二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 対戦後の茶番 ( No.76 )
- 日時: 2015/04/17 23:26
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
事前に一戦だけと決めていたため、その一戦だけを終えて部屋へと戻る一行。
みゆりは嬉々とした表情を浮かべているが、雷切を始めとする年長組は対照的に、疲れ切ったような表情、または怯えきったような表情をしており、とにかく顔色が悪かった。
「久々の対戦、楽しかったですね」
「俺は久々に嫌なもんを見ましたがね……あぁ、胸糞悪ぃ……」
「わたしはなにも見れませんしたよー。むー、みゆりさんが戦ってるところもっと見たかったのに……」
とふくれっ面になるちーちゃん。途中からずっとココロによる聴覚ジャックと雪姫の目隠しを受けていたので、みゆりが戦っているところを、彼女とトンベリは最後まで見ていない。
彼女はそれがお気に召さなかったようだが、
「ごめんなさいね、ちーちゃん。でもあれは、あなたたちには見せられないわ……」
「超絶的な物理火力を持つちーちゃんなら大丈夫だとは思うが、変なトラウマ植え付けたりとか、妙なことを教えるわけにもいかねーしな」
「そんなことしたらご主人様にぶっ殺されるもんね……雷切君が」
「俺かよ」
当然。
このパーティーの責任者は雷切なのだから、雷切が全責任を負ってファラリスの雄牛の刑に処されるに決まっている。
史上最悪の処刑の一つと言われるファラリスの雄牛による焼殺。これでもまだぬるいくらいだ。
「でも、本当に今日は楽しかったですよ。雷切君やラグナ君とも久しぶりに会えましたし、仕事の息抜きになりました」
「息抜きって、それが目的だったんすか。先輩なんて女と黴臭い遺跡とかがあればいいでしょうに、わざわざ俺んとこに来なくったって……」
「あらあら、私ってそういう風に思われていたんですか? 確かに男の人は苦手ですけど、雷切君は好きですよ?」
「純粋に怖いですやめてください」
「まあしかし、当然ながら女の子が一番可愛くて素敵ですけどね」
そう言って、ふふっ、とにこやかにほほ笑むみゆり。
普通に見れば、そんな何気ない仕草だけでも絵になるような魅力と艶っぽさがあるが、しかし先の対戦を見ていた雷切たち——特にココロと雪姫——からすれば、恐怖心を喚起させる動作にすぎない。
雪姫はまだガタガタと震えており、ココロもどうしたらよいものかと困惑して言葉も出なかった。
「話を戻しますが——それに、私だって遺跡調査ばかりをしているわけではないんですよ」
「は? 仮にも考古学者でしょう、先輩。それともなんすか、社会教師でも始めたんすか? 女子生徒に手ぇだすのだけはやめてくださいよ……」
「違いますよ。役人としての書類事務があるんです。明日からまたその仕事に追われることになるので、ちょっと気分転換をしたかったんですよ」
「……役人?」
その言葉を聞き、露骨に顔をしかめる雷切。
「先輩、政府の犬になり下がったんすか」
「嫌な言い方しないでくださいよ。いいじゃないですか、役人。この役職があるだけで色々と融通が利きますし、お給料も結構いいんですよ」
それに、とみゆりはどこか、なにかを含んだような口調で言う。
まるで、最初からその名を出すつもりであったかのように、わざとらしく、彼女は名前という言の葉を紡ぐ。
「赤光君も、いますしね」
彼女の口から飛び出したのは、雷切にとっては意外な人物の名前。
虚を突かれたようにその名を出されたため、雷切は少しだけ驚いたように固まっていたが、
「……そうですか」
と、すぐに素っ気なく返す。
だがそんな雷切の態度に対してみゆりは、また微笑む。
今度は妖艶なあの笑みではなく、どことなく悪戯っぽい笑みだ。
「ふふっ」
「なんすか、気持ち悪い」
「いえ、雷切君のその反応、彼とまったく同じなんですもの」
「…………」
「やはりお二人は似た者同士ですね」
「……うっさいですよ。ほら、もういいでしょう先輩。日も大分落ちてますし、今日は帰ってください」
そう言いながら雷切は、みゆりを押し出すように玄関まで連れて行く。みゆりも特に反抗はしなかった。
みゆりは最後に、他の面々にお辞儀をして別れの挨拶を済ませると「また来ますね」と言って帰っていく。
しかしその直前に、彼女は、
「否定はしないんですね」
そんな言葉を残してから、去るのだった。
——やはりお二人は似た者同士ですね——
確かに雷切は、その言葉を否定しなかった。
最後にそんなことを言われてなにか言い返したかったような雷切だが、しかし彼は結局なにも言わず、
「久しぶりに先輩に絡まれて疲れたな……今日はもう寝る」
などと言ってはさっさと自室に引っ込んでしまった。
それから、その空間には、しばらくの静寂が訪れる。
最初にその静寂を破ったのは、ココロだった。
「……シャッコウって、誰?」
それは、先ほどみゆりが出した名前だ。
誰のことかは分からない。分かるのは、みゆりの付けた敬称からして男であることと、彼女と同じ役人であること。
そして、雷切となにかしらの関係があるということだ。
当然ながらココロはそのシャッコウなる人物を知らないわけだが、その問いに答える者はいた。
ラグナロクだ。
「赤光さんはですねぇ、彼もグレンさん同様、僕たちの同期なんですよぉ」
そうラグナロクは言う。
彼が知っているということは、かつて雷切が学生だった頃の仲間ということだろうか。
それならばグレンやミスティとも同じような存在なのだろう、とココロは予測する。その考えは外れてはいない。いないのだが。
ラグナロクはさらに、もう一つ付け足した。
「そして——雷切さんに最も近い人でした」
「ライに最も近い……? どういうこと? ライに似てるってこと?」
「まあ、そうとも言えますかねぇ。それもどういうことかを僕の口から詳しく説明するのは難しいですけどねぇ……感覚的なところもありますし」
一口に似ていると言っても、その形は様々だ。
姿が似ている、性格が似ている、趣味が似ている、戦い方が似ている。
もしくは存在そのものが似ている——近い存在である。
様々な類似が考えられるが、今のココロでは根拠もなく憶測することしかできない。
なので説明を求めたいところだが、ラグナロク自身もどういう意味で先の言葉を口にしたのか、頭で理解しているわけではないようだ。
「それに、もう時間も遅いですからねぇ。この話はまた今度でいいでしょうかぁ?」
「……分かったわ。ごめんなさい、問い詰めて。」
「いえいえ。雷切さんは人として重要なことばっかり話さないですからねぇ」
他人と人としての感覚がずれているんですよ、とラグナロクは言う。
そもそも自分たちはポケモンで人というには違う存在なのだが、今は人の姿をしており、人という生き物として活動している。
それに雷切が他人とどこかずれた感覚をしていることは、ココロも感じていたことだ。
だが今はそれ以上のことは言わず、ラグナロクの言うとおり、素直に帰宅することにした。
雷切や、シャッコウなる人物についてのことは、またいつか、理解できる日があると思いながら。
■
自室にて雷切は、ベッドの上に寝転がりながら、沈んでいく夕陽をぼんやり眺めていた。もうほとんど沈んでしまい、もうあいつらは帰ったかね……などと思いつつ、夜の帳が下りて行く様子も見つめる。
逃げるように皆から離れて自室に戻ってきた雷切。久し振りにあった先輩に絡まれて疲れたというのも本当だが、実際は少しだけ、ほんの少しだけ、考える時間が欲しかったのだ。
頭の回転が速く答えをすぐに導く頭脳を持っていると、雷切は自分自身でも自負しているが、しかしだからと言って、すべての物事に瞬時に対応できるわけではない。
特にそれが、自分の感情が混ざった時だと、その判断力と思考力は鈍る。
みゆりから聞かされたその名を聞くことはもうない……だなんて思ってはいなかったが、その名前を出され、思い出したようにハッとしたのも確かだ。
自分でも理解している、相手もそれは分かっている、お互いに認識し合っている。互いに近い存在であるということ。
そのことを、この時の雷切は、思い出していた。
それは自分を見つめるきっかけになったかもしれない。もしくは、昔のことだとばっさり切り捨てたかもしれない。
まだそれがどうなるのかは分からない。しかし彼は、どうもその名前が頭に響くのだ。
完全に夜が空を支配したその時、雷切は音の存在しないこの部屋で、ふっ、と言葉を漏らす。
「……赤光、か……」