二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BATTLE- ( No.33 )
- 日時: 2015/10/17 21:08
- 名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: kkPVc8iM)
雨は続き、空は暗く。
テーブルに置かれたカンテラの灯りだけが室内を照らし、しかしその灯も部屋の隅までは届かない。
ずっとディスカッションの跡に目を通していたバルは、しかし途中から読み疲れたらしい。弓使いと槍使いが座っていた椅子を並べ、横になって寝息を立てていた。そしてその肩口には、暖かそうな毛布がそっと掛けられている。隣室に篭ったまま出てこない男二人も、恐らくベッドに倒れこんで寝ているのだろう。がーがーと呑気な鼾が聞こえてくる。
慣れない環境と、慣れない行為。そんな二重苦に疲弊した心身を癒すべく、僅かながらも休息を取る者達を尻目に、二人の癒し手はテーブルに向かい合っている。その口から言葉は紡がれず、びっしりと文字の連なる紙に、それ以上の文字が書かれることもない。ただ、顔だけは変わらず生き生きとして、文字を追う。
「範囲拡大理論、破綻無し……分散理論、崩壊なし……エネルギー平均化誤差、期待値以内……要求魔力量、ギガヒール以下、メガヒール以上……テラ理論の均等分散変換、完全、完了——!」
——やったぁ!
そんな歓喜の声が、暗い室内に朗らかな空気を添える。天高く片手に握った拳を突き上げ、勢い余って椅子から転げ落ちそうになったマリーを、老師は相変わらずにこやかに眺めながら、うんうんと感慨深そうに頷いた。
「やったの、マリー殿。ほれ」
「いぇいッ!」
ぱしんっ、と小気味良いハイタッチの音が、静かな室内に清々しい。
うっとりしたような表情でテーブルの上の論文を見ながら、ぎぃっと思い切り背もたれに身体を預け、マリーとソーマニアは、疲労と達成感の全てを乗せて溜息を同時に吐く。そしてすぐに背もたれから背を離すと、どんっとばかり両腕をテーブルに載せて、ぐっと力強く手を組んだ。
「ソーマニアさん、これ発表しましょうよ。西の都で」
「良い提案だの。しかしながら、儂は同道出来ん。発表は御主に任せたい」
「……そうね、貴方は旅の途中らしいもの。任せて。——貴方の名前、どうしましょうか? 貴方、確かあれっきり」
「それ以上言うでない。御主の好きなようにするがいいよ」
「分かったわ」
そして、もう一度ハイタッチ。やったやった、と喜びを噛み締めながら、マリーはやおらテーブルの上に散らかしていた万年筆の一本と、何も書いていない紙を一枚手にしたかと思うと、猛然と論文を紙に写し始めた。
この世界で、コピー機などと言う文明の利器を持っているのは、古くから存続した王国の王族のみと言って過言ではない。それ故に、それ以外の人間が何かのコピーを取るには、こうして一枚一枚全て手書きする他にないのだ。非効率的極まりない方法だが、この世界の人間はもうやり慣れている。
「ふむ……今度は感光式の転写魔法でも創ってみるかね? 治癒魔法以外の理論も知らぬわけではないよ」
「んー、それはヒーラーのお仕事じゃない気がするわ……でも、貴方なら出来そうな気がするのが」
怖いところね。
潜めた声で呟いて、マリーはそれきり黙りこむ。ソーマニアも、これ以上彼女を邪魔するのは良くないと思ったのだろう。ゆっくりと膝の上で手を組み、ぎぃ、とばかり、背を椅子に預けた。