二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茶番2 ( No.53 )
日時: 2015/04/11 09:54
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「うーん……」
「……どうしたの……さっきから……」

 今日も今日とて、日課のように訪れている雷切の家に向かう道中だった。
 ちーちゃんは唸るような声を上げる。先ほどからずっとこんな調子だったので、気になってトンベリが尋ねると、

「この前、ミスティさん? っていう人が来たよね」
「……あぁ……雷切の、後輩、とかいう……」

 
 トンベリたちは彼女と出会ってすぐに家から出たのでほとんど話もしていないが、聞いた話によると、雷切に相当惚れ込んでいるらしい。
 しかしそれは所詮、聞いた話だ。直で感じた第一印象は、最悪と言ってもいい。少なくともトンベリにとってはそうだった。なぜなら、

「……初対面で、いきなり……罵声を浴びせる……常識、知らず……」

 トンベリは直接なにかを言われたわけではないが、ちーちゃんはなにも知らぬままに敵をぶつけられたのだ。

「わたし……なにか、失礼なことしちゃってたのかなぁ……」
「…………」

 どうやら、彼女はそのことをいまだ引きずっているようだ。
 あの後、雷切は気にするなとフォローはしていたが、しかしちーちゃんの性格上、なかなかそうもいかないようだ。いや、あんなに露骨に敵意を剥きだされては、誰だって気にしてしまう。
 とはいえ、ミスティが抱えるちーちゃん——クチートに対する憎悪は簡単に払拭できるものではない。

「……ちーちゃんは、悪く、ない……気にしなくて、いい……」
「トンベリくん……」

 ちーちゃんには伏せていたことだが、トンベリは雷切からミスティのことは聞いていた。だからちーちゃんに非がないことは分かっているし、この問題が簡単にどうにかなるものでないことも承知している。
 だから、そんなことしか言えなかった。

「それより……早く、雷切の、家に……」
「あ、うん。待って、トンベリくんっ」

 どうにもならないなら、今できることはなにもない。
 なのでトンベリはそのことをひとまず放置するとして、話題をそらすように歩くスピードを速める。
 ちーちゃんも駆け足でその後を追うが、その途中

「……あれ?」
「……どうしたの……?」
「あの人……」

 そうちーちゃんが指差す先には、一人の女性がいた。
 セミロングと言うにはやや長めの桜色の髪に、緑を基調としたワンピース状のロングスカート。
 背は高めで顔立ちも整っており、年齢は雷切たちと同じくらいだろうか。
 そんな女性を見て、ちーちゃんは一言。

「すっごい美人さん」
「…………」

 ではなく、

「なんだか、困ってるみたいだよ?」
「……道に迷った……とか……?」

 確かに、その女性はスマートデバイスと手に持った手帳サイズの地図を交互に見ては、周囲をきょろきょろと見回している。
 明らかに迷い人だ。
 トンベリとしては放っておいても良いのだが、ちーちゃんが目に留めてしまったからには、そういうわけにもいかなかった。
 二人はてくてくとその女性の元へと歩いて行き、

「あ、あのっ」
「?」
「どうかしたんですか? わたしたちでよければ、道案内しますよっ」

 と、ちーちゃんは言った。
 あまりに唐突だったからか、女性は驚いたように目をぱちくりさせていたが、すぐにこやかな笑みを浮かべ、

「あらあら、可愛らしい案内人さんですね」

 膝に手を置いて身体を少し倒し、ちーちゃんたちと同じ目線になって言う。
 この時点で、子供だから舐められてるな、とトンベリは思ったが、口には出さないでおく。
 実際、女性は困っていたのだから、ちーちゃんたちは助け舟だったのだ。

「じゃあ、せっかくだから訊いちゃおうかしら。昔のお友達に会いに行こうと思ってるんですけど、その人、少し変わったところに住んでるらしくて、道に迷ってしまったんです」
「誰の家ですか?」
「……住所、とか……教えて、貰えると……」
「えっと、ちょっと待ってくださいね……名前で分かるかしら? あまり、あなたたちのような子らには関わらない人だと思うけど……」

 そう言って女性がデバイスを操作して、一つの画面を表示する。
 そこには簡易な地図と、目的地と思われる場所——友人と思しき名前——だけが書かれていた。確かにこれだけでは、ある程度この辺りの地理を理解していなければ辿り着くのは難しいだろう。トンベリたちだって言ったこともない場所ならそうだ。
 だが、こと今回に限っては、その限りではなかった。なぜなら、

「トンベリくん、これって……」
「……うん……あいつだ……」

 その目的地とされている場所に書かれている名前は、『雷切』、だったのだから。







「——やっぱCにぶっぱするか……いやだが、そうすると地震で確二どころか確三になりかねない……Sを削るわけにもいかねーし、やっぱCを削るしか……つってもそうすると肝心のメインウェポンが……」

 部屋の一角で、ぶつぶつと響く声。同時にカチカチと何度も鳴るクリック音。
 今までその様子を黙って見ていたが、耐えきれなくなったのか、遂に彼女は口を開く。

「……ライはさっきから、パコに面と向かってなにしてるの?」
「にらめっこ?」
「新しい型を考えてるそうですよぉ、雷切さん自身の」

 ラグナロクがそう答える。
 いつもの雷切は、気づけば新しい型を見つけて、いつの間にかその型で調整していたので、こうやって新しい型を模索している様子は初めて見た。

「まあ、熱心なのはいいんだけどね。少なくとも、少し前の賭け事に比べれば」
「でも、どうせ新しい型作っても、使える技はほとんどないのにねー」
「お前には言われたくねーよ、雪姫」
「ありゃりゃ、聞こえちゃってたか」

 今までずっとスパコンピ(PC形態)に向かっていた雷切が、くるりとココロたちの方へ向き直る。
 雪姫——ユキメノコというポケモンも、実戦で使用に耐えうる技は少ない。
 しかし雷切も、その点はジュカインもどっこいどっこいであることを自覚している。

「だが確かにその通りだ。俺たちは、ココロやラグナ以外は技のレパートリーが乏しすぎて、新しい型を作る意義が薄い」

 というより、新しい型と古い型の相違点が少ない。技を変えるだけで違う型と言い張れるサーナイトやラグラージとは違うのだ。

「たとえばちーちゃん——クチートは、襷メタバをする以外は、ほぼ確実にメガ型。しかも技も、じゃれつくと不意打ちは確定、残りは炎牙、叩き、剣舞から選択って形だしな。調整だってHAぶっぱがほとんどだ」
「下手に火力を削ぐと、エースとしての性能が落ちちゃうものね。かといって耐久を落とすと役割が遂行しづらいし、鈍足だからSに振っても効果は薄い」
「新しい型って言っても、仮想敵をどの程度明確にするかってくらいの変化しかないもんねー」
「その仮想敵を明確にしても、違う奴が出て来たらその調整は腐りかねないしな」

 技がほぼ固定されているちーちゃんやトンベリが、この傾向が顕著だ。一部の特殊な型に限れば技が固定されるということもないが、しかしそういう型は汎用性に欠ける。
 ゆえに、いつも同じ型ばかりになってしまうのだ。

「でも、それが分かってるなら、なんでわざわざ新しい型なんか……」
「俺はまだまだ調整の余地があるからな。技は少ないが、両刀は仮想敵によって様々な調整が考えられる。まだ研究が進められるんだよ」
「両刀なら私もー——」
「お前は火力がヘボすぎるから無理だ」
「そんなっ!? あーんまーりだぁー!」

 とはいえ、その可能性を完全には捨てきっていない雷切ではあるが、現段階では両刀ユキメノコがまともに運用できるとは思っていないため保留にしている。
 そんなわけで、技の少なさを調整でカバーしようとしている雷切は、いっそASベースでC調整した両刀にしてみようか、などと思い立って再びスパコンピへと向かおうとする。その時だ。

コンコン

「ん……客か? 最近多いな」
「それよりインターホン……なんで誰も使わないのよ……」

 などと言っていると、今度はガチャリ、と扉が開く音。まだなにも応答していないのに気が早い奴だな、と雷切が思った矢先、次は聞きなれた声が聞こえる。

「らいきりさーん、こんにちはー」
「……来た……」

 玄関から聞こえてくるのは二人の少年少女の声だ。

「なんだ、ちーちゃんとトンベリかよ」
「……なんでわざわざノックなんてしたのかしら? あの子たちなら、なにも言わずに入ってきてもいいのに……」

 というか今まではそうだったはず。なのに、いきなりどういう風の吹き回しだろうかと疑問を覚える。
 しかしその疑問は、新たな疑問に上書きされるのだった。

「大丈夫かしら、返事がなかったけれども……」
「だいじょーぶですよ、らいきりさんなら分かってくれます」
「……そもそも……そんな細かい性格、じゃない……」
「それもそうだったわね」

 聞こえてくるのは、ちーちゃんとトンベリの声——だけではない。
 もう一人、大人の女性の声が聞こえてくる。

「っ……この声は……! ラグナ!」
「え、えぇ、そうみたいですね……!」

 そしてその声にいち早く反応したのは、雷切とラグナロクだった。
 どちらも額に玉の汗を浮かべており、なにやら切迫した様子で、ココロはこちらにも疑念の眼差しを向ける。

「ライ……? ラグ……?」
「どったの二人とも?」

 そんな二人の疑問になど答えることはせず、雷切はダッと椅子を蹴飛ばすように、窓へと駆け出す。
 そしてそれと同時に、ラグナロクへ叫んだ。

「ラグナ、ここは任せた! 俺は先に行く!」
「ちょ、待ってください雷切さん! 一人だけ逃げようだなんて、そうは行きませんよぉ!」

 どうやらこの雷切の動きを予測していたらしいラグナロクは、雷切が窓に到達する前に、彼を羽交い絞めにして取り押さえる。

「くそっ! 離せ! キモイんだよてめぇ!」
「一人だけ逃げるなんて僕が許しませんよぉ……ココロさんや雪姫さんだっているんですからぁ……!」
「知るか! 俺はまだ死ぬわけにはいかねぇ……!」
「……なにやってんのよ、二人とも」

 急にコントまがいのことを始めた二人に呆れるココロであったが、しかし二人の表情は真剣そのもの。
 とその時、この部屋の扉がゆっくりと開く。
 部屋の中に入ってきた女性は開口一番、穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「あ、雷切君、ラグナ君。お久し振りです」

 そして、雷切は切迫したその表情のまま、漏れ出すように言葉を発する。

「み、みゆり先輩……!」