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（怖い…！）

落ちている最中、アリシアはずっと恐怖で震え、ウサギを強く抱き締めていた。
ぎゅっと目を瞑り、落ちるのを待つ。

「とおぉぉりゃあぁぁぁぁぁクマアァァァッ！」

すかさずクマが走っていき、そして…見事、ヘッドスライディングしながら受け止めた。

「…。」

落ちた衝撃を感じ、目を開けるアリシア。
怪我は…特にないようだ。軽い擦り傷くらいで。

「アリシア、大丈夫か！？」
「ふぇ…！　お兄ちゃあぁん！」

地面に降り立てた安心感からか、アリシアは烈に寄って行き、泣きじゃくった。

「よしよし、怖かったな、アリシア。もう大丈夫だからな…。」
『アリシア、大丈夫か？』
「昴お姉ちゃん…！」

ハロボットから聞こえた昴の声に、アリシアはびくついた。
心配させて、怒っているとでも思ったのだろう。

「あ、あの、ごめんなさ…」
『お前が無事ならそれでいいよ。ただ、もう危険な真似はしないように。わかったか？』
「う、うん、ごめんなさい…。」
『俺に謝ったら、クマにお礼。クマ、今はスキルの許可を出すから、アリシアとお前の顔面治せ。鈴花、お前も能力使って降りてこい。』
「あ、能力の事、忘れてた…。」

ようやく、鈴花は自分の能力について思い出したようだ。流石の昴もこれには苦笑い。

「アリチャン、今治すクマよー。ゴーッ！　キントキドウジー！」

そんな会話を繰り広げている横で、クマは自分のペルソナ…キントキドウジを召喚し、【メディアラハン】を頼んだ。
光がアリシアとクマを包み、二人の怪我が完全に癒えたようだ。

「ありがと…クマさん。」

ぬいぐるみを抱きながら、恥ずかしそうにお礼を言うアリシア。

「！？」

その姿に、悠の中で何かが射抜かれた。

「…？　先輩？」

様子がおかしくなり始めた悠を心配して、烈が声をかける。

「よっと…。あれ？　どうしたの？　センパイ。」

大樹を操り、下に降りてきた鈴花も烈の様子を見ておかしいと気がついたのか、悠に声をかける。

「アリチャン、お礼なんていいクマよー。」

そんな彼らの様子に気づかず、クマはアリシアと和やかに話していた。
…次の台詞を、吐くまでは。

「アリチャンがクマを逆ナンしてー、チッスをくれるなら、クマはオッケークマ！　あ、ゆくゆくはー、ケッコンもしてほしいクマ！」
「…は？」

チッス？　逆ナン？　…結婚！？

「く、クマ君、アリシアちゃん、まだ未成年…。」
「ミセイネンだろうがなんだろーが、クマには関係ないクマ！　愛する気持ちがあればダイジョーブクマ！」

鈴花の言葉にそう答えると、クマはアリシアの手をとった。

「さぁ、アリチャン、式場を予約しに行くクマ〜ッ！」
「えっ？　えっ！？　ええぇぇぇっ！？」

そしてそのまま、どこかへといってしまった。

「…。」

このクマの突然の奇行に、その場にいた烈達も、本部も、思考停止状態になった。

「待て！　クマ！」

最初にそんな状態から回復した悠が叫んだので、烈と鈴花も我に返った。

「そ、そうだ、待てよこの馬鹿グ」
「アリシアと結婚するのは俺だあぁぁぁっ！！」
「はあぁぁぁぁっ！？」

悠もそんな馬鹿みたいな事を叫びながら、クマを追いかけていった。
これには勿論、この奇行を見ていた全員が再び思考停止状態にならざるを得ない。

「…って、烈君！　固まってる場合じゃない！」
「そ、そうだな。おいそこの馬鹿二人！　アリシアを離しやがれえぇぇぇぇっ！」
「待ちなさーい！」

ようやく我に返った烈達も、そんな馬鹿二人を追いかけていった。

北東エリア、森の出口付近にて、氷海と千枝、それから、体半分泥にまみれたエージェントが話し込んでいた。
彼女達の手には、重そうな銃がある。

「本当によかったのですか？　こんないいものもらって…。」
「いいのいいの、気にしないで。僕は一見ブルークロウだけど、人助けイベントの一環としてあそこにいたんだ。だから、僕を助けてくれた君達に、そのバトルランチャーを貰う権利はあるよ。」

重量のあるランチャー…バトルランチャーを指し示し、エージェントは嬉しそうに言う。
どうやら、彼はわざとあの場所で泥濘にはまっていたようだ。人助けイベントの為に。

「ちなみに、その役割って、皆さん知っているんですか？」
「本部は勿論、ここに手伝いに来ている人達も、みんな知っているよ。」
「…と、言う事は…あたし、ニャミちゃんにもいっぱい食わされたって事？」
『あははー、ごめんね、千枝ちゃん。ちょっと、演技させてもらっちゃった。あのロープも、実はセットじゃなくて、こっちに借りに来るかなーってMZDが予測して、置いてったんだよね。』
「うーん、騙されたのはムッと来るけど、でもまぁ、いいよ。こんないいアイテム貰っちゃったしね！　重いけど…。」

そう、バトルランチャーは10kgもある。千枝は普段から鍛えているからあまり苦にはならないが、体育の授業くらいしか体を鍛える事がない氷海にとっては結構な重量だろう。
そう思った千枝は氷海を心配し、彼女に聞く。

「氷海ちゃん、重くない？」
「ええ、大丈夫です。家で、患者さんのリハビリを時折手伝っているので。」

だが、千枝のその杞憂は必要ないものだった。彼女も、普段から家の手伝いで鍛えているのだ。

「そうだったんだ…。そうだね、それなら、10kgくらい平気か…。」
「ええ。…そういえば、エージェントさん。今回、ポップンパーティーに呼ばれた事のある人は、何人くらいお手伝いに？」
「19回目のパーティーに来た人は、大体来てるよ。僕も、アリシアと一緒にお呼ばれしたんだ。」
「アリシアアリシア…あぁ、アリスっぽい女の子か。」

千枝は記憶の引き出しを探るかのように、アリシアの容姿を思い出していた。以前、陽介辺りに誘われてやっていたのだろうか、ポップン。

「うん！　僕は、丁度アリシアのお茶会に招かれててね、そこで、MZDからお願いされたんだ。」

嬉しそうに話すエージェント。
そんな彼に、千枝は何故か親しみを感じた。

「エージェントさんって、アリシアちゃんの事、好きなの？」
「え？　は、うえぇっ！？」

顔を真っ赤にするエージェント。図星なのだろうか。そして千枝は、同じく恋をしている人物としての親しみを感じたのだろうか。

「す、好きって言うか、その…アリシアの王子様ではありたいって思うよ…？　アリシアも、なんていうか、その、僕の事を王子様って思っているみたいだし…。」
「王子様、か…アリシアも女の子ね。王子様に憧れるなんて。」
「あはは、普段はあんな風にツンツンしてるから想像つかないかも知れないけど、二人きりになった時とか可愛いんだよね。」

所謂ツンデレ、と言う奴だろうか。

「『アリシアの王子様なら、アリシアが泣いてたら、絶対に来て。』とか言うんだよ。可愛いでしょ？」
「へー、なんか、可愛いね！」
「…。」

和やかに話すエージェントと千枝。
その二人を横目に、氷海はじっと、別の場所を見る。

「…あの…エージェントさん。」
「何？　氷海ちゃん。」
「そのアリシアが…絶賛ピンチ中みたいです。」
「え？」

氷海が見ている方を向くと、そこには…。

「アリチャンとケッコンするのはクマクマ！　センセイは退くクマー！」
「いいや、俺だ！　俺がアリシアと菜々子を幸せにするんだあぁぁっ！」
「いーやー！　アリシアの王子様は、もう決まってるのー！　離してーっ！」

暴走する馬鹿二人と、泣きじゃくるアリシアがこちらに迫ってきていた。

「待てよお前らあぁぁっ！」
「いい加減にしなよ！　二人共！　無理矢理結ばれたって幸せになんかできっこないよー！」

更にその後ろには、そんな馬鹿二人を追いかける烈と鈴花がいた。

「…。」

馬鹿二人の台詞を聞いて状況が何となくだがわかったのか、氷海と千枝の目の色が変わる。まるで氷のような冷たさを持つ目に。
…そう、キレたのだ。ぷっつんと。堪忍袋の緒が、ぷっつんと。

「氷海ちゃん、殺るよ。」
「はい、殺りましょう、千枝先輩。」

二人は貰ったばかりのバトルランチャーを構え、弾を込めようと手に持つ。

「あ、待って、二人共。こっちの弾を込めて。」
「何か違うの？」

エージェントが渡した弾は、正規の弾と差異はない。何が違うのか気になり、千枝は聞く。

「うん。ちょっとね。あ、そうだ。二人共、重火器系は初めて扱うんでしょ？」
「ええ。ランチャーなんて実際に放った事はありませんね。…ネクロニカをしていた時に、物語上の私は思い切り放っていましたが。」
「こっちもネクロニカやってた時に、直斗君がぶっぱなしてたなー。物語上で。」

直斗は自分と同じレクイエム特化かな。そう、氷海は考えたが、そんな場合ではない。

「僕が指示する。君達は引き金を引くだけの簡単なお仕事すればいいから。」
「わかった。」
「わかりました。」

そして二人はエージェントの指示を受け、その場で待機した。

（あとはタイミングと…その前に、あいつらからアリシアを引き離さないと…。攻撃に巻き込んじゃう…。）
『あー、エージェントに告ぐ。今、アリシアはオレの力で守ってやってるから、そのままぶっぱなしても傷ひとつ負わないから安心しろー。』

まるでエージェントの心の声を察知したかのように、ハロボットからMZDの声が響く。
それを聞いたエージェントは、軽く笑みを浮かべた。

「助かるよ、神様。…そろそろだね。」

ギリギリまで引き付けるエージェント。そして…。

「さぁ、皆さんご一緒に！　Count Down！！」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…！」

運営も加わる大合唱のカウントダウンを開始した。
…ん？　このリズムはどこかで…。

「UNLIMITED FIREー！」
「FIREー！！」

FIREの掛け声と共に、千枝達は引き金を引く。
弾は一直線に悠達の元へと飛んでいき、そして…直撃した。

—チュドーン！

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ！」

あぁ、やっぱりTAGさんが作ってよしくんが歌ってみたUNLIMITED FIREだったか。
…って、弾、爆発したー！？

「ば、爆発！？」
「え、えっ！？　あ、アリシアちゃん！　大丈夫！？」

遠くでその爆発を見ていた烈と鈴花が心配してアリシアに駆け寄る。
千枝達も心配してアリシアへと駆け寄った。

「アリシア！　大丈夫！？」
「エージェント！！」

どうやらMZDの言った事は本当のようで、アリシアは傷ひとつなくエージェントへと駆け寄っていった。

「バカバカバカバカ！　王子様ならもっと早く来てよぉっ！　アリシア、怖かったんだからぁっ！」
「ごめんよ、アリシア。もう大丈夫だからね…。」

泣きじゃくるアリシアを宥め、抱き上げて背中をポンポンと叩く。
アリシア達はもう大丈夫だと判断した烈と鈴花は、重そうなランチャーを下ろして一息ついている千枝と氷海に駆け寄った。

「千枝先輩！　氷海！」
「今の爆発、何！？」
「わ、わかんない。エージェントさんに貰った弾込めてぶっぱなしたら、爆発したんだけど…。」
「今のって、失格にならないかしら…。」

爆発するようなスキルは二人共持ってはいないが、放ったのは事実。一時的に許可された訳ではない為、このままでは二人は失格になってしまうのではないか、そう危惧する千枝と氷海だった。

「あ、そうだ。」

千枝達の話が聞こえたのか、エージェントは弁明の為にハロボットに向かって運営へと話そうとする。

「昴さん、今の爆発は…。」
『わかってる。お前特製の火薬入りだろ？　普通ならここで千枝と氷海を失格にし、お前を叱りつけるところだ。』

昴の声に、不安そうな表情をする千枝と氷海。
『だが、』と昴は更に続ける。

『…あの馬鹿共に灸を据えるいい機会だ。今回の爆発する弾の件は不問にし、普通にバトルランチャーを放ったとして、あの二人は撃破扱いだ。えーっと、弾は…千枝がクマを、氷海が悠をとらえたみたいだな。』


80：96
鳴上　悠、クマ撃破
残り6人

里中　千枝
所持金：25万→51万（+26万）
装備品：バトルボール3個（+2個）

氷海
所持金：35万→36万（+1万）
装備品：バトルボール2個（+1個）


クマの所持金をゲットし、一気に賞金トップに躍り出た千枝。氷海共々失格を免れたし、嬉しそうだ。

『取り合えず、そこの馬鹿共を転送…する前に、何がいっときたい奴は言っておけ。』
「あ、じゃあ俺ある。」
「私も！」
「私もよ。」

烈、鈴花、氷海が、悠の前に来た。
悠はゆっくりと顔をあげ、自分を見る三人を見る。

「え、えーっと…。」
「先輩。最低だな。アンタを見下したよ。」
「悠先輩、女の子を拐うなんて最低ですね。」
「センパイ、だいっきらい！」

三人がそう言うと同時に、悠の頭の中で運命、女教皇、恋愛のアルカナが描かれたカードが正位置から逆位置になった。
そう、悠が恐れていた状態に…リバース状態になったのだ。よりにもよって、三人同時に。

「い、いや、これには訳が」
『へー、話してみてくれない？　その、訳。』

ハロボットから、昴の可憐な声が響く。男勝りな面がなくなり、女子化というか、素が出てきている。

「（こ、これ以上のリバースは避けたい！）アリシアが可愛すぎて菜々子を思い出しました。」
『それで拐っていい理由にはならないけど？』

昴の冷たい言葉が響いた瞬間、永劫のアルカナが刻まれたカードが、三人と同じように逆位置へと変わる。

『…私以外にも怒っている人はいるんだよね。…帰ってきたら…わかってるよね？』
「はい…。」
「はいクマ…。」

帰ったら、恐らく牢獄にいる陽介と完二に殺される…。そう悠とクマは考えたが、それよりも、悠には現在コミュを築いている四人から一気に嫌われたのが効いているようだ。

（…明日から、何とかしてあの四人を正位置に戻そう…。）

そう、心に決めた悠だが、果たして上手く行くのかどうか…。

撃破者情報


三、四人目：鳴上悠、クマ

クマ「センセイ、クマ達、殺される？」
悠「言うな、クマ…。」



《闘争者情報》
所持金
51万：千枝
36万：氷海
27万：鈴花
20万：烈
5万：直斗
1万：雪子

アイテム
・バトルボール
4個：鈴花
3個：千枝
2個：烈、氷海、直斗
1個：雪子

・盾
氷海、鈴花、千枝、雪子

・バトルシューター
鈴花（玉1個）

・バトルランチャー
氷海、千枝（弾4つ）

・忍
烈（大盾忍）、直斗、鈴花（大玉忍）



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今日はここまで。感想どうぞ。