二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 茶番1 ( No.91 )
- 日時: 2015/05/05 01:17
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
石窟中学。
セントラル・フィールドの一角にある、ポケモンのみが入学できる中等教育学校。
創設者は白黒だかモノクロだか、確かそんな感じのカラーリングな名前で、初代の学長でもあるのだが、就任した瞬間に辞職しているため、実質としては名誉学長のようなものになっている。
彼は一人の現役トレーナーでもあり、数多くのポケモンも有しているが、しかしこの学校には彼のポケモンしかいないかというと、そういうわけでもない。どんなポケモンでも平等に受け入れる、それが石窟中学だ。
だがそれでも、彼のポケモンが多く在籍していることも確かなのだが。
そして、ここにもまた、そんな創設者のポケモンがいた。
片や、溌剌としている無邪気そうな少女。
片や、陰気な雰囲気の根暗そうな少年。
それぞれ、少女はちーちゃん、少年はトンベリという名であった。
「また同じクラスだねっ、トンベリくん!」
「ん……そう、だね……ちーちゃん……」
本日は石窟中学の初登校日。そこでクラス分けも発表されたのだが、彼らは二年目も同じクラスであった。
だがこのクラス分けに、創設者の陰謀が働いていることは、言うまでもないだろう。
無垢なちーちゃんと違い、ひねくれており、年不相応に悪い意味で大人びたトンベリにはそれが分かる。そんな自分たちの主人のに呆れつつも、しかし今回は感謝するべきなのかもしれない。
トンベリはちーちゃんが好きだ。それが友人としてなのか、異性としてなのか、はたまた恩人としてなのか……それは彼にもまだ分からない。だが、彼女の近くにいるだけで嬉しい。その感情は本物だ。
「それに……オレは、ちーちゃんがいないと……ダメ、だからな……」
「本当にね。まったく、いっつも辛気くさい顔してるんだから」
「あ、あめちゃんだ。おはよう」
見ればそこには、一人の少女が立っていた。上下共に白いセーラー服に、おさげにした白っぽい水色の髪。そして、頭につけたオレンジ色の大きなリボンが目を引く、活発そうな女子生徒だ。
「……キャンディ……また、同じクラス……か……」
「不満?」
「別に……」
「そうだよ。だってあめちゃん、いんちょーさんだし」
少女の名はキャンディといった。だがその名前から、愛称としてあめちゃんと呼ばれ親しまれている。
その親しみの理由の一つが、ちーちゃんの言う“いんちょーさん”。つまり、委員長。
キャンディは去年、トンベリたちが一年の頃の学級委員だったのだ。
決して用量が良いわけでも、手際が良いわけでもないキャンディだが、面倒見は良く、とにかく人望に厚かった。去年の彼女のクラスメイトはすべからく彼女の後に付き、同学年で彼女を知らないものはいないくらいだ。
なので、多くの者はこの2年5組の学級委員は彼女を推薦することだろう。それだけの人気が彼女にはある。
もっとも、トンベリだけはそんな彼女を一クラスメイト程度としか思っておらず、学級委員なんて自分以外の誰かがやればいいと、適当に思っているのだが。それに彼は、キャンディの厄介な面をよく知っているのだから尚更だ。
今年も当然、学級委員をやるだろうと思われているキャンディは、ちーちゃんの言葉にこう答えた。
「まだ私がやるって決まってないし、分からないよ。ま、でも、立候補はするけどね。他にやりたい人がいなかったら私がやるし、いても私が任せられないと思ったら任せないし」
「……何様……」
トンベリは、ついぼそっと呟くと、それがキャンディに聞こえていたようで、
「なに? それじゃあトンベリがやってみる、学級委員」
「……そんなこと……言ってない……ただ、言い種が、偉そう……」
「人をまとめるんだから、ちょっとくらい偉そうでもいいのよ、ちょっとぐらいなら。それよりトンベリ、私は今年こそあんたを更生してみせるわ。あんた、いつまでもちーちゃんにべったりなんだから」
「うるさい……余計な、お世話……」
そう、これだ。トンベリにとって、キャンディの厄介なところは。
世話焼きなキャンディは、去年のトンベリを、その雰囲気から問題時と認識し、更生と称してやたら突っかかってくるのだ。
(まあ……ちーちゃんがいないと、まずクラスに、馴染めなかっただろうし……問題のない生徒、では、なかったか……)
それでも流石に鬱陶しさを感じてしまう。ちーちゃんとは仲がよいようだが。
「……また、面倒な一年に、なりそうだ……」
今度はキャンディにも聞こえないくらい小さく、陰気で憂鬱そうな溜息を吐きながら。
トンベリは憂いの表情で呟くのだった。
■■■
やはりというかなんというか。
その後の委員長決めでは当然のようにキャンディが推薦されて決定し、他にも、滞りがあったりなかったりで、自己紹介やら委員決めといった、学期初めの作業が終了していく。
そして、すべての作業が終わり、もう今日はすべきことがすべて終わった。そう思ったときだ。
教壇に立つ担任の口から、こんな言葉が放たれた。
「そうだ、言い忘れていたが、一週間後に新入生歓迎会がある」
新入生歓迎会、俗に新歓と略されるそれは、書いて字の如く、今年新しく入学してきた一年生に、歓迎の意を示すための小さなお祭りのような行事だ。
ただし学校行事ということもあり、インフォメーションやガイダンスのような側面もある。具体的には、学校紹介や授業紹介、部活紹介などがそれに当たる。
要は歓迎会と銘打って生徒たちをいい気にさせておいて、まとめてサラッと学校のことも説明してしまおうという、楽したい学校側の魂胆だ。説明会だけに時間を取ることを渋った結果だろう。
などとトンベリが思っていると、担任は続けた。
「お前たちも去年に見ただろうが、そこで新入生に、実際の対戦の様子を見せる」
担任の言葉に、教室内がざわめく。
あったなぁ、そんなの。という声や、あれを私たちでやるのかぁ、という感慨深いような声が、あちらこちらから聞こえる。
トンベリも去年のことを思い出した。上級生たちが実際にパーティーを組んで、対戦している様子を。それを入学したばかりの彼らは見せられたのだ。
この石窟中学は、特に対戦について力を注いでおり、それまであまり対戦とは縁のなかった新入生に、実際の対戦の様子を見せることで、分かりやすくその緊張感や面白さを伝え、焚きつけるのだ。
かくゆうトンベリも、当時は上級生たちの高度な対戦テクニックを見て、少なからず興奮したものだった。
「その新歓バトルマッチだが、各クラス、六人一組のパーティーを作ってもらう。誰か、参加したい者はいるか?」
そう担任が呼びかけると、教室はまたざわつく。去年のあの対戦模様は誰の目にも輝いて見えた。ゆえに、誰しもがそれに憧憬のような念を抱いている。
しかし、手を挙げる者はいない。お前出たら? などと言うような声は聞こえるが、誰も自分から立候補しようとしない。
なぜなら、彼らには自信がないから。入学してから一年間、対戦に必要な知識を身につけ、対戦におけるセオリー通りの立ち回りも教えられた。しかしそれは、すべて授業という枠組みの中だ。この中で、実戦を経験している者はほとんどいない。だからこそ、初めての“他人に見せる”対戦に、自信が持てない。
そんな時だ、誰かがこんなことを言ったのは。
「……トンベリが出たらいいんじゃね?」
その声は決して大きな声ではないが、なぜかざわつく教室内によく通り、皆の耳に届く。
当然、トンベリにも。
「は……? いや……ちょっと、待て……」
「そうだよ、トンベリが出ればいいじゃねーか」
「そうだよな、トンベリがいたな」
トンベリが否定の意見を言う前に、クラスメイトの面々が、口々にトンベリを推薦しだした。
「ここはトンベリに任せようぜ」
「あぁ、対戦の成績もいいしな、あいつ」
「それに、なんたって、あのバトル・オブ・ホウエンに出場したんだぜ。トンベリしかいねぇよ」
「あ、だったらちーちゃんも一緒に出たらいいんじゃないかな?」
「え、わたし?」
バトル・オブ・ホウエンというワードが出てきて、それに伴いちーちゃんの名前も挙がる。
新歓で対戦するなんて面倒だ、そんなものにオレは出ない……そのような意思表示をする前に、あれよあれよと勝手に話は進み、いつの間にかトンベリとちーちゃんがパーティー入りすることが決まっていた。
というか、クラス内がもはやそんな雰囲気で、今更やらないと言っても、許してくれそうになかった。
「む……もう時間だな。では、トンベリたち。後のことはお前たちに任せる。出場メンバーが決まったら、俺のところまで知らせてくれ。では、以上だ」
と、担任までトンベリが出場するということ前提で、最後の最後ですべてを投げた。
「……マジか……」
それから、無慈悲なチャイムが鳴り響き、本日の行程は終了したのだった。