二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BATTLE- ( No.36 )
日時: 2015/10/17 21:40
名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: kkPVc8iM)


「あれぇ? リッキーしゃんと、あなたは誰でしか?」

 正面から、舌足らずな声が掛かった。その方を見る。
 そこは雨止まぬ山麓の宿駅、その道に溢れる即席の運河の上。
 ——今時店に並ぶことも珍しい骨董品のボート、その上で、カッパを羽織ったトカゲの少女が首を傾げていた。


「わぁ、サンドラ! 久しぶりー!」

 一体誰だ。思わず眉をひそめるバルを横に、リッキーはボートからポーチへと飛び移ってきたトカゲの少女に、諸手を大きく広げて挨拶をする。サンドラ、と呼ばれた少女は、何処かふわふわとした走り方でリッキーの方へ走り寄ってきたかと思うと、迎え入れるように広げられた両手を取ってにっこりと笑った。
 その様に、誰もが同じ感想を抱くだろう。可愛い、と。
 半ばサンドラに引っ張られる形で立ち上がったリッキー、その顔を見上げて、サンドラはまた首を傾げた。

「お久しぶりでし、リッキーしゃん! 雨やどりでしか?」
「そーなんだけど、マリーってば魔法作るのに一生懸命でさ。ノックしても開けてくれなくって……」
「あーっ、だめじゃないでしかマリー! メッ、でしよ! めっ!」

 言うが早いが、サンドラはぱっとリッキーの両手から手を放した。そして、全体重を使って片方の扉を引き開けたかと思うと、隙間に体を滑り込ませ、ぱたぱたと勢いよく診療所の中を突っ切っていく。扉の向こうからは、マリーを呼ぶ声がけたたましい。
 そして残されたリッキーとバルは、朗々と過ぎ去っていった嵐に顔を見合わせ、困ったようにくすりと笑いあって、そのまま診療所の扉を開けたのだった。