二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BATTLE- ( No.13 )
- 日時: 2015/08/08 22:11
- 名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: K3Hf956n)
「願い……」
問答は余韻を残して終わった。
バルは何かを堪えるように俯き、男達もそれぞれあらぬ方向を見て、誰一人インビンシブルをまともに見てはいない。影はただ黙し、己を地面に縫い付けていた触手を引き抜いたかと思うと、それまで幾つかのみを動かしていた無数のプロペラの全てをその場で駆動させた。
途端。ごぉっ、と重い声を上げて風がインビンシブルの周囲に凝集し、空を舞う鷹の優雅さを以って、その巨体を上空の高みへ持ち上げていく。その動きに我へ返ったか、何処へ、と一行は口を揃えた。
我が居場所へ。インビンシブルの返答は短く、意図の半分しか汲めない。
我等の言動が気に触ったのか。それ故に帰ってしまうのか。そんな槍使いの言葉には、否。思わず顔を見合わせた者共から離れていく事を止めないまま、影は僅かに無音の間を挟んだ。
——我が気は死毒なり。ヒトが触れなば朽ち腐る。
——我が離れるは、汝等を傷付けぬ為に。
精神の奥に訴えるその意志は、どこか寂し気で。
言葉もなく立ち尽くす者達を置いて、インビンシブルの巨体は風に紛れて消えていく。
ごぉ、ごぉ。
風は何時ものように慟哭を上げる。その音に旅人を竦ませるあの異様さはなく、街は危うくも平穏な日常を取り戻した。しかし、神を求める者達の精神はざわついたまま、顔色も芳しくない。そしてその顔色の悪さは、決して静穏ならぬ心境のみから来る訳ではないようであった。
「瘴気(しょうき)にやられたようだの、御三方」
「そーゆー爺さんも大丈夫かよ……顔土気色してんぞ……」
「ふふ、瘴気に身を晒して無事とは流石に言いがたいものだよ」
「笑ってる場合か」
瘴気。病原体や毒霧などと言ったものでは表現できない、悪しき何かを含んだ空気。それはある特殊な技能と力を持つ者を除き、接したもの全てを爛れ腐らせ、その機能を冒していく。インビンシブルが纏う瘴気の量は僅かだが、それでもヒトにとっては火山の噴煙を直に吸ったも同然だ。
瘴気の存在を、彼等以外の者は感じていたらしい。見回せば、通りに立ち並ぶ家や店の戸と窓は全て閉ざされている。普段は来る人拒まずを体現する酒場の戸も閉ざされ、密やかに掲げられた『商い中』の札だけが、酒場としての意地を主張するのみ。当然、石畳の上には四人以外の何も居ない。
道の真ん中に突っ立ったまま、四人は何ともなしに互いの顔を見合わせた。そして、同時に傍の酒場へ向けられる。陽を入れるための大きな窓、その向こうから、店主が心配そうに一行の様子を見ていた。
大丈夫のジェスチャー代わりにひらりと一度手を振り、バルは眼だけを槍使い達に向ける。
「この酒場、宿はあったか?」
「二階が宿じゃなかったっけ……あんま宿使わんからあやふやだけど」
「分かった、信用しよう。違っていたらお前に一晩中火の番を任せる」
「えー……コイツにしてくれよー……」
「オレ!? 何で!?」
店主の心配顔に配慮したのか、或いは単なる冗談なのか。繋ぐ会話には奇妙に余裕の色が漂っている。唯一、老師だけが何とも言えない表情で黙り込んでいるが、三人はそれに気付かない。
兎も角、一行は閉ざされた酒場の扉を開いたのであった。