二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 茶番4 ( No.96 )
- 日時: 2015/05/06 00:29
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
トンベリを筆頭に、ちーちゃん、キャンディ、フレイヤ、電と、新歓バトルマッチに出場するパーティーメンバー、六人のうち五人は瞬く間に決まった。
しかし、最後の一人が、なかなか決まらない。
「あれから三日経つけど、このクラスちょっと消極的すぎやしない? なんで誰も参加しようとしないの? あと一枠なのに」
クラス替えが行われた、三日後の昼休み。キャンディは愚痴るようにそんな言葉を漏らした。
「新歓までに学校に来れるのは、明日しかないよね?」
「もう時間がないのです……このまま集まらなかったら、どうしましょう……」
「出場不可、とかー?」
「いや……たぶん、五人で、やらされる……」
最低でも三人集まれば対戦はできる。なので、あと一人が集まらなくても対戦自体はできる。
しかし、
「なら最悪、あたしらだけってことだねー」
「なに言ってんの、そんなの私が許さないって。六人集まらなかったなんて格好つかないし、まとまりのないクラスだと思われる。そんなのは嫌」
「…………」
しかし実際、まとまりがないのは否定しようがない。現にこうして、メンバー集めに悪戦苦闘しているのだから。
そんなクラスの面子はどうでもいいトンベリだが、いざ出るとなれば、やはり六人ほしい。
一人少ないだけで、こちらが不利であることは決定的。できるだけそのようなことはなくしたいという、現実的な理由もある。
「……キャンディ……もう、アテは、ない、のか……?」
「ないね。この三日で、去年のクラスメイトは全員あたったけど、全員断られた。クラス全体にも呼びかけたけど、誰も参加しようとしないし」
「打つ手なしかー」
もう、誘って参加してくれそうな知り合いはいない。今年初めてクラスメイトになった者へは、全体への呼びかけで応じないのなら望み薄だ。強く懇願しても、大して知りもしない相手の頼み、なかなか頷いてはくれないだろう。
「でも、そんなことも言ってられないよねー。もうこうなったら、手当たり次第、虱潰しにクラスをあたっていくしかないよー」
「そうなんだけどねー……私としたことが、去年のクラスメイトなら乗ってくれると浅はかに考えていたわ。ちょっとゆっくりしすぎた」
「? どういうことなのです?」
「……今から、クラスメイト、一人一人に、あたっても……時間、足りない……」
「あ、そっか。今日もお昼食べたら、もう終わりだもんね」
長期休暇で鈍った頭と身体を取り戻すため、そして新歓の準備もあるということで、新学期が始まってから一週間ほどは、短縮授業。即ち、午前で授業が終わる。
つまり、今日はもうほとんどクラスメイトに掛け合うことはできず、実質的に残された時間は明日のみ。そこだけでクラスメイト全員をあたれるかどうかというと、かなり難しいだろう。
今のうちから少しでも話をしておこうと思っても、もう既に帰ってしまっている生徒も多い。
「……残された時間は、明日だけ……」
「そうなると、できるだけ乗ってくれそうな人を重点的に誘う方がいいのです」
「去年のクラスメイトをもう一度あたるのもいいかもね」
一度は断られたものの、相手も見知らぬ仲ではない。
何度も何度も頼み込めば、もしかしたら首を縦に振ってくれるかもしれない。
しかしこの時、トンベリは少々不安であった。不安というより、気がかりがあった。
それは今、この時も感じているものだが、それがだんだんと現実味を帯びてくる。
「みんな去年のクラスメイトで、特に仲の良かった子とか、いる?」
「えっと、それじゃあ、こまちゃんはどうかな? すっごく強いし、もっと頼んだら引き受けてくれるかも」
「ほたるんもいいかもねー。兄妹揃ってないから、でんちゃんみたいに引き受けてくれるかもー」
「わ、わたしは別に、そういうつもりで引き受けたわけじゃないのです……えと、わたしは、なっちゃんとか、いいんじゃないでしょうか……?」
「ガンレッティもいたわね。ちょっと性格には難があるけど、上手く丸め込めればきっと頼りに——」
「……な、なぁ……ちょっと、いいか……?」
帯びた現実味が、本当に現実になりかけてきたところ。女子四名の会話が盛り上がってきたところで、トンベリは水を差すように、そこに割って入る。
本当はこんなことしたくなかったのだが、しかしこのままだと、自分の都合の悪いようにことが進みそうだったので、流石に耐えきれなくなった。
四人は、話に入り込んできたトンベリの方を見遣る。別段、彼を非難しているわけではないはずだが、トンベリにはどことなく威圧的に感じてしまう。
「どうしたの、トンベリ。もしかして、アテがあるの?」
「あ……いや、そうじゃなくて……その……」
「なによ、はっきりしなさい」
「……その、なんだ……一つだけ、お願いしても、いいか……?」
「? どうしたのトンベリくん?」
「……えっと……」
ここに来て一気に言いづらくなった。四人の視線が痛い。
しかし、言わないなら言わないで、それも困る。
なのでトンベリは、半ばやけくそで、半ば勢いに任せて、言葉を紡いだ。
「最後の一人は……その……男子がいい……んだが……」
勢いに任せても羞恥心を孕んでしまっただけに格好つかなかったが、トンベリはそう言った。
無論、これは変な意味ではない。単純に、女子に囲まれるのが嫌だという、この年頃の少年少女なら誰もが抱く感情だ。
一つのグループで、女ばかりの中にたった一人男がいる。中にはそういったシチュエーションを楽しむことのできる男もいるかもしれないが、トンベリにはできない。
普通に女子と話すだけなら構わないが、囲まれるのは居心地悪い。男には男の、女には女の世界というものがあり、そこに入り込めないというのは気分が悪い。とても疎外感を感じるものだ。学校という集団では男女で分離することが多いが、その心理はトンベリにも適用される。
キャンディたちは、トンベリに言われて初めてそれに気づいたようで、
「あー……ごめん。配慮が足らなかったね」
「確かに、男の子がトンベリ君一人なのは、かわいそうなのです……」
「ベリリンはハーレムはお嫌いなのかー、残念だねー」
「ごめんねトンベリくん、気づかなくて……」
「あ、あぁ……うん……」
(フレイヤを除く)三人は、申し訳なさそうな顔で謝罪を述べる。
彼女たちも、グループで男女差が生まれることは理解している。現に、さっきまで女子内で盛り上がっており、トンベリが取り残されていたのだから。
どこかバツの悪そうな表情を浮かべる彼女らを見て、トンベリは小さく溜息を吐く。
それは、自分に嫌気が差した溜息だ。
(……なにやってんだ、オレ……情けない……)
今は人員を選り好みしていられるような状況ではないというのに、自分の我儘を押し付けて難易度を上げてしまっただけではなく、気も遣わせてしまった。
言ってから、トンベリは自分の情けなさを痛感し、自分が嫌になった。同時に自分のエゴを押し付けてしまったことによる申し訳なさと、羞恥心も湧いてくる。
本当に、自分はなにをやっているのだろうか。
今からでも撤回しようかと、悩んでいる場合もないはずなのに、悩んでしまっている間に、キャンディは目を瞑って思案している。
「うーん、男子、男子かぁ。そうだなぁ……あ」
「ど、どうしたのあめちゃん?」
「誰か、乗ってくれそうな人がいるのですか?」
「分かんないけど、もしかしたら頼み込めば引き受けてくれそうな男子がいたわ。去年はクラスメイトじゃなかったから、向こうが私のことを覚えてるかは分かんないけど、当たってみる価値はあると思う」
「……誰……?」
「去年の3組の学級委員。ノリのいい奴で、委員会議で何度か話したことがあるの。そういえば、あいつも同じクラスだった」
そう言ってキャンディは教室内を見渡すが、その人物は見つけられなかったのか、首を横に振る。
「もう帰っちゃったか……仕方ない。明日、朝一番で聞いてみよう」
よく分からないが、心当たりのある男子生徒がいたようだ。
それが分かってホッとするトンベリだが、それは自分の我儘を押し通してしまったことと同義。
すぐさまそれに気づいてから、トンベリは安心感を覚えてしまった自分に、また嫌気が差すのだった。