二次創作小説(映像)※倉庫ログ

対戦後の茶番 ( No.48 )
日時: 2015/05/02 20:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「——じゃあ、今日はこれで。また来ますね、先輩っ」
「もう来んなよ」

 夕陽が傾きつつある時間、ミスティは今まさに帰路に付こうとしていた。
 先の対戦での敗北など忘れたかのように、それ以上に雷切と再会できたことが幸せであるというかのように、彼女は晴れやかな表情をしていた。

「またなにかあったら連絡くださいね! この地球上、データ上のどこにいても駆けつけます!」
「お前に要請の連絡した覚えなんてねーけどな」
「でも、あたしはまた先輩と一緒に戦いたいです!」
「火力不足が増えるから勘弁願う」
「大丈夫ですよ! 先輩の頭脳があればそのくらいいくらでもカバーできますって!」
「無茶振りはやめろ。俺の脳みそだけでカバーしきれるわけがねーだろ」
「で、でも! 少なくともあのノロマな二口女よりは先輩のお役にたちますよ!」
「……分かった分かった。分かったからもう帰れ」

 と、雷切はなかなか離れないミスティを玄関外へと押し出す。
 それでもミスティは、じゃれつく犬のように雷切から離れようとしなかったが、やがて、なんとか彼女を帰らせることに成功した。
 ミスティの姿が見えなくなってから、雷切は溜息をつく。

「ふぅ……やっと行ったか」
「騒々しいわね、あなたの後輩」
「ココロか。そうだな、とにかくあいつの相手をするのは疲れる」
「でも、かなり慕われてるじゃない。なにがあの子をあそこまでさせてるのかしら」
「さーな。心当たりはないでもないが……」
「それと、もう一つ気になることが」

 というより、こちらがココロにとっては本命だった。 

「あの子、随分とちーちゃんのことを嫌っていたけど……ノロマとか、二口女とか。なにかあったの?」

 ちーちゃんの反応からして、あの二人は初対面のはずだ。にもかかわらず、あのミスティの敵意の見せ方は尋常ではなかった。
 過去になにかあった。そうとしか思えないのだが、

「あー……そのことか。別に、あいつはちーちゃんのことがピンポイントで嫌いなわけじゃねーよ」
「? どういうこと?」
「あいつはちーちゃんじゃ嫌いなんじゃなくて、クチートっていう種族そのものが嫌いなんだ」

 なのでちーちゃんとは面識はないが、ちーちゃんがクチートという種族であったために、あそこまで敵意を剥きだしていたということだろうか。
 だがそれにしても相当な嫌いようだった。一体クチートに対してどんな恨みがあるというのだろうか。

「ココロ、指数って知ってるか?」
「え、指数? なによいきなり……まあ一応、知識としては知ってるけど」

 指数というのは、火力指数、耐久指数などと分類され、そのポケモンがどの程度の火力や耐久を持っているのかが数値で分かる、というものだ。
 簡潔に言えば、この数値が高ければ高火力、または高耐久ということである。

「ミスティ——メガアブソルの最高火力技は、素の威力だけで見れば、タイプ一致の不意打ちだ」
「そうね。物理型なのに、技の威力が低いっていうのは辛いわよね。あの子の場合はちーちゃんみたいに遅くもないし、Sに補正をかけたいでしょうし」

 実際は叩き落とすの方が最大火力では上だが、アイテムロストの補正が乗ったり乗らなかったりで、ここでは除外しておく。
 それに、たとえ叩き落すを例にしても、結果は変わらない。

「アブソルなら確かにSに補正をかけたいだろうが、とりあえず今は、Aに補正をかけた場合として計算するぞ。A特化メガアブソル、タイプ一致の不意打ちの火力指数は、26640だ」
「うーん、あまり高くないわね。確かA特化メガマンダのスキン捨て身で、50000くらいだったわよね。あの耐久でこの指数はちょっと物足りないかも……」
「そうだな。で、この不意打ちだが、ちーちゃんもよく使ってる、つーかサブウェポンとして必須なのは知ってるよな?」
「それは、当然でしょう。長いこと一緒に戦ってるわけだし」

 鈍足なクチートにとって、読み次第とはいえ高火力先制技は非常に重要だ。
 メガアブソルのメインウェポンとして必須レベルに採用される不意打ちだが、これはメガクチートも、サブウェポンとして必須レベルで採用しているのだ。
 そして、

「その、A特化メガクチート、タイプ不一致の不意打ちの火力指数が——27520」
「…………」

 言葉を失った。
 同時に、ココロは悟った。ミスティがちーちゃんを、クチートを嫌う訳を。


「分かるか? メガアブソルのタイプ一致最高火力技も、メガクチートにとっちゃサブウェポンと同列なんだ。いや、どころかそれ以下。メガアブソルは特化しても、メインウェポンがメガクチートのサブウェポンに劣る」
「……そういうことね」

 自分の必殺の一撃が、他のポケモンの予備兵器のような存在だというのだ。
 しかもアブソルは、ココロが言ったようにSに補正をかけたいポケモン。実際に運用するうえで、A特化にはさせづらいだろう。
 なので実質的な指数の差は、さらに開くことになる。

「あいつはタイプ一致の物理技で敵を仕留めるのが好きだったみてーだからな。火力だけ見れば、その存在意義を失くしたみてーに落ち込んだだろうぜ。物理一辺倒だと、メガアブソルとクチートは技範囲もかなり似るしな」
「そう……」

 とはいえ、そんなことはポケモン対戦界ではよくあることだ。なにかの劣化、下位互換。そんな風に言われ、冷遇されるポケモンは多い。
 むしろアブソルとクチートは、火力こそクチートが上回っているものの、タイプ、種族値、覚える技の種類が全然違うので、そもそも単純な比較ができるものではない。火力がすべてではないのだ。

「俺からしてみれば、マジックミラーによる対補助技耐性、115族の高い素早さ、豊富な補助技で差別化自体はかなりできてると思うんだが、あいつにとっちゃそう単純なことでもねーみたいだ。メガシンカ貰って嬉々としてたが、その事実を知った瞬間に闇堕ちしたもんだから、流石に見てらんなくてな……メガアブソルは攻撃や素早さだけでなく、特攻もかなり上がる。だからそれを生かしてみろつって、ちっとだけ両刀の手解きをしてやったんだが……それ以来、ずっとあんなだ」
「成程……色々な謎が解けたわ」

 それであんなに雷切に懐いていたのか、と合点がいったココロ。
 彼女からしてみれば雷切は、物理型しか考えていなかった自分に新しい道を示した、救世主のような存在なのだろう。
 ゆえに、あそこまで心酔しきっている。

「それでも異常だと思うけど……」
「俺もそう思う。両刀っつったって、どうせ役割破壊程度だしな。それにあいつは、俺とは違ってエースになる素質もある。火力が足りなくても、悲観するほどのことでもねーだろうに」
「そうね。それと、なんというかあの子、凄くポケモンらしいわね……こう、他人への恨み方が……」
「そんな奴はいくらでもいる。ホウエンはそんな連中ばっかだ」

 ホウエンのポケモンは種族値が尖っておらず、無駄が多い。謎な両刀気味の種族値の癖して、耐久や素早さが半端なことがしょっちゅうだ。
 その中でもアブソルは、メガシンカもあり、かなり優遇されているようにも思えるのだが。

「しかし厄介なことになったな」
「そうね。あの子がこれからも来るなら、そのたびにちーちゃんは外さなきゃいけなくなるわけだけど、何度もあんな態度を取られたら、流石にちーちゃんが可哀そうだわ」
「あぁ。なんとかならねーものか……」

 しかし、種族における妬みから発生した逆恨みなので、すぐに解決、というのは難しそうだ。
 それだけ、性能の差異というものはポケモンとっては大きいのだ。それは雷切も身を持ってよく知っている。
 だからこそ、これから幾度もあるだろう衝突と、その歪に頭を抱え込み、雷切は嘆息する。

「どうすっかねぇ、これから——」