二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 茶番2 ( No.94 )
- 日時: 2015/05/05 15:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
「……なんで……こうなった……」
放課後。自分に新歓バトルマッチという責務を押しつけて帰宅するクラスメイトたちを呪いながら、トンベリは机に突っ伏す。
「だいじょうぶだよ、トンベリくん。トンベリくんならできるって」
「そうそう。バトル・オブ・ホウエンなんて大きな大会に出てるのは、このクラスではあんたとちーちゃんだけなんだから、自信を持ちなさい。私も参加してあげるから」
ちーちゃんとキャンディはそんなこと言うが、しかしトンベリは自分に自信がないわけではないのだ。バトル・オブ・ホウエンのこともそうだが、元々トンベリはレートパ出身。さらに日頃からある人物たちと共に、実戦という形で対戦している。その経験は、同じクラスの連中には負けない自信がある。
だが、彼は単純に出たくないだけだ。面倒くさいという怠惰、目立ちたくないという謙虚。そういった諸々から、純粋に出たくないだけ。
さらに言えば、こんなことを押しつけるクラスメイトたちの思惑通りに働くのも癪だ。
「……というか、キャンディ……なんか、やたら、乗り気……」
「そりゃそうよ。これはクラスの名誉にも関わることだし、パーティーはクラスの代表よ。私が出ないでどうするの」
「…………」
じゃあなんでさっき手を挙げなかったんだ、とトンベリは言おうと思ったが、それより早く、キャンディが次の言葉を紡いでいた。
「それに、これもあんたを更生させるきっかけになるかもしれないしね」
「……まだ、言ってる……」
別にトンベリは不良のつもりもクラスで孤立しているつもりもないのだが、一体彼女はトンベリのなにを更生させたいのだろう。
「さーて、そうと決まれば早速メンバーを集めないとね」
「えっと、トンベリくんと、わたしと、あめちゃんで三人だから、後三人だね」
「……アテは、あるのか……?」
「なくもないけど、新しいクラスが始まってすぐだし、私もクラスメイトの顔はまだ、全員把握してないね。知らない顔も多いし、とりあえずは知ってる顔からあたっていくしかないけど……」
と、キャンディはぐるりと教室を見渡す。
そこで、教室の隅っこの、一つの席を見つけると、そこへとスタスタと歩いていく。そして、
「フレイヤ。ちょっと、起きなさい、フレイヤ」
「んー……あと三世紀待ってー……」
「三世紀も待ってたら卒業してるわよ。ほら、寝ぼけてないで起きなさい、フレイヤ!」
少し語調を強め、怒鳴るように声をかけるキャンディ。
すると、机に突っ伏していた生徒はゆったりとした緩慢な動作で体を起こす。
「んー……あー、あめちゃん。おはよー」
「フレイヤ、あんたまた寝てたのね……いつから?」
「自己紹介は、したと思うよー」
「じゃあそれからすぐに寝落ちたのね。まったく、あんたの寝ぼすけも大概ね」
「えへへー、それほどでもー」
「いや、褒めてないから」
キャンディからそんなツッコミを入れられる、フレイヤと呼ばれた生徒。
寝ぼけたような緩い眼に、赤い髪を長いポニーテールにしている少女だ。目を引くのは、非常に細い、華奢な身体を包む赤い浴衣。背中には団扇まで差しており、どこぞの縁日にでも行ってきたかのような出で立ちをしている。
石窟中学はいくらか制服のバリエーションがあるのだが、その中に浴衣は含まれない。つまりフレイヤの格好は私服というわけだが、しかしこの学校の校則に、制服着用を義務づけるようなものはない。
ただ、“制服を着用することを推奨する”とあるだけだ。つまり私服が許されている。
それでも、中学生ということもあり、制服に憧れを持つ者も少なくない上、推奨されているということは制服を着ることを強要されるような風潮があるわけで、大抵の生徒は制服で学校生活を営んでいるのだが。
逆に言えば、そんな風潮でも気にしないくらいマイペースな性格をしているのだ、このフレイヤという少女は。去年もクラスメイトだったので、トンベリやちーちゃんもそれはよく知っている。
「で、なんの用かなー?」
「あんた、新歓バトルマッチって知ってる? ていうか先生の話聞いてた?」
「いんやー? 聞いてないけど、バトルマッチってあれでしょー? 新歓でバトるやつー、そんで新入生に見せるやつー」
「あぁ、覚えてたの」
「でー、それがどしたのー?」
机に頭を付けたまま、フレイヤはキャンディを見つめる。
「いやね、それにあんたも出てみないかって、誘いに来たのよ。どう、やってみない? ちーちゃんとトンベリもいるんだけど」
「いーよー」
「即答……」
二つ返事でOKが出た。仮にもクラスの名誉がかかっている(キャンディ談)のだから、もっとちゃんと考えるべきでは、と思ったが、そんなことを考えるフレイヤでもなかった。彼女はそんなちまちました性格はしていない。
「あめちゃんにー、ちーちゃんにー、ベリリンもいるんだよねー? お友達のためだし、あたしも一肌脱いじゃうよー」
「よし、じゃあ決まり!」
「……あと……二人……」
「一応、まだアテはあるよ。教室にはいないから、帰ったんだろうけど、まだ校内にいるかもしれない。さ、急ぐよ!」
流石は委員長、早速リーダーシップを発揮して、皆を先導する。
そんなキャンディを先頭に、四人は教室を出ようとするが、
「ちょーいー、待ってよー」
フレイヤが、ゆったりとした声で引き留める。
見れば、彼女はまだ机に突っ伏したままだ。
「……なに、してる……急げ……」
「って言ってもー、あたし一人じゃ立てないしー、誰か背負ってよー」
「あー、そういえばそうだった」
フレイヤは擬人化している間は、自分の足で立って歩かない。本人曰く、一人で立てないとのことだが、足に障害などがあるのか、それは分からない。
しかし、とにかく彼女は、一人で立ち歩けず、移動はもっぱら誰かに背負ってもらっている。やむを得ず自分で移動する時も、常に匍匐前進だ。
「仕方ないなー……トンベリ、ちょっとフレイヤ背負ってよ」
「は……? ……なんで、オレが……」
「いいじゃない、別に。男子でしょ」
「それ……関係ない……」
と抗議しようと思ったトンベリだが、急に身体がズンッと重くなる。何事かと首を回せば、そこには背中にしがみついたフレイヤがいた。
「……なに、してる……フレイヤ……」
「あめちゃんの許可が降りたからー、ベリリンに乗ってるのー」
「……降りろ……」
「やーだー」
真っ向から拒否された。
無理矢理引き剥がそうかとも思ったが、真後ろに引っ付かれているため、それもできない。
「さて、それじゃあ早く行くよ。急がないと帰っちゃう」
「がんばれ、トンベリくんっ」
「ベリリン、れっつごー」
口々にそんなことを言う女子三人。これらを相手に、トンベリは諦めたように、呟く。
「……不幸だ……」