二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BATTLE- ( No.11 )
日時: 2015/08/08 22:07
名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: K3Hf956n)


 ごぉごぉと、吼える音は頭上百メートルにまで迫る。
 巨大な影はいっそ優雅にも見えるほどにゆっくりと小さな街の外周を一周し、再びバル達の頭上で止まった。絶望的な翳りに人々が呆ける中、それは巨大な身体の彼方此方から光の明滅する触手を伸ばし、石畳の割れにその先端を潜り込ませていく。
 すわ地面を裏返されるかと身構えたバル達は、しかしそれに何ら悪意がないことを直感した。
 視界の端から端までを埋め尽くす巨体、その背に値する部分から無数に突き出した巨大なプロペラは、意図せずしてこの陰を上空遥か高みまで持ち去ってしまう。此処に居座るためには、此処に身体を杭打たねばならなかったのだ。嵐の船が錨を降ろすように、この飛空挺に似た何かも、地に爪を立てている。
 だが、その行為に悪意が無いからと言って、緊張と警戒を解いていいわけではない。バルや弓使いは、ほとんど無意識の内に得物へ手を掛けていた。送る視線も、旅人らしい険を取り戻す。

「お前は何者だ。何故私達を探す?」
「おぉ、おいっ!? お前初対面に対してその言い方はねーだろ!」

 開口一番刺々しいバルの物言いに、槍使いが焦ったように声を揺らす。バルはそんな男を一瞥もせず、ゆっくりと剣を鞘から引き抜きつつ、もう一度同じ事を尋ねた。お前は何者だ、と。
 影は、沈黙している。地面に杭打った触手、その光の瞬きが、表情のない影の深い思案を示すようだ。
 深遠なるものの返答を、誰もが口を引き結び待ち望んだ。
 そしてそれは答えた。声に出す言葉ではなく、精神にそのまま響く意志として。

 ——この名、インビンシブル。
 ——我は神に非ず、ただ神に生み出された獣。
 ——ヒトの御伽、これ偽りの偶像に過ぎぬ。

 細胞の一つ一つに、直接訴えかける意思疎通。そこに声はない。しかし、響き渡る不可聴の波長は心震わす厳かさと慈愛を含み、者共から剣山のような警戒心を払い落としていた。
 しゃん、と涼やかな音を立て、真っ先に剣を納めたのはバルである。その動きを見た槍使いと弓使いも、巨大な影、曰くインビンシブルと言うその者に向けていた切っ先を、そっと地面に下ろしていた。
 風が低く唸りながら、インビンシブルと一行の間を飛び去っていく。荒ぶ風に揺れる髪を片手で押さえながら、バルは真っ直ぐにその者を見つめ、凛とした声を風の間に通した。

 「インビンシブル」

 名を呼ぶその一声から、問答は始まる。