二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 「確率世界」「と呼びたくなるほど理不尽です」 ( No.4 )
- 日時: 2015/03/01 20:35
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
薄暗くも怪しげな賑わいを感じさせる広い室内。多くの人間が行き交い、ある者は狂喜し、ある者は絶望するこの場所。
いわゆるカジノ。賭博場だ。
その一角で、二人の男が向かい合っていた。
片や、黒いスーツを着込んだ男。指には見せつけるように宝石の指輪などを嵌め、後ろにも従者らしき者を何人も従えている。
片や、若い風貌の男。金銀赤などの派手な色で染め上げられたこの場所では逆に浮いてしまいそうな黄緑色のコートに、無造作に跳ねた緑色の髪。
彼らは互いに向き合って、スーツの男はトランプのデッキを携えていた。
「勝負はジョーカー抜きのポーカー一回、手札の入れ替えも一回だ」
「あぁ」
スーツの男が念を押すように言うと、若い男は短く返答する。
その言葉にしっかりと頷くスーツの男。そして今度は、
「で、賭け金は……分かっているな?」
「俺の手持ち財産全てと、ここで稼いだ財産だろ。分かってる」
「そうか、それならいいが——」
「それよりも」
若い男はスーツの男の言葉を遮って、切り返すように言う。
「あんたこそ忘れるなよ、自分の賭けたもの」
「あぁ、勿論だ」
「なら言ってみ」
「……俺たちのここで稼いだ財産全て」
「分かってるならいい。さっさと始めようぜ」
そんな若い男の言葉を聞いて、スーツの男は、手に持ったデッキを非常に慣れた手つきでシャッフルする。
その動きは流れるように流暢で——自然すぎて、不自然に見えるほどだった。
(馬鹿め、ちょっと運が向いて稼いだからといって、コロッと勝負に乗りおって。てめぇのような若造が、俺に勝てるわけがねぇってのによ)
シャッフルを終えると、また手早く手札を配っていく。その動きも非常に素早くテキパキしているが、やはり不自然だった。
そして配り終わった男の手札は、クローバーの4が二枚、ダイヤの5が二枚、ハートの11が一枚。ツーペアの形。初手からなかなかの手ができている。
さらにスーツの男は、ハートの11を一枚抜き取ると、裏向きのまま場へ捨て、テーブルの上に置かれたデッキへと手を伸ばし、カードを一枚手札に加えた。
デッキから——ではない。
袖口に隠していた、一枚のカードからだ。
「…………」
ぼんやりを手札と相手をながめていた若い男は、その時に少しだけ目を細める。
が、すぐに目を瞑って溜息を吐くと、手札を裏向きのまま、すべて場に置いた。
「おっと、なんだついてねぇな、最初からブタだったか。かわいそうだからもう一回入れ替えさせてやってもいいぜ?」
「いや、遠慮しとく。それよりあんたはいいのか、勝負で」
「俺は構わねぇぜ」
にやりと口角を上げるスーツの男。
手札の入れ替えは終わり、勝負の時間だ。
お互いに手札を公開する。
スーツの男の手札は最初のツーペア——ではなく、クローバーの4が三枚、ダイヤの5が二枚となっている。つまり、
「悪いな小僧! フルハウスだ!」
一般的なポーカーの役では、四番目に強いフルハウス。
手札を総入れ替えした雷切では、奇跡にも匹敵する豪運がなければ勝つことが困難な手。
しかし、
「……あぁ、確かに悪いな」
若い男は一切表情を変えずに、自分の手札を無造作に投げつけるように、表向きで場に置いた。
「こんな手ぇ出しちまって」
ただしその札は、スペードの10、11、12、13、Aと、綺麗に並んだ姿であったが。
「んな……っ!?」
その手を見た途端に、スーツの男の顔色が一変する。
もはや、なにが起こったのか分からないというように、テーブルに手をつき、至近距離でその手役を凝視していた。
「ロ、ロ、ロロロ、ロイヤル……ス、スト、レート……フラ——」
驚きのあまり、まともに言葉が言えていない。だが震えながらも、なんとか声を絞り出した。
「ロイヤルストレートフラッシュだとぉ!?」
ポーカーのルールを知らなくても、それが意味するところは概ね察せられるだろう最大の強さを誇る役。その手ができあがるのは、天目学的確率。
どうあがいても、フルハウスでは勝ちようがない役だった。
「う、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だっ!」
「よく見ろよ、事実だ」
「ありえねぇ! 六十五万分の一の確率だぞ!」
「その六十五万分の一が今だったんだろ」
「だ、だが……!」
淡々と事もなげに言い捨てる。スーツの男はそれでも食い下がるが、しかしなかなか次の言葉が出て来ない。
そんな時、ハッと何かに気付いたように、
「さてはてめぇ……イカサマしやがったな!」
「俺がイカサマしたっつー証拠は? あんたは俺のイカサマを証明できるのか?」
「ぐ……」
一瞬で言い返せなくなるスーツの男。
いくらイカサマだと言い張っても、それを証明できなければ意味がない。
「それに、一方的にゲームを決めて勝負を仕掛けて来たのはあんただ。そのカードを用意したのも、カードをシャッフルしたのも、カードを配ったのも、全部あんただろ」
「ぐぬぬ……」
「んじゃ、出すもん出してもらおうか」
若い男が手を差し出すと、スーツの男は震えた手で数字の羅列が書かれた紙を手渡す。
「俺たちの稼ぎは、全部そこに入ってる……」
「あいよ」
適当に返事すると、若い男は立ち上がりカウンターの方へと歩いて行く。そして、先ほど手渡された紙を置いた。
「この中のモン全部、俺の口座に振り込んどいてくれ」
そう言うと、カウンターに立っていた従業員は無言で頷いた。先ほどの勝負の一部始終も見ていたはずなので、なにも言わない。
そして男は、今度は出口へと向かって行き、煩雑なこの場所から立ち去って行く。
その後ろ姿を、スーツの男たちは悔しそうに眺めていた。
「くっ……何者なんだ、あいつ……!」