二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茶番3 ( No.55 )
日時: 2015/04/11 02:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「初めまして、みゆりと申します」

 ちーちゃんとトンベリが連れてきた女性——みゆりは、、丁寧にお辞儀をしてそう名乗った。
 さらに、続けてにっこりと笑みを浮かべ、

「雷切君の恋人です」

 凍える風が吹雪き、空気が凍りついた。

「先輩、そういうのいいんで……普通に自己紹介してください」
「そう? じゃあ……」

 雷切が、冗談だからな? という視線を送って誤解を解きつつ、みゆりに再び自己紹介を促す。
 そして、

「雷切君の愛人です」

 絶対零度が発生し、空気が氷結した。

「……ライ」
「違う、誤解だ、分かるだろ、先輩の冗談だ」
「私は本気にしてもいいんだけど……」
「やめてくださいっていうか、あんたが言ったことですし、あんたが言うことでもないでしょう」

 と、雷切は慌てたように訂正しつつ、既に疲れ果てたような溜息をついた。
 そして改めて、今度は雷切の口から、みゆりについて話す。 

「この人、みゆり先輩は……先輩って付けてるとこから分かると思うが、俺の学生時代の先輩だ」
「この前のみすちーに続いて、雷切君は色んな女の子と関係持ってるねぇ」
「変な言い方はやめやがれ」
「でも、あながち間違ってませんね」
「先輩もやめてください」

 雪姫に対する態度とは打って変わって、困ったような表情を見せる雷切。こんな雷切は初めて見た。
 というより、

「……ライって、あの人になにか弱みでも握られてるの……?」
「そういうわけではないんですが……雷切さんの頭が上がらない人の一人なんですよ、みゆり先輩は」

 それは見たら分かる。誰に対しても不遜な佇まい、乱雑な口調、挑発的な態度だった雷切は、みゆりに対してはやたら腰が低い。
 まるでなにかを恐れているかのようだった。

「まぁ、雷切さんよりも、ココロさんと雪姫さんの方が気を付けるべきなんですけどねぇ……」
「なにがよ?」
「いやぁ、それがですね——」

 とラグナロクが続ける前に、みゆりの声がそれを遮った。

「そういうわけで、私も雷切君のお手伝いをしようと思いまして。私もパーティーに加えてくれませんか?」
「どういうわけっすか……いや、別にそういうのいいんで、間に合ってるんで。先輩だって忙しいでしょうし、別に俺らに気を遣わなくたって」
「そんなこと言わないで、一緒に対戦しましょうよ、らいきりさんっ。みゆりさん、とっても面白い人ですよ」
「ちーちゃんはこの人の本性を知らねーからそんなことが言えるんだ……」

 どこか遠い眼で呟くように言う雷切。
 その後もみゆりのパーティー参加を渋る雷切だったが、ふとみゆりが、隣に座る雷切に近づいて行き、

「雷切君」
「は、はい……」
「お願い……ダメですか?」

 にこにことした柔和な笑顔で、下から覗きこむように懇願する。
 女性にこんなことをされては断るにも断りづらいものがあるが、雷切にとっては、一般的なそれとは違う意味で断りづらさを感じていた。

「う、く……ぐぬぬ……!」

 それでも必死の抵抗を試みる雷切。
 だが、みゆりの最後の一言で、

「そうですか……では仕方がありません。“今回は”諦めま——」
「分かった! 分かりましたから! 今日だけ! 今日だけ先輩もパーティーに入れますよ」

 遂に折れた。
 不承不承といった具合に嘆息する雷切とは対照的に、みゆりはその言葉を聞くや否や、ぱぁっと顔が明るくなる。

「本当? 嬉しいです。久し振りに雷切君やラグナ君たちと対戦できるだなんて」
「そすか……そりゃ結構なこって……」
「雷切さん、ここはもう諦めるしかないですよぉ」
「あぁ……」

 ことごとく、みゆりの対戦を渋ってきた雷切だが、その顔は完全に諦念を示したそれだった。
 だが、外野からすると、そもそも雷切がなぜそんなにもみゆりと対戦したがらないのかが理解できない。

「……ライはどうしてあんなに嫌がるのかしらね。人手が多いに越したことはないし、前にビジュアルがどうこう言ってたけど、あの人なら適任だと思うのだけれど」
「そだねー、でも逆にそこが気がかりなんじゃない? だってほら、みゆりちゃん? だっけ? はさ、スタイルいいし、美人だし、性格いいし、スタイルいいし、穏やかだし、頭良さそうだし、スタイルいいし、ココロちゃんのアイデンティティが危ないよ?」
「なんでそこであたしを引き合いに出すのよ。それと三回もスタイルスタイルって連呼しなくてもいいじゃない」
「べっつにー? 特に深い意味はないよぉ?」

 よく分からないが非常に苛立ちを覚えるココロ。
 しかしそれをどこかにぶつける前に、

「そうと決まればさっさと対戦に行くぞ! あと、一応言っときますけど先輩、一日に何度も対戦できるほど時間もないんで、一戦だけっすよ。一度も出てないからって、駄々こねないでくださいね」
「はーい。分かりました」

 雷切は対戦の準備をとっとと済ませてしまう。
 みゆりに釘を刺すように言うも、当人は雷切の言いたいことが伝わっているのいないのか、朗らかな笑みを浮かべたままだ。

「……何事もなく終わればいいんだがなぁ……」

 最後にそんなことを呟き、本日の対戦が始まる。