二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第三章「悪臭騒動!?元凶を探れ」 ( No.54 )
日時: 2017/08/14 00:38
名前: ポカラ ◆V6LJ8P/cKo (ID: j5axgBAW)

ガオモンは両の足に力を込めれば勢いよく地面を蹴り上げる、その反動と衝撃により彼の速度は普段よりも格段に底上げされた。
ケラモンを助ける、その一点に集中すればレアモンの元へと距離を詰めていく。
レアモンのヘドロ状の身体から飛び出ているケラモンの触手は完全に静止しているわけではなく、まるでもがいてるかのように慌ただしく動いているように見えた。それならば早めに助けることが出来れば最悪の結末は見ないで済むのかもしれない。

「はぁぁぁッ!」

距離が縮まれば、ガオモンはその右腕をレアモンの顔面へと繰り出した。風を切る音と共にその赤いボクシンググローブはベトロの顔へとめり込む。
そして怯んだ隙を見逃さず、ケラモンの触手へと目を向ければそれを掴み引っ張り出そうと試みる…しかし…

「オォォ…ォォ…」

気間の悪い雄叫びを上げながら、レアモンはその巨大な口を開くとガオモンを飲み込もうとする。
このままケラモンの触手を引っ張り続けていては、逃げるのが遅れ今度は自分がヘドロに取り込まれてしまう…それを瞬時に理解したのか止む無く触手から手を離し今度は両腕でレアモンの口を抑え込む。口を閉ざさせない様に、無理やりこじ開けるかの様に。

「た…タクト、リン…今の内にケラモンを引っ張り…出してくれ!」

グググと力を入れレアモンを抑えつけるガオモンだが、その表情は苦しそうだ。これだけ身体の大きさに差がある相手を力尽くで抑えつけているのも長くは持たないであろう。
しかし少しでも時間を稼げているのも事実、その間にケラモンを引っ張り出し救出してくれと叫ぶ。

「リンっ!しっかりしろ、まだケラモンは生きてる…今助けないと取り返しが付かないぞ!」

タクトのその言葉を聞いたリンは瞳に溜まる涙を無造作に拭い取りながら、その場から立ち上がれば直ぐに駆け出した。

「ごめん、そうだね…今助けるよ。待っててね、ケラモン!」

もう既に悪臭など苦でもなくなっていた、ヘドロの汚さも気になりもしない。今はケラモンを助ける、それしかない…そうすることしか出来ないのだから。
リンとタクトの二人はレアモンへと接近すれば、先程のガオモンの様に飛び出た触手に手を伸ばし力任せに引っ張り上げた。ヘドロには妙に粘着力があるのかまたはケラモンが奥まで埋まってしまっているのか、中々引き抜くことが出来ない。
少しずつ、微々たるものだがズズズと小さく音を立て抜け始めている感触が手に伝わる。もう少し、もう少し粘れば何とか助けられる…そう思った刹那。

「ゴゴォ…ォ…ジャマ…ダ…」

レアモンの身体全体から悪臭ガスが勢いよく噴出されれば、三人は弾き飛ばされてしまった。リンとタクトも今現在は電脳体の為痛みなどは感じなかったが、それでもガスの勢いには勝つことが出来なかった。

「クソ、もう少しだったのによ」

「あ、諦めないよ…もう一回…やってみる」

この状況だ、もはや悪臭の匂いなんて気にならなくなっていた。今はともかくケラモンの救出が最優先。危険ではあるが再度救出を試みようとした時であった、突然レアモンの身体が仄かに光りはじめる。
まるで火山の噴火の前兆の様にその光はどんどんと強さを増していき、やがてレアモンを赤黒く染め上げる。そして———。

ボゴオォォ!!

突如轟音と共にレアモンの身体が中心から弾け飛び、ヘドロが四方八方に飛び散った。
何が起こったのかはもはや一目瞭然。そう、ケラモンが飲み込まれた状態で体内から攻撃を仕掛けたのだ。

「け、ケラモン…良かった、無事だったんだね」

リンはすぐさまケラモンの元へと駆け寄ると、その身体を抱きかかえる。あちこちに付着したヘドロを拭ってあげれば安否を確認した。
無事だったとはいえ、一度レアモンに飲み込まれた身。ヘドロや悪臭により確実にケラモンを弱っていた。弱弱しく触手を動かすことで精一杯のようだ。

「ごめん…なさい、リン。わたしが油断したせいで」

ケラモンの言葉に、リンは優しく微笑みゆっくりと目を瞑れば首を横に振った。

「違う、違うよ。ケラモンのせいなんかじゃない…だから謝らないで。とにかくケラモンが無事で本当に良かった」

そんな二人のやり取りを見てタクトも安堵の表情を浮かべる、ケラモンは無事だった…そして気にする点はもう一つ。
四方八方に飛び散ったレアモンのヘドロに目をやれば案の状予想した通りであった。そのヘドロはピクピクと動きだすとやがて集まりはじめ、ゆっくりと身体を再構築していけば、その忌々しい姿が復活した。
レアモンは身体のあちこちから腐臭を吹き出し、気味の悪い呻き声を上げている。しかし先程とは違い様子が変であった。

「ォォォ…ゴ…ォ…ォ」

苦しんでいる?直ぐにその異変を察知すればガオモンへの指示を急いだ。

「ガオモン!奴は弱っている。今がチャンスだ!この機を逃すなっ!」

ケラモンの体内からの一撃が致命傷になったのであろう。動きも鈍くなっており、その再生スピードも低下していた。レアモンが確実に弱っているのはもはや一目瞭然であった。
タクトの指示を受け、ガオモンは間髪入れずにレアモンへと急接近すれば三度その拳を叩きつけた。目にも止まらぬその早いラッシュはレアモンの反撃を許さない程だ。
その様子をリンはケラモンを抱きかかえたまま見つめていた。ガオモンは確実にダメージは与えている、そして更に強い一撃を与えることが出来れば恐らく奴を倒せるかもしれないと考えた。

「リン…わたし少しなら攻撃出来るよ?」

リンの考えを悟ったのか、ケラモンがそう語りかけた。とは言っても強がりだろう、実際動くことも辛い筈だがレアモンを倒すことも大事だ。
そんなケラモンの言葉にリンは悩みながらも小さく頷き…上空を見上げた。

「分かった。ケラモン!上に攻撃を放って。あいつを狙うんじゃなくて高い所に!」

何故レアモンを直接狙わない?ケラモンをそう思い迷いながらもリンの言葉を信じて上空へと光弾を放とうとする。
口一杯に赤いエネルギーが集中し、そして勢い良く上空へと射出した。

「タクト!ガオモン!それを使って!!」

上空へ放たれたケラモンの光弾はどんどん上昇していくが、やがて勢いはなくなっていく。結果重力により当然ながら今度は下へと落下していった。
リンの叫びにタクトとガオモンは直ぐに察知した。二人は無言で頷けばタクトは指示を、ガオモンを地面を蹴り上げ上空へと飛び上がる。

「ガオモン、合わせ技だ!渾身の一撃をお見舞いしてやれ!」

「ウオォォォ!とりゃッ!」

高く飛び上がったガオモンは今もなお落下する光弾を上空で雄叫びと共に力一杯殴りつけた。ガオモンの拳による強い衝撃、そしてケラモンが放った高密度のエネルギーの塊が合わさればその威力は何倍にも跳ね上がる。
眩い閃光が上空を照らし、轟音と共に光弾は凄まじい速度で落下していった。まるで隕石が大気圏に突入するかの如く…無論狙う相手はただ一人。

「クレイジーギグルとガオラッシュの合わせ技…その名もクレイジーラッシュ!いっけえぇぇぇっ!」

タクトが叫ぶ。レアモン目掛けて放たれたそれはまさに隕石落下の如く…奴に接触したその刹那、凄まじい衝撃波と巨大な爆発を起こし周囲のデータの残骸も所々に付着したレアモンのヘドロも全てを吹き飛ばした。
リンも自分の体、そしてケラモンを吹き飛ばされないように抱きしめ必死に堪える。

「ガ…アアァ…ァォ…————ォォ…ォ…ォ」

断末魔とも呼べるその苦痛の叫びはやがて聞こえなくなり、爆発が収まれば再びこの場所に静寂を訪れた。レアモンがいた場所は大きなクレーターを残し他には何も残ってはいなかった。
文字通り木端微塵と言った所であろうか。予想を遥かに超えるあまりに物凄い衝撃と爆音だった為か静寂が訪れた今も尚強い耳鳴りに襲われていた。
ともあれ、今度ことレアモンを倒すことが出来た。ふと緊張の糸が切れ体の力が抜けたのか、リンはその場にペタリと座り込み、上空から着地したガオモンはポテっと地面に倒れこむ。
暫くの間、4人は言葉を発さなかった。初めてのデジモンとの実戦、なんといえば良いのであろう?あまりに普段とは違う非日常なこの現状に何も考えられないでいるのかもしれない。
それもその筈だ。普段は普通の女子高生とちょっと暑苦しい只の青年なのだから。

「は…あはは。私たち、勝ったのかな?」

「そう、みてぇだな。俺たち…勝ったんだ。ともあれ早くここを出よう」

漸く口から出た言葉はそれだけであった、早々にこの場から移動しようとケラモンが開けた穴を再び通り、無言のまま歩いていれば気づけばクーロンがらくた公園に辿り着いていた。
見慣れた場所に戻ると不思議といつもの日常に戻ってきた感じがして、口数も増える。レアモンの悪臭などすっかり忘れるほどだ。

「それにしても、タクト。クレイジーラッシュってなに?変なネーミング」

「本当!変なネーミング!変なネーミング!」

ふと思い出したのはタクトが叫んだクレイジーギグルとガオラッシュの合わせ技のネーミング。あの時は意識する余裕など無かったがいざ落ち着いて思い出してみるとそのまんまというか単純というか。
そんなネーミングを聞いてリンの腕の中で横たわるケラモンもケラケラと笑う。

「いいだろぉ、クレイジーラッシュ!カッコよくないか?なぁガオモン?」

「う〜ん…ま、まぁまぁかなぁ…」

困った様子のガオモンの言葉にリンとケラモンは再び笑い、タクトはこいつぅとばかりにガオモンをいじっている。4人とも勝利の余韻に浸っていると言ったところであろうか。
そんなやりとりが少しの間続き、やがてリンはタクトとガオモンに別れを告げEDENからログアウトをする。電脳空間でアバターとして活動していたとはいえ、なんだかとてもクタクタであった。当然現実世界に戻ってきたのでレアモンの悪臭はしないわけなのだが何だか体に染み付いている様な気がしてならないので一刻も早くお風呂に入りたいと思いトボトボと帰路に着いたのであった。