ライ、確認だけど、この子には意志があるのよね」
「あ、あぁ。実際はただのプログラムだが、性能としては通常の生物となんら変わりない思考を持ってる」
「そう、それなら」

 ココロはスパコンピに手を置いたまま、スッと目を閉じる。
 ややあって、彼女はゆっくりと眼を開き、手を放した。

「……成程ね」
「なんだ、どうしたんだ、ココロ?」
「この子、もあの子たち——スーパー秘密団? との別れを惜しんでいるわ」
「っ! ほ、ホント!?」
「えぇ。でも、勝負の約束は守らなくちゃいけないって」
「あ……うぅ……」

 一瞬、目が輝いた少年たちだが、すぐにその勢いは削がれた。
 だがそれ以上に、奇妙なことがある。

「……なんで……そんなこと、分かるんだ……?」
「そうですよぉ。スパコンピさんの言葉は、よほどコンピューターに精通した人か、同族でないと分からないはずですよぉ」

 ココロがスパコンピの伝えたいことを理解したこと。
 それが謎だった。今まで、彼女もスパコンピの言語は理解できていなかったはずだ。

「タネは簡単よ。あたしだって、この子の独自言語なんて分からないわ。でも、“思念”は読み取ることができる」
「思念……?」
「そう、言い換えれば思考とか、思いとか……要するに一種のサイコメトラーよ。エスパータイプなら、できるポケモンは多いわ」

 特にココロの種族は、人の心に機敏なサーナイト。
 直接触れたものの強い意志を理解することなど、造作もない。

「つまり、その力でスパコンピの思念そのものを読み取ったのか」
「えぇ。それでこの子は、あなたたちにお礼を言ってる」

 そう言って、ココロは少年たち、スーパー秘密団へと向き直る。

「ここに捨てられて、なにもすることがなかった自分と遊んでくれてありがとうって。凄く楽しかったって」
「こいつ、そんなことを……」
「でも、約束は守らなくちゃいけない。残念だけど、ここでお別れだって」
「う……く……っ」
「……まあでも、この子は思念を飛ばして意志のやり取りができるみたいだし、メールみたいなことは、いつでもできるらしいわよ」

 思念ネットワーク。スパコンピの基本的な機能の一つで、思念を媒介としてインターネットに接続したり、他の機器にアクセスすることができる。
 それがあれば、スパコンピの意志一つで、彼らとのやり取りは可能だ。

「だから完全にお別れじゃないわ。あたしたちはこの街にいるし、また会えるわよ」
「おねーさん……ありがとう……!」

 今まで堪えていたようだが、遂に少年の涙腺が限界を迎えたようだ。瞳から、雫が一滴、、また一滴と零れ落ちる。

「……一応、円満……に、解決……か……?」
「HAHAHA、ココロさんのお陰ですねぇ」
「ココロちゃん、今まで軽く空気だったのに、お姉さんキャラを発揮し始めた……? 雪姫ちゃんのライバル登場……?」
「…………」

 その後、少年たちが泣き止んだ頃に、雷切たちはスパコンピを抱え、別れとなった。
 だが今生の別れではない。またいつか、会えるときは来るだろう。
 そして、その道中。

「なぁ、ココロ」
「なにかしら」
「スパコンピは、他になんつってた?」

 事もなげに、雷切は尋ねる。
 ココロはその質問に、溜息をついた。

「はぁ……お見通しなのね」
「こいつとも長い付き合いだ。なんとなくはな」
「……あの子、従順なのね。それに義理堅い。とてもコンピューターだとは思えないわ」

 だが、残酷なくらいにコンピューターでもあった。

「あたしたちと一緒に行くべきか、あの子たちと共にあるべきかを計算した結果、大差をつけてあたしたちに付いた方が得だって言ってたわ」
「そうか。だろうな」
「流石にこんな残酷なことは言えないから、あの子たちの前では黙ってたけど……コンピューターだからかしら、こう計算づくなのは」
「無理もねーよ。こいつの機能は戦闘を継続していく中で維持されるものだ。あのガキどもと遊んでるだけじゃ、維持されない。実際、こいつの機能は俺が最後に見た時よりも随分劣化している。こいつだって、ほとんど生き物と変わらねーんだ」

 もしもスパコンピの機能がすべて止まってしまえば、それは生物で言う『死』と同じ。
 だから生き続けるために、より機能を使いこなせる雷切たちに付いて行くという選択は、スパコンピなりの生きる道だったのかもしれなかった。

「……ま、大丈夫だろ。こいつもあいつらと文通するんだろ」
「文通っていうか……メールのやり取りみたいなことはするつもりっぽいわね」
「ならそれでいーじゃねーか。俺たちは俺たちで、こいつを上手く使ってやってよ。悩むことなんてねーし、あのガキ共がそれを知らないなら、それでいい」

 なにも問題はない、と雷切は結論付ける。

「……そうね」

 そしてココロも、言葉短く、それに同意した。



 そして翌日から、今までパソコンが置いてあった位置には、スパコンピが設置されることとなった。