二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第二章:『蔓延する狂気』-8 ( No.25 )
- 日時: 2015/10/17 17:25
- 名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: kkPVc8iM)
「……ッ!」
青白い閃光が、視界を塗り潰す。
その様相は稲妻に何処か似ているが、その本質は違うようだ。ソーマニア達が相手をしていた手負いのキリン、そして敵を狙うもう一匹の頭上から、前触れもなく下された鉄槌は、キリン達に認識の暇をも与えずに——意識を奪い取った。
光が止んだ時、そこに残っていたのは、意識を刈り取られ失神したキリンと、ただ呆然として立ちすくむ者共のみ。そして漂う静寂ばかりが辺りを席巻し、彼等を包み込む。状況を完全に整理し、理解するまでの数分間、地上人はその場から動けなかった。
「……今、のは」
そして最初に忘我の境地から戻ったのは、キリンと最も接近していた槍使いである。重たい槍と共にその膝を地面へ落とし、ぐったりとしたキリンの様子を検める彼に、インビンシブルの声が頭上から覆い被さった。
——我放つは、“識”をば奪うもの。其等より“狂識”奪いなば、其等に成す術無し。
「何じゃそりゃ」
——言葉の儘に。汝より“意識”奪うも、我には造作なし。
「えっ!? 止めろよ、絶対止めろよ!」
——…………。
「おい止めろっ! 分かるように黙るのマジで止めて!」
必死。そんな言葉が今の槍使いには良く似合う。なまじインビンシブルが未だ計り知れない者であるだけに、その者が何も話さないとなると、たとえそれが冗談でも恐ろしい以外の何者でもない。しかしながら、傍から見れば滑稽の一言だ。遠巻きに様子を眺めていたバルと弓使いは、冷めた目で男を見るばかり。
視線は、程なくして別の場所へと注がれた。わあわあと叫んでいた槍使いと、面白がっているかのように沈黙を続けるインビンシブル、そして傍に佇むばかりのソーマニア、その三方も、すぐにそれへと意識を向ける。
——ばらついた足音、荒い呼吸音に、低く湿った唸り声。
無味乾燥とした環境音に混じる、邪気を含んだ生の音。その意味するものは唯一つ。
「あれを見て、まだ我々に牙を立てるか」
次なる野獣の襲撃だ。バルの声が低く空に流れた。
ひゅっと刃が風を切り、曇り空の暗さの中にあって、金属の輝きが一瞬閃く。それを横目にした弓使いは、何処かたじろいだような仕草を一瞬取ったかと思うと、ぐっと弓を握りこみ、矢筒から三本の矢を出して番えた。バルの横顔に浮かんだ黒い笑みが怖かった、などと悟られては、これからの道中良い笑い者だろう。
きりり、と弓の弦が微かに軋る。その音で、身を潜めていた己の存在が悟られたと理解したか。様々な姿をした野獣が数匹、岩や朽木の影から姿を現した。
先程のキリンを筆頭に、太古のサバンナを闊歩していたと言う大型の鳥——もといダチョウに似た姿のものや、異様に長く鋭い牙を持つライオンのような姿をしたものまで、野獣には種類が多い。そして、そのどれもについて、取るべき戦法は異なる。
しかしそれでも、相手をするのは造作もないことだった。
「喰うとこ少なそうな鳥だな」
「ニードアラに鶏肉としての価値を期待する方が間違っている。いい加減食糧の話から離れろ」
「期待できるさ。硬いけど普通に美味いんだぞアレ」
足で地面をにじり、バルを庇うような位置に立ちながら、弓使いの手がニードアラなる鳥にその鏃を向ける。一方のバルは、弓使いと背を合わせて壁を作りながら、背後を取ろうと近付いていた野獣に向けて、その刃を構えた。
弓使いとのツーマンセルは崩れたが、その代わり、彼女の見つめる先には機械の蜘蛛が居る。そして弓使いが狙う鳥の頭上には、インビンシブルが居る。
静寂が息苦しい。息苦しさはそのまま警戒と殺気に変換され、彼等の纏う空気を一層鋭くしていく。
きりり……と、弦の擦れる音が響いた、その瞬間。
「——来るっ」
二人のヒトと獣達は、同時に飛び出した。