二次創作小説(映像)※倉庫ログ

茶番3 ( No.95 )
日時: 2015/05/05 20:56
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「あ、いたいた! おーい、電ー!」
「?」

 キャンディのアテという人物は、昇降口近くの階段を降りるところにおり、存外早く見つかった。

「キャンディちゃんに、ちーちゃん。どうしたのですか?」

 その人物は、くるりと振り返り、頭には疑問符を浮かべている。
 それは一人の女子生徒。水兵のようなセーラー服に、黒のプリーツスカートという出で立ち。色が抜けたような色素の薄い髪を、後頭部のあたりでバレッタで留めている。
 活発なキャンディやマイペースなフレイヤと違い、大人しそうな少女だ。

「実は、あんたに頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと? なんですか?」
「それはねー……って、トンベリ! ちょっとあんた遅いよ!」

 と、話の途中で、キャンディはずっと後ろを、フレイヤを背負いながら歩いているトンベリを、怒鳴るように叱咤する。

「……うる、さい……だったら、代われ……」
「ほらほらベリリン、ふぁいとーふぁいとー」
「……お前も……少しは、自分で……歩け……」

 ぜいぜいと息を切らしながら足を進めるトンベリ。元々彼は体力も力もない、非力な少年なのだ。
 フレイヤはかなり痩せているため軽かったが、しかしそれは、人ひとりにしては、という意味だ。背負って歩くには相当なおもりになることには変わりない。

「はぁ、はぁ……くそっ……なんで、オレが、こんな目に……」
「がんばれ、トンベリくんっ! もうちょっとだよ!」

 ちーちゃんの声援を受けつつ、なんとか足を前に進ませて、ようやっとトンベリはキャンディたちの元まで辿り着く。
 そして、目的らしい女子生徒を見て、ふと声を漏らした。

「……電……」
「あ、はいっ。えっと、大丈夫ですか……?」

 電と呼ばれた女子生徒は、心配そうにトンベリの顔を覗き込む。
 彼女も、去年クラスメイトであった生徒で、名を電という。
 彼女には容姿によく似た双子がおり、去年、キャンディの委員長の座を争っていたりもしたのだが、自己紹介の時には彼女の名しか聞いていないので、恐らく別のクラスになったのだろう。

「……アテって、もしかして、こいつ……?」
「そうだけど、悪い?」
「別に……」

 ただ、少し意外だっただけだ。
 電のことは、去年からクラスメイトだったので、他人との交流が少ないトンベリでも、多少は知っているつもりだ。
 彼女は大人しく、そして臆病で、引っ込み思案だ。トンベリ以上に目立つことを避けたがるので、新歓で一緒に出てくれ、だなんて頼みを聞いてくれるのだろうか。

「それで、キャンディちゃん、頼みというのは……?」
「あー、そうだった。えっとね、単刀直入に言うと、来週の新歓のバトルマッチ。その2組のパーティーメンバーになってほしいの」
「はぁ……え? えぇ!? わ、わたしがですか……!?」

 電はたいそう驚いていた。いや、さっき教室でトンベリが押しつけられていたのだから、察しろよ、と思う。
 ただ、自分に自信がないということなら、電はその最もたる人物かもしれない。だからこそ、自分が出るなんてあり得ないと、自分で無意識のうちに刷り込んでいたのかもしれない。
 そう考えると、この驚きも納得できなくもない。

「面子が足らないのよ。ね、お願い」
「で、でも……わたしじゃなくて、も、もっと他に、ふさわしい人がいいんじゃ……わたしんんかじゃ、その、ダメなんじゃ……」
「そんなことないよっ、いなずまちゃんならだいじょうぶだよ!」
「そだよー、対戦学の成績だって悪くないしさー」
「本番まであんまり時間もないし、急いでメンバーを集めなきゃいけないの。あんたのことは去年から知ってるし、あんたのことを見込んでのことなんだ。だからさ、お願い!」

 必死で懇願する三人。その中で一人、トンベリはなんと言ったらいいのか分からず、佇んでいる。
 男女の差というか、なんとも越え難い性別の壁。人によっては簡単に越えてしまえるものだが、越えられない人には非常に高い壁となる。トンベリは後者だった。
 さらに、トンベリ自身、理由は違えど新歓には出たくないと思っている側なので、メンバー入りすることに気が引ける電の気持ちは多少なりとも理解していた。
 しかし、

「……わ、わたしで、本当にいいのですか……?」

 あまりに必死だったからか、それともただ単に断りきれなかっただけなのか、電は少しだけ、参加に前向きな意志を見せる。
 こうなってしまったら、もはや相手の思うつぼだ。

「勿論! 電しかいないって!」
「一緒に出ようよ、いなずまちゃんっ!」
「できるできる、君ならできるよー」

 と、三人がおだてたこともあり、最初は消極的だった電も、


「えと、それじゃあ……よろしく、お願いするのです」


 メンバーへと、参加することになったのだ。