二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茶番2 ( No.40 )
日時: 2015/03/28 06:54
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「こいつはミスティ。俺の学生時代の後輩だ」

 家に戻り、一同は低いテーブルを囲むソファに腰掛ける。
 そして雷切に突如飛びついてきた少女——ミスティは、そう紹介された。
 なお当のミスティは、いまだ雷切の腕を抱き寄せてゼロ距離で引っ付いている。
 そんな光景に眉根を寄せ、なにか言いたくなる衝動もグッと堪えて、ココロは口を開く。

「ライの後輩、ねぇ。それにしては随分と若いように見えるけど……」

 はっきり言って童顔だ。
 セミショートの白い髪に、右側を結ったサイドテールは尻尾の部分だけが黒く染まっている。
 さらに格好も、白のプリーツスカートに白のブラウス、その上から黒のベスト。黒いオーバーニーソックスと、モノクロカラーのネクタイ。どことなく学生のような出で立ちに見えるため、尚更幼く見える。

「こんなナリでも、俺と一つしか違わねーんだがな。ファッションはたぶん趣味だ」
「へー、お洒落さんだね。このセンスは私とお友達になれそう」
「あたしは自分に合ってると思う服を選んでるだけよ。仕事柄、そういうことは気を遣うし」
「仕事? なんの仕事をしているのかしら?」
「これよ」

 そう言ってミスティは、片腕だけ雷切から離す。そしてポケットから携帯端末を取り出し、手早く操作して一つの画面を表示させ、テーブルの上に置いた。

「これは……読者モデルかしら。ファッション誌とかの」
「へぇ、モデルさんだったの」
「そうよ。高校生くらいの層を狙ったモデルなの」
「その歳でかよ。つーか、どうせバイトだろ」
「あぅ、そうです……」
「いい加減に定職に付けよな。お前はいっつも俺に引っ付いててなかなか自立しねーから、こっちから離れたってのに……あぁ、そうだ」

 そこで雷切は、なにかを思い出したように、ミスティに尋ねる。

「お前、なんで俺の家が分かったんだ? お前には知られねーようにしてたはずなんだが」
「あ、それはグレン先輩に聞いたんです。この前、読モじゃない方のバイト先でたまたま会って、ちょっと話したんですけど、その時に」
「あんの野郎、余計なこと言いやがって……!」
「それよりも!」

 と、ミスティは雷切の腕をグッと引いて、彼を見上げる。
 その瞳は、まるでヒーローを見る子供のようにキラキラと輝いていた。

「聞きましたよ先輩! バトル・オブ・ホウエンに出たって! 優勝おめでとうございます!」
「出たのは本当だが優勝なんてしてねーよ。てめーの頭の中で記憶を改竄してんじゃねぇ」
「なんであたしも呼んでくれなかったんですか? 聞けば、メンバーを集めるのに苦労したとか……あたしに言ってくれれば、すべてをかなぐり捨てて先輩の元へと駆けつけましたよ!」
「お前を呼ぶと、せっかく独り立ちさせた意味がなくなりそうだからな……それに、こっちにも色々事情があるんだよ」
「?」

 はぁ、と溜息をつく雷切。
 そこで一旦、会話に区切りがつく。それと同時に、ココロが思い出したように言った。

「……そういえば、今日はまだちーちゃんとトンベリが来ないわね」
「そだねー、そろそろ来るとは思うけど。ちーちゃんなんかは、新しい子が来て喜びそうだなー」
「っ……! そうだ、あいつら——」

 ハッとなり、急に焦りを見せる雷切。急にどうしたものかと、ココロはその様子を不審に思う。
 と、その時。

「こんにちはー」
「…………」

 ガチャリ、と玄関の扉が開き、二人分の足音が聞こえてくる。
 こんな辺鄙な家にやってくる者なんてそうはいない。間違いなく、彼女たちだ。

「やべ、もう来ちまった……!」
「? ライ、どうしたの? ちーちゃんたちが来たいみたいよ」
「それがまずいんだが……」

 なにやら慌てた様子の雷切。
 そして、二度目の扉が開く音。今度はリビングの扉が開かれ、二人の少年少女が入ってくる。

「らいきりさーん、今日も来ました!」
「ん……来客……? 珍しい……」

 現れたのは、当然ながらちーちゃんとトンベリの二人。
 二人は、この家には珍しい来訪者のミスティに、真っ先に目が行っていた。

「お客さんですかぁ」
「えぇ、ライの学生時代の後輩らしいわ」
「はじめまして! わたし、みんなからちーちゃんって呼ばれてます。種族はクチートで……」
「クチート?」

 早速自己紹介を始めるちーちゃんだったが、彼女の種族名を聞いた途端、ミスティが態度を一変させた。

「あんたみたいな種族が何の用? あたしと先輩の至福のひと時を邪魔しないで貰えるかしら、目障りよ」
「え、あの……」

 キッと目つきを鋭くし、八重歯をまるで牙の如く剥き出しにして、威嚇するようにちーちゃんを睨みつけるミスティ。
 あまりに露骨に敵意を丸出しにしており、ちーちゃんも怯えたように困惑していた。ココロや雪姫も同じだ。
 そんなミスティの態度に泣きそうな表情すら見せるちーちゃんだが、彼女を庇うように、トンベリがスッと前に進み出た。
 そして、同じように無言でミスティを睨む。

「…………」
「なによあんた、やる気? あたしは子供が相手でも、手加減なんてしてあげないわよ」

 言うや否や、ミスティの髪の黒い尻尾が、まるで角のように逆立ち、固まっていく。それはポケモンとしての性質が現れている証拠だった。

「やめろミスティ」
「ひゃんっ」

 と、流石に見かねた雷切が、その逆立ち硬化した尻尾を無造作に掴む。すると力が抜けたように、それが硬度を失ってただの髪の毛に戻った。
 さらに雷切は、トンベリたちに向き直り、

「トンベリ、今日はもう面子は足りてるんだ。悪いが、今回ばかりはちーちゃんとどっか行って来てくれねーか?」
「……分かった……行こう、ちーちゃん……」
「え、でも、トンベリくん……っ」

 雷切の意図を汲み取ったのか、単純にミスティが気に入らなかったか、それともその両方か。
 なんにせよ、トンベリはちーちゃんの腕を掴むと、そのまま速足で家から出て行ってしまった。

「なんなの、一体……?」
「すっげー敵意剥きだしてたけど、なにかあったの?」
「……まぁ、ミスティさんにも色々あるんですよぉ」

 ラグナロクはなにやら知っている様子だったが、僕の口から言えることじゃないですけどねぇ、と彼は多くは語ろうとはしなかった。
 だったら当人に、と思ったが、そちらは既に意識が雷切へと戻っていた。

「先輩、まさかあたしを先輩のパーティーに加えてくださるなんて、感激です! さあ、邪魔な二口女はいなくなりましたし、二人で一緒に早速対戦を始めましょう!」
「お前をパーティーに入れる予定なんてなかったんだよ。つーか二口女って……ちーちゃんはお前が追い出したようなもんだろ。それに二人だけで対戦ができるかよ」

 だが、こうなってしまった以上、ミスティを一時的とはいえパーティーに入れざるを得ないのは確かだ。
 面倒なことになった、と思いつつ雷切は対戦の準備を軽く済ませる。

「ミスティ。お前、メガ石は持ってるか?」
「もっちろんです! ボックスを出る時に、あの腐れ主人から押収してきました!」
「腐れ主人って……ライもそうだけど、まがいなりにもあたしたちのマスターになんて呼び方を……」
「あいつのことは今はどうでもいい。それよりも、ミスティがメガ石持ちなら……決まりか。おいスパコンピ、起きろ」

 雷切は軽く思案してから、スパコンピを置いてある部屋の一角へと移動し、コンコンと、その蒼いボディを叩いた。
 そして、それを合図に、スパコンピが起動する。

「72531281220」
「うわっ、スパコンピ!? なんでこんなとこにあるんですか?」
「この前ゴミ捨て場で拾った」
「へぇー、なっつかしいですねー。学生の頃の先輩を思い出します」
「スパコンピを見て俺を思い出すのはおかしくないか?」

 と言うのも、ミスティには無駄であろうが。
 ともあれ今回は、ちーちゃんとトンベリ、BOHパの攻めと守りの要が外れ、代わりにスパコンピとミスティを加え、ランダムマッチへと挑むこととなった。