二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 虚の旅路 -Story of TERRA BUTTLE- ( No.5 )
- 日時: 2015/08/08 22:02
- 名前: 霧桜 ◆U7aoDc6gZM (ID: K3Hf956n)
「……そういえばあの店、アーカイヴの変換機はあったか?」
「俺がよくそれで払ってるから大丈夫だよバルさん」
「さんは要らない」
「敬意は受け取っておくものだよ、バル」
男を先頭に立て、街中を歩くこと数分。ひび割れた石畳を蹴り蹴り、血まみれの白い外套に注目など集められながら、三人は先刻店主に押し付けていた機械について話していた。
アーカイヴ。それは、物体をある種の互換可能なデータに変換し、持ち物を質量や体積のないデータとして携帯することの出来る機械だ。数千、否、ともすれば数万年前に滅びた遺跡から大量に発掘されたそれらは、現在アーカイヴ内のデータを元の物体に戻す変換機と共に、一部の酒場や旅人の必携品となっている。
バルもその御多分に漏れず、二つ持ち歩いている。先ほど店主に預けたアーカイヴもその一つだ。
「でも、よくそんなもん二つも手に入ったなぁ。意外と流通量少ないんだぜそれ」
「…………」
男の何気ない言葉に対して、返された沈黙には寂寥の空気が滲にじんでいた。地雷を踏んだ、と男が気づいたのは、彼女が唇の端を強く噛んだからだ。すみません許してください、と思わず過剰なほど謝罪を紡いだ男に、バルはただ首を横に振る。
「掛ける言葉を選ぶべきだったの、騎士殿」
「うっせ」
ほっほっほ、と楽しそうなソーマニアの笑声をバックに、三人は街を往く。しかしながら、前を歩く槍使いの男の足はとても速く、バルはともかくとしても、背の低いソーマニアの歩幅では追いつくのが大変そうだ。軽く小走りのような調子で歩調を合わせようとする老人を、男はちらりと一瞥すると、やおらひたりと足を止めた。
半拍遅れて立ち止まったバルも、背後をちらり見る。彼女から遅れること十メートル、小走りでは間に合わないと思ったのか、慌てたように歩調を早め、ソーマニアは二人に追いつこうとしていた。
数秒後、ようやく傍まで走り寄ってきた老人に、男は声を掛ける。
「爺さん、言ってくれりゃ俺もうちょっと遅く歩いたよ」
「自覚しているなら最初から自重しないかね」
「いやぁ……バルが速かったから、爺さんも速いかと思って」
「頭二つ分背の高さが違うと言うに、そんな訳があるかね」
呆れたような表情のソーマニアに対して、男はハハハ、と乾いた苦笑い。ぽこん、と軽く杖の先でそんな男の兜を軽く叩き、彼は小さく息をつく。世にも珍しい疲れた様子に、バルと男は思わず顔を見合わせた。
「そいつのいる所まで俺の足で後十分くらい掛かるんだけど、遅く行った方がいいか?」
「十分程度ならば問題ない、御主の好きなように歩いてくれて構わんよ」
「なら良いけど……」
「——では、こうしよう」
バルの涼やかな声が、決まりかけた二人の会話を絶つ。何事、と男二人が顔を向けるが早いが、彼女はまるで子供を抱え上げるかのようにソーマニアの矮躯を抱え、男の肩にすとんと載せていた。その間一秒、いきなり老人を肩車する羽目になった男も、その当事者であるソーマニアも、突然のことにリアクションが取れない。
バルは、笑っている。してやったりと言いたげな、どこか腹黒いものを覚える笑顔だ。
「老師に長距離走をさせる訳にもいかない。こうすれば十分で向こうに着けるだろう?」
「いやそうだけど、何で俺!?」
「御主、力は有りそうだよ」
「そりゃ爺さんほど非力なわけじゃないけど、俺かよ!」
挙句、事態を飲み込んだソーマニアもバルに加勢する始末だ。槍使いの外堀があっという間に埋められていく。
「ならお前は何だ、女の子に力仕事をさせる気か?」
「女の子には優しくせんと、後で痛い目を見るぞ」
「痛い目って物理!? 武器出しながら女の子のこと語るなお前ら——!」
男の悲鳴と怒号が響く空は、相変わらず透けるように青い。